大手町は、変われるか?

 大手町ビルが、全面改修に着手するそうです。コンセプトは、「大企業とスタートアップ企業が交流する次世代型オフィス」。オープンイノベーションを推進する拠点となることを構想しています。 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32487240S8A700C1000000/

私も、社会人一年生の時は大手町の一員でした。時は80年代前半。Japan as No.1という世界的評価を受けている真っ只中。大手町は、まさにその中心。この街と丸の内に本社を構える企業群が、日本経済を大きく牽引していました。

今も、大手町には、多くのエスタブリッシュメント企業が棲息します。次々と新しいビルが建っています。そのさまを見ると、今も日本は着々と成長を続けているようにさえ感じます。しかし、その勢いは、もちろん70~80年代の往時のものには遠く及びません。世界的に見ても、日本のエスタブリッシュ企業のポジションは大きく低落しています。この街に行くと、私は、過去の幻想にしがみついている日本のアンシャンレジウムの象徴を見ているように感じます。

本社ビルを、東京の中心部から離れたところに構える企業は、ずいぶんと前から出始めています。赤坂、六本木、品川などの近隣ではなく、もっと離れた場所への移転を遂げる企業もあります。主たる理由は、地価や賃料の削減にあるものとは思いますが、過去の日本の象徴の地から離脱しよう、新たな地から新たな方向へと船出しようという意図が、きっとそこにはあるでしょう。

オフィスそのものの概念も、揺るぎ始めました。中心部への集積は、企業間のコミュニケーションや連携を深める上で、高い効果を発揮してきましたが、テクノロジーの発展により、物理的距離の影響は大きく低落しています。また、フリーアドレス、サテライトオフィス、リモートワークなどの動きは、従業員が一堂に会する航空母艦のようなオフィスの存在意義をこれまた大きく低落させています。やがては大きな自社ビルを中心部に持つ、というかつての「オフィス版・企業の出世物語」は、遺物となり果てました。

こうした変化が進む中での、今回の大手町ビルの改修。これまでのこの街のオフィス概念とは異なる新たな考え方に立脚している点に注目したいところです。賃料も、建て替えではなくリノベーションすることで、この街の極めて高い水準とは異なるポジションに置くことができれば、新興企業の呼び込みもうまくいくかもしれません。自前主義的な考え方が今も強い日本企業が「苦手」としているオープン・イノぺーションが、この場所から次々と立ち上がるかもしれません。

ですが、やはり危うい気配も感じます。このコンセプトの裏に、「ここに来れば、たくさんの大手企業が近くにいるから、事業拡大機会にも恵まれるよ」という、かつての大手町が持つ威光を振りかざす姿が感じられはしないか。つまり、これまでも、そしてこれからも、大手町は、日本の大手企業が集う日本経済の中心部であり、その推進、さらなる発展のために、新興企業を利用しよう、という「大手企業中心主義」に基づくものではないか。

この施策が、大手町という街を新たなものへと変貌させる契機となるのか、はたまた、アンシャンレジウムが少し衣を替えただけにとどまるのか、動向を注目したいところです。

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