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短編

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短編小説まとめです
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カチューシャ カルピス コーラ

2023/2/9 カチューシャカルピスコーラの3つのお題で作文を書いてみてください 診断メーカー、三題噺お題作成様より  ーーーーーーー  カフェの窓際の席。向かい合って座る僕と彼女。その間にちょこんと置かれたカルピスとコーラ。こちらの様子を見て不思議そうにしている店員さんを、彼女はイライラとした様子で鋭く見つめた。言いたい事は大体分かる。 彼女が言葉を発するより前に、僕は店員さんに軽く頭を下げて感謝を伝える。店員さんは不思議そうにしたまま厨房へ戻っていった。 すると今

へそまがりと当然のこと

夜、四畳半の部屋で家事を一通り終え、畳に寝転がった俺の頭にふと浮かんだ。 生まれてこの方母親以外の女と触れ合ったことがないな。 幼い頃に感じた母は暖かかった。 母以外はどうだろう。まるきり想像がつかなかった。母を暖かいと感じたのは何故だろう。同じ血が通っているからではないのだろうか。自分の手を握りあわせてみる。温度を感じた。自分の血は暖かいのだ。 俺は瞼を閉じる。 女を触る想像をしてみた。でも俺は女を知らない。そのため、触る想像のために創造した女は陶器のようにつるりとしてい

地球のようで地球でない地球にて

世の中の決まり事に沿って、俺の幼馴染の女の子が明日死ぬらしい。らしいって俺は言ってしまうけど、それは絶対だ。俺の幼馴染の女の子は明日死ぬ。あまりに唐突すぎて、彼女が死んでしまうなんて実感は湧かなかった。 真っ白の部屋。真っ白のベット。真っ白のサイドテーブルには、白い百合が活けられた花瓶。 真っ白の窓枠の外に、どこまでも続く青空を背景にして、俺の幼馴染ーーーツバキは百合の花を一本、手に持って眺めていた。 ツバキは人並みに美しい少女だ。 ツバキの両親の配慮で、今はツバキとツバキ

いただくお皿

私達姉妹は、揃って雑誌を読む習慣があった。 ある時、お互いの買う雑誌が、偶然お互いの読みたい内容を掲載していた事が始まりだった。 妹は少女漫画雑誌購入担当。私はファッション雑誌購入担当。 今日は私のファッション誌を二人揃って読んでいた。ケーキのように色も姿も鮮やかなモデル達が目に眩しい。写真越しなのに息遣いまで伝わってくるような可愛さだ。 私もこうなりたいな。こんなに可愛ければ好きな人も振り向いてくれるのだろうな。 私はモデルが着ているアイテムの詳細を読み込んでいた。形から

ひこうしょうねん(非行少年/飛行少年)

「お父さんなんて嫌いだ!」 その日の晩ごはんが全部ひっくり返るような大ゲンカをした。お母さんはどちらかといえばお父さんの味方をしていた。 ええい、グレてやる。 ぼくはお母さんのお気に入りの大きな白い毛布を手にとって、マントのように首に巻きつけた。そのまま一階のベランダからぴょんと飛び出る。 そうして、お父さんなんか嫌いだ!お母さんなんかもっと嫌いだ!という力をマントに込めてもう一度低く飛んだ。なるべく低いところから飛ぶ方が力が出るのだ。 するとぼくの体は高く高く、屋根

見ることと見えないもの

去年のクリスマスに、ずっと欲しかったプラモデルをサンタさんに頼んだ。「高すぎるので駄目です」とクリスマスの1週間前にお手紙が届いた。 代わりに僕の枕元に届いたのはサッカーボールだった。僕は運動が嫌いなのに。 その日僕はサンタさんの正体がお父さんだと気づいた。小学生になってからずっとずっと僕にサッカークラブに入れと言ってきていたからだ。お父さんはバレていないと思っていたみたいだった。喧嘩になった。 今日はお正月。お年玉を貰った。僕の家は親戚がいないので、お母さんとお父さんから

無彩色について

「赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫」 私とミカコちゃんは昼休みに、教室でファッション雑誌を見ていた。今年の流行色の話から自分の好きな色の話になって、私が黄色と答えるとミカコちゃんは俯いて腕を組んでいた。いつものミカコちゃん式考えるポーズだ。そうしてやっと彼女の口から返ってきた答えがそれだった。 赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫。 「多いね」 「虹の色だからね。でも頑張って7色に絞ったんだよ。本当は全部好きって言いたかった。鮮やかな色って全部好き」 「じゃあ全部って

首が回らなくなる時まで

「私もう死んじゃいたい」 妹のヨーコが漫画本を手渡しながらそう言ってきた。その漫画本は私達姉妹が好きな漫画で、一昨日本屋へ行った時に最後の一冊だった最新刊。2人でじゃんけんして、私が負けたので妹が持つ事になった本だった。 「死んじゃいたいから、だから、その本お姉ちゃんにあげる」 「なんで?」 至極真っ当な疑問だった。妹はまだ小学3年生で、私は高校1年生。高校生にもなると周囲からの圧力とか酷くなるし、大人になるために考えなければいけない事とかも増えてくる。だから私の友達やク

事無しに抱かれて眠りたい

彼女に振られた。 まだ1月の寒い時期だった。 だから今日は誰かに抱かれて眠りたいと思った。きっと今日は眠るのが下手くそになってしまうから。 街のネオンに照らされながら、ひたすら当てもなく街を歩いていた。 コンビニで酒でも買おうか、安くて悪酔いできる酒。けれど悪酔いしてしまったら明日に支障が出てしまうな、酒に抱かれるのは今日はやめておこう。 この通りに遅くまで開いている雑貨屋があることを思い出した。何回か彼女に連れられていやいやながら入ったことがある店だった。 俺の足は店の中

お母さんの口から青虫が出てきた。

お母さんの口から青虫が出てきた。 お母さんは息が止まったように床に倒れこんでいたけど、上半身だけ起こしてゲホゲホと咳き込みはじめた。床にお母さんの唾液が散らばっていく。 そんなお母さんの背中を見て、心配するより先に下着と膝まで届くベージュのシュミーズだけの格好が気になっていた。先月、お父さんが家に帰ってこなくなってからお母さんは家に帰るとずっとその格好をしていた。 大丈夫?って聞いたらこの方が楽だから。としかいつも返してくれない。うちにはあと少しで1歳の妹がいたから、妹にご飯

魔女を看取る(2011年)

「雨が降ってるのね」 女はゆっくりと言葉を選ぶようにそう呟いた。 女は細く、長い指でその頬に垂れた髪の毛を耳にかける。 私は黙って丸イスに座っていた。 雨の雫が屋根に落ちる音だけが静かな部屋に響いていた。 「どうせなら、晴れがよかったのにね」 「そうね。でも雨も好きよ」 女は綺麗に笑う。 笑ってひざの上の皿に再び手をつけた。 「ケーキって、おいしいのね」 女は物思いにふけるように目を閉じた。 そしてもう一口食べておいしい。と口の周りについたクリームを舐める。 「

あの濃淡を知りたい

あの濃淡を知りたい。 声の濃淡は知れる。 言葉の濃淡も知れる。 表情の濃淡も知れる。 あの濃淡は語られなければ知る事ができない。 キミが喋りながらメモ書きに走り書いた、意味の無い「あ」の一文字の、ひらがなの濃淡を知りたいよ。

海と金木犀

なんだかさいきんなんだかなあ。 こんな時は海に行こう。 そうして海に着くと、海辺に全身ずぶ濡れの女が立っていた。 今は4月なのに寒くないのだろうか。 私は驚いて、けれどこの時期にこれだけずぶ濡れの女と関わり合いになりたくないなと思い、なるべく目が合わないように気を配りながら女の姿が目に入らないような位置の、手近なベンチに腰掛けた。 私は海辺で海の香りを感じたかったのに、とんだ邪魔が入ったなあと思った。 すると視界の端からあの女が映った。 私の目の前を通り過ぎようとしてる

ウサギ紳士と自分アレルギー

ある日、お日様がぴかぴかでお空も澄んだ海のような日のことです。 上品なリンゴが沢山実った木の下で、これまた上品なウサギの紳士が胸を押さえてうずくまっていました。 そこへ一匹のカメのお嬢さんが通りかかったので、ウサギの紳士はカメのお嬢さんを呼び止めました。 「すみません、もし、そこの人、僕、とても動けなくて、僕、大変申し訳ないのですが、僕のカバンから薬とお水を取り出してはくれませんか。アレルギーの薬があるのです」 「まあ、それはおこまりね」 カメのお嬢さんはウサギの紳士の