出産立ち会いの記録:ベイビーアイラブユーだぜ

6月某日の昼頃仕事中に里帰り出産で実家に帰省している妻から連絡が来て、羊水が少なく、子どもの体重が3000グラムを超えそうなので、陣痛促進剤を使うという診断結果になったそうだ。

順調に生まれれば翌日の朝方に出てくるという余裕のある話し方だったので、仕事を終えてから岩手県にある病院に行くことにした。

仕事を終え、自宅で病院にいく準備をしていると再び連絡があり、「帝王切開になって今日中に生まれるかも」と言われた。

聞いたら、へその緒が首に絡んでいるとのことだ。自然分娩で出産準備をして、赤ちゃんが苦しがっていたら帝王切開にするという段取りだと説明された。

仕事を終え、食事をして、洗濯して、食器を洗って、一眠りしてから岩手県に向かおうと思っていたが事情が変わったので18時半くらいに福島県から出発する。

仕事は外仕事のため、体もなかなか疲れており、冷蔵庫に入っていた栄養ドリンクを空けひたすら走る。

ちなみに、岩手県の病院まで頑張っても5時間かかる。高速に乗るまで2時間弱かかる田舎に住んでしまっているので仕方ない。

運転中、途中意識が飛びそうになるので、初めてモンスターエナジーを飲んでみた。これのおかげかわからないが、とりあえず病院までつくことができた。運転中生まれたか、帝王切開になるのかドキドキだった。運転中なので携帯電話を操作できない。

病院には23:30頃に到着した。

到着したら病院の夜間出入り口から入る。出入り口の窓口には守衛さんが二人いたが何も聞かれない。なんだか勝手に入るのも気持ち悪いので、何か記入するものはあるのか?と聞いたら特に無いと言われた。セキュリティは大丈夫なのか?

守衛さんの窓口の隣にもう一つ窓口があり、それは緊急外来の窓口だった。この窓口からも声をかけられることはなく、不安になったので、産婦人科はどこかと聞いてみたら、怪しまれた。妻が出産間近だと伝えたら、場所を教えくれた。大きい病院は迷路みたいで迷子になりそうだ。

病院に到着したことを義母に伝えたら産婦人科フロアのエレベータの前で待ってくれていた。妻の分娩室はわかりにくいところにあるからと案内してくれた。本当にわかりにくかった。エレベータを降りて早々非常扉のような質感の扉を開け、入っていく。多分一人なら場所が分からず、病院内をさまよい、より怪しい奴になっていたことだろう。

妻の入っている分娩室から、妻のうめき声が聞こえてくる。かれこれ5時間くらいうめいているそうだ。出産が大変って聞いていたが、このことかとよくわかる。

24時頃分娩室に入れてもらい、妻の横で妻を眺める時間がやってきた。薄暗い照明になっている分娩室で妻は痛みに耐え相当頑張っている。相当頑張っている人に対して「がんばれ!」とか、なんの根拠もなく「もう少しだ!」とか言う気も起きない。黙って眺める時間が続く。黙っていても自分がいる意味あるのか不安になってきたので「してほしいことある?(水を飲ませるとか、腰をさするとか)」聞いてみた。返答は「特に無い」だった。痛みに苦しむ妻を眺める時間がつづくことになった。

分娩室は暑い。妻は陣痛が来るたびうめき声をあげる。それに合わせて自分も息がつまる。

自分も若干気分が悪くなってきた。モンスターエナジーが切れてきたのか?だけど、もうモンスターは助けてくれない。

分娩室に入れてもらった時は、助産師さんがいたが、しばらくして席を外しており、妻と私だけだった。

そして、24時過ぎに担当医と助産師が現れて、子どもの状態をチェックし始めた。子どもばだいぶ降りてきており、いよいよ出産になった。

薄暗かった照明は明るくされ、出産する感が、増してきた。その矢先、助産師さんに「お父さん(私)大丈夫?、顔色悪いよ。気分悪くなったらしゃがんで」と言われた。私の気分が悪くなっていることは顔色まで出てきていたらしい。妻が頑張っている隣で、無理ですとも言えず、大丈夫です。と答えてたまにしゃがみこんだ。

担当医とベテラン助産師と妻による出産が始まった。陣痛の時のうめき声とは全く違い、もはや叫んでいる。そして最高潮に苦しそうだ。妻がこのまま死ぬんじゃ無いかと思うほどだ。

妻が汗を相当かいているのでタオルで拭くという仕事を見つけとりあえずそこに私が存在する意義を見出せた。

出産が始まって20分くらい(よく覚えてないけどそれくらい)したら、子どもがだいぶおりてきたようで、ついに助産師さんが「出すよ!」と気合いを入れて、ほかの看護師応援部隊2人が加わった。加わるのに際して、どうやら看護師を呼ぶボタンを押さなきゃいけないらしいが、担当医と助産師は赤ちゃんと妻以外触れないらしく、妻も生きるか死ぬかの戦いをしているので、そのボタンを押すのは私に託された。ボタンを押したら2人きた。

赤ちゃんを出すとなると、妻の痛みに耐える体の力がより一層強くなり、医師たちの気合いもかなり入ってくる。妻の股の方に担当医と助産師、妻のお腹を押すのに看護師一人、出てきた赤ちゃんを洗ったりする準備をする看護師一人という感じだったと思う。私はひたすら妻の汗を拭く。

お腹が張ったら力を入れて子どもを出すような、動きを繰り返し、赤ちゃんの頭を出そうとチーム全員が必死だった。

そしてついに赤ちゃんが出てきた。ちゃんと泣いている。へその緒がうまく解けたのか自然分娩で済んだ。

出てきた赤ちゃんは、赤黒く小さい。やりきった妻はさっきまで苦しんでいたのに、その様子はなくなった。

目の前て起きている出産劇は、なんだかドキュメンタリーを見ているようだった。赤ちゃんが出てきたときは本当に出てきたという、びっくりしたような感覚だった。

この様子を一通り見て、世間で騒がれている、乳児・児童虐待ニュースが本当に信じられない。あれだけ苦しんで産んだ我が子を痛めつけたり、暴力で抑えつけようとする感覚が全くわからない。

あんなに可愛いのに、あんなに苦しんだのに、邪魔者扱いして、放置して、しまいには殺してしまって、悲しい。

無事、帝王切開になることなく自然分娩で生まれてきてくれてよかった。この生まれてくる過程を見ることができてよかった。

子育てはこれからだけどとりあえず全部よかった。

ベイビーアイラブユーだぜ。


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