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ヒーローが息子になる

今でも覚えている夢がある。
保育園の時に見た夢だ。

保育園の帰り道、おばあちゃんと手をつないで帰っている途中、「イー!」の声とともにショッカーが登場し、「キャー!」と泣き叫んでいるところを仮面ライダーが助けに来てくれる。

その夢が、五十路を過ぎた今でも忘れられない。

仮面ライダーは、私のヒーローだ。

バッタを基にした昆虫系の改造人間という設定は、子ども相手のヒーローにしてはなかなかハードな外見。その上自身を生み出した悪の結社に反旗を翻したため、やたらと自分の存在意義に苦悩するという、明るさからは程遠い性格。毎回ショッキングな容姿とその生き物特有の技を使う怪人が登場し、殴る蹴るを繰り返し倒していく。今なら放送倫理に触れて、「子ども番組なのに」と放送中止になりかねないようなディープさもあった。

昭和の子ども番組って、今なら「え!?」って思うようなディープな設定多かったよねと思う。

当時、白雪姫やシンデレラの物語に登場する白馬にのった王子様に、「いつか私にも王子様が」なんて憧れていた保育園児の私が、仮面ライダーに心を奪われてしまうのはなかなかの方向転換。
バッタなので王子ではない。白馬ではなく、いかついバイクに乗り、キラキラ光る宝石のちりばめられた冠ではなく、傷だらけのヘルメットを被る。

「彼、ちょっと不良っぽいところが素敵なの♡」の域を超えている。

かっこよく言うなら、ダークヒーローっていうやつ。

その彼が、新しくなって帰ってくるというので、つい、観に行ってしまった。

「シン・仮面ライダー」を。

はじめは、新しくなった彼に会うつもりはなかった。だって、憧れは憧れのままそっとしておきたいじゃない?
ところが、うっかりNHKのドキュメント「シン・仮面ライダー」を観てしまったのだ。あの葛藤の果てに「完成した」と世に送り出された新しい彼を、観てみたいという興味にかられた。

私のヒーローは、どんな風に進化したのだろうと。

そして、映画冒頭の衝撃。

NHKの中で、生々しさとか重力とかのリアルさを追及したと話されていたことと、鑑賞年齢制限がついていたことも考えればだいたい予想はついたはずだった。でも、最初の数分で体が硬直してしまって、この戦闘シーンが続くなら出て行こうかと思うくらいの衝撃だった。

これが、新しい仮面ライダーなのね…
昭和のディープさなんで、かわいいもんだった。

血がダメな人は、しんどいどろうな…なんて他人の心配をしつつ、気づけば時間を忘れてどっぷりとリアル仮面ライダーの世界を堪能した。

人間は、殴り合いをすれば痛いし血が出る。
しかも、たぶん半端な痛さじゃない。(殴り合いをしたことがないのでわからないけど)
手足が曲がっても折れても、なんともない不死身の人間なんていない。
もちろん、戦闘中汗は出るし、呼吸もつらい。
人間の生暖かい息と血潮。そんな息遣いが聴こえてくるほどの生々しさは、幼かった私のヒーローにはなかった。

生身のヒーローだと思った。


観てよかった。


そして、当たり前だけど、数十年の時を超えた新な仮面ライダーは、私よりも若かった。私には息子はいないけど、いたらこれくらいの年齢よねと思うと、つい息子を見る目線になる。

大丈夫? そんなに無理しなくても。ケガしてるんだから、逃げていいよと。

今度、私がショッカーに襲われたときに、もしシン仮面ライダーが助けに来てくれたら、「こんなおばちゃん助けなくていいから、貴方は自分のために自分の人生を生きてくれ」なんて、言って帰してしまいそうだ。

憧れたヒーローが息子になるなんて、年を重ねると予想もできない楽しいことがあるよね。


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