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ワインが投資になるって聞いたのですが・・・⑤

前回記事はこちら↓

ケイ:なお、①のワイン投資においては、業者からワインを購入する時、売却する時、共に、ワインの流通業界における「卸値」で取引をするのが基本です。具体的には、ワイナリーの出荷価格に5〜10%程度の卸業者のマージン(利益)を乗せた価格に、倉庫までの輸送量や各種税金などを加えた金額が、個人の投資価格になりますね。その後の保管料は、場所によって異なりますが一本100円/年〜といったところでしょうか。日本の倉庫に保管する場合は、地震対策が完璧にできている必要があるので(ワインケースを山積みにせず平置きにするなど)、保管料は高くなるのが一般的です。そして、売却する時に業者に支払う手数料は、0%〜10%まで様々です。アマゾンや楽天などで個人やレストランの買い手を見つければ、卸値より3割程度高く(小売店のマージンに相当)売却することが理論的には可能なんですが、それは簡単ではないので、投資リターンを考える時には当てにしないほうが良いでしょう。


②のようにワインファンドへ投資をする時は、投資金額に対して年1%〜3%程度の運用手数料が発生するのが一般的です(100万円投資すれば、年1〜3万円程度)。また5%程度の初期購入手数料(同5万円程度)や、運用益に対して20%程度の成功報酬が課される(150万円に値上がりすれば10万円程度)など、手数料の種類や程度はファンドによって様々です。これらの手数料が割高なのか割安なのかは、投資先のファンドのパフォーマンスや他のサービス次第なので、一概には言えませんね。

ワイン価格指数について

アキラ:そう言えば、前回、過去のワイン価格のチャートを見ましたが、ワイン指数なるものがあるんですね。知りませんでした。なんだか株式市場みたいですね。。。


ケイ:そうですね。指数は、ある資産の市場全体の値動きを把握したり、自分の投資成績を客観的に知ることができるので、あると便利なんですよ。ファインワインの指数で一番有名なのは2000年に発足したイギリスのLiv-ex社が運営する取引所が発表しているLiv-ex fine wine 100という指数で、これが業界のスタンダードになっています。Liv-ex(ライブイーエックス)は、The London International Vintners Exchangeという取引所(市場:マーケットプレイス)を運営しており、ライセンスを持つ500社超のワイン卸が取引する約16,000種のワインの実際の取引価格を参考とし、代表的な100ブランドの価格を指数化しています。中身が気になる人はホームページからダウンロードして回覧する事が可能ですよ。同社はより地域や銘柄を広げたLiv-ex fine wine1000の指数など、複数の指数を発表しています。またイギリスのBordeaux Index社やCult Wine社、アメリカのVinovest社など、様々な会社が独自の指数を発表していますね。

アキラ:Liv-ex fine wine100のような指数を見れば、まるで日経平均株価やダウ30平均株価のように、ファインワイン市場全体の価格の値動きが分かる訳ですね。

ケイ:はい。Liv-exは2000年に10名の創業メンバーで開始されましたが、この取引所で取引されるワイン価格や発表されている指数が世界的に信頼されている理由は、SIB(Standard in bond)契約という「保管状態が完全であるワインのみを取引する」ことが厳格に定められているからです。参加している500社超のワイン商でこのルールを破る者は、ギルド(職業集団)から叩き出されてしまい、大切な権益を失います。Liv-exのシステムの中に入ってワインを物色していると、ワインのラベルの一部がほんの少し剥がれていても、それはSIBの商品とは見なされず、注記が付くぐらい厳格です。これは中古車の市場などにも共通するのですが、実物商品の市場というのは、その商品の信頼性が最も大切になります(経済学ではレモンの法則と言われるトピックです)。この辺りの信頼される市場の仕組み作りなどは、イギリス人の「市場」に対する深い理解を感じさせられますね。

アキラ:なるほど。さすが金融先進国のイギリスってところですかね。。ワイン投資を勉強すると、フランスやイギリスの思想まで勉強できる感じがします。ちなみに、業界スタンダードのLiv-ex fine wine 100に価格が連動するETF(上場投資信託)やファンド(投資信託)っていうのは存在するんですか?

ケイ:世界を見渡しても、見当たらないですね。ETFの開発を計画している会社は複数あるようですけど。株などの既に金融商品になっているものを集めてETFを作るのと比べて、ワインなどの実物商品から金融商品であるETFを作るのは相当に手間がかかるし、ある指数のパフォーマンスを正確にトラックするのはかなり難題でしょうね。

ワイン投資についてのまとめ

アキラ:色々と勉強になりました。全然ピンときていなかったワイン投資ですが、ファインワイン産業の全体像、ワイン投資家の社会的な役割、ファインワインの価格が上昇してきたユニークな特性、ワイン投資に参加する方法やワイン指数など、とてもよく分かりました。同時に、フランスやイギリスなどの社会風土やビジネス上の知恵なども見えてきて、思わぬ知見も広がりました。

ケイ:そうですね。何らかの投資に参加する素晴らしさの一つは、その資産や背後にある産業の勉強を通じて、今まで見えなかった社会の輪郭がよりはっきり見えてくることです。でも、このような大人の教養は、投資の価格チャートを見て単にお金を儲けようと考えている人では、身につけることはできません。投資の背景にある社会の仕組みを学ぶことで、投資の真の楽しさが初めて分かってきます。では、ファインワイン投資についての、要点をまとめましょう。

・ワイン投資家は、ファインワイン産業のエコシステム(循環的な仕組み)において重要な役割を果たす

・ファインワインには、その価格が長期で押し上げられていく、ユニークな特性がある

・過去の価格の値上がりは、年間で平均10%以上。値上がりするかは、ファインワイン産業が、より多くの人々の豊かさや幸せに貢献できたかで決まる

・ワイン投資家になるには複数の方法がある(現物投資やファンド投資)

・代表的なファインワイン群の価格動向を参照できる指数が存在する

ワイン投資とは、ファインワイン産業のエコシステムに「貯蔵」という役割で事業参加し、ファインワインを通じて消費者や社会の豊かさや幸せが増加する一部を、後から受け取る仕組みです。ワイン「投資」をしているのではなく、ワイン「事業」を行っているのだ、という意識を持つのがより実体に近いと思います。そして、このファインワインのエコシスステムに共感し、ワイン事業を行う良きパートナー(業者)に巡り合えたなら、一般の方がワイン投資を検討されるのは個人的に悪くない選択肢と思います。

なお、ファインワインはじっくり熟成され美味しくなっていき、そのストックは飲まれて少しずつ減っていく訳で、その投資は5年や10年以上の時間をかけて長期で取り組んでいくものです。また、その途中で、実際に飲んだり人にプレゼントしたりと、値上がり以外を楽しみながらの投資となるので大変に楽しいものと思います。

アキラ:なんにせよ、ワインの熟成のように、気長に投資をしていこうう、ってことですね。

ケイ:はい。最後にもう一つ。ワインなどの「お酒」は人間社会に何千年も根付く文化ではありますが、アルコールの過剰摂取などは世界的に解決すべき社会課題です。社会活動にSDGsが求められていくこれからの時代、ファインワイン産業が社会の笑顔を増やしていけるよう、各々の投資家が金銭的な価値以上のより高い意識をもって、ファインワイン投資に参画することも大切になってくると思います。

では、今日はこの辺りで。これからも「パッションアセット」について一緒に考えていきましょう。お疲れさまでした。

連載は以上です!!

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