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現実<ゆめ>を見ているのはどっち?:『NEEDY GIRL OVERDOSE』感想・考察

『NEEDY GIRL OVERDOSE』は、最強のインターネットエンジェルを目指す承認欲求強めな「超絶最かわてんしちゃん」こと「あめちゃん」を、導いていくADVゲームです。 ※本記事は『NEEDY GIRL OVERDOSE』の各エンディング・および最重要のネタバレを含みます。未プレイの方は下記URLへアクセスして購入&プレイをしましょう!! 本作品はプレイヤーの選択次第で、いくつものエンディングに到達し、中には人によってはトラウマスイッチになりかねない、強烈なものも多

    • 冬の終わりに読みたい一冊:『冬にそむく』感想

       直接的にも間接的にも、コロナ禍の影響を受けた作品はもちろん数多くありますが、その中でも非常に個人的な感覚になじんだ作品が『冬にそむく』という作品でした。  『冬にそむく』は、「冬」と呼ばれる異常気象によって、1年を通して大雪が続くようになってしまった日本で、恋人同士である天城幸久と真瀬美波の関係を描いた作品です。  降り積もる雪によって世界はゆるやかに分断され、高校生である幸久たちの生活も、「今日は大雪だからリモート」といった言葉が飛び交い、交通機関が定期的にマヒをしたり

      • 「奏章プロローグ」と『被検体:E』の矛盾点について:FGO2部考察

        7章の終了直後、にわかに追加された「奏章プロローグ」では、あらたな物語の始まりとともに、2部を通して提示されている謎『被検体:E』についての「結論」じみたものがシオンの口から提示されていました。 しかし、ここで明かされた結論には、現時点では明らかに矛盾があるように感じ、さらにはその矛盾は意図的に仕込まれているのではと思ったため、自分が内容の整理のためこの記事を作成いたしました。 この記事では、あくまで「FGO本編中で記述された内容」のみを元に検討しようと考え、TYPE-MOO

        • 『透明だった最後の日々へ』感想

          『透明だった最後の日々へ』は詩人でもある岩倉文也先生の初長編小説です。大学生で詩人の主人公リョウと、彼に憧れる情緒不安定なミズハ、そしてそんな彼女を愛している小説家を志しているナツト、3人のモラトリアムな日々を綴る本作は、著者の持ち味である繊細で虚無感のある文体が心地よく、流れるように読み終わってしまいました。 本作の特徴としては、3.11の震災を小学生の時に経験した主人公の、その捉え方にあると思いました。教室で大地震を経験した彼にとって、震災という過去はトラウマでありなが

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        • 『透明だった最後の日々へ』感想

          『15秒のターン』感想

          時間の感覚とはひどく主観的で、感情が大きく揺らぐ瞬間は振り返ってみると永遠のようにも感じられる…かもしれない。それが、たった15秒でも。 紅玉いづき先生の『15秒のターン』は著者のデビュー15周年を記念して刊行された青春小説を5編収録した短編集です。文庫かつどれも読みやすい分量で一気に読んでしまえる勢いと、卓越した文章力を感じる作品でした。 表題作の「15秒のターン」は初出が2008年、3作目の「戦場にも朝は来る」は2021初出実に10年以上も作品ごとの期間があるにも関わ

          『15秒のターン』感想

          「エス」とは何か?:『ALTER EGO』感想・考察

          ※別所に掲載していたものを発掘したので再掲しています※ 『ALTER EGO』をプレイしていく中で、自分が納得するために走り書きしていたものがあったので、ある程度読めるように整理しました。 はじめに、最後まで読んでも万人が納得できる、明確な結論はありません。 ただ、プレイ後に何かを考えるきっかけになってくれればと思います。 ※注意事項※ ・『ALTER EGO』のあらゆるネタバレを含みます。 ・あくまでも一個人の解釈であり、解説などではありません。 ・精神分析や

          「エス」とは何か?:『ALTER EGO』感想・考察

          「Liminal Space」とオタクの心象風景

          見た目は同じなのに、気づいたら自分だけが別の世界に移動している…そんな妄想をしたことが人生で一度はあるかと思います。そんな感覚を的確に思い起させてくれるのが、「Liminal space」です。 「Liminal space」とは 「Liminal space」というのは、4chan発祥のインタネット・ミームで、FANDOM内「Aesthetics(美学) Wiki」によれば「他の2つの場所および状態を行き来するロケーション」とされています。(原文:「a location

          「Liminal Space」とオタクの心象風景

          禍福は糾える縄の如し:『黒牢城』感想

          人の決断はどんな形であれ何かに影響を与える。因果は巡る。「果」に思いを馳せても過去が変わることはないが、それでも見えてくる希望はあるのかもしれない…。戦国ミステリ『黒牢城』は「時代小説」「ミステリ小説」それぞれとしての完成度はもちろん、この作品だからこそ描き得た人の業を感じる作品でした。 戦国時代の固有名詞になじみがないと読みづらい部分もややありますが、実際のところ最低限を理解すれば、以降はやっきになって追わなくてもよい内容になっていたと思いました。 超ざっくりあらすじだ

          禍福は糾える縄の如し:『黒牢城』感想

          心がつらい時は『檸檬』を読むとややマシになる:日記

          生活をしてると時々、漠然とつらい気持ちになって、なんだか何もする気が起きなくなることがあります。昨日までバカみたいに周回していたゲームが、なんでこんなことをしていたのかと虚無感まみれになって、うっかりデータ消しそうになる。消さないが…。(いっそのこと消せれば一番よいのに) そういう「なんだかな」という日は、漠然と文字列を追っていると心が落ち着くことが多いのですが、最近特に読むのが梶井基次郎『檸檬』です。 要は「つらいときに見つけた檸檬が私の心を何故かひどく満たしてくれる」

          心がつらい時は『檸檬』を読むとややマシになる:日記

          『愛じゃないならこれは何』感想

          愛とは何でしょう。愛とは、自分のすべてを惜しみ無く与えてもよいという覚悟と狂気と信仰のことかもしれません。 斜線堂有紀先生の『愛じゃないならこれは何』は、どうしようもなくある誰かへの感情を抱え、それに振り回されもがきながら生きる人々を描く短編集です。全5編。いずれも「愛」と言われて想像するような感情ではないものの、読み終わってみると、この感情に名前を付けるなら「愛」しかないだろう…という巨大な感情に包まれる作品です。 以下、各短編についての感想です。 ・ミニカーだって一

          『愛じゃないならこれは何』感想

          【ネタバレなし紹介】『NEEDY GIRL OVERDOSE』【マルチ破滅ED配信者ADV】

          『NEEDY GIRL OVERDOSE』は、最強のインターネットエンジェルを目指す承認欲求強めな「超絶最かわてんしちゃん」こと「あめちゃん」を、彼女の恋人兼プロデューサー的な存在「ピ」となり、導いていくマルチ破滅エンディング・アドベンチャーゲームです。現在steamで配信中。 プレイヤーは「ピ」となってあめちゃんに指示を出していくわけですが、彼女は基本的に何でも言うことを聞くので、プレイする人の倫理感が試されます。「まっとうに頑張らせるか」「ちょっと危ない橋を渡らせても成

          【ネタバレなし紹介】『NEEDY GIRL OVERDOSE』【マルチ破滅ED配信者ADV】

          『ミューズの真髄』感想

          どういう人生がいい人生かと言われると、しょうもないことで笑える人生が一番いい人生じゃないかと最近よく思います。 『ミューズの真髄』は、高校三年生のころに美大受験に落ち、その後は母が期待する通りの人生を送ってきた高卒OL・美優が、ある時白紙のキャンバスを片手に家を飛び出し人生をリスタートする…遅れてきたジュブナイル・ストーリー(?)です。 人は多かれ少なかれ・プラスマイナスの違いはあれど、他人の期待に対しての反応で生きているという側面があると思います。好かれたい評価されたい

          『ミューズの真髄』感想

          『ユンヒへ』感想

          深々と降り積もる悔恨の雪が、ほんの少しだけ融けた気がする。 『ユンヒへ』は、過去の想いに囚われていたユンヒが、かつての恋人・ジュンと再会することで、20年もの間止まっていた時をようやく動かすことができた…そんなお話でした。 どの登場人物にも、無かったことにできない想いや、それを支えたいという優しさがあり、小樽の静かな雪景色と相まってじわじわと染みてくる作品。 ※以下、『ユンヒへ』のネタバレ含みます。 ・ユンヒ タイトルにも名を冠している女性。シングルマザーで、大学進学

          『ユンヒへ』感想

          「現実」への反逆の意志:「P5R」感想・考察(主に明智くんについて)

          無印の「ペルソナ5」を仕事の忙しさも忘れ、連日夜更かししてクリアしたのがもう4年前…当時、確かな満足と、それでも捨てきれないモヤモヤがある中、他のエンディングを探していたことがすでに懐かしいです。 去年2019年に「ペルソナ5ロイヤル」が出たときには、とてつもなく心躍った…わけなんですが、如何せん序盤の何度も見てしまったイベントの連続(を周回でないステータスでやること)に、率直に言うとかなりモチベーションをそがれてしまったこともあり、しばらく積んでしまっていましたが、家にい

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          宮嶺望は寄河景にとっての「特別」だったのか:『恋に至る病』考察 

          !!本記事には『恋に至る病』の全編に渡るネタバレが含まれています!! 『恋に至る病』は斜線堂有紀先生による、先日発売された作品です。 『青い蝶(ブルーモルフォ)』という参加者は最終的に自殺してしまうというゲームのマスターである寄河景と、そんな彼女を観測し続けた宮嶺望という二人の物語。 『青い蝶』は、ロシアで始まったといわれている自殺教唆ゲーム『青い鯨』を下地にしているものでしょう。 本記事では、『恋に至る病』という作品、そしてそのヒロインである寄河景というキャラクター

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