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「賑わい」をいかにして作るか

メタバースへの逆風

ChatGPTのリリースから来ているAIブームの一方、メタバースと呼ばれていた分野では再編が相次いで報じられている。

ここ数年、コロナ禍の中でメタバースという言葉がまるで次に来る未来の代名詞のように使われていたし、実際にメタバースというキーワードを散りばめたプレスリリースや起業、新規のプロジェクトや製品のリリースを数多く見た。
しかし、今はそれがそのままChatGPTに置き換えられ、メタバースやXRには実際にレイオフや方針変更を行っている企業も多い(勿論Meta社のように方針を維持している企業もある)。

沢山来た「メタバースをやりたい」という依頼

実際、これを読まれている人達がどのような分野の方かは判らないが、私のところに来る仕事相談もはかなり「メタバース」という言葉の入った相談が多かった。

しかし正直メタバースってついてる案件は難しいものが多かった、というのが印象である。

今更説明するまでもないかもしれないが、メタバースという言葉はスノウクラッシュというSF小説の中で出てきたバーチャルワールドの名称である。

私のところに来るメタバース相談は平たく言うと、デジタル上に人が集まる場を作りたい、そしてそれを見える化したい、そしてその上でビジネスをしたい、という話であった。「メタバースの現在位置」を執筆している土屋氏が「メタバースとはつまり賑わいのことである」と以前発言していたが、非常に本質をついていると思った。

繰り返されるメタバースブーム

メタバースブームは実は何度か来ている。今回の直前のブームは2003年ごろ。 セカンドライフというメタバースが流行ったタイミングだ。

この時はこの1社が作り運営するセカンドライフ上に様々な企業が出展し、ある種昨今のメタバースプロジェクトよりもよっぽどメタバース的だったと言える。しかし程なくして廃れてしまった(セカンドライフ自体は継続した開発が今も続けられている)。当時は自分はまだ学生だったのでビジネス的な観点ではあまり見れていなかったが、セカンドライフ上でメタバースを夢見た人が起業し、そして潰れて行ったのは想像に難くない。

この時期に企業し、今も継続的に活動されている企業でメタバーズさんという会社がある(名前の強さがすごい)。


彼らは「前回のブームの時は、結局ユーザが居なかった」という話をしていた。結局ユーザが居着かず、「賑わい」が生まれなかったのだ。
メタバースをやりたいというリクエストは大体において「賑わい」、つまりユーザが日常的にとなって世界が成立する。

彼らはブームの終焉を見て、その上で冬の時代であっても継続的に事業をしていきている。言葉に重みを感じるのではないだろうか。

ではあれから20年経って、「賑わい」は作れるようになったのだろうか。というと非常に懐疑的である。

確かにスマートフォンの流行によってインターネットに繋がる時間も人口も爆増した。
しかし同時に人間の時間がすさまじい勢いで細切れにされるようになり、1つのアプリケーションの中に居る時間は本当に数分、数十秒である。

PCのスペックも上がり、豊かな3D表現ができるようにもなった。しかしこれも「だからそこに居続けたいか」というと否であろう。HMDも同様である。

つまりユーザに長時間の滞在、滞留を促すような強烈な何かは昨今の技術をそのまま使うだけでは克服できないのだ。

少し主題から逸れるが、恐らく非常に真面目にメタバースを作ろうとすると、最低限スマートフォンやHMDのOS開発から着手しないと設計的に通底できないのではないかと思う。場合によってはハードウェア開発からしなければならない(そういう意味でAppleのやろうとしているRealityOSには注視すべき内容に思うが、あれほどデザインに拘るAppleが「被る」というとてもハードルの高いデザイン障壁を持つHMDを本気で開発するとは考えにくい)。

少し前に流行ったBondeeはそのあたりの設計がとてもうまく、「滞在する」のではなく、アバターは(アプリ内に)常に滞在しているようにし、ステータスの変更だけをユーザに要求する、という設計にしている。これであれば他の仕事や遊びと並行して1日の中で数分の時間を捻出することで参加することができる。

「賑わい」は運営によってこそ育まれる

話を本題に戻す。「賑わい」の話である。Bondeeもそうだが、メタバースもSNSも「賑わい」が重要という意味では非常に似ている。
そういう意味ではプラットフォームだけ作っても完成しないのだ。いくら優秀な機能があってもPRを繰り返しても人が居着く状態を作っていかないと成功はない。

これは現実世界で言うとクラブに似てるように思う。 クラブはまさしく「賑わい」を利益にするビジネスだ。クラブ自体は場所貸しをメインの業務とするが、クラブ自体が主催するイベントが骨子となってユーザ層を形成させていく。 そのうちクラブをよく知る人やそのクラブの存在を知ったクラブ文化に詳しい人がイベンターになり、クラブが活性化していく。そして「特に理由がなくてもそのクラブに行く」という人が形成されていく。そうやって「賑わい」が作られて行く。

クラブに当てはめて考えると「賑わい」が重要なサービスはリリース前の開発だけでなく、社会に出てからの運営(とそれに伴う開発)が不可分なように思える。

20年前に「賑わい」を作れなかったが故に一度衰退したメタバース。20年間で進んだ技術と変わった社会状況、として運営の力でどう「賑わい」を作っていくのかが本当の課題ではないだろうか。


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