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民泊を理解するため、旅館や不動産賃貸との違いを書き出してみた③

民泊について続きの記事です。1回目と2回目はこちら。

1回目は監督官庁、オーナーの物件保有、宿泊日数について、2回目は集客、収益構造について、旅館業、住宅賃貸業、民泊の3つの違いについて記しました。今回もそれらの違いなどにフォーカスして、民泊の特徴について理解をしていければと思います。

なお、私、民泊や旅館業については今のところ未経験です。未経験者が新しいトウシのトビラを開ける勉強の過程として、読んでいただければと思います。

その⑥  部屋の賃貸・宿泊単価の決まり方の違いについて

収益構造の次は、部屋貸しの単価の決まり方の違いです。

まず1つ目。

不動産賃貸業の場合、家賃の単価で最も大切になるのは「面積」です。もちろん駅からの距離や築年数もありますが、やはり1番効いてくるのは「面積」です。実際、募集賃料を決める場合、周辺の一坪XX円、一平米XX円を調べて概算を弾いて、そこから物件の魅力毎に調整をしていくのがセオリーです。

一方、旅館業や民泊で1番効いてくるのは「宿泊人数」となります。市区町村によって異なるものの、一人頭3.3平米(一畳/人)という基準を満たし、何人泊まれるかが、最も単価に聞いてきます。

ただし、旅館業と民泊では、その業法上から、基本的な宿泊人数の考え方に違いがあります。旅館は寝室(客間)の面積で泊まれる人数が決まります。バス・トイレやクローゼットは除いた「寝室」の面積が基準になるということです。一方、民泊はそれらを含んだ延べ床面積で泊まれる人数を決めていきます。また、民泊のデファクトのポータルサイトになっているAirbnbでは部屋の面積は掲載できないため、宿泊人数が単価に与える力学がより強くなっています。

つまり、経営において1番大切な売上を決める要因が、それぞれ大きく異なっているということです。これら違いから、不動産賃貸、旅館、民泊に向いた部屋・物件は全く異なる、ということが分かるでしょう。同じ物件であったとしても、この3つのどれで経営を行うかによって、得られる売上収入は大きく変わるということになります。

売上は「単価と数量(稼働率)」の掛け算なのですが、このような数量1つ当たりのユニット・アナリシスの意識をもつこと、また基本的な考え方を押さえておくことは、合理的な思考で経営をする上ではとても大切でしょう。

2つ目。

そこに住む人たちの実需をターゲットとする不動産賃貸業においては、都市と地方などエリアによって、同じような物件の月家賃は大きく異なります。例えば、東京で10万円する1Rも、地方にいけば3万円ぐらいで貸し出されていますね。

一方で、旅館業や民泊では、そこに住まない観光客をターゲットにしており、またローカル事情を知らない外国人が価格形成に影響を及ぼしているため、同じような物件のエリアによっての価格差は、不動産賃貸業ほど広がらないという特徴があります。誤解を恐れずにいえば、日本中どこに行っても一人一泊当たり3000円〜5000円などで基本の価格設定がされると言えるのです。

これは「ランチの値段」で考えるとイメージが湧くかもしれません。例えば、東京駅の周辺だとランチは1500〜2000円がかかりますが(高い!)、地方にいけば500〜1000円でおいしい定食が食べれるでしょう。ランチの値段は倍以上違う訳です。

一方、観光客向けのランチであれば、実需に見られた大きな価格差は無くなります。美味しい魅力的なランチを提供できるのであれば、地方で2000円でランチを提供することは当たり前です。経済学用語では「需要の価格弾力性」という説明になりますが、住んでいる人と観光客の価格弾力性は大きく違うのです(観光客は価格弾力性が低い)。価格設定は、観光客の旅行中の予算にあった昼飯代であることが大切で、そのエリアの実需の水準である必要は薄いわけです。

「東京などより地方に行った方が民泊は儲かる」という話は複数回、聞いたことがありますが、この辺りの要因が影響しているのだと思います。そしてこの歪みが構造的に残っている限りは、地方で民泊をプレーするというのは賢い選択なのでしょう。

いずれにしても、単価の決まり方から見ても、民泊、旅館業、不動産賃貸経営は、完全に頭を切り替えて臨まないとならないということだと思います。


その⑦  Airbnbが世界中で揉めている件について

これは違いではなく、民泊経営にとっては欠かす事のできないAirbnb単独の話ですが、実はAirbnbは世界中で揉めまくっています。例えば、2023年9月に米国のニューヨーク市は、Airbnbに対する規制を強化し、事実上、民泊物件の運営が困難になりました。以下の記事などが参考になります。

実際、Airbnbは世界中で以下の3者と揉めています。

・現地のホテルと揉めている(規制や客の奪い合いから)
・現地の住民と揉めている(治安、ゴミ問題、観光地での賃貸家賃の高騰)
・現地の消防署と揉めている(安全、火災)

Airbnbの客付けはディスラプティブなサービスであるのですが、住居は地域社会や人々の生活の基本的な要素である訳で、どの揉め事の切り口も非常に納得できるものです。

上記の記事にあるNYでAirbnb禁止となったのは、家賃高騰の問題が大きいようです。大家さんが実需の賃貸で貸すよりも、観光客に貸した方が圧倒的に儲かることに気づいてしまい、それによって現地の人がまともに住めなくなったという問題が起きたわけです。

同じく世界の主要観光地であるパリでも同じ問題が起きていますし、東京や京都などの主要観光地においては、Airbnbを締め出すような社会運動が起こる可能性もあるかもしれません。ただ、日本が抱える人口減少と空き家問題の解消に民泊は貢献すること、外国人観光客を大きく増やすという国家戦略が動いていること、から考えると、NYやパリとは事情が違うとは思います。

<まとめ>

連載3回のまとめです。不動産賃貸、旅館業、民泊のどれも、不動産という空間を人に貸すという点では同じ経済活動ですが、業法、ターゲット、単価の決まり方、収益構造まで、大きな違いがあります。

紹介した特徴を踏まえると、民泊での基本戦略は以下のようにまとめられそうです。

・1億人の日本人ではなく、80億人の外国人を相手にする思考を持つこと
・ホテルと競合しない、人数が多く泊まれる間取りの物件であること
・連泊に耐えうる、台所と食事ができる物件であること
・貸し出しと仕入れ単価に歪みが出やすい、地方の物件も検討すること

ただし、不動産は二つとして同じものはないので、全てはその物件次第ですけどね。不動産賃貸業では収益性は低いが、小型の旅館業や民泊には向いている物件というのは必ずあるはずで、それらの法則が見つかれば、皆がその歪みに気づくまで大きなリターンを得ることができるでしょう。

ご拝読、ありがとうございました。これからもトウシのトビラを開けるよう、色々な記事を書いていきます!


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