「まずは自分でやってみる」の意味

先月、広告代理店を退職した際、送別会などで社内外のスタッフの方々から言われた言葉があります。

「山下さんは指示が明確で仕事がしやすかったです」

もちろん、送別のタイミングなのでお世辞的な意味合いもあるとは思いますが、わりと多くの方々が同じことを言ってくれたので、恐らくそれが自分の特性のひとつではあったのだろうと思っています。そしてそれは、自分が入社時から心がけていたことでもあったので、その部分が最後に評価されたことは嬉しくもありました。

雑用にもちゃんと意味があった

私が新卒で最初に配属された部署は、イベントの企画・運営をメインに行う部署でした。広告代理店の場合、イベント案件は社外のイベント会社と協力して実施することがほとんどです。代理店の人間はプロデューサーという立ち位置で、イベント会社に指示を出し、実作業の多くはイベント会社が行います。

しかし、当時私のOJTをしてくださった先輩は「まずは自分でやってみたほうがいい」と言って、普通は外注するような作業も私にするよう命じました。例えば、イベントで使う名札を作ったり、参加者のホテルの手配をしたり。正直最初は、こんな雑用までやるのかという気持ちが少しありましたが、OJTの先輩の意図はとても明確だったので、すぐにそういう気持ちは消えました。

先輩がよく言っていたのは、「まずは実際に自分でやってみないと協力会社に対しても的確に指示を出すことはできない」ということでした。その先輩はイベント会社から広告代理店に転職した経緯もあり、イベントの実作業のことをよく理解していて、たしかに指示が的確でした。

私も、いわゆる雑用的な作業に加えて、イベントの運営マニュアルや制作スケジュールなど、通常はイベント会社が制作するものをまずは自分で作ってみると、どういうところに気をつけないといけないのか、何を明確にする必要があるのかが、体や脳に染みついてくるのわかりました。

よく何でも“丸投げ”する代理店の人もいますが、若い頃から丸投げが当たり前の教育を受けてしまうと、自分では何も考えない、いや考えられない社員になってしまいます。そういう意味では、そのことを最初に教えてくれたOJTの先輩には今でも感謝しています。

その後、ジョブローテーションでデジタルの部署に異動した時も、九州支社への転勤で営業に移った時も、「まずは自分でやってみる」を実践し続けました。そうすると、指示を出す時に役立つだけでなく、協力会社や社内スタッフから上がってきた成果物をクライアントに説明する際にも、どこがポイントで、どんなリスクがあるのか、次の課題は何かをはっきりと伝えることができるようになりました。

成果物のクオリティが低いのは誰のせい?

「Garbage In, Garbage Out.」という言葉があります。直訳すれば、「ゴミを入れれば、ゴミが出てくる」。もともとコンピュータサイエンスの用語で、「間違ったデータを入力すれば、間違ったデータが出力される」というような意味なのですが、これは自分が誰か(社内外の関係者等)に指示を出して何らかの成果物を上げてもらう時にも同じことが言えるのではないでしょうか。指示の出し方が悪いと(Garbage In)、成果物のクオリティも低くなる(Garbage Out)ということです。

たまに、スタッフや協力会社から上がってきた成果物のクオリティに不満を言う営業の人がいますが、たいていの場合、それは指示の出し方に問題があると思っています。まさに「Garbage In」した結果だということです。(成果物をGarbageと呼ぶのは大変失礼ですが、わかりやすいので敢えてこの表現を使います)

自分が期待したものと異なる成果物が上がってきた時は、真っ先に自分の指示の出し方を反省する。どう指示を出せば期待したものが上がってきたのかを考える。そして、そのヒントは必ず「まずは自分でやってみる」の中にあります。「指示が明確で仕事がやりやすかった」と私が言ってもらえたのは、それを入社以来ずっと繰り返してきたからだと思っています。メリットは「仕事のやりやすさ」だけではありません。それは、成果物のクオリティに直結する話でもあります。

例えばあなたが、広告代理店の営業としてCMを作ることになったとします。その時、営業が自分で絵コンテを描くなんてことはまずありません。描いたとしても、とてもクライアントに出せるクオリティではないでしょう。それでも1回自分で描いてみる。それを誰かに見せる必要はないのです。ただ、一度自分でやってみることで、仕事の見え方が全く違います。指示の出し方、確認の仕方、提案の仕方、その全てが変わってくるのです。

4月からフリーランスになりました。またこれからも「まずは自分でやってみる」を繰り返していきたいと思っています。

山下侑一郎(@YUICHIRO_Ya


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