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混沌から勝ちを拾う

将棋好きならAmebaTVで使われているSHOGI AIをご存知ではないだろうか。

素人にはぱっと見判りづらい盤の有利不利をAIを使ってパーセンテージでリアルタイム表示しよう、という試みだ。実際に出している表示は勝率だが、これによって有利不利が見えるようになっている。

@DIMEより抜粋

このキャプチャーのように画面上部に棋士2人の名前の間にゲージがあり、パーセント表示でどちらが有利なのかを可視化している。観客が盤面の有利不利を把握したり、今指した一手が有利に働くのか不利に働くのかといった判断のサポートツールとして利用されている。

この将棋AIは藤井翔太氏が実際の将棋の練習にも利用しているという。

AIの分析結果を見てAIの目線から自分の一手を考え、自身の指し方を理解する際のツールとして使われている。

2021年にはNHKも導入し、将棋の新たな楽しみ方や学び方を作った、と言っても良い、AIを使った新たなインターフェースの発明といえるのではないだろうか。

このAIを使った勝率表示インターフェースとプレーヤーの関係は今後様々な分野で浸透していきそうだが、この関係を見ているとよく聞く「AIに仕事を奪われる」という話は必ずしも正しくはないのではないだろうか、という気がしてくる。

例えばAIが駆逐する職業としてよく上がるのが弁護士だ。弁護士は裁判の際、過去の判例のデータベースを参照し、最適な判例から今回の裁判のポイントをつかむのが主な仕事だから、というのが理由だ。昨今のChatGPTの流行によってよりその流れは強くなっているようにも見える。

ただ、裁判中に弁護士の代わりにロボットやコンピュータが喋っている状況、というのはあまり想像できないのではないだろうか。将棋の例であるように、プレーヤーである弁護士は相変わらず人であり、弁護のサポートシステムとしてAIがあり、「今の発言で5%勝率が下がった」とか「相手の発言で10%勝率があがった」といった、AIからのフィードバックを受けながら弁護士が立ちまわる形を想像するほうがずっと想像しやすいのではないだろうか。

また、これは我々がそもそもAI的な出すような答えを欲していない、という話でもあると言えるように思える。

同じプロ棋士である羽生善治氏のプレイスタイルは試合の中でSHOGI AIでの勝率が著しく低くなり、その後急激に上がり、最終的に勝つ、という手順を指すという。これを「相手を混沌に引きずり込んで、そこから勝ちを拾いに行くスタイル」と評する人も居る。

つまり勝つためにはAIが予測できないようなアプローチ、つまり今までAIが勝率の判定を謝るような(そしておそらく相手の棋士も誤るような)状況を作ることを目指し、そこで勝利をつかみ取るという話にも読める。

これを弁護士の話に当てはめると、AIが勝率を予測できるような過去の判例や事例から勝ちを探す時代は終わり、勝率を予測できない新たな裁判の流れを模索するような、弁護士としてより創造的な仕事を要求される時代、つまり普通の弁護士から皆が『混沌から勝ちを拾う弁護士』になってゆくのかもしれない。

弁護士に限らず、我々もこれからは理論上や統計上再現性のあるようなアプローチを洗練させるのはAIに任せ、思った通りの結果にならなさそうな混沌を探していく、そんな混沌を率先してやっていく必要があるのかもしれない。

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