副業のススメ

『副業のススメ』週刊東洋経済eビジネス新書No.198

本書は、『週刊東洋経済』2016年10月29日号をもとにワンテーマで再構成したオリジナルコンテンツです。情報は底本編集当時のものです(標準読了時間 40分)

今、なぜ副業なのか

 政府が音頭をとる「働き方改革」で、正社員の副業を認める議論が進む。もう会社に人生を託す単線型キャリアには安住できない。

 2016年9月下旬、政府による働き方改革の議論が本格的にスタートした。同一労働同一賃金による非正規雇用の処遇改善、長時間労働是正などとともに、九つの議論テーマの一つに盛り込まれたのが、副業・兼業による柔軟な働き方だ。

 国内で副業を持つ人の数は234万人。京都府の人口程度の数で、就業者に占める割合は3・64%にとどまっている。現状では決してメジャーな働き方ではない副業だが、今さまざまなレベルで注目を集め始めている。

 政府が副業を奨励する背景には、日本のあらゆる経済問題のボトルネックとなっている人口減少がある。労働力の中核を成す生産年齢人口(15~64歳)は2000年にピークを迎えた。足元では年々減少し、2040年には2000年比で3割減となる見通しだ。

 労働力不足の解消策としては外国人労働者の受け入れといった道もあるが、実現可能性が高いのは高齢者の就労促進、そしてより高い生産性を働き盛り世代に発揮してもらうことだ。政府が勤労世代の副業に関する議論を始めたのにも、社会全体の労働力を維持したいという観点がある。

ポートフォリオとして複数の仕事をする

 他方、働く人にとっても副業への関心は高い。本誌は2016年9月28日~10月10日にインターネット経由で副業に関するアンケート調査を実施した。回答した704人のうち、副業に関心があると答えた人は79・1%に上った。

 そもそも関心のある人が調査に応じているというバイアスは否めないものの、ビジネスパーソンの相当程度が「機会があれば副業をしてみたい」と考えているようだ。

 個人が副業への関心を高めている背景には、長寿化と雇用環境の激変がある。これは先進国共通の事情だ。英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン、アンドリュー・スコット両教授は近著『LIFE SHIFT』で、長寿化が進んだにもかかわらず従来どおりの定年時期を前提にすれば、1998年生まれの人は所得の4分の1を貯蓄に回さなければならず、不安が高まっていると指摘している。

 一方で人工知能の進歩など技術革新により、雇用の空洞化と既存スキルの陳腐化が進む懸念は増大している。そのため従来よりも長い期間働くだけでなく、人生のさまざまな局面で同時並行的(パラレル)に仕事やスキルアップの機会をつかむ「ポートフォリオ・ワーカー」になることが得策だと論じている。これはまさしく副業を持った生き方である。

企業にとっても得るものが多い

 こうした変化の中、社員に副業を認める企業も少しずつ出ている。

 ロート製薬は16年2月、「副業解禁」を宣言した。同社は副業を通じて常識を乗り越え、ビジネス革新を起こしてほしいと社員に期待している。リクルートワークス研究所の藤井薫研究員も「副業によって社員は成長機会を得て、課題解決力やリーダーシップなどを身に付けうる。副業は企業人事が求めるものをもたらす」と指摘する。

 副業の概念も大きく変わりつつある。従来の副業といえば、雇用やキャリアプランに不安を抱える人による〝小遣い稼ぎ〟の意味合いが強かった。一方で今後必要とされる副業は、貪欲にスキルを磨きたい人による能動的なキャリア戦略であるといえる。

 前述のように副業人口はまだ限定的だが、実際に複数の仕事をキャリア戦略として手掛けている人は存在する。その生き様はどれもユニークで豊かだ。

 所属する会社に定年まで人生のすべてを預ける。そんな単線型のキャリアはもはや過去のものであることを多くの人が感じている。では次の働き方はどうあるべきか、パラレルに働きスキルとキャリアを磨き上げるすべはどうすれば身に付くのか──。ビジネスパーソン自身が能動的に学ばなければ、政府が進める「柔軟な働き方」が、気づけば「柔軟な働かされ方」にすり替わっていたということになりかねない。

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