豊洲銀行 網走支店

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読書感想文『#ハッシュタグストーリー』麻布競馬場・柿原朋哉・カツセマサヒコ・木爾チレン

1作家につき1作品のショートストーリー。みぞおちでママレードをかき混ぜているような、苦いような甘いような、それでいてなんとなくフィニッシュは心地よい香りのする青春体験。 多くの人が共感できるであろう、若き日に刻まれた暖かくて大切な感覚、大人になっても自分を支えている宝物のような何か、といったものがそれぞれの作家のフィルターを通して描かれている。 『#ハッシュタグストーリー』というタイトル、帯の「心に刺さるSNSのいい話」の文句に若者向けの内容を連想してしまいそうだが、そこ

    • 読書感想文 『令和元年の人生ゲーム』 麻布競馬場 著

      女性が書いてるんじゃないかと思うほど柔らかで可愛らしさすら感じる文体。短い文章の中にこれでもかと散りばめられるみずみずしい比喩表現はくどさを感じることなくスッと入ってくる。私が何度真似しようとしてもできなかった麻布競馬場らしさは、一段落140字の枠の外に出ても相変わらず健在である。いやむしろパワーアップしている。 著者のデビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』ではZ世代あるいはそれに近い年代層の抱える虚無みたいなものが描かれていたが、本作はもっと踏み込んでいる。

      • 冬の読書感想文 『君の背中に見た夢は』外山薫 著

        「あー、お受験か。なんか1冊目出した後にそんなこと言ってたな。ふーん、はいはい、小学校受験ねー。え?中学受験じゃなくて!?」読み始めてしばらく経ったところで引っかかりました。まさに序盤の主人公と同じ状態。自分自身が全く知らなければ、生まれてこのかた興味を持ったことさえない世界に入ろうとしていたのです。 私は高校までずっと公立、高校も卒業したら就職するのが当たり前みたいな学校に推薦入学しました。ちゃんとしたお受験の経験は大学受験しかありません。ありがたいことに社会人になっても

        • 読書感想文 『つけびの村』 高橋ユキ著 (小学館文庫)

          これがノンフィクションなの!?まるでテレ朝のサスペンスドラマ、あるいはテレビゲーム『サイレントヒル』の世界に入っていくような、違和感と狂気が隙間から漏れ出す集落の描写。冒頭から一気に惹きつけられました。 古い集落のおぞましい風習に狂わされた人々の末路だとか、猟奇事件の謎解きミステリーだとか、いろいろな展開を勝手にイメージしましたが、それらは大間違いでした。本作はセンセーショナルな事件を通じて、人間の普遍的な性癖(えっちな意味ではない)に踏み込んでいく作品だと、私はそう思いま

        読書感想文『#ハッシュタグストーリー』麻布競馬場・柿原朋哉・カツセマサヒコ・木爾チレン

          冬休み読書感想文『神に愛されていた』木爾チレン 著

          「スキ、スキ!全部スキ!!」読んでる最中ずっと心の中で叫んでいました。ロイド・フォージャーに心酔する夜帷のごとく、私の脳内は「スキ」で溢れてしまいました。作中の登場人物に例えるなら冴理先生を神として崇める熱狂的ファン、『雨』のようになってしまった豊洲銀行です。 「これ、木爾先生の自伝じゃないの?」しばらく読み進めるとこんな思いが湧いてきました。主人公の冴理は小説家ですし、登場人物の多くが小説に関わっています。書くことへの目覚めから華々しいデビューまでの道のり、女流作家だから

          冬休み読書感想文『神に愛されていた』木爾チレン 著

          信じてはいけないゴルフスイング理論

          1.悪のゴルフネットワークに騙されるな教則本、インターネット、練習場、今日も日本各地で悪のゴルフネットワークが初心者の上達を阻み、無限にお金を搾り取りとろうとしています。数多の刺客の謎理論とアドバイスを信じ、永遠に間違った練習を続け、時間とお金を無駄にしている人のなんと多いことか。 かくいう私もプレーもアドバイスもド素人のおっさんが語る野球のスイング論の如く、誰かの手垢が付着しまくった大間違いの理論やらアドバイスのせいで、普通にボールが打てるようになるまでだいぶ遠回りしてしま

          信じてはいけないゴルフスイング理論

          夏休み読書感想文『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』山下素童 著

          最後の書き下ろしを読み終わったときには「海ちゃーん!」って叫びたくなりました。「ゴールデン街かぁ。自分とは縁遠い世界のどこかで繰り広げられる、人間くさい生々しさに満ちた作品なのかな?」と思いながら読み始めましたが、まるで青春映画を観たような読後感でした。 一章目、「ゴールデン街ってこんなとこなんだろうな」という私の妄想を裏切らない世界が広がります。場慣れする前の著者が独特のコミュニケーションに戸惑う姿も描かれています。2023年4月の某出版イベント、作家の皆さまと出版関係者

          夏休み読書感想文『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』山下素童 著

          書評 『みんな蛍を殺したかった』 木爾チレン 著

          ジャケ買いしたくなる表紙とタイトル。ときどきTwitterのTLに流れてくるのでずっと気になっていました。もうバッチリです。装丁の世界観どおり、暗いけれどとても美しくて、最後は蛍みたいな小さな光が見えました。 ミステリー小説と聞くと探偵もののイメージしかなく、まともに読んだのは江戸川乱歩の少年探偵団シリーズくらいだった私。本作には時計型麻酔銃を使う少年探偵は出てきませんし、犯罪事件の謎解きがメインテーマでもありません。でも、結末に向けてバチバチといろんなピースがはまっていく

          書評 『みんな蛍を殺したかった』 木爾チレン 著

          吾輩は窓際三等兵である(書評 『息が詰まるようなこの場所で』外山薫 著)

          吾輩は猫である。そう、これは『吾輩は猫である』だ。二章目まで読んだ時になんとなく直感した。夏目漱石ファンから、いや、多くの文学ファンから「こんなの文学じゃない」なんて言われてしまいそうな、タワマン文学出身の著者が手がけた作品である。しかし、私の第一印象はこれだった。読み終わった今でもそんなに外れた感想ではないと思っている。 窓際三等兵という猫の目を通して、タワマン、お受験というテーマを軸に、世間ではそれなりに裕福であったりエリートと呼ばれるような人々が抱える、それぞれの地獄

          吾輩は窓際三等兵である(書評 『息が詰まるようなこの場所で』外山薫 著)

          この金庫から東京タワーは永遠に見えない

          先生お元気ですか?小説を出版されると聞いて手に取りました。先生が東京で就職し、また地元に戻ってきたお話、今でも私の胸に突き刺さります。少し私にも自分語りをさせてください。 この金庫から東京タワーは永遠に見えない。 日本を代表するグローバル企業を金融の力でサポートする。そんな、私の想像した華々しい銀行員としてのキャリアは無知な田舎娘の幻想でした。 地方の片田舎に育ち、ヤンキーやギャル以外に人権はない、そんな少女時代を送りました。教室の隅で興味もない小説を読むふりをしながら

          この金庫から東京タワーは永遠に見えない

          幼馴染が投資詐欺に騙された!?

          「オレ、元GS銀行の副社長から貨幣発行権の使用を特別に認められたんだ」 圭太の自慢は止まらない。 「ほら、名刺。マイク本田さんを知らないなんて、メガバン行員でも下っ端のリテール担当は大したことないな。外資と接点ないのかよ」 あなたは騙されている。 私はいつ伝えようか考えあぐねていた。 ユダヤ系の米銀が世界の金融を裏で支配している。ごく一部の米銀幹部はロスチャイルドの秘宝である貨幣発行権を保有している。熱心なセミナー参加者の圭太はついに元GS銀行の副社長に認められ、その権

          幼馴染が投資詐欺に騙された!?