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UXが「合理性」を追求することの弊害について

みなさん、こんばんは。
今日は前回に投稿したUXと、それが目指すとところの合理性について
もう少し検討を深めたいと思います。

前回のおさらい

前回、UXが目指すところは、目的の達成に向けて、人の行為を合理的に最適化することだと述べました。つまり、UXの最高善とは合理性・効率性、です。

そりゃ人間、楽はしたいけれども

この命題は、たしかにひとつの真実であると思います。我々人間は、面倒な動作はしたがらず、なるべく楽したいという欲求を持っています。それは、人体にかかる無駄なエネルギー消費を回避したい、という人間の根本的な反応なのかもしれません。目的達成をするために、なるべく無駄な動きをしなくてもすむように、テクノロジーやデザインを生み出してきたのも事実です。

それが真理であることは否めません。合理性を追求するというのも、ひとつの傾向だと思います。

ただ、ここには重要な弊害もあります。それがこれです:

①人間が起こす無駄な行動や、予想だにしない行動をバグの一種とみなしてしまう
②無駄をそぎ落とすことに終始しすぎて、新しい価値や体験を生みにくいデザインになる

①と②は連動しています。そもそもUXというのは、人間がある目的をもって行動すると、仮定したうえでの検討作業です。企業などでの開発作業では、特定の目的(=企業の狙い)はすでにあるので、人間は目的意識をもって行動していると思いがちです。

ですが、そうした合理性からはこぼれ落ちる人間の動きというものもたくさんあります。目的に沿わない行動を取ることもあります。かつ、そこに人間が楽しみを見出すことも良くあります。合理性を追求している限りでは、そうした「予想だにしなかった動きと、そこから生まれる新しい価値」は生まれにくい構造になっていると思います。

例えば、この商品をご存知ですか?

ダイアローグ・イン・ザ・ダークで働く、アテンドたちの声から制作された器です。

ダイアローグ・イン・ザ・ダークとは:参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより、中を探検し、様々なシーンを体験します。その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、コミュニケーションの大切さ、人のあたたかさなどを思い出します。1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークは、これまで世界41カ国以上で開催され、800万人を超える人々が体験。何千人もの視覚障がい者のアテンド、ファシリテーターを雇用してきました。日本では、1999年11月の初開催以降、東京・外苑前会場(2009年〜2017年8月末まで常設)と、大阪「対話のある家」を中心に開催、これまで20万人以上が体験しています。(公式HPより)

視覚障害を抱える方が、「お椀にももっと心地よい感覚がほしい」という要望から生まれました。もちろん、使いやすさも兼ね備えています。

自分は年末にこの暗闇体験をしにいき、お椀を実際に使わせてもらったのですが、とても感銘を受けました。

普段、お椀に「感触」なるものはほとんど求めていなかったのですが、そのお椀の触り心地に魅了されました。お椀には感触という楽しみ方がある、と自分の中で新しい価値を見出せたと思います。

こういった感覚は、目的からするとある種のバグでしょう。ご飯をたべるという合理性からは、ちょっとずれた側面もあります。ご飯をたべるという行動と同時にお椀を楽しむというのは、無駄な行動だからです。余計に食べる時間がかかるかもしれません。

こうした動きは行動観察の中で、観察者が現場で起きていることに、新しい価値が生まれていると見抜ければ、別の開発のヒントになるでしょう。しかし、多くの場合は障害が起きているとして、切り捨てられることもあります。

合理性だけを人間は求めているのか?

楽をしたい、というのは人間の欲求ですが、合理性を求め続けることだけが、人間の目指す究極のポイントなのか、と聞かれるとそれにうなづく人は少ないのではないでしょうか。

もし人に、合理性の追求はなんのためにするのか、と聞いたら人はなんと答えるでしょう。

もしかしたら、こう答える方もいるかもしれません。「そりゃ、楽もしたいけど、あまった時間やエネルギーで何か他のことができるじゃん。楽しいこととかさ。」

何か、いつも楽しいことを。新しい価値を。

こうした幸福追求は、もっと大きなテーゼとして人間存在にとって立ち現れていると、私は考えています。この側面を忘れてはいけない。こうした新しい価値は、一見うまくいかないように見えるところに生じていることもあります。それを感知するアンテナを捨てては行けません。



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