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世界に羽ばたく日の丸エアモビリティ実現に向けて多様な技術者が集うSkyDriveの挑戦

2023年12月時点の内容です


車でドライブをするように大空を気軽に移動できる、今、そんな新しいモビリティ「空飛ぶクルマ」への期待が高まっています。日本をはじめ世界各国でその開発が進んでおり、機体の開発から地上設備の設置、飛行ルールづくりまで社会実装への動きも加速しています。

そして空飛ぶクルマの開発において、現在日本で最先端を走っているのが株式会社SkyDrive(以下、SkyDrive)です。SkyDriveは、まだ世界に存在していない「空飛ぶクルマ」の開発に心血を注いでいる日本のスタートアップであり、日本製として初めて空飛ぶクルマの型式証明取得を目指しています。

開発にはさまざまな課題・難題がある中、SkyDriveには非常に優秀な航空機、自動車、バッテリーなど多様なジャンルの技術者が集い、それぞれの知見を活かしながら、今までにない技術の実現に向けて、日々トライ&エラーを繰り返しています。東陽テクニカからも、2名の技術者が出向しており、その実現を共に目指します。

2025年、大阪・関西万博会場で空飛ぶクルマの運航を目指しているSkyDriveにおいて、事業化に向けて指揮を執っているのが、エアモビリティプロダクトマネジメント部長 福原 裕悟氏です。その福原氏に、開発の現状や今後の展開、開発にかける想いなどをお聞きしました。

【インタビュアー】
小野寺 充
(株式会社東陽テクニカ 常務取締役)

「空を、走ろう。」という組織のビジョンが
そのままSkyDriveという会社名と製品名に


今回このインタビューをお受けいただきありがとうございます。「空飛ぶクルマ」を一から開発されているSkyDriveさんの会社の成り立ちからお教えください。

元々は有志による団体CARTIVATORという組織でした。技術者が集まりそれぞれが仕事をしながら週末集まって、「何か新しいことをやりたいね」というところから始まっています。その中で「空飛ぶクルマ」というのが面白いということで、いろいろなアイデアが出て、本格的に事業化してみようということになり、2018年にSkyDriveを設立しました。

ドローンやラジコン飛行機の技術者が主体で、はじめはメンバーも数人程度でした。2020年に日本で初めて「SD-03」という有人の空飛ぶクルマの飛行に成功し、現在は航空機と同等の安全性の認証を取り、量産できる商品性の高いモデルを完成させるための開発を進めています。スタッフは、社員、派遣の方、業務委託の方、東陽テクニカさんからも2名来ていただいていますが、協業している企業からの出向の方なども合わせると400人くらいです。

相当な人数の技術者の方々が開発を続けているのですね。「SkyDrive」という会社名の由来は何でしょう?ちなみに空飛ぶクルマの製品名も「SKYDRIVE(スカイドライブ)」ですね。

会社のビジョンが「空を、走ろう。」で、それをそのまま英語にしてSkyDriveとなりました。世の中に製品として出すときに、会社名と製品名は一緒のほうが分かりやすいだろうという考えもあり、製品名も「SKYDRIVE」に決めました。

「SKYDRIVE」のイメージ(株式会社SkyDrive提供)

空飛ぶクルマが気軽に日常使いできるような
そんな社会の実現を目指しています

2026年に製品の市販化を目標とされている中で、すでに受注も相当数入っていると聞いております。どのようなお客様から注文が入っているのでしょう。

日本、アメリカ、ベトナムなどから全部で数百機のプレオーダーをいただいております。まだ開発中の機体なのですが、大きな期待が寄せられていることを実感しています。観光用やエンターテインメント的な用途で使いたいという話も聞いていますし、ドクターヘリなどを補完する存在として救急救命用にも使いたいなど、本当にさまざまな用途でお話をいただいています。

なるほど、日本のみならず海外からもプレオーダーが入っているのですね。海外市場に目を向けると今後特に有望と思われるのはどの地域でしょうか。

一つはアメリカですね。アメリカは国土が非常に広いので、翼を持って長距離を移動できる空飛ぶクルマのニーズが強いと考えていました。ところが、都市内で短距離の移動に使いたい、とサウスカロライナ州政府や、空港関係者などからも興味をいただいています。実例を作ることができれば、アメリカの他の都市にも横展開できるのではと期待しています。

それ以外では、東南アジアやインドなどからもお話があります。ベトナムからは、都市開発をされているデベロッパーさんからプレオーダーをいただいています。交通渋滞の激しいベトナムの都市圏の新しいモビリティとして取り入れ、都市全体を開発するという大きなグランドデザインの中に弊社の空飛ぶクルマを位置づけているようです。

また、インドは、弊社の株主でもある自動車メーカーのスズキさんが強い市場ですので、空飛ぶクルマのインド市場の開拓を一緒に進めているところです。

それぞれの地域で異なったニーズがあるのですね。将来、空飛ぶクルマの市場動向について御社はどのようにお考えですか。

SkyDriveとしては2026年に最初の製品を市販できるよう開発を進めていますが、それ以降もバッテリーの性能が向上していくと考えています。そうすると同じ仕様の機体でも将来はさらに航続距離が延びるでしょう。用途もさらに広がると考えています。

現在は観光周遊などエンターテインメント的な用途が主なターゲットですが、目指しているのは主に都市内での移動です。今は航続距離15㎞程度ですが、バッテリー性能が向上すれば30㎞や40㎞まで延びると思います。その先は、パイロットが搭乗不要になれば、乗員数も増やせるでしょう。そうすれば1人あたりの移動コストが各段に下がり、それこそタクシーと変わらないぐらいの移動単価になってくるはずです。そうなれば、空飛ぶクルマが日常使いできると言えると思います。そんな製品を、そうですね、2030年くらいに出していきたいと思っています。

お聞きしてよいのかわかりませんが、2025年の大阪・関西万博や、2026年の製品発売に向けて、現在の開発状況は何合目まで来ているのでしょうか。

「SKYDRIVE」が空を飛ぶイメージ(株式会社SkyDrive提供)

機体の技術エリアによって進捗に濃淡はありますが、全体として、大阪・関西万博に向けては7合目くらいですね。2026年の製品発売に向けては5合目、6合目くらいですか。機体の製造は2024年春ぐらいから開始予定で、万博できちんと飛ばした後に量産できるよう認証を取る予定です。

技術者同士でもジャンルが違えば使っている言語が違う
互いの知見や考え方を受け入れて化学反応が起きた

空飛ぶクルマのタイプとして、大きく分けてマルチコプター(複数のローターで飛行)と、固定翼(飛行機型)があります。御社で開発を検討するにあたって最終的にマルチコプターを選択したのはなぜでしょうか。

我々の原点は、「個人がどこからどこへでも自由に移動できる乗り物を作りたい」というものです。だから大きな機体を作る必要はなく、1人ないしは2人乗ることができれば十分だったわけです。

また、気軽に移動できるためには、機体はなるべく軽量でコンパクトの方がよいですよね。空飛ぶクルマは滑走路はいらないですが、発着用のポートを作るにも、小型機の想定であれば街中にも作ることが可能になります。議論はありましたが、そのような理由から、小型のマルチコプターで進めようとなりました。

街中の発着用ポートのイメージ(株式会社SkyDrive提供)

小型のマルチコプターで進めようと決まったとしても、それを一から開発するというのは相当なご苦労があるかと思います。開発する上で技術的な困難はどういったものがありましたか。

製品として目指す性能と、航空機と同等の安全性を、高いレベルで両立させる機体の仕様を生み出すことが一番難しいところですね。例えば冗長性を持たせるためにローターが12発付いていますが、このローターの配置をよく見てください。実は、ここがとても苦労した部分です。平面ではなく少し曲面に配置していることがお分かりになると思います。技術者同士で喧々諤々やっていた中で、出てきたのがこの曲面配置です。

模型を横から見ると、12発のローターが水平ではなく、 曲面上に配置されていることが分かる。

なるほど、技術者の皆さんの苦労の末に生み出された曲面配置とのことですが、設計上、考慮しなくてはならない課題も多々あったのではないでしょうか。

ローターを水平配置しているマルチコプターの例もあるため、我々も当初は水平配置で設計していました。しかし、型式証明を取得する上では、何らかの要因でローターブレードが破損して機体から外れ飛んで行った場合、ローターが平面配置だと破断したローターが他のローターに当たる可能性も考慮する必要がありました。

そこで、安全性も高く、安定して飛べるようにするにはどのような配置にすればよいのか、検討を重ねて生まれたのが曲面配置です。

12発のローターがあることで、どこかのローターがトラブルで止まっても安全に飛行が続けられます。また、ローターの凸曲面配置形状として、何十通りもの配置を検討した中でこの配置が決定しました。これなら万が一、ローターが破断してもローターはすべて曲面の外側に飛んで行くので、他のローターに当たる可能性を下げることができます。もちろん単に安全性に優れているだけでなく、機体の安定性や操縦性も考慮したベストな配置となっています。マルチコプターでこういったローターの曲面配置をしているのは、弊社のこの製品だけですし、特許も出願しています。

なにぶん世界にまだないものですから、最初から答えが見えているわけではなく、一つ課題をクリアすれば問題が全て解決できるということもありません。ただSkyDriveには航空機やドローン技術者、自動車メーカー、バッテリーメーカー出身の技術者もいます。さまざまな分野の技術者が集まって、各々が自分の知見と経験、そして知恵の限りを尽くした結果、このようにローターの曲面配置ということで課題を解決することができました。

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