『ニュー・ダーク・エイジ』とhogehoge

 メディアアーティストであり、ジャーナリストでもあるジェームズ・ブライドル(James Bridle)の書籍。
 身も蓋もなく書いてしまうと、『テクノロジーが発達しても判らないことばかり。あるいは世の中の複雑さが分かるばかりだ。』という話を実例付きで書いてある。
 『テクニウム』を読んだあたりから感じている『エンジニアが技術(テクノロジー)判っている、という考えは幻想なんじゃないか?』とか『技術について非技術者としゃべるようにするにはどうすれば良いか?』みたいなところを掘るのには丁度良かった。
 今後を考えるための指針になるような話もいくつかあったのでメモする。

検視について

 人間と機械が共同で考えるフローを組むことで新たな効果が期待できる。
核融合の研究分野について、トライアルファとグーグルの機械学習チームが共同で作った成果(検視アルゴリズムと呼んでいるシステムと、そこと人間の研究者を組み合わせたワークフロー)や、アドバンスド・チェスにおいて人間と機械のタッグのほうが純粋な機械に勝てることなどを挙げている。

メタファー

 テクノロジー・システムがうまく行かない時、それはテクノロジーを変えるのではなく、我々がそのテクノロジーを捉えるときのメタファーを変えるべきだ。テクノロジーをいくら頑張って進めてもモデルが多少複雑化するだけで『モデル化された世界』と『現実の世界』の差異は存在することに変わりはない。

ハイパー・オブジェクト

 この書籍では地球温暖化や天候を例として頻出させている。ただ、地球温暖化を単純に非難しているのではなく、『地球温暖化のような現象は巨大すぎてどのようなところに影響が出るのか想像もつかない』ということを説いている。こういったものを哲学者のティモシー・モートンは『ハイパーオブジェクト』と呼んでいる。James Bridleは『ネットワークも同様にハイパー・オブジェクトだ』と主張している。テクノロジーがかかわっているシステムも社会や政治のシステムも様々に絡み合っているため、非常に複雑で、影響が予測できない。そういった意味で世の中は暗黒だし不透明だ。

イールームの法則

 ムーアの法則の逆読み。科学の非常にベーシックなアプローチの妥当性が今問われている。10億ドルあたりの新薬の開発数は9年おきに半分になっている。論文はp値ハックが横行し、70%が再現不可だ。『この現象を説明できるモデルはある。が、我々が表現したり把握することができない。』というスタンスで臨んでいるいくつかの企業で研究成果が出だしている。

地球温暖化とネットワーク

 地球温暖化はネットワークにも影響を及ぼす。温度上昇によって無線は効果範囲が狭まる。送電能力も低下する。2015年の時点で世界中のデータセンターの消費電力はイギリスの全消費電力を超えた。2019年にはアメリカの全消費電力をも超える可能性がある。これはエッジデバイスやパーソナルコンピュータを含まない。もはやデータを作り出し、処理する部分を『無料の非物質』として消費することはできない。

テクノロジーについて

テクノロジーが曇っているとき、世界も曇っている。テクノロジーが複雑な時、世界も複雑だ。その複雑さは制御するものではなく、学ぶべきものだ。

大量監視について

データを大量に集めたところで役に立たない、という研究成果が出ているにもかかわらず実装されている。データがあったところで決定的証拠にならないし、犯罪の防止の役にも(ほとんど)立たない。あるのは大量のデータと多大なコストとグレーな判断、そして知の矮小化(計算可能なものだけが知である)だけだ。

似非科学について

ケムトレイルの話と同様。
科学的アプローチでは『言葉の間違い』は指摘できるか因果関係が『ない』とは言えない。
 例えば酸素水の成分が『水と変わらない』と実験で実証したり、『酸素水という名前の付け方は科学的に誤りである』という事は言えるが、実際の因果関係については『実験の結果、効果が確認できなかった』としかいえない。
 プラシーボも『効果がない』ではなく科学的に効果と因果関係が認められている(だから論文で書かれるし、実験でも利用される)。
 因果について語る事の難しさ。複雑さ。

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