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気がする屋 day.1|連載小説

1.仕事のSlackを開かないこと。
2.ご飯は3食、自炊したものを食べること。

この2つについて、まずはこの土日やることにした。

と、ゆうのも仕事が忙しすぎるのである。
このままでは家庭が崩壊する、という危機感を、40年余り生きてきてノブコは初めて感じた。

今週は、夫がずっと体調が悪かった。
先週は、長女の調子が悪く、先々週は次女。
そして今日、ついにノブコにもそれはやってきた。目やにと涙が片目だけ止まらない。
アデノウイルスだ。
アデノウイルスは目にも来るらしい。

そんな中、今日ノブコは次女の保育園の迎えにも行かなかった。
仕事の会議が、長引いてしまったのである。
遅れて行こうと思っていたら、ノブコと同じく在宅ワークをしていた夫が体調不良を押して次女を代わりに迎えに行ってくれた。
でも、ノブコはその10分後には自分で迎えに行くつもりだったのである。

余計なお世話。

怨みがましく文句を言ってきた夫にノブコはそう思う。
感謝の言葉も謝罪の言葉も、上手く口にできなかった。


「結膜炎ですね」

医者が言った。
「アデノウイルスかは分からないですけど」
とも言ったが、状況からみてそうであろう。


病院からの帰り道、ノブコは思った。

このままでは、崩壊する。
家庭が。

事実、あるから夫とは一言も口を聞いていないし。

子どものことも、大事に出来てない。
何より、お迎えとか、当たり前のやるべきことが疎かになっている。
疎かになっていること自体よりも、疎かにすることへの罪悪感が薄れていることに、ヤバさを感じる。


そんなわけで、ノブコは決めた。


生活を、大事にしよう。


仕事よりも何よりも、『生活』を、大事にしなくては。

そんなわけで、冒頭の2つをまずはやることにしたのである。
ついでに、病院から帰りに新しいスニーカーを買った。
門出のお供である。『生活』を大事にする自分の、相棒になってくれ。
なんなら、足はむくみのせいか老化のせいか、いつものサイズは痛くて履けなかったので1cmサイズアウトしたものを買ったが。
それすらなんだか、今の自分には見合っている気がした。


結果は、なかなかだった。
まず冒頭の2つをやるだけで、土曜日はいっぱいいっぱいだった。
買い物はしたけど、昼寝もした。それもだいぶ長い時間。

昼寝から起きると少し気持ちが晴れやかだった。
掃除は夫がやっていた。ノブコはトイレ掃除をした。
夜は煙草を一本燻らせて、眠った。


日曜日。

朝ごはんも自炊して子供と食べた。夫は横にいたが会話はないので一緒に食べたと言うよりは、そこに居た、という感じ。

でも、なんだかやる気が出ていて、
・植物たちにお水をあげることができた
・ふるさと納税の控除手続きを終わらせた
・住宅ローンのために振り込みを終わらせた
と、『生活』を大事に出来ている気がする。
仕事優先だと、これらはやる気がなくていつもスマホをみているか、昼寝をしていた。
昼寝は、昨日もしたけれど。
寝ることはノブコにとって、重要な模様。


『生活』を大事にするって、自分を大事にすることに、似ているな。

ノブコは思った。

そして、それはなんだか、自分の気持ち次第だとも思った。
『生活を大事にしている気がする』
『自分を大事にしている気がする』
そんな、『気がする』の寄せ集め。

ノブコはこの活動を『気がする屋』と名づけることにした。

生活を、自分を、大事にして元気にできる気がすることを、自分のためだけに自分にだけ作って売って買うのだ。

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