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5Gや、その先の6Gで実現される世界 ユーザー中心のサービスによって暮らしがより安全・安心、便利に

2022年6月時点の内容です

大手電気通信事業者として、日本の通信インフラを支えてきたKDDI株式会社。同社の執行役員常務でモバイル技術本部の本部長を務める要海敏和氏に、2022年から本格運用が始まる5G通信サービスや、それを支えるテクノロジーの「今」についてお話を伺いました。また、次世代通信によって産業界や人の暮らしはどう変わるのか。未来像についても語っていただきました。

【インタビュアー】
川内 正彦
(株式会社東陽テクニカ 執行役員 情報通信システムソリューション部統括部長)


5Gによって進化すること

5Gのネットワークサービスは、過去のネットワークサービスと比べてどのような点が優れているのでしょうか?

一言で申し上げるなら、「基本的な性能のポテンシャルが極めて高い」という点です。

5Gというと、多くの方は無線技術が進化したものだと考えられると思います。しかし実は、無線技術はもちろんのこと、周辺の技術が大きく進化したことが5Gネットワークサービスのポテンシャルを高めているのです。

5Gの通信速度が速いのは、無線の周波数の帯域が広くなるためです。しかし、KDDIの場合はそれだけではありません。5Gのサービスを実現するために、基地局とネットワークセンターとをつなぐ有線のネットワークも全て新しく5G用に設計をして作り変えることで、十分以上の帯域の確保を実現しています。

ユーザーにとって、5Gのメリットはどのようなものでしょうか。技術的な背景とともに教えてください。

今、KDDIは、5G専用の周波数として3.7GHz帯の100MHzの帯域を2スロット割り当てられています。つまり、電波が広域まで届きやすいとされるSub6の帯域で、4Gで利用していた周波数全てを足したのとほぼ同じ200MHzの帯域が確保されているということになります。

加えて、Sub6の16倍高速である28GHzミリ波帯を400MHz幅で確保しています。4G LTEでは数百MHzの帯域を持つ電波は扱えませんでしたが、無線技術が進化したことで、5Gの場合はそれができるようになっています。これらによって、無線区間でのデータの伝送能力が極めて高くなったことが、ユーザーのメリットとして挙げられます。

さらに、ファイバー網を新しく設計したことで、遅延量を小さくしたり、通信の信頼性を高めたりと、ネットワーク側の進化もありました。一番大きいのは、コアアーキテクチャの進化です。

KDDIは現在、5GのサービスはNSA(ノンスタンドアローン)という方式に加え、法人向けにはSA(スタンドアローン)方式でサービスを提供しています。SA方式というのは、コア設備も全て5G専用に作られたネットワークという意味です。2022年内に、一般のスマートフォン向けにもこのSA方式でサービスを開始しようと、準備を進めているところです。

図1:5G NSAと5G SAの比較(KDDI株式会社提供)

5G SAのコアネットワークは、今までとは全く異なるアーキテクチャで作られています。仮想化技術で構築したプラットフォームの上に通信に必要なネットワークの機能がソフトウェアとして構築され、これによって、お客様が求めるSLA(サービスレベルアグリーメント)に準じたネットワークをハードウェア上で仮想的に各々作って、提供できるようになるわけです。

このように、高速大容量であるとか、超高信頼低遅延、超大量端末など、要件が異なる用途を1つの通信規格でまかなうネットワークスライシングのサービスを提供できる点は、大きな進化だと思います。

まだ5Gのサービスは始まったばかりですが、すでにBeyond 5Gや6Gといった次の技術について議論されています。御社でも取り組みが始まっていると思いますが、その具体的な内容を教えていただけますでしょうか?

6Gは2030年頃に実現すると言われていますが、私たち技術部隊でもどのようなことを準備し、どんなネットワークで何をお客様に提供するかという議論を、最近よくしています。

おそらくその頃になると、人と人との通信は相当効率化されていると思います。どちらかというと人とマシン、もしくはマシンとマシンの間での通信が今まで以上にどんどん膨張していくでしょう。

携帯電話は今、お客様が携帯電話会社と契約をして利用料を支払う仕組みになっています。しかし2030年になると、通信にお金を払うという概念は薄くなり、利用しているサービスやアプリケーションの価値に対して利用料を支払うように変化していくと考えています。利用する価値の中に、通信料金が含まれるようになります。

よく言われているのが、通信が社会に溶け込んでいくと、誰も通信を意識しなくなるということ。つまり、「コネクティビティはあって当たり前」という世界になっていくと考えています。

例えば無線技術は、今まで以上に高周波数帯を使ってさらに高いデータレート、さらに大きなデータ量を扱うようになると思うのですが、そうすると新しい設備などの増設や高周波への切り替えが必要となり、これによるペインがまた顕著になってきます。高周波数帯を使う場合、技術的には、通信する距離は非常に短くなり、かつデバイスが小型化していく必要があるだろうと思います。

社会生活的に言えば、すでにオフィスという概念は変わってきていますが、メタバースの領域がさらに拡大して、リアルとサイバー領域の融合が進むでしょう。無人のコンビニでカバンに商品を入れて店を出ると、カメラが撮影をしていて顔認証で口座から自動決済される。そんなことが当たり前になるはずです。

そのためにはやはり、大容量のネットワークが必要になります。当社として、それをどう支えていくのか。先ほど周波数がもっと高速化、高周波化していくという話をしましたが、6GやBeyond 5Gの世界を作るためには、テラヘルツや、もっと高い周波数領域を活用することが議論されています。それを実用化できる技術の開発を、早急に進めていかなければならないと考えています。

測定器メーカーに期待すること

左:要海敏和 氏(KDDI株式会社) / 右:川内正彦(株式会社東陽テクニカ)

高周波化が進んでいくと、我々のような測定器を提供する側にとってもチャレンジングな世界になっていくと思います。技術的な視点から、測定器ベンダーや測定器メーカーに期待することを教えていただけますか?

ネットワークもそうですが、いろいろなものが目に見えない状態になると思うのです。例えば、今では仮想化の技術を使ったネットワークが当たり前になってきて、通信設備も仮想化されたプラットフォームに構築されています。そして近未来には、基地局の設備もどんどん仮想化の技術を使ってソフトウェア化されていきます。それがインテリジェントに動くことになると、外から見た設備の形と、実際に中でどういう機能が動き、何が行われているのかを関連づけて考えることが難しくなります。

ですから、これが測定器によってリアルタイムにビジュアル化され、人がそれを見れば直感的に何がどうなっているのかが理解できるようになっているといいなと思っています。

社内で無線技術を担当している人たちには、「電波が見えるシステムを構築してください」と話しているのです。あらゆるネットワークのエレメントがAIやプロセッシングによって制御されている状態になるので、その情報を引っ張ってくれば、たとえ電波であっても、あたかも目の前でそれが行われているように見える化ができると思います。こうしたことの実現を、測定器ベンダーさんには期待します。

今、スペースICTという高度の飛行機や衛星に基地局を搭載して、応用範囲を広げていこうという動きもあります。KDDI様ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

KDDIは、SpaceX社の「Starlink」と提携して、高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネットの活用を拡大していこうとしています。

従来の衛星通信では、静止軌道に衛星を配置し、地球上に設置した地球局との間でやりとりをしていました。しかしこの方法では、衛星までの距離が遠く、遅延量に課題がありました。

今の衛星通信は低軌道で複数の衛星を打ち上げます。衛星は低軌道で移動していくのですが、それをたくさんの衛星でカバーしています。これなら、周波数がうまく利用できれば十分な帯域が取れますし、低軌道であるため低遅延で通信できます。衛星さえ上がれば、地球全体がカバレッジになるのも利点です。かなり利用価値は高いと思いますね。

我々もスペースICTの恩恵が受けられる時代が、近々来るのでしょうか?

基地局の展開が厳しい地域に対して、基地局のバックホール回線として衛星回線を使うことを試みています。例えばこれまでは、離島に基地局を置くときには海底ケーブルを引くのですが、そのコストは基地局構築の大きな課題でもありました。

しかし、衛星を使えばその課題が解消されます。山岳地や災害地など、社会生活の安心安全を支えるような領域で、スペースICTは非常に価値があると考えています。

「KDDI Accelerate 5.0」
―インフラ中心から人中心の世界へ

現在KDDI様が注力されている取り組みについてもう少し詳しくお聞かせください。

続きは「東陽テクニカルマガジン」WEBサイトでお楽しみください。