高効率太陽電池をになう~キャリア濃度と移動度の測定~

2012年12月時点の内容です

将来起きると言われている化石資源の枯渇に対して、様々な再生可能な新エネルギーの開発が進んでいます。とりわけ太陽電池による太陽光発電は、再生可能エネルギーの主役として位置づけられています。ひと口に太陽電池と言っても様々な種類があり、材料や製法によって変換効率やコストは大きく異なるのですが、私たち当社が開発したレジテスト・ホール測定システムは75%の市場シェアを誇る結晶系シリコン太陽電池からこれからの発展が期待されるCIS太陽電池まで、幅広い太陽電池の評価に必須の装置と位置つけられ、20 年間にわたって使われ続けてきました。本稿ではその理由をお話ししたいと思います。

半導体の性能を調べる装置
レジテスト 8400

この装置は半導体の電子輸送特性を調べる装置です。では半導体の輸送特性とはいったいどのようなものなのでしょうか。半導体を自動車に言い換えてみるとわかり易いと思います。自動車の輸送能力は座席に座っている人の数と自動車の速度であらわすことができるでしょう。たくさんの人が乗車していて速度が早ければ輸送能力が高いと言えます。それと同じように半導体の電気を伝える能力は移動できる荷電粒子(キャリア)の含有量とその粒子がどれくらいの速さで動くかであらわせるのです。(それぞれをキャリア濃度、移動度と呼びます。)それを調べるにはどうしても専用の装置=ホール測定システムが必要です。

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図1 新製品レジテスト8400

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図2 改善されたレジテスト8400の測定限界

ホール測定システムは半導体の電気抵抗とホール電圧を測定してその結果からキャリア濃度と移動度、キャリアタイプを計算します。ホール電圧は半導体の中を流れる荷電粒子に磁場を与えると現れる電圧で、移動度が大きいほど高い電圧になります。太陽電池材料のキャリア移動度は比較的低いのでホール電圧も小さくなる傾向があります。この電圧はときにナノボルトのレベルになりますのでこれを測定するには特別な仕掛けが必要です。私達が開発した最新のホール測定システム レジテスト8400 型は従来に比べてホール電圧を測定する感度が2桁向上しましたので太陽電池の低い移動度に十分に対応できます。また、キャリア濃度が薄くなるとホール電圧は大きくなる傾向があるのですが、同時に電気抵抗も高くなるので測定の困難さは増してしまいます。そのような電気抵抗の高い材料にも対応できるようにレジテストの信号入力回路は100テラオーム(10の14 乗オーム)を超える入力抵抗を備えています。ですからレジテストの新機種8400型はいままで評価できなかった半導体を評価できる画期的な製品と言えます。

なぜ光で発電できるのか
太陽電池のしくみ

光を浴びている限り永久に電気を生み続ける太陽電池は、いったいどのような仕組みで光を電気に変えているのでしょうか。実は半導体でダイオードを作れば光で発電できるのです。みなさんがご存知のLED電球の発光素子もダイオードですから光を当てると立派に発電します。半導体にはN型とP 型があり、それぞれを接合するとダイオードができます。さてその発電の仕組みをごく簡単に説明しましょう。まずダイオードに光が当たりますと光は表面を透過してダイオードの中に入り込みます。中に入った光は光電効果によって半導体の中に電子と正孔のペアを生み出します。正孔というのは電子が抜けた穴のことでプラスの電気を帯びた粒子とみなすことができます。これらの粒子はダイオードの中にある内蔵電界によって別々の方向へ引き離され、電子は負極、正孔は正極に集まります。こうして太陽電池から電気が生み出されるのです。

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図3 結晶系シリコン太陽電池の構造

ドーピングの効果を調べる
結晶系シリコン太陽電池のキャリア濃度測定

それではレジテストが実際の太陽電池の開発にどのように役立てられているのかをひとつひとつご紹介しましょう。

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図4 単結晶シリコン太陽電池

結晶系シリコン太陽電池は200μm程度の厚さを持った層構造になっています(図3参照)。この厚さはシリコン結晶が光を吸収する能力によって決まっています。この太陽電池を作る過程ではN型とP型を層状に作り分けるために太陽電池ウェハーに微量の不純物を添加します。シリコンにリンを添加するとN型、ホウ素を添加するとP型になります。その添加が意図した通りの効果を発揮したかどうかを確認すること、つまりそれぞれの層のキャリアタイプと濃度をしっかりと測定することが大切です。この測定なしには太陽電池の開発は始まりません。ホール測定装置が太陽電池開発に必須であるのはこのような理由によるのです。

変換効率を左右する結晶欠陥
結晶系シリコン太陽電池の品位を評価する

温度を変えながらホール測定をすると、温度対キャリア濃度と温度対移動度のグラフが得られます。これらのグラフは結晶欠陥の種類や振る舞いを捉える手掛かりになります。レジテストは4.2ケルビン(-269℃)の極低温から1073ケルビン(800℃)の超高温までの幅広い温度環境にサンプルを置いてキャリア濃度と移動度の測定ができるので、太陽電池材料の結晶欠陥の特性評価に利用されています。

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図5 多結晶シリコン太陽電池

シリコン結晶に含まれる結晶欠陥が多いと太陽電池の変換効率は大きく低下してしまいます。それは、せっかく光によって生成されたキャリアが欠陥によって消滅させられてしまうからです。消滅したキャリアは発電に寄与しません。ですから最高の変換効率を得ようとするなら高純度・低欠陥の高品位な単結晶を利用すればよいわけです。実際に最高の変換効率をたたき出したセルの材料は高品位な結晶を作ることができるフローティングゾーン方式で作られました。しかし、この方法は高コストなため研究用などの特別の用途にしか使われていません。

このコストの問題を解決するために考えられたのが多結晶シリコンを利用した太陽電池です。これはいわばシリコンの鋳物とでも言うべきもので、石英の容器に溶けたシリコンを流し込んで固めたものです。このような製造法では鋳造時に石英容器などから溶け出す不純物や冷却時にできる結晶の粒界が結晶欠陥になります。低コストを維持しつつ少しでも欠陥が少なくなるように研究開発が続けられてきました。

カギになるi 層の品質
アモルファスシリコン太陽電池

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図6 薄膜系シリコン太陽電池

結晶系シリコン太陽電池は光を透過しやすいので200μm程度の厚さが必要でしたが、それに対してアモルファスシリコン太陽電池は性質が大きく異なり光を吸収しやすく2~20μmの厚さで十分です。そのため省資源で低コストを実現する太陽電池として注目されています。ただ、効率は10%程度にとどまっています。この太陽電池は単純なP 型シリコンとN 型シリコンの接合ではなく、それらの間にまったくドーピングしていないi 層(イントリンシックの頭文字)をサンドイッチした構造になっています。このi層が不純物を含まない高品位であることがこの太陽電池の性能を左右します。私達が開発したホール測定システムはこのi 層の評価にも使われています。このi層のキャリア濃度は1㎤あたり10の14乗個程度という非常に薄い濃度であるためホール電圧の検出が非常に困難なのですが私たちが開発したAC磁場を利用した方法であれば測定することができます。

組成比とキャリア濃度を決定するために
CIS太陽電池の組成比

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図7 CIS系太陽電池

CISはシリコンの代わりに銅、インジウム、セレンなどを組み合わせた化合物半導体を使った太陽電池です。結晶シリコンより光を吸収しやすいので発電に必要な薄膜の厚さはたったの2μmで十分です。シリコンが200μmの厚さが必要なのと比べるとずいぶんと薄くできることがわかります。このように省資源で低コストという長所を持っているので、実用化されてからまだ歴史が短いにもかかわらずポストシリコン高効率太陽電池として大変注目を浴びています。市販されているCIS系太陽電池のモジュール変換効率はまだ10%程度ですが、研究室レベルでは多結晶シリコン太陽電池並みの20%に達するものが出てきています。高効率の秘密は半導体の特性を表すバンドギャップというパラメータにあります。太陽電池の変換効率は太陽光スペクトルとの関係からバンドギャップが1.4 eV(エレクトロンボルト)の場合に最高値となるということが理論的に導き出されているのですが、実はCIS太陽電池はGa/In濃度やS/Se濃度を調節することでバンドギャップを1.4eV にできるのです。これらの最適な濃度比を調べるためにレジテストが利用されています。

また、CISのキャリア濃度は銅とⅢ族元素の比で決まるのですが、この材料の光吸収層のキャリア濃度は1㎤あたり10の15乗から17乗と大変低いためホール電圧の検出が難しく従来のDC磁場を利用したホール測定では評価できませんでした。我々が開発したAC磁場を利用したホール測定装置で初めて評価できるようになったのです。

光の透過率と電気抵抗の両立
透明導電膜のキャリア濃度を評価する

太陽電池の電極として使われる透明導電膜の評価にもホール測定装置が活躍しています。透明導電膜は金属の酸化物を利用した半導体で、そのキャリア濃度は電極としての電気抵抗と窓としての光の透過率の両方に密接に関係しています。そしてこのキャリア濃度は酸素分子の欠損量に依存しているので膜を作る工程のバラツキで容易に変化してしまいます。電気抵抗と光の透過率のベストバランスを得るためにはホール測定によるキャリア濃度のチェックが不可欠です。

おわりに

今回は太陽電池とホール測定の関係をご紹介いたしましたが、ホール測定装置は太陽電池のみならず間違いなくあらゆる半導体の評価に不可欠です。今後、私たちはさらに測定可能な範囲を広げてゆくことに努め、特に有機半導体のキャリア濃度・移動度評価を実現することを通じて社会の発展に貢献してゆきたいと考えています。

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参考文献-引用(図4~図7)
NEDO再生可能エネルギー技術白書
http://www.nedo.go.jp/content/100116323.pdf

筆者紹介
株式会社東陽テクニカ 営業第1部 山口 政紀
1993年4月入社。高感度DC計測器、低温測定機器のアプリケーション担当、ホール測定システムの販売及び開発に従事。

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