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「花月書店で会いましょう」感想/彼だから作り出せる世界

 今回は関西では2021年7月17日に関西のテレビ局MBSにて放送されましたよしもと新喜劇「花月書店で会いましょう」の感想文でございます。あのツチヤタカユキさんが初めて下ろした新喜劇の脚本です。TVer等では2021年8月28日13時59分までの配信なのでお早めに。


新喜劇に新風を

 そもそも、吉本新喜劇(この表記が正式名称で、「よしもと新喜劇」はMBSで放送されている分の吉本新喜劇)は現代劇がメインです。なので、今作のようなファンタジーやSFのような展開は少数でした。
過去には死んだ人が現世に未練があるため憑依する話や過去にタイムスリップして歴史を改変する話、神様や妖精が出てくる話は何回か、幽霊が出てくる話にそしてヒーローものぐらいしか私は知りません。そして、今回のような本の主人公達が実体化するローファンタジーの展開は新喜劇としては初めての試みでした。
 ちなみに、配信開始された日の関西で放送された新喜劇も主人公の先立たれた妻を降霊するというファンタジーな展開でした。よしもと新喜劇は何故か関西で放送されてから1ヵ月以上経たないと見逃し配信されないのです。

 他にも、物語の舞台として書店が扱われるのも珍しいです。大抵吉本新喜劇の舞台は大阪らしくうどん屋などの飲食店、他の番組等が新喜劇をテーマにした企画を取り上げる時も大抵舞台設定はそうなります。
設定や舞台が今までの新喜劇とかけ離れていたので視聴前は不安でしたが、私は面白かったと受け止められました。

 でも、吉本新喜劇は60年以上続いている大阪の文化の一つ、作風にも新風を吹き込まないと廃れてしまう危険性もあります。ずっと同じであればいつの間にか敷居が高くなってしまい、誰も寄り付かなくなるのは私も嫌だと感じております。

●彼だから書ける脚本(ものがたり)

 さて、本題であります今作の感想に入ります。若干ネタバレ要素はありますので見出しにネタバレ注意の●を施しています。

 上記にも触れましたが、ツチヤさん初めての脚本の新喜劇は面白いのかと私も放送前は不安になっていました。しかし、蓋を開けてみたらそれはある程度払拭されました。
でも、視聴していてどうしても気になってしまったのは「劇中の出来事が線状ではなく点と点が散りばめられている」ぐらいですね。思えば、これは喜劇即ち演劇であって一般的なコントではないと改めて気付かされました。

 長尺コントはこの世に存在しますがそれは大抵少人数で場面展開はあまりなく芸人が最初から最後まで出ていることが主体で、一方演劇は大人数のため役者の入れ替わりが激しくて受け持つ量もまちまちで場面展開があるので最初から最後まで出ている方はあまり見られません。今回は場面展開が上手く繋がっていなくて線ではなくて点しか見えなかったのが少し残念でした。

 しかし、要所要所が気になったとしても劇全体は面白かったです。新喜劇らしいギャグは勿論それだけでなくてツチヤさんのこれまでと今作がリンクされているというファンにとって楽しめられる部分もありました。生い立ちから今までしてきた事、上手くいかなかった人間関係、何より新しい作風、これは彼だから作り出せる世界だといつの間にか目が開かれていたのですので、気になる部分はあれど笑いが止まらないのでこれっきりにしてほしくないと願っています。

 演劇もとい物語は作者の思いを入れ込んで良いですからね。今回、ツチヤさんは彼の核心の一つであります「親子関係」に強い情念を書き表していました。また、ツチヤさんは「物語」に支えられていた人生だから今回はあのような展開になっていたんだと感じました。
ちなみに、私が今回一番笑った箇所は「本マグロも『本』を持って千回泣いた数にカウントされる」です。もう言葉遊びの領域だとニヤニヤが止まりませんでした。

 また、『コンテニュー』の時に感じてしまった作家と演者との隔たりはあまり感じられませんでした。演劇はライブとも違い「物語」だから、現実に振り返る合間が無く没頭するスタンスというのもあるでしょう。

 だからこそ、今作だけでなく次回作もどんなものになるのか今からでも楽しみにしています。新風は定着してこそ意味がありますから。

後書き

 今回は、『コンテニュー』以来の批判的な意見を書いてしまいました。ツチヤさんが元々劇場作家、放送作家を目指していたので自分の中にある厳しい視点が小説や詩よりも強くなっていたからです。
本当の私は盲信的なファンではないので小説や詩に対しても厳しい意見抱きはしますが、それで感想文の文字数を埋めるのはどうかなと感じて割愛しました。けれども、自分の中だけで満たしたいという自分こそが正しいファン、所謂スティーヴン・キングの『ミザリー』のアニーみたいなファンにならないためにも心掛けています。

 そして、なんと『笑いのカイブツ』が来年映画化されますね。どんな作品に仕上がるのか分かりませんが私はちゃんと鑑賞すると決めましたので、後は無事に公開される事を願うしかありませんね。

 さて、ここまで『笑いのカイブツ』等の小説、自費出版、ドキュメンタリー番組、落語ライブ『コンテニュー』、『ココア共和国』掲載詩、吉本新喜劇と感想文を書き連ねました。中にはこれは感想文なのか自分でも疑わしいのもありますが、私はツチヤタカユキさんの関わってきた事に支えられていたんだと思い返しています。
しかし、ロフトプラスワンウエストで開催されたイベントについてはまだ感想文を書いていません。三回ありましたが、一番古いのがもう何年か前のイベントなので記憶が朧気なのではなくて思い出すと自分の中に後悔が目覚めるからです。あの時の後悔をもう二度と繰り返さない為に今忙しい中長文で感想文を綴っているのはあります。これが今の私に出来るツチヤさんへの恩返しですが、前述の通り節度を守って活動していますよ。ですから、色々自分の中で踏ん切りがつきましたらそちらの感想文も書きたいと考えています。

 お節介かもしれませんが、私はこれからもツチヤタカユキさんが織りなす世界を楽しみにしています。

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