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透明な子ども

少女は生まれつき透明であった。
取り上げた産婆は驚いて、思わず赤子より大声をあげたそうだ。
何故そうなのかは分からない。
色のあるこの世界に産まれ落ちた、透明な子ども。



彼女は透明ではあるが存在はそこにある。
水が人の姿をしていることを想像するのが、1番近い。
透明だが、光は反射し色を映す。
従って、晴れていれば少女の身体には青空が映り、雨が降れば水滴が無数に流れ落ちた。


ある日、少女は公園で遊んでいた。
少女は友達が作れないのか作らないのか、いつも1人で遊んでいる。
それでいて、周りで遊んでいる他の子どもたちをじーっと見ているのだった。
彼女の身体には、代わる代わる幼い彼らの容姿が映し出されていく。

そこへ、1人の少年が小走りに駆けてきたと思ったら、どんっと少女にぶつかった。
2人は互い違いに倒れ込む。
その時初めて、少年はそこに透明な子どもがいることに気がついた。

「ごめんね、大丈夫?」
少年は、自分が映る何かに向かって手を差し伸べた。
「君が透明な子か。初めて見たよ」
差し伸べる手に、少女は小銭をいくつも載せる。
「あ、僕が落としたお金か。ありがとう」
彼は一瞬笑顔を見せたが、すっと暗い顔になる。
「でもこれ、僕のお金じゃないんだ。ジュース買ってこいって、あいつらに頼まれたんだ」
少しの間黙った少年は、やがて息を大きく吸い込んで明るい声を出した。
「でも今日はお金貰えただけマシかな」
少年はぱっと顔を上げる。
するとそこには、今にも泣きそうな顔でへらへらと笑う、情けない顔があった。
「僕、こんな顔しているの?」
少年は暫しそのままの格好で固まった。

やがて彼はすくっと立ち上がると
「そんなの嫌だ」
と言い放ち、走って何処かへ行ってしまった。



時刻は夕方になり、少女の母が公園に迎えにきた。
夕陽を浴びる帰り道。
少女が一部始終を母に話すと、母は眉毛を下げて苦笑する。
「彼の気持ちが私には分かる様だわ」
そうして少女の頭を優しく撫でる。
「あなたは将来、何になるのかしらね」

少女の身体に、真っ赤な空が燃えている。



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