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小さな街と林檎の森

ここは、とある小さな小さな街。
若者たちは大きな街に移り住み、店はどんどん少なくなり、すっかり寂れておりました。
季節は冬で、街はますます寒くなり、遂には雪が降り出しました。


翌朝、街の一人の少年が雪だるまを作りました。
けれど、少年はその小さな雪だるまでは満足しません。
「もっと大きくしよう!」
少年は雪だるまの頭をコロコロと転がしました。
コロコロ、コロコロ。
夢中で雪だるまを転がします。
やがて少年は街を出て、さらにその先の先にある森までやってきました。

「あれ?ここはどこだろう?」
少年がはっとして顔をあげると、びゅうっと北風が吹きました。
ざわざわと木々が擦れあう森の音。
どうやらずいぶんと森の奥まで来てしまったようでした。
どうしよう、どうしよう。
少年は怖くなって身震いしました。


その時、ふっと甘い匂いが少年の鼻を掠めました。
「なんだろう、美味しそうな匂いだな」
少年は匂いのする方へ歩いて行きました。


するとそこには、丸太で出来た小さな小屋がありました。
煙突から、もくもくと煙が出ています。
辺りには甘い匂いが充満していました。
コンコン。
少年は小屋のドアを叩きました。
「すみません。誰かいませんか?」


「はーい」
声がしたかと思うと、中から女の人が出てきました。
「あら、こんにちは。どうしたの?」
女の人は綺麗な赤色のドレスを着ています。
甘い匂いが、ますます少年の鼻をくすぐりました。
「僕はこの先にある小さな街からやってきたのですが、森で迷ってしまったのです」
あらあ、と女の人は驚いたように口に手を当てましたが、すぐに少年の腕を優しく引くと
「それは大変でしたね。どうぞどうぞ、中にお入りなさいな」
そう言って、暖かい部屋の中に招き入れました。


中に入った少年は、大変驚きました。
鼠に栗鼠に狐に狸。鹿に梟に、おまけに熊まで。沢山の動物達が、わいのわいのと食卓を囲んでいたのです。
食卓の真ん中には大きなアップルパイ。
そして壁やテーブルには、森にある松ぼっくりや綺麗な木の実で、沢山の飾りつけがされていました。
「林檎が沢山取れたので、今日は皆でパーティーをしていたの」
女の人は少年にケーキを取り分けながら言いました。

ケーキをお腹いっぱい食べた後、女の人は鈴を鳴らして歌を歌いました。
それはどこかで聴いたことのあるような、初めて聴くような歌でした。
皆はアップルパイで大きくなったお腹を揺らして、歌にあわせて踊ります。
くるくる、らんらん、シャンシャンシャン。
少年も動物達も、くたくたになるまで踊りました。


パーティーが終わると、女の人が街まで少年を送ってくれました。
小さな少年の街には、明かりを灯す家はほとんどありません。
なんだかそのまま、夜の闇にすっと消えてしまうようでした。
少年はぽつんと呟きました。
「もうずっと、この街は元気がないんだ。」
さっきまでの賑やかで楽しかった気持ちは、すっかり小さくなっています。

すると、女の人はにっこり笑って言いました。
「それじゃあ、来年また林檎がとれたら、この街に届けてあげるわ」
少年は飛び上がりました。
「ありがとう。それじゃあ僕は、貴方が迷わずこの街に来れるよう、街をめいっぱい明るくしておくよ」
二人は、約束、と指切りをしました。




次の冬。
また、この街には雪が降りました。
白い雪が地面を覆った街の中。
少年は街中を回って、ありったけのランタンを貸してもらえるようお願いしました。
「貸すのはいいけれど、一体何に使うんだい?」
少年が理由を話すと、皆は興味津々。
「一緒にやろうよ!」
少年の掛け声で、街の住民たちは次々と寒い寒い冬の外に飛び出しました。
少年が一年かけて集めた、松ぼっくりや木ノ実や小さな林檎やかぼちゃやホウズキ。
住民たちは、せっせと小枝でリースを作ってくれました。
そうして皆でわいのわいのと騒ぎながら、街中の家に飾りを付けていきました。


やがて夜がやってきました。
街中に散らせたランタンに皆が明かりを灯すと、暗くて寒い夜の闇に、街が鮮やかに浮かび上がりました。
「もうそろそろ、来るかなぁ」
少年は雪の降る空を見上げながら呟きました。



すっかり夜も更けた頃、シャンシャンと鈴の音がどこからどもなく聞こえてきました。
森から、彼らがやってきたのです。
綺麗な赤色のドレスを着た女の人と動物たちは、手や首に鈴をつけ、歌ったり踊ったり飛び跳ねたりしています。

けれども少年も住民たちも、もう夢の中でした。
ベッドですうすう寝息をたてています。
「あらあら、来るのが遅すぎたかしら」
女の人はそう言うと、少年の枕元にそっと林檎を置いて囁きました。



「メリークリスマス。迷わず、来れたよ」






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