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【限定・無料公開】The Millennials― あるいは米国の住宅バブル ―【10月12日付 週刊 投資日報巻頭記事】

The Millennials― あるいは米国の住宅バブル ―

好調な中古住宅販売

米国では中古住宅の販売が絶好調であるという。その水準は、なんとサブプライムローンが全盛でった2006年の年末以来だという。実際中古住宅の在庫は前年同月比18.6%減の149万戸。前年比での減少は15カ月連続となっている。


その結果、販売に対する在庫比率は3カ月分まで減少しており、低金利を背景に住宅取得意欲が大きく膨らんでいることが分かる。こうしたブームを考えると、やはり米国の人口構成はまだまだ若い―ということになるのだが、それにしても爆発的な伸びといえるだろう(ちなみに欧米では日本のような新築信仰は少なく市場規模も中古住宅の方が新築住宅よりはるかに大きい)。


具体的に中身を見ると、8月の販売は一戸建て住宅が1.7%増、コンドミニアムが8.6%増となっており、これは米国の一戸建てへのニーズの高さを考えると、住宅価格の高い都市部での需要が高まっていることが分かる。
販売は全ての地域で増加している。特に南部は06年5月以来の高水準である。ITが好調の西部は6カ月ぶりの高水準、北東部は3年ぶりの高い水準。最も景気後退が深刻とされる中西部においてすら06年終盤以来の高水準となった。


中古住宅価格(季節調整前、中央値)は前年同月比11.4%上昇の31万600ドル(約3260万円)で過去最高となっている。つまり、サブプライムローン以前の価格すら上回っているのである。それだけではない。この1カ月の新築住宅販売数は55%増加し、2005年以来最大の伸びを記録した。


住宅ローンの借り換えを検討している米国人の数は111%増加した。米国最大の住宅ローン金融業者であるクイックン・ローンズ(Quickn Loans)は、35年にわたる同社の歴史のなかで最高の四半期成績を叩き出した。
2020年の最初の6カ月間で、同社は1200億ドルの住宅ローン資金を融資し、半年を残して過去最高の年間融資額の記録を更新した。


希望小売価格は最低価格


通常希望小売価格で落札されることは少ない―というのはオークションの常識だ。むしろ、その希望の2~3割は下がるものである。ところが、最近の米国住宅市場のオークションは希望価格が最低価格となっている。まるで高級希少絵画か高級ワインのようだ。実際にオークションでは希望小売価格の2~3割増しになることも珍しくなくなっている。在庫が急減していることと、需要の強さを考えれば、買い手が焦るのも判る。


オンライン不動産取引業者のレッドフィン(Redfin)によれば、過去3カ月間に住宅を購入した買い手の過半数が、入札競争を余儀なくされた。3カ月の在庫ということは、米国の住宅価格にも価格爆発の寸前―ということが出来るだろう。


構造的な問題もある。そもそもサブプライム住宅ローン危機でダメージを負った住宅建設業者は、悔い改めた。


1959年以降の新規住宅建築数は毎年平均150万戸だったが、恐れをなした業者は過去10年間、年間わずか90万戸しか建てなかった。需要が低迷すると見込んだからだ。これが絶対的な供給不足を呼び込んだ第一の原因だ。


さらに一時的な要因としてコロナの影響だ。コロナ危機では「動くことは危険」というロジックになる。それ故に、自分が居住している住宅を売る―という選択をやめた人が多いのだ。


何百万人もの住宅所有者が、パンデミックの猛威を受けて、家を売らない選択をした。これにより供給はさらに絞られた。


ミレニアル世代の時代が到来する


それでも住宅が必要な人は一定以上存在する。いや、一定数ではない。実は需要は爆発的なのだ。それは何故か。


そのカギは「ミレニアル世代」と呼ばれる現代の若年層が握っている。この層は現時点で米国史上最大の人口を誇る世代であり、ベビーブーマーをも上回っている。


彼らは親の家の地下室に住み、結婚を先送りし、親よりも稼ぎが少ない。それでも現在のミレニアル世代の平均年齢は32歳。米国において最初の家を買う人の年齢の中央値は31歳。つまり日本で言えば、団塊の世代達が日本中の戸建て価格を押し上げたような、70年代後半から80年代に向けた爆発的な需要が、米国で今起こりつつある―いや、すでに起こっているのかもしれないのだ。


実際、2019年に住宅を購入した人の10人に4人はミレニアル世代。また2020年春、住宅ローン利用者に占めるミレニアル世代の割合は50%を上回っている。それでもまだ世代人口を感がると、まだ若い住宅購入者の第1波に過ぎない。つまり、今後10年以上にわたって、毎年数千万人のミレニアル世代が住宅購入年齢に突入する。


そう考えると、住宅価格の上昇がコロナ危機で深刻は打撃を受けている経済の実態とは到底思えないこともわかる。そして、こうしたミレニアル世代が大挙して住宅市場のみならず資産市場に参入しているのだ。


実際、有無を言わさず上昇する現在のナスダックを強烈に支えたのはミレニアル世代といわれる。給付金をつぎ込んで株で人稼ぎして住宅の頭金にしたい―そういう願望がある以上、ITバブルもそう簡単には消えない。あらゆる資産市場にミレニアム世代の参入の爪痕、痕跡を発見することが出来る。しかも、こちらにおいてもまだ全面参戦とは言えない、というのが実態だ。


つまり、資産市場においても、彼らが出現するのはこれから10年かけてゆっくりと、時には怒涛のように、押し寄せるに違いない。コロナ禍で隠されているが、ミレニアル世代が米国をリードし始める時代が来たのだ。


狂騒と混乱、狂気とブーム、楽観と恐怖が入り混じった軽躁な米国の若者の世紀 ― それはあたかも1950~1960年代を彷彿とさせる ― が始まったのだ。

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