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インスタレーション・デザイン設計論考

SPEKTRAの一員としてここ数年インスタレーションを制作したり、制作を依頼されたりといったことが増えてきたのですが、その中でよく出る考え方、方法論のようなものをまとめて記します。「SPEKTRA」という人格として書いてますがSPEKTRAはチーム名なので私と違う意見や考えを持っている人も居ると思います。念のため断りを入れておきます。

イルミネーションやライトアップは作らない

「夜、光らせて欲しい」という相談が結構な頻度で来て、まぁそのお題に応えて光るものを作りがちなのですが、作った作品を「ライトアップ」や「イルミネーション」と言われると違和感を覚えます。言語化すると「ライトアップ」や「イルミネーション」はそこにあるものを光で飾る行為です。つまり風景に光を使った演出を付加する行為だと捉えています。その証拠に照明機材は見えないよう隠されたり、あるいは日中の姿を「見なかった事」にして作られています。

光るオブジェでインスタレーションを作る

一方でSPEKTRAが作るのは一言で言うと「光るオブジェ」です。
「イルミネーション」や「ライトアップ」で光らせるもの=照明は邪魔なので隠されたり小型化されたりしますが、SPEKTRAで作る時はそれ自体を「モノ」として独立して設置します。なのでイルミネーションやライトアップと違って日中でも存在感のある位置に置かれます。

オブジェが自ら光を発することで風景の見え方に影響を与え、最終的に変化した風景とオブジェを含めた空間全体をインスタレーションとして鑑賞者が鑑賞する、という仕組みです。

いくつか具体的な事例で話をしてみます。

2022年に天橋立に設置したEmissivescapesです。通常のライトアップ的設計論で言うと天橋立のアイコンである砂浜や松を照明で染め上げると思うのですが、この作品では砂浜に50㎝から2mまでの大小さまざまなLEDチューブを60mに渡って砂浜に立てています。ケーブルは隠していますが照明は明らかに物体として目立っています。「発光する物体がある、普段は見られない天橋立の風景」をインスタレーションとして成立するように作ろうと試みました。概ね成功しましたが、制作物自体のオブジェ、あるいは彫刻としての美しさとか強さみたいなものが残課題として残りました。

同じく2022年に向日神社に設置したScatteredscapesです。こちらは逆で日中でも成立するぐらいオブジェとしての強度を上げることを目的にしました。また、日中であってもオブジェが風景と連動するように全面を鏡にし、かつ稼働するようにしています。日中の見え感は妥当なものになりましたが、逆に夜、(自ら発光するものではないため)照明とどう組み合わせるかが課題として残りました。

今新風館で設置している作品(新風館ではmono:lithと呼ばれていますが、SPEKTRAとしてはまだ名称をつけておらず、違う名前を考える可能性があります)はその折衷案を目指しました。LEDチューブをハーフミラーで覆うことで風景からの働きかけ(鏡の映り込み)とオブジェからの働きかけ(光)両方を成立させようとしました。コストやスケジュール的な制約から詰め切れていないところもありますが、概ねうまくいったように思います(まだアーカイブが撮影できていないのでSNSでの投稿を貼っておきます)。2月末までやっているのでお時間がある方は見て見てください。

「そこ」に置く意味を考える

こう言った設計思考に行きついた理由は、物体として存在感のあるLEDチューブやLED機材を買う、ということ以外にも「その場所にインスタレーションを作る」ということはどういうことかを考えて行った結果だと考えています。
面白い場所だからといって単純にライトアップ演出をせず、かといってクォリティの高い何処に置いても良い作品をインストールするわけでもない、第3の選択肢として光るオブジェを置いたインスタレーションを設計しています。光がないと風景は見えません。そのため、暗闇で光り方を設計することで風景の見え方も設計できる、さらにそれ自体がオブジェとして風景の中にあるというフィードバックループのような関係が組めると「規模勝負」ではない面白い作品が仕上がるのかな、と思っています。


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