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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベスト?ソング200:Vol.3【160位〜141位】

 平成ベスト?ソングシリーズも3回目です。まだまだ先は長いですが地道に進めてまいります。ここまで来てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、アニメソングやアイドルソングが多いと思いませんか。気のせいではなく、意図的にそうなっています。なぜかと言いますと、アイドルソングやアニメソングというのは1曲1曲に賭ける意気込みがロックやPOPSアーティストの方達とはベクトルが違うと感じるからです。やはり売れなければいけませんから、メロディはキャッチーなものでなければいけませんし、「限られたフォーマットの中で」インパクトを残さなければ印象に残ってもらえないので、そこでいろいろな実験を繰り返します。そうしたチャレンジを許される場がアイドルソングやアニメソングには多いですし、その場が適任であるということなのだと思います。そして才能がありながら不遇をかこっていたり、裏方に転身したりしたコンポーザーやアレンジャー達がそこで救済されていることも多い、となればそこにスポットを当てるということは何ら不思議ではないということなのです。この「限られたフォーマットの中で」でチャレンジするというのが、重要であると思っています。その結果、記憶に留めたい楽曲が多くなるというわけなのです。と言いながらも今回はそういう傾向も少ないかもしれませんが・・・。

 というわけで、今回は平成ベスト?ソング160位から141位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。




160位:「遊ぶが勝ちさ」 荒木真樹彦

    (1991:平成3年)
    (アルバム「KARAJAN」収録)
     作詞:田久保真見 作曲・編曲:荒木真樹彦

      vocal・synthesizers・computer programming・electric guitar・
      electric bass・acoustic piano・chorus:荒木真樹彦

      synthesizer operation:三浦憲和

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 非常に恵まれた音楽的才能を持ちながら、いまひとつ再評価を得られない不遇なアーティストが作編曲をこなしつつマルチプレイヤーとしても非凡な才を持っている荒木真樹彦です。荒木が不運だったのはデビュー時期の音楽的トレンドの状況にあります。彼がデビューした1988年はちょうど岡村靖幸や久保田利伸らのブラックコンテンポラリーなPOPSが急激に人気を博し始めていた頃で、メロディが書けてギターが弾けてプログラミングをこなすなどサウンド構築も手掛け、山下達郎ばりの多重コーラスを仕掛けられるほど歌える、しかもルックスも兼ね備えたソロアーティストということで、ポテンシャルとしては大型新人であった荒木は、1stシングル「1999」こそミディアムバラードでのデビューでしたが、1stアルバム「SYBER BEAT」では「POISON DARK」に代表されるようなブラコンテイストのダンサブルPOPSがフィーチャーされ、その後も岡村靖幸路線を狙わされたようなエロいブラコンファンク路線をどことなく期待されていた節がありました。しかし彼の才能とセンスがより発揮できるのは渋めのAOR風なメロディアスミディアムチューンで、1stアルバム収録の「LOVE ME TONIGHT」、2ndアルバム「Baby, You Cry」収録の「Jealousy」、アルバム未収録の2ndシングル「I NEED YOUR LOVE」や6thシングル「alone~冬の光~」といった名曲を次々と生み出していました。
 前年の5thシングル「XX,XY」が全日空沖縄キャンペーンソングに抜擢されある種注目を浴びつつあった荒木の勝負作となったのが、1991年リリースの3rdアルバム「KARAJAN」です。20世紀の大指揮者Herbert von Karajanの名前を拝借したこのアルバムは、早くも彼の音楽性の集大成ともいうべき濃厚かつ密度の濃い音像の楽曲が目白押しで、お得意のAORミディアムバラード「夢の行方」「思惑の距離」といった名曲も収録された充実の作品ですが、ここで取り上げるのはあえてお遊びとカッコよさのギリギリの線を狙った彼の新境地としてのチャレンジである1曲目の「遊ぶが勝ちさ」です。ムカつくほどの自意識過剰かつ今で言うところの陽キャ的な能天気ボーカルに、ラップまで織り混ぜるマシンビートの効いたデジタルファンクを基調に、最後にはかくれんぼのフレーズまで飛び出す開き直りの人を食ったダンスチューン(しかもほとんどのパートを荒木単独で完結)で、これまでのデビュー2、3年とは思えないほどの貫禄と斜に構えたアダルティなイメージからすると、新たにコミカルな側面も垣間見せたこの楽曲は彼のレパートリーの中では異色な存在ながら、記憶に残したい重要な楽曲ではないかと思います。

【聴きどころその1】
 クッキリとしてパワフルなビート。キレの良いシンセとブラスパートの音の隙間に食い込むようなこのリズムが、非常にメリハリが効いていてデジタルファンク調の楽曲の芯となっています。
【聴きどころその2】
 随所で多彩な表現を見せる「声」のパフォーマンス。時には艶やかに、時にはコミカルに、リズミカルにラップを刻み、楽しそうにフェイクを絡ませる、サウンドというよりも声の使い方に重点を置いた、ある意味彼らしいチャレンジ精神が窺えます。


159位:「ビバナミダ」 岡村靖幸

    (2013:平成25年)
    (シングル「ビバナミダ」収録)
     作詞:岡村靖幸・西寺郷太 作曲・編曲:岡村靖幸

      whatever:岡村靖幸

      system manipulation & others:白石元久

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 ここでわざわざ申し上げなくても皆様はお分かりのことと思いますが、岡村靖幸の2000年代は薬物との格闘の連続でした。おそらく原因はスランプ。もはやイップスと言っても良いほどあの1990年リリースの4thアルバム「家庭教師」までのギラギラした名曲群を生み出すことができませんでした。思うように楽曲は作れず、川本真琴ら他者のプロデュースも話題を呼ぶものの目立った結果が出ることもなく、2003年に石野卓球と組んだコラボ楽曲「come baby」でエレクトロに接近するも覚せい剤(1回目)でチャンスを不意にし、執行猶予期間中の2004年に6thアルバム「Me-imi」をリリースするも野心的なリズムによるサウンドではあったものの往年のキレには遠く及ばず、その後2回の覚せい剤による逮捕で彼の音楽人生は暗礁に乗り上げることになります。完全にスランプという長い長いトンネルから脱出できなかった岡村でしたが、やはり稀代の音楽的才能を天は見放すことをしませんでした。2010年代に入ると徐々に活動ペースを取り戻すと、彼に再び大きなチャンスが訪れます。2013年に放映された大型SFコメディオリジナルアニメ「スペースダンディ」の主題歌に「ビバナミダ」が抜擢されたのです。
 アニメ主題歌としては1988年のあの「シティハンター2」の主題歌「Super Girl」以来でしたが、これがズバリハマりました。才気ほとばしるリズムプログラミングが全盛期を思わせるほどの勢いを感じさせ、何よりもBメロからサビにかけてのメロディラインには、久しぶりに彼の類稀なポップセンスが味わえるものでした。それにしても彼の成長ぶりはそのアレンジメント能力で、90年代初頭の全盛期でも既にアレンジャーとしての急成長は感じられていましたが、それから20年経過して酸いも甘いも知り尽くした渾身のギター・ベース・ドラムをコラージュしながら組み立てられるそのサウンドデザインは、間違いなくテクノロジーを味方につけたハイクオリティPOPSにふさわしい完成度の高い楽曲に彩りを加えています(これにはマニピュレーターとして参加の白石元久の貢献度が高いと思われます)。ともあれこの楽曲で完全に岡村靖幸は甦ったと言ってよいでしょう。

【聴きどころその1】
 10年代の岡村ソングの特徴は深みのある切り貼り感覚のスラッピーなベースラインです。この楽曲では四つ打ちリズムに小気味よいシーケンスが絡むことでダンサブルなノリを演出していますが、このコクのあるスラップベースのアクセントが岡村式エレクトロファンクに果たす役割は大きいと思われます。
【聴きどころその2】
 ダンサブルなリズムを強調したAメロで矯めてからの開放感のあるBメロのカタルシスが素晴らしいです。このBメロが書けることが彼の復活の証と言えるのです。サビへつながる「人生だ〜♪」のフレーズの持っていき方も秀逸です。


158位:「歌だけあげる」 詩人の血

    (1991:平成3年)
    (アルバム「cello-phone」収録)
     作詞:辻睦司 作曲:渡辺善太郎 編曲:詩人の血

      vocal・all instruments:辻睦司
      all instruments:渡辺善太郎
      all instruments:中武敬文

      manipulate:迫田到

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 辻睦司渡辺善太郎中武敬文の3人組である詩人の血は1989年のデビュー以来アルバムごとに音楽性を変化させていったカメレオンバンドでした。ストレンジなエレクトロポップで独特の雰囲気を醸し出していた1stアルバム「What if・・・」、エンジニアにNigel Walkerを迎えパワフルなリズムとギター中心のロックサウンドで早くも新境地を見出した2ndアルバム「とうめい」、そして遂に勝負に出るべき3rdアルバムはどのようなアプローチを見せてくれるか期待されていたところで1991年にリリースされた先行シングル「愛で遊んでる」は、大胆にもハウスを導入した跳ねるリズムトラックによるダンスチューンでした。そしてこのハウス路線によるサウンドデザインは3rdアルバム「cello-phone」でその全貌が明らかになります。極限までに削ぎ落とされたエレクトロサウンドに細やかさと軽さを追求したハウス特有のリズムプログラミングによるストイックな世界観を提示したこの作品は、初めてYMOの薫陶を受けたエレクトリック系名エンジニア・飯尾芳史を起用、本作による研ぎ澄まされたシンセサウンドは彼のミックスによって格段に音の輪郭が格段に際立つように処理されています。この飯尾の起用は詩人の血のその後の音楽的方向性に大きな影響を与え、4thアルバム「花と夢」では飯尾人脈によりSteve JansenやMick KarnといったJAPAN勢や、Prefab Sproutの歌姫・Wendy Smithをゲストに迎えた豪華メンバーによるUK POPSまっしぐら路線に移行、そしてラストアルバムとなった「i love`LOVE GENERATION'」ではソフトロック&グルーヴィーなブラスロックへと昇華して、中武の脱退と共に解散、辻と渡辺はそのままソフトロック路線を継承しoh! penelopeとしての活動につなげていくことになります。
 数ある名曲を残した詩人の血から今回選出したのは、3rdアルバム「cello-phone」の7曲目「歌だけあげる」です。シンプルなエレクトリックハウスな画曲が並ぶ中で、最も過激で挑戦的かつテクノ度が高いこの楽曲はまさに飯尾ミックスの独壇場、淡々と叩き出されるスピード感のあるハウスリズムに、耳を突くコクのあるシンセベース、フィルターの効いたシンセリフは、流しで聴いているだけでも思わず踊り出してしまいたくなるほどのワクワク感があります。

【聴きどころその1】
 ブチブチッと鳴り渡るシンセベース。このベースラインが聴こえた瞬間、テクノ好きにしかわからないカタルシスを感じることでしょう。細かいリズムトラックの合間にブチブチッと入ってくるだけで、楽曲が引き締まる非常に重要なパートであると思います。
【聴きどころその2】
 間奏の混沌が生み出されるリズム&シーケンスに乗ってくるロボボイス。このコンピューターボイス(しかも日本語混じりというのが実に良い)のおかげで一気に近未来感が高まります。辻のボーカルがよりフィジカルな印象を与えてくれるからこそ、このマシンボイスの無機質感がコントラストとして映えてくるわけです。


157位:「Dividual Heart」 Satellite Young

    (2015:平成27年)
    (シングル「Dividual Heart」収録)
     作詞:草野絵美 作曲・編曲:ベルメゾン関根

      vocal:草野絵美
      all instruments:ベルメゾン関根
      media technologist:テレ・ヒデオ

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一言で80年代リバイバルといってもこのテクノロジー日進月歩の時代は1年ごとにサウンドが激変していったということもあり、どのあたりの年のサウンドを志向するかによって、その仕上がりは全く別物になっていくものです。これまでも80年代テクノポップやエレポップ、ニューウェーブ、シティポップに影響されてきたアーティストは数あれど、それは大抵80年代前半〜中盤にかけてのYMOやテクノポップ御三家、もしくはテクノ歌謡と呼ばれた時代の産物のリメイクが多かったように思えますが、2014年に配信シングル「ジャック同士」でデビューしたSatellite Young(サテライトヤング)はまずそのあたりの80'sサウンドを押さえるツボがこれまでありそうでなかった絶妙な時期にロックオンされており、それが唯一無二のオリジナリティを生んでいくことになります。彼らが志向する80'sは1986年から87年あたりのリズムもサウンドも急激にデジタル的に過激な方向に向かっていった時期のエレクトロ歌謡です。特にアイドル歌謡に顕著であったこのサウンドスタイルは、30年近く経過した2010年代にようやく再評価されつつあり、その再評価ムーブメントの一端を担ったのが彼らSatellite Youngというわけです。ルックスからして80年代と言わざるを得ない草野絵美と、80年代特有のゲートスネアやギラギラしたFM系シンセ音色を多用するベルメゾン関根のデュオスタイルで始まったこのユニットは、ほどなく80's文化をパフォーマンスでフォローするテレヒデオの加入によりトリオ編成となります。当初は「フェイクメモリー」「Geeky Boyfriend」といったアイドル歌謡のイミテーションにも挑戦していましたが、スウェーデンのジャパニメーションに影響されたアニメ「せんぱいクラブ」の主題歌に「卒業しないで、先輩!」がタイアップされたことが話題を呼び、海外のSynthwaveやVaporwaveムーブメントにも呼応して国内外で人気が急上昇、楽曲も自然に「Break! Break! Tic! Tac!」やスウェーデンのSynthwaveマスター・Mitch Murderとの共作「Sniper Rouge」のようなダンサブル系の楽曲が多くなっていきました。
 そのような流れで2015年に配信リリースされた5thシングルが「Dividual Heart」です。これまでで最も疾走感のあるナンバーで、持ち前の歌謡曲然としたコードワークにベタなメロディがハマり、ズシっとくるエレドラスネアに引っ張られながら間奏では豪快なシンセソロで盛り上げる、これぞまさにSatellite Youngの真骨頂ともいうべき楽曲に仕上がっています。全体を包むザラザラした質感のミックスだからこそのノスタルジーがこの楽曲には存在していて、80'sフォロワーとしての信頼感を不動のものにした楽曲であると評価しています。なお2016年にはこれまでのシングル曲を中心とした集大成的アルバム「Satellite Young」をリリース、その後はチームカラーを赤から青に変更し、2ndフェーズに移行しながら「Moment In Slow Motion」等の名曲を産み落としながら、マイペースな活動を続けています。

【聴きどころその1】
 Aメロの直線的なシンセベースとリンクするボーカルのカクカクしたリズム感。レイト80's特有の猥雑さが感じられる粗いデジタルサウンドとの相性が抜群のボーカルスタイルです。
【聴きどころその2】
 いわゆる「燃える」シンセサイザーソロ。来るぞ来るぞ〜と思わせるカウントアップからのソロのスタートはどうしても期待感を煽られてしまいます。引きつるような音色もフレーズもほぼ完璧です。


156位:「GRAY OUT」 CONTROLLED VOLTAGE

    (1994:平成6年)
    (ライブカセット「OFFICIAL BOOTLEG」収録)
     作詞:杉本敦 作曲:稲見淳 編曲:CONTROLLED VOLTAGE

      vox:杉本敦
      Stratocaster・PPG:稲見淳
      Simmons:MASA

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 1985年リリースのミニアルバム「A Style Of Building」以降、成田忍はURBAN DANCE、横川理彦はP-MODELに加入のため上京したため、4-D mode1は瓦解し1人大阪に取り残された小西健司は、その後も4-Dの名前と音楽的コンセプトを守り続け、1990年代初頭には自身のインディーズレーベルIron Beat Manifesto(I.B.M.)を立ち上げ、90年代前半の関西のポストニューウェーブシーンを底辺から支えていくことになります。このI.B.M.において新たに若手メンバー2名を迎えてアシッドインダストリアルなバンドスタイルとなった新生4-Dと共に、看板バンドとして活動していたのがCONTROLLED VOLTAGEです。全編英語詞による低音ボーカルが魅力の杉本敦、PPG WAVE2.3やWaldorf THE WAVE等に代表されるウェーブテーブル音源方式シンセサイザー のオーソリティーであり、バンドマスター兼ギタリストでもある稲見淳、後に改訂期のP-MODELに加入することになるシンセプレイヤー福間創、紅一点の敏腕ドラマーMASAの4人組である彼らは、ULTRAVOX、JAPAN、David Bowie等に影響されたポストニューウェーブスタイルのエレクトロニクスバンドで、1991年よりカセットテープ「Un Official Demo Tracks」シリーズを非公式に配布、関西エリアを中心にライブ活動を開始すると、ふとしたきっかけで当時のアンダーグラウンドなテクノポップを紹介していたラジオ番組「トロイの木馬」プレゼンツの加藤賢崇プロデュースによるオムニバスアルバムに楽曲「closed eyes view」で参加、一時的に全国的に名前が知られることになります。しかしこのタイミングで福間が脱退し、しばらくはトリオバンドとして活動を継続していくことになるわけですが、そのタイミングで彼らはビデオ作品やライブ録音のカセットテープをリリースします。そのライブ録音の1つが、1993年11月20日に行われた尼崎LIVE SQUARE LIVREにおけるライブ音源である4曲入りカセット「OFFICIAL BOOTLEG」です。
 ULTRAVOXの名曲「SLEEPWALK」のカバーも収録されたこのカセットには、彼らのオリジナル楽曲が3曲収録されています。代表曲である「Gasoline」が収録されていないのは残念ですが、ここで取り上げておきたいのが、後に当時の草の根BBSであったXD Firstclass NetworkのオムニバスCDにも収録される「4gatsu」と共に、当時のライブにおいてよく演奏された名曲「GRAY OUT」です。これぞニューロマンティクスといった陰りのあるコードワークによる滲むシンセパッドのイントロから始まり、自動演奏のシンセベースを基調にストレンジギターと硬質なドラミングが絡む、稲見のダークニューウェーブな世界観が炸裂しています。杉本の低音ボーカルは(発音は聞き取りにくいものの)福間在籍時からトリオ活動期までの前期CVにとって何物にも代え難い存在感を示しており、彼の声質があって初めてポストニューウェーブと言えるほどのキャラクターで楽曲のカラーを決定づけることに成功しています。そしてなくてはならないのが女性ドラマーMASAのノングルーヴドラミング。高橋幸宏や上領亘のようなエレクトロニクスの同期によってさらにそのセンスが発揮されるそのビートは、CV解散までバンドの屋台骨として機能していくことになるのです。なお、後期CVは2002年に「LOST AND FORGOTTEN」というベストアルバムが残されていますが、前期CVは非公式なカセットリリースも多く、いまだ一部の当時のファンの宝物としてしか存在していないはずです。90年代関西ニューウェーブの軌跡として、なんとか配信でも良いのでクリアな音源を残してほしいと常々切望しています。

【聴きどころその1】
 何といってもMASAのSIMMONSドラムの音色です。典型的なエレドラサウンドではなく、硬めのスネアの質感が素晴らしい。淡々と正確に刻むフィルインのタイミングも実にクールでテクノです。これを女性が叩いているというのも興味深いです。もっともっとその活躍を見ていたかったドラマーの1人です。
【聴きどころその2】
 PPG WAVEの病んだ音色とニューウェーブ御用達のエフェクティブなギターサウンド。CVはほぼ全ての楽曲を稲見淳が手掛けていたと思われますが、この独特の渋みを感じさせるエレクトロニクスワールドは、当時のアンダーグラウンドなテクノポップ界隈でも、その全体的な完成度も含めて異彩を放っていたと思われます。


155位:「YAMA-HA」 GOATBED

    (2013:平成25年)
    (シングル「DREAMON DREAMER」TYPE B収録)
     作詞・作曲:Anete Humpe 編曲:石井秀仁

      vocal・programming:石井秀仁

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 2003年のcali≠gari活動休止以降、自身のソロユニットであるgoatbedとしての活動を開始した石井秀仁は、その後GOATBEDとユニット名を大文字に変えながらも2009年にバンド形式としての活動休止に至るまで、インディーズ・メジャーを問わず多数のアルバムを順調にリリース、イケメンボイスの80'sニューウェーブ歌謡ロック伝道師としてその名が広がっていきました。その後はcali≠gariの一時的な復活、モードファッションなヴィジュアル系エレクトロロックバンドXA-VATの結成など再びバンド活動において多忙を極めていきましたが、XA-VATが無期限活動休止となった2011年からは恒常的に活動を再開したcali≠gariと、こちらも再びソロユニットとして復活したGOATBEDの2つのパーマネントなグループを並行していくスタイルをとるようになりました。さて、復活当初は石井秀仁ソロユニットに、GOATBED「V/A」XA-VATのアルバム等にてアートワークを手掛けていた実弟の石井雄次がサポートするという形式を採用し、バンド時代よりも格段にストイックな電子音を意識したエレクトロサウンドを志向したGOATBEDでしたが、ほどなく石井雄次も正式なメンバーとなり(音楽自体は石井秀仁が手掛けますが)兄弟ユニットに移行します。2012年に復活アルバム「HELLBLAU」をリリース、2013年にはボーイズラブゲーム「DRAMAtical Murder」の音楽面に関わり新展開を見せ、そのイメージソングであったシングル「DREAMON DREAMER」がファン層を広げるきっかけにもなるわけですが、このシングルのTYPE B(TYPE Aは「DREAMON DREAMER」のアナザーバージョン+DVDの2枚組)のカップリング曲として収録されたのが、今回取り上げる「YAMA-HA」です。
 この楽曲の目にしてピンと来た方も多いと思いますが、これは1985年にドイツから登場したニューウェーブ姉妹ユニット・Humpe&Humpeの同名曲のリメイクです。この日本語の企業名を羅列した歌詞と脳天気に日本語で気怠く歌われたボイスサンプリングとオリエンタリズムなシンセに彩られた楽曲は、奇異の目をもって日本においても少しばかり話題になりましたが、これをGOATBEDは想像以上にダークでカッコ良いエレクトロサウンドに見事に生まれ変わらせました。もともと日本人はオリジナルよりもそれらを加工したより良いプロダクツに生まれ変わらせることに長けた人種ですが、それは音楽の世界でも同様です。海外のオリジナル楽曲を換骨奪胎してリメイクして仕上がった楽曲はオリジナルのサウンドを超えていくことがしばしばありますが、このリメイクも例外ではありません。あの特徴的なボイスサンプルを生かしながらも、多少のオリエンタルなフレーズを残しつつ脳天気さを排除してクールなダンディズムを見せつける、GOATBEDとしてのストイック性を崩さずに、これぞリメイクの醍醐味といった完成度を見せ付けています。こういうリメイクはなんぼあってもいいですからね。

【聴きどころその1】
 楽曲全体を支配する跳ねまくるベースライン。このシンセベースが動き回るおかげで楽曲の印象が劇的に変化しました。しかも変に生のノリに近づけることのない、座標に碁石を置き続けるようなマトリックス的なシーケンスが素晴らしいです。
【聴きどころその2】
 電脳世界に引き摺り込むアンビエントなシンセパッド。このスピリチュアルな白玉が原曲のオプティミズムを完全排除して無類なカッコよさを演出、ダサさが見え隠れしたあのボイスサンプルもこのとおり、イケメンに料理されています。


154位:「EACH OF LIFE」 GRASS VALLEY

    (1991:平成3年)
    (アルバム「at GRASS VALLEY」収録)
     作詞・作曲:本田恭之 編曲:GRASS VALLEY・土橋安騎夫

      vocals:出口雅之
      keyboards・chorus:本田恭之
      bass:根本一朗
      guitars:西田信哉

      chorus:小柴大造

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 勝負のコンセプトアルバムが完成するはずが、日増しにライブ感溢れるロックテイストを強めていく本田恭之と、ニューウェーブ時代のスタイリッシュなイメージを維持したかった上領亘の間に決定的な溝が生まれてしまい、文字通りバンドの瓦解の危機に瀕してしまった5thアルバム「瓦礫の街〜seek for love〜」を最後に、人気ドラマー上領亘はGRASS VALLEYを脱退してしまいます。個性的なドラミングでバンドを支えてきた上領の脱退はその後のバンドの方向性に当然のごとく大きな影響を与えます。再出発すべくバンドは新たなサポートドラマーを探しましたが、起用されたアルゼンチン人ドラマーDiego Voglinoは基本的にジャズ畑で、これまでのノングルーヴ・ノンスィングな上領のリズムと比較すると、テクニックどうこうではなくどうしても違和感を感じざるを得ないといった状況でした。そこで再スタートの1991年リリースのマキシシングル「ハッピネス」では、ゲストドラマーにレーベルメイトであったパワフルドラマー・小田原豊を、新たにサウンドプロデューサーに起用されたレベッカの土橋安騎夫が連れてくる形で、次作のフルアルバムまでスタジオレコーディングを凌いでいくことになります。さて、肝心の音楽性とはいうと、ボーカルの出口雅之はますますがなり声に変なクセがつき始め、西田信哉のギターは典型的なオーバードライブ・ディストーション系の歪んだサウンドで弾きまくり、根本一朗のスラップ技術を披露する機会も少なくなっていき、ニューウェーブテイストは抑えられ完全にロックシフトへの移行が完成していくことになります。
 こうしてリリースされた新生GRASS VALLEYのアルバムが「at GRASS VALLEY」でしたが、土橋安騎夫プロデュースによる本作は(わざわざ外部プロデューサーを持ってくる必要性があったのか疑問ですが)、案の定骨太感のあるライブ仕様のフェイクを多用したロックチューンが満載で、ドライブ感は増しましたがあのスタイリッシュ感覚はほぼ消失した感があり、古くからのファンも逃げ出してしまいたくなる印象でした。そのような中でも我らがミスターGRASS VALLEYの本田恭之はというと、華麗なシンセプレイでその健在ぶりを見せつけ、ロックの中でも見失わない自身のパフォーマンスを可能な限り発揮しています。この手のサウンドにしては楽曲の完成度もクオリティも一定の水準を上回っており、決して駄作とは言えないものの、元々のバンドのキャラクターを疎かにした結果、大事なものを捨ててしまったというシチュエーションを強いられたのか、本作をもって偉大なバンド・GRASS VALLEYは解散という形になるわけです。
 そんなラストアルバムの本当の最後を飾るのがこの珠玉の名曲「EACH OF LIFE」です。本田恭之が作詞作曲を務めた渾身のシンセサイザー サウンドが堪能できるこのバラードは、得意の滲むようなシンセパッドとコーラスワークが全体を包み込んだ美しいサウンドデザイン。この楽曲だけデビュー当時に舞い戻ったような、それともここまでの歴史を辿ってきたような、バンドの総括というにはあまりに的確な、そしてこの名曲を生み出す力をまだ残していたのかという、実に惜しまれる壮大なGVワールドを演出しています。

【聴きどころその1】
 本田恭之による絵画的で叙情的なシンセサイザー サウンドデザイン。導入のくぐもったパッド、メインでコードを奏でるノコギリ波のジワっとくるパッド、後半登場するロマンティックなストリングス・・・本当に和音の使い方、そしてその音色の選び方・作り方が素晴らしいです。
【聴きどころその2】
 そして間奏のシンセサイザーソロ。トランペットを模したリード音色は、その奏法も相まってシミュレートぶりが抜群です。そしてそのシンセリードに重なってくるストリングスの美しさといったら何なのか。結局GRASS VALLEYがGV足り得たのは、本田恭之のロマンティックでファンタジックなシンセワークがあってこそであることを、この最後の名曲にしてなお改めて気づかされます。


153位:「離して…」 星野みちる

    (2014:平成26年)
    (シングル「離して…」収録)
     作詞:はせはじむ 作曲:佐藤清喜 編曲:佐藤清喜・はせはじむ

      vocals:星野みちる

      all instruments:佐藤清喜

離して

 2013年の星野みちるはまさに飛躍の年でした。前年のデビューシングル「い・じ・わ・る・ダーリン」の驚くほど典型的なエレクトロポップ路線に好奇心をくすぐられた一部のリスナーに支えられ、同年夏にリリースされた1stアルバム「星がみちる」は究極のスペイシーテクノ&エレポップ歌謡に仕上がり、その美しい宇宙ジャケットとの相乗効果もあって一躍注目のガールズシンガーとしてPOP愛好家たちに認識されることになりました。この星野みちるをデビュー当初よりプロデューサーとして手掛けていたのが古今東西のPOPSに精通しているDJ・はせはじむと、microstar(マイクロスター)の作品群で遂にポップマエストロの評価を確実なものにしたサウンドクリエイター・佐藤清喜です。全体的なコンセプトワークをはせ、音楽面でのプロデュースを佐藤が担当したと思われる究極のスペイシー歌謡の「星がみちる」がリリースされた後、彼らはそれまでほぼ流行のJ-POPしか意識してこなかった星野を、幅広い年代の多種多様な国内外のPOPSのエッセンスを取り入れた楽曲を与え続けることで、彼女を一流シンガーに鍛え上げていくわけです。
 2013年秋にリリースされたノーザンソウル歌謡の2ndシングル「マジック・アワー」に続く、翌年の3rdシングル「離して…」が今回のお題ですが、前作でスペイシーポップ路線だけではない新たな側面を見せることに成功したものの、やはり(プロデューサの佐藤清喜がやりたかったのが)得意なエレクトロポップということで、サウンド面ではシンセサイザーを前面に押し出しつつも哀愁メロディが心を打つ典型的なアーバンテクノ歌謡を堪能することができます。それにしてもなんという心を撃つメロディラインでしょうか。この寂寥感が無機質なシーケンスとコードを奏でるシンセパッドで助長されます。ノスタルジック&ロマンティックの極致です。

【聴きどころその1】
 コードを担当するシンセパッドの音色。シンセサイザーをマニピュレートすることが好きな人物でしか生み出せない美しいサウンドであると思います。良い意味で歌を邪魔しない、それでいてインパクトのあ理、楽曲をリードする味のある素晴らしいパッドです。
【聴きどころその2】
 佐藤清喜のセンスはサウンドメイクだけでなく、キャッチーなメロディラインをいともたやすく生み出せることであり、それが故に彼が作編曲両方を担当することで最もそのセンスを発揮できると言えます。同じタイプに本田海月(元:本田恭之)」がいますが、それは独自の世界観や美意識を確立しているということ。この楽曲には特にそんな佐藤の歌メロの美しさに注目していただいたいと思います。


152位:「ナウ ロマンティック」 KOJI1200

    (1995:平成7年)
    (シングル「ナウ ロマンティック」収録)
     作詞:今田耕司・テイトウワ 作曲・編曲:テイトウワ

      vocals:KOJI1200(今田耕司)

      all other instruments:テイトウワ
      guitars:高野寛
      chorus:野宮真貴
      chorus:MIKA

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 80年代後半のダウンタウンをはじめとした関西の若手お笑い芸人がブレイクした伝説の番組「4時ですよーだ!」でTVデビュー、90年代からはダウンタウンを慕う形で上京、「ダウンタウンのごっつええ感じ」で一般的に知名度を獲得した今田耕司は、90年代中盤には芸人だけにとどまらないマルチタレントとして活躍の場を広げていくことになります。所属事務所の吉本は、今田のTVドラマ「彼と彼女の事情」「いつかまた逢える」への出演といった俳優活動と共に、1995年には音楽界への進出を目論み、まずは当時一過性のブームとなったEAST END×YURIのラップヒットソング「DA・YO・NE」の大阪弁カバーバージョン、「SO・YA・NA」を東野幸治と共にWEST END×YUKI from O.P.D.としてCDリリースすることになります。これは余りにベタな二番煎じぶりでしたが、実は本命は次の企画でして、何を思ったか当時吉本とマネジメント契約をしていたテイトウワをプロデューサーに迎えて、ニューロマンティックをコンセプトにした企画ソング「ナウ ロマンティック」KOJI1200名義でリリースすることになるわけです。この「1200」は当然あのHIP HOP御用達E-muのサンプラーリズムマシンSP-1200から拝借していると思いますが、そんなテイトウワの趣味性はともかく、あの80年代初頭の妖艶のニューロマメイク&ファッションに着飾った今田耕司は、どちらかというとDURAN DURANというよりはCharlie Sextonに近い風貌で(この時点でもうクレームがつきそうですが)、何が言いたいのかといいますとニューロマというよりは80年代洋楽の雰囲気を表現できるルックスとしては素材としては間違ってはいなかったのではないかということを説明したかったわけです。
 何はともあれテイトウワがサウンドメイクした「ナウ ロマンティック」ですから、当然出来上がった楽曲は高野寛のニューウェーブギターと直線的なシンセベース、そして低音ボーカルという、テクノポップ&ニューウェーブをしっかり継承した、企画モノとするには惜しい仕上がりです。特に今田自身の湿り気のある汚れた声質が楽曲に奇跡的にマッチしているため、全く違和感なく80'sの亜種として楽しむことができることが良いと思います。そしてキラキラ感溢れるサビのフレーズ、結局このあたりがニューロマたる所以で、かつ一般的なリスナーにもアピールできるキャッチー性を備えることに成功しているという点で、今田耕司の黒歴史とするにはもったいない名曲として記憶に残しておくべきでしょう。

【聴きどころその1】
 イントロのシンセベース。デデデッデッデッデデデッデッデッのこの直線的なベースラインは、まさにテクノポップそのものなのですが、1音の前にグイッ音を上げる部分が実に巧みです。単なるシーケンスではなく、この音を入れることで独特のノリが生まれています。
【聴きどころその2】
 キャッチーのサビをさらに生かすための後半の転調。ただでさえキラキラしていた80'Sのノスタルジーを極限にまで追い込んでいきます。まさにオヤジキラーな転調マジックです。


151位:「SKYTOWER」 スマイル学園 電音部 UNDER FACE

    (2013:平成25年)
    (シングル「SKYTOWER」収録)
     作詞・作曲・編曲: Ken sato(佐東賢一)

      vocal:田谷菜々子
      vocal:永島穂乃果
      vocal:岡崎いちご

      all instruments:Ken sato

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 2011年度から2015年度までの4年間、地下アイドルグループとして活動していたスマイル学園。学校をモチーフとしたアイドルグループは、古くは制服向上委員会、現在でも私立恵比寿中学さくら学院とか大阪のリリシック学園などが存在していますが、スマイル学園は特に2013年には興味深い展開で爪痕を残していったアイドル集団、誤解を恐れずにいうならば小中学生中心のアイドル予備軍でした。このスマイル学園に2013年、1つの派生ユニットが誕生します。それが電音部UNDER FACE。当時同じ学園系アイドルのさくら学院ではバトン部科学部重音部(後にBABY METALとして独立)という部活動(という名の派生ユニット)が存在していましたが、この電音部もその部活動システムにあやかったものと思われます。しかしこのUNDER FACEはその初登場から何やら物々しい雰囲気を纏っていました。お披露目がSHIBUYA WOMBという完全クラブ仕様の会場、DJがガンガンエレクトロを回していく中登場してきたゴシックロリータにサイバーパンクなガジェットやコスチュームを身につけた、田谷菜々子・永島穂乃果・岡崎いちごの3名の小中学生。近未来SF感がギラギラしたコンセプトを漂わせながらスタートするオリジナル曲、この「SKYTOWER」で極々一部のリスナーの期待は確信に変わったはずです。
 「SKYTOWER」の壮大なフューチャーワールドが始まるようなストリングスサンプルのイントロから野太い四つ打ちバスドラが刻む粗くも厚み抜群のエレクトロサウンドをプロデュースしたのは、音楽制作チームNUMANです。このチーム名にしてこの電子音の分厚さはGARY NUMANリスペクトなのかどうかは定かではありませんが、NUMANはサウンドクリエイターKen Sato(佐東賢一)を中心としてCM音楽や劇伴制作を多数手掛けており、ここでKen Satoが渾身のテクノ魂を炸裂、電音部の名に恥じない電子音まみれの音世界で空間を埋め尽くす徹底ぶりで、このユニットのサイバーコンセプトの確立に大きく寄与しています。NUMANとしてはこの「SKYTOWER」のカップリングである「yutori」と、配信ダウンロードが可能であった「Tick-Tock-Clock」の2曲を提供していますが、どれもがアイドルソングから一歩進んだ実に売れそうにないエレクトロワールドチューンで、あえて言うなれば進化が別方向に進み過ぎたPerfumeといった印象を受けました。おりしもBABY METALが海外でブレイクし始めた時期でしたので、動画サイト等を通じて一気に国際人気を掴むかと思われていました。しかし、その勢いは1年で失速していくことになるのです。

【聴きどころその1】
 空間を潰すかのような轟音めいた音の壁と化すシンセパッド。およそアイドルソングで使用されないであろうクラブ仕様の音処理を躊躇いもせず採用する胆力が感じられるチャレンジングなパッドです。
【聴きどころその2】
 Melotron調のストリングスはエレクトリックサウンドとの相性も良いのですが、生き生きと動き回るシンセベースやレトロゲームのようなフレーズを多用するパートを尻目に安心感を生み出すのも、あのストリングスの役目と言えるでしょう。


150位:「恋のタイトルマッチ」 キッスの世界

    (2000:平成12年)
    (シングル「バクバクKiss」c/w収録)
     作詞・作曲:つんく 編曲:前嶋康明

      vocal:高橋奈苗
      vocal:納見佳容
      vocal:脇澤美穂
      vocal:中西百重

      all instruments:前嶋康明

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 ミレニアムを迎えた2000年の音楽シーンは、まさにモーニング娘。一色でした。前年秋の「LOVEマシーン」の大ブレイクの勢いが、ジンギスカンをモチーフとした「恋のダンスサイト」へと続くと、モーニング娘。所属のアイドル集団はハロー!プロジェクトのシャッフルユニット「あか組4」「黄色5」「青色7」が同時ヒットとなり、この勢いは社会的なムーブメントへと発展していきます。5月には新メンバー加入と「ハッピーサマーウェディング」のリリースに市井紗耶香の脱退と話題に事欠かないこの大騒動を一手に引き受けて牽引していたのが、プロデューサーのつんくでした。自身のバンド・シャ乱Qを活動休止してまでこのプロジェクトに入れ込んで多忙の極みであった彼でしたが、実はこの超多忙な時期にひっそりとプロデュースしていたグループがありました。キッスの世界というこのユニットは高橋奈苗・納見佳容・脇澤美穂・中西百重の女子プロレスラー4人組で、当時女子プロレスを幅広く紹介しようというプロモーションの一環として放映されていたTV番組「格闘女神ATHENA」から選手を集めて歌手デビューさせる企画が持ち上がり、選抜されたのがこの4人で、あろうことか彼女らのプロデュースをつんくに依頼するという経緯で実現したプロジェクトでした。つんくの好奇心旺盛なキャラクターからすれば多忙であっても断る理由もないといったところでしょうが、なかなかの破天荒なプロジェクトであったにせよ、ともあれ「ハッピーサマーウェディング」ミリオンヒットの裏で、ひっそりとシングル「バクバクKISS」が生まれることになったわけです。
 しかし今回取り上げるのは、モータウンビートに乗ったキュート?なアイドルソング「バクバクKISS」ではなくて、カップリングの「恋のタイトルマッチ」です。まさに女子プロレスラーの本領発揮が期待できる楽曲タイトルですが、期待半分不安半分のこの楽曲の仕上がりは、個人的な予想通りプロレスシャウトのサンプリングを散りばめたエレクトロ歌謡チューンです。無理してアイドルソングを歌うのもギャップとしてありとしても、やはり彼女らはプロレスラーなわけでして、しかも女子プロレスとなると魅力はシャウトしながら技をかけるあのテンションの高さであると思うのです。その「テンションの高さ」がこの疾走感のあるビートと高速ボイスサンプリングにしっかり刻まれていることを確認できるだけでも、このキッスの世界が「歌」を残した甲斐があったというものです。メロディラインもビューティーペアクラッシュギャルズといった先輩レスラーの王道を少なからずとらえている部分も高評価です。

【聴きどころその1】
 イントロから高速ボイスの勢いがスゴい。クールなシーケンスから始まってからの刺激的なシャウト&ドモリングサンプリングの勢いはまさにプロレスラー特有のテンションの高さそのものです。あああああああああんたのことがあああああああああんたのことが大大大大大好きなんだよっ!
【聴きどころその2】
 その高速ボイスに釣られる形で、サビではアシッドなシーケンス&スクラッチで応戦します。90年代の電気グルーヴかと思わせるフィルター&レゾナンス効きまくりのグニョり具合でやはりテンションMAXこの上ないです。 



149位:「ガラスのクロコダイル」 黒沢光義

    (1990:平成2年)
    (アルバム「CUBISM」収録)
     作詞:秋谷銀四郎 作曲:大羽義光 編曲:井上日徳

      vocal:黒沢光義

      electric guitars・keyboards・chorus:井上日徳
      electric bass:美久月千晴
      synthesizer operate:石川鉄男

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 宮城県出身の調理師免許を持ったシンガー・黒沢光義のデビューは比較的恵まれたものでした。東芝EMIというメジャーレコード会社から、そして田原俊彦主演のTVドラマ「俺たちの時代」の主題歌タイアップというこれ以上ない条件のリリースとなった1989年の1stシングル「Try Again」は20万枚を超える大ヒットとなり、まずは順調な滑り出しとなります。そのヒットの勢いのままリリースされた記念すべき1stアルバムがこの「CUBISM」です。この幾何学的な模様とシャドーが入ったルックスのジャケットから察するに、近未来感的な何かを感させられますが、果たしてサウンドとしての仕上がりはいかがなものだったかといえば、少々インパクトのかけるスタイリッシュなロック系J-POPといったところでした。しかしながらボーカリストとしての実力は十分に備えていましたし、長身を生かしたスタイリッシュな出で立ちによるパフォーマンスも粋を感じるものでしたので、アルバム発売記念ツアーは全会場ソールドアウトとなるくらいの人気は博したようです。しかしながらその人気もこのクセのなさからか一過性のものとなったようで、その後5枚のシングルをリリースするも「Try Again」ほどのインパクトは与えられず、以後は料理人を本職とした人生を歩んでいくことになります。
 さて、そんな決して仕上がりは悪くないものの箸にも棒にもかからない印象の本作にあって、唯一輝きが異なる楽曲があります。本作の2曲目「ガラスのクロコダイル」は、チープでシンプルなシーケンスから始まり徐々に音が重ねられていきシャープでキレのあるサビへ移行する、その散らばった音の分子を掻き集めてパズルに当て込みながら最後に完成形へと持っていく、ストーリー展開さながらの構成力が抜きん出ています。なお、作曲は筒美恭平の弟子筋にあたる大羽義光で、彼は数年後にはBran-New Colorでデビューし有近真澄の1stアルバム「Too Too」のアレンジャーとして急激に台頭してきたAchilles Damigos(アキレス・ダミゴス)と音楽制作ユニットFace 2 fAKEを結成、記憶に新しいところでは、あの大ヒット映画「翔んで埼玉」の劇伴を手掛けるなど第一線で活躍中です。そしてアレンジは、AKB48のミリオンヒットの立役者・元コスミック・インベンションの井上ヨシマサの兄である井上日徳が担当しています。麻田華子の楽曲でも洗練されたアレンジ能力を発揮していた彼らしい見事なサウンドデザインで、この楽曲への貢献度は最も高い人物と言えるでしょう。箸にも棒にも・・・と揶揄しましたが、結果として作編曲の両名ともしっかり音楽界に足跡を残していますので、結論としてはやはり黒沢光義というシンガーは、スタッフに恵まれていたと改めて思ってしまう、というわけです。

【聴きどころその1】
 Aメロの左右でパンするシーケンスからのフワ〜ッと入ってくるシンセパッド。そこにいかにもデジタルなキラキラフレーズが合いの手を入れてきます。この意表を突いたスタートにその後の展開を期待させられるのです。
【聴きどころその2】
 そして中盤は不穏なギターソロから、キレの良いカッティングを中心としたノリで地上に降りてきた感覚で進み、サビでは松岡英明ばりのシャープなシンセで本性を現すという、大袈裟かもしれませんが原子・分子レベルから生命の誕生までの経緯を辿っていくような斬新な構成が、この3分余りの楽曲に詰まっています。 


148位:「ムネノコドウ」 FLAME

    (2001:平成13年)
    (シングル「ムネノコドウ」収録)
     作詞:MASUMI X. 作曲:長部正和 編曲:DeBose

      vocal:金子恭平
      chorus:伊崎右典
      chorus:伊崎央登
      chorus:北村悠

      all instruments:DeBose

ムネノコドウ

 90年代後半から安室奈美恵やSPEED、DA PUMP・Folderといったダンスと歌唱力を兼ね備えたアイドルグループを多数抱え一時代を築いていた芸能事務所・ライジングプロダクションは、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて選ばれたルックスお墨付きの新たな男性アイドルグループを始動させます。同コンテストグランプリの伊崎右典伊崎央登のイケメン双子兄弟、童顔の美少年・北村悠、最年少の金子恭平の4名によるFLAMEは、2001年に1stシングル「ムネノコドウ」でデビュー、DA PUMPやw-inds.直系のダンサブルなエレクトロR&Bサウンドで、颯爽とアイドル先生に殴り込みをかけると、翌年には2ndシングル「BYE MY LOVE」(サビのメロディが秀逸)、3rdシングル「What Can I Do」(サウンド面では最もテクノポップに近い)と立て続けにリリースし、オリコンランキングベスト10以内を維持し、活動を軌道に乗せていくことになります。
 このように数あるFLAMEのヒットソングのうち今回取り上げるのは、デビューシングルの「ムネノコドウ」です。まずこのジャケット、流石にグランプリ受賞の伊崎右典を売り出したい雰囲気満々というところで、当然楽曲も伊崎兄弟をフィーチャーしたものになるかと予想していると痛い目に遭います。その当時TV番組でパフォーマンスを見ていると、歌い出したのはルックスとしては最も地味な金子恭平でした。まさに「お前が歌うんか〜い!」と心の中で突っ込まざるを得なかったのですが、聴いていくうちに合点がいきました。明らかに歌もダンスも上手いのです。印象としては金子&イケメントリオという印象でした。そんな意表を突かれたファーストインパクトでしたが、それよりも驚きといいますか思わず笑ってしまったのが、執拗に鳴りまくるオーケストラヒットです。スタートからオケヒットでフレーズを奏でるという思い切りの良さ。現在は酒造会社・大関株式会社取締役である長部正和が書いたメロディラインとしては特にBメロに哀愁を漂わせる部分が秀逸で覚えやすく、サビもキャッチーということで、売り出し中の期待の新人のデビューを任せるに足るクオリティであると思いますが、やはりそれを補って余りあるオーケストラヒットの嵐は、当時の国産R&Bの面白さを断片でも切り取ってくれたハイライトと言えるかもしれません。DeBoseというアレンジャーはいまだに謎人物なのですが、詳細を知りたいところです。
 なお、FLAME自体は2004年頃になると徐々に自我が芽生え始め、メインボーカルの金子が脱退、そこから伊崎兄弟が目覚め始めるも時既に遅しで、徐々に活動ペースが落ちると2010年に解散に至ります。しかし、その後2013年にまさかの金子復帰によるオリジナルメンバーでのEMALF(FLAMEの逆読み)が結成されしばらく活動しますが、またも金子の脱退からの解散という2度同じ道を歩むことになるのです。

【聴きどころその1】
 何度も言うようですが、とにかく登場回数の多いオーケストラヒット。これほどオケヒットの数が多い楽曲も珍しいと思います。おかげでこのギャン!しか印象に残らないほどですが、それがないと物足りなくなってしまうという、オケヒットマニアとすれば絶対外せない名曲となります。
【聴きどころその2】
 とはいうものの流れるように進んでいく綺麗な哀愁メロディラインと、軽快なギターのカッティングと粘りのありよく動き回るシンセベースなど、各パートもしっかりプロフェッショナルなサウンドが施されています。単純に良質の楽曲と言えると思いますが、そうした印象もやはりオケヒットに喰われてしまうので思わず苦笑いしてしまいます。


147位:「Cosmic Boys」 THE SLEEPWALK

    (1998:平成10年)
    (オムニバス「SWIVEL COMPILATION VOL.1 プレセペの夜」収録)
     作詞・作曲・編曲:THE SLEEPWALK

      vocals:MAMI
      all instruments:WATCHMAN

プレセペの夜

北海道旭川出身のドラマー兼サウンドクリエイターであるWATCHMANこと大島昌樹は活動拠点を転々としながらも、ジャンルレスな音楽経験を生かして90年代初頭から現在まで幅広く活躍しています。幼少よりYMO等の電子音楽に魅せられつつグラインドコアやオルタナティヴロック周辺のドラマーとして活動するといった両極性を備えていたプレイヤーであった彼が、自身の豊富なキャリアの初期から始動していたソロプロジェクトがTHE SLEEPWALKでした。1993年から既にデモテープ制作に入っており、音楽性をエレクトロ・シューゲイザー路線にシフト、サポートメンバーの入れ替えが発生しながらも基本はソロで活動していましたが、90年代中盤より女性ボーカリストのMAMIが参加するようになり、1995年にオムニバスCD「Greatbluething」に「Forestic/White」を提供、1997年にはPlaystationゲームソフト「Moon」の劇伴オムニバス「Moon Original Sound Track」「Warp-Wet-Woods」「Reach-Air-Burst!」の2曲を提供し、徐々に少しずつ音源を残すようになっていきます。そして1998年、この年はWATCHMANにとって転機の年となります。まず、オルタナティヴロックバンドMelt-Bananaにドラマーとして正式に加入、3rd「Charlie」、4th「MxBx 1998/13,000 Miles at Light Velocity」、5th「Teeny Shiny」のスタジオアルバムに参加しその名を知られることになるとともに、THE SLEEPWALKとしても、後年COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKIとの音楽制作ユニット・SADESPERRECORD(2010年代に多数のアニメ劇伴を担当)のユニット名の元ネタになったオムニバス「Sadesper Record」に「Clouds」を提供、この頃からMAMIのボーカルが少しわかりやすくなり楽曲にもスペイシーポップ性が増してくると、同年に前述のゲームソフト「MOON」のサントラに参加した縁から、「MOON」をプロデュースした元コナミの作曲家を中心に結成したバンドであるセロニアス・モンキーズ主宰のオムニバス「SWIVEL COMPILATION VOL.1 プレセペの夜」への楽曲提供に至ります。
 このオムニバスにはTHE SLEEPWALKやセロニアス・モンキーズのほかに、「MOON」に参加した中塚武率いるQYPTHONE(オリジナル曲「Love From The Cupid」を提供)や、テクノユニットPC-8やINTERFERONで活躍したハゼモトキヨシの歌モノユニット・KINGLET(本作収録の「Sun dog」も名曲!)、そしてあのInstant Cytron(チップマンクスな「We Love XIEI」を提供)等、コアながら豪華な面々が参加しています。そのような中当時スペイシーポップ路線を強めていたTHE SLEEPWALKは、MAMIの少女性を感じさせる声質のボーカルを生かしたキュートな楽曲「Cosmic Boys」で勝負します。宇宙を浮遊するかのような無重力サウンドというべき癒し空間は、このオムニバスの中でも存在感は抜群で、Instant CytronやQYPTHONE(彼らは「ぼくらのプラトーン・シティ」というコラボ楽曲も本作に提供)といった実績を積みつつあったPOPSバンドにも引けを取らないポップ性を既に披露していました。しかし、この路線はMAMIの脱退によって一旦リセットされ、THE SLEEPWALKは再びWATCHMANのソロユニットへと回帰、フルアルバムが登場するのは2001年リリースの「The Forest of Foss Darya ~フォス・ダーリャの森~」まで待たなければいけないことになります。

【聴きどころその1】
 トレモロの効いたエレクトリックピアノのギラギラした音色。アタック感の強いこのコードを進行するフレーズが、楽曲の軸となっています。そこに電子音のギミックが飛び交い独特のスペイシーポップを構築しています。特にBメロからのコード進行が秀逸です。
【聴きどころその2】
 そしてサビから登場する宇宙遊泳のソフトなシンセパッド。ドクドクしたリズムにキュートで無垢なガーリーボイスが絡むファンタジックワールドを作り出しています。この路線で1枚フルアルバムを制作してほしかったのですが、Melt-Bananaへの参加が決まって多忙であったと思うので、致し方なかったということでしょう。


146位:「THIRD/Antares Cr302」 畑亜貴

  (2013:平成25年)
  (イメージアルバム「未来日記 Inspired album Vol.1 因果律ノイズ」収録)
    作詞・作曲:畑亜貴 編曲:加藤達也

      vocals:畑亜貴

      all instruments:加藤達也

因果律ノイズ

 90年代は本業のゲーム音楽制作や、自主制作音源の制作やトルバドール・レコード関連のオムニバスに参加したりと同人音楽の世界でアンダーグラウンドな活動にとどまっていた畑亜貴でしたが、彼女の名前が一般的に知られるようになったのは2002年のアニメ「あずまんが大王」のオープニング主題歌であるOranges & Lemons(伊藤真澄&上野洋子)「空耳ケーキ」、そしてアニメ「灰羽連盟」のエンディング主題歌、Heart of Air(伊藤真澄のソロユニット)」「Blue Flow」の作詞家としてでした。このアニメソングの作詞という分野が彼女の特殊な言語感覚による表現力を生かす場所として絶妙にハマったわけですが、2006年に最大の転機が訪れます。あの社会現象を起こした名作アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンディング主題歌「ハレ晴れユカイ」、そして2007年のアニメ「らきすた」オープニング主題歌「もってけ!セーラーふく」の作詞を担当した2曲の大ヒットにより、畑亜貴はアニソン作詞女王に君臨し、以降も数々の名曲を手掛けていくことになります。さて、本来はシンガーソングライターである彼女は00年代はゲーム音楽を主戦場としてソロワークをひっそり続けていましたが、作詞家としての自分とは比べ物にならないほど鳴かず飛ばずでした。そこで作詞家としての実績を積み重ねた彼女は自身のソロとしての復活の機会を窺うわけですが、2010年に3rdシングル「万能に滾る如何様」で再デビューを果たした頃には、ひねくれたヘイトスピーチのような歌詞を基調に、アレンジャーに多数のアニメーション劇伴を手掛ける音大出身のクリエイター・加藤達也を迎えた大仰なサウンドメイクによる楽曲を志向し、「断崖の己惚れ屋」「拝金聖者我が街を進まん」とシングルを連発してソロシンガーとしての活動を活発化していきます(恐らく数々の大ヒットを生み出したご褒美的な意味合いもあったと思われます)。
 そのような最中、2011年に加藤達也が劇伴を担当したアニメ「未来日記」のキャラクターソングを集めたオムニバスアルバム「未来日記 Inspired album Vol.1 因果律ノイズ」に畑亜貴自身も作詞のみならずシンガーとして参加することになります。彼女が担当したのは殺伐としたサバイバルゲームアニメである「未来日記」の中でも最もシリアルキラー的な人物である火山高夫のキャラクターソング「THIRD/Antares Cr302」。アニメでは出番も少なくすぐに退場したキャラであるにもかかわらず、この楽曲ではまるで取り憑かれたような疾走感と、灼けつくような焦燥感が駆け巡るリズムトラックとウイスパーボイスによるポエトリーリーディングが炸裂します。サウンドデザインはクラシカルでありながらもプログレッシブかつエレクトリック。いかにも劇伴作家のアレンジメントというべき豪快な展開力を見せる楽曲に仕上がっています。

【聴きどころその1】
 Aメロのごった煮エレクトロニクスとホラータイプなコーラスをはじめとした幾重にも重ねられたボイスの嵐。このボイスを含めた音数の多さで勝負といった目まぐるしい展開と意外性のあるフレージングがこの楽曲の最大の魅力です。
【聴きどころその2】
 通り魔殺人鬼のキャラクターイメージを何かに追い立てられるような焦燥感をストリングスによるコードワークが見事に表現しています。アシッドなシーケンス、アヴァンギャルドなギターなど次から次へとストレンジなサウンドが登場しますが、これらも全ては破天荒で異常性を感じさせる火山高夫の精神世界を音で追い込んでいるからこそのキレたサウンドメイクと言えるでしょう。


145位:「ツメタクシナイデ」 オカノ・フリーク

    (1995:平成7年)
    (カセットアルバム「I'm So Hard Core」収録)
     作詞:吉村シノブ 作曲・編曲:岡野晶

      vocal:吉村シノブ
      all instruments:岡野晶

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 現在は毎日放送(MBS)のキャラクターである「らい4ちゃん」の中の人、イベントの司会等でも活躍しているオカノアキラ(岡野晶)はいまやマルチタレントと呼ぶ方がふさわしいと思われますが、彼は若かりし頃から生粋の多重録音小僧でした。そのオカノアキラが90年代にライフワークとして取り組み、大量の音源をカセットテープにてリリースしていたソロユニットが、オカノ・フリークです。彼らの経歴等の解説については、本noteの別記事「TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベストアルバム100:Vol.5【20位〜1位】」の第10位をご参照ください。

 上記記事にて説明しているとおり、オカノ・フリークの音楽性は80'sニューウェーブ・テクノポップに影響を受けた歌謡POPSでして、このあたりは90年代音楽シーンと盲点というべき未開の地でした。オカノ・フリークの前に彼は詩季東風香とのKING OF PRAISE(キングオブプライズ)。、吉村シノブとのVELVET PICCADILLY(ヴェルヴェット・ピカデリー)と、一貫して女性ボーカルをゲストに迎えたニューウェーブ歌謡POPSに挑戦し大阪の外資系レコード店(梅田WAVEや心斎橋WAVE等)でカセットテープアルバムを販売していましたが、1995年に2ndカセットアルバム「Music For Romantic Age」と同時販売されていたのが、3rdアルバム「I'm So Hard Core」でした。そして筆者が初めて手にとったカセットがこの3rdアルバムですが、今回は本作の1曲目「ツメタクシナイデ」を取り上げたいと思います。
 90年代のカセットテープリリース、しかも現在でも全くリマスターされることも配信されることもなく、YouTubeにもほとんどUPされることもない、レビューも筆者以外誰も書く人間がいないというオカノ・フリークですが、このユニットとの最初の出会いは、本記事156位(CONTROLLED VOLTAGE)で触れました草の根BBS・XD Firstclass NetworkのオムニバスCD「XD-submit Vol.3」に収録された「結婚サギに御用心」でした。TV番組で歌謡曲が演奏されるようなフルオーケストラアレンジをDTMでプログラミングした驚きのミュージカル仕立てサウンドは衝撃的で、この楽曲を聴いた筆者は梅田WAVEにカセットテープが販売されていたことを思い出し、すぐさま買いに行ったのでした。こうして手に入れたのが「I'm So Hard Core」で、そのオープニングナンバーが「ツメタクシナイデ」。オカノ・フリークは複数の女性ボーカルが楽曲によって別々に担当するスタイルですが、前身ユニットのボーカル達も普通に参加しているため、楽曲自体も焼き直しのものが多かったように思われます。果たしてこの楽曲のボーカルは吉村シノブが担当しているので、ほぼVELVET PICCADILLYといっても過言ではないのですが、この作品を購入した肌寒くなってきた秋の季節感も相まって、落ち着いた中にもしっとりとした空気がまとわりつくロマンティックなメロディラインが秀逸なポップソングに仕上がっています。吉村シノブは、他のオカノ・フリークボーカルチームである詩季東風香や源代恭子と比べると非常にガーリー寄りで不安定な音程が逆にキューティーなボーカリストですが、この晩秋感漂うポップチューンにはこれ以上なくハマっていると思われます。本作まではまだKING OF PRAISEやVELVET PICCADILLYを引きずっている感が見えるのは、詩季や吉村が全面的に参加していたからですが、本作以降は源代が完全にメインボーカルに据えられた新体制に一新されることになります(以降の経緯については上記記事を参照)。

【聴きどころその1】
 美しいメロディに耳を奪われがちですが、嬉しいのはこのアクの強いリズムプログラミング。一見ドタバタしているように聴こえますが、90年代半ばとしては珍しいほどのアタックの効いたスネアドラムとクッキリしたフィルインが独特のノリを生み出しています。古臭いと言われるかもしれませんが、今の時代には決して感じられない潔いリズムパターンがここには存在しています。
【聴きどころその2】
 この湿り気と哀愁の感覚は、Bメロにあります。ここで入ってくるピアノのフレーズが実にロマンティックで、シンプルで音数の少ない音像にあって見事に映えるピアノサウンドであると思います。なお、間奏のムーディーなサックスのフレーズもシンプルなバックであるからこそ際立っており、実に良い雰囲気を醸し出しています。


144位:「青年14歳」 岡村靖幸

    (1995:平成7年)
    (アルバム「禁じられた生きがい」収録)
     作詞・作曲・編曲:岡村靖幸

      vocals・all instrument:岡村靖幸

      trumpet:小林正弘
      sax:山本拓夫

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 1990年リリースの4thフルアルバム「家庭教師」岡村靖幸にとってのベストアルバムを挙げるならば真っ先に挙げられるのがこの作品ではないかと思われます。シングルカットされた「どぉなっちゃってんだよ」「カルアミルク」「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」・・・青春世代の全てを代弁したあのキラキラしたノスタルジーとドロドロしたエロ妄想をごちゃ混ぜにしたようなザ・岡村ちゃんワールドと、それらを体現する格段にクオリティが向上したサウンドメイクが最高潮に達し、これ以上の作品は生み出せないのではないかと思わせる凄みすら感じさせるものでした。それゆえにこの名盤以降、岡村は楽曲制作に対する燃え尽き症候群を起こしてしまったのか、「ターザン ボーイ」「パラシュート★ガール」「チャーム ポイント」と4年間でシングル3枚のみという寡作に陥り、俗に言うスランプ、もしくはイップスといったような状態で活動は低空飛行を続けていくことになります。
 そのような中1995年末には5thアルバム「禁じられた生きがい」がリリースされます。絶頂期から4年ぶりのフルアルバムということで期待されていたのですが、完成したのは既に1992年までに完成していた未発表曲、未レコーディング曲ということなので、リリース時期にはほとんど楽曲制作をできていなかったということになります。しかしいわゆる寄せ集め、焼き直しとも揶揄されがちな本作の中でもキラリと光る楽曲がありました。それがファンキーなインストゥルメンタル「あばれ太鼓」に続く2曲目「青年14歳」です。あの「家庭教師」に収録されてもおかしくないほどのこの濃厚なファンクチューンは、多彩なボイスサンプルが散りばめられた猥雑なドラムトラックの上で、流れるように英語のような日本語を乗せていくダンサブルの権化的な脅威のリズム感覚が全開となっていて、やはりそのシンガーとしてのセンスに疑いがないことを改めて証明しています。しかしシンガーとして、そしてリズムトラックのセンスが研ぎ澄まされていきつつも、メロディメイカーとしてやや陰りを見せ始めていたことが、2013年頃まで続いていく長きスランプ&イップスに苦しめられることになっていくのです。

【聴きどころその1】
 フェイクを織り交ぜたボイスを取り込んだキレのあるリズムトラック。リズム自体はどちらかというと淡々としている傾向ですが、コクのあるスラップやカッティング、ブラスセクション、オケヒットが全て一体となってリズムを形成しているとうことがこの楽曲の最大の強みです。
【聴きどころその2】
 この澱みがなく流れていくボーカルの天才的なリズム感には脱帽するしかありません。歌からダンスしている姿を思い浮かばせるような、想像力を掻き立てられるような完璧な歌唱と絶妙なタイミングとタイム感覚によるフェイクの入れ方は既に孤高の領域に入っていたと思います。このリズム感覚に納得のいくメロディを乗せるのに長年腐心していたようですが、ようやく近年になってその答えが見つけられた様子が窺えます。


143位:「サイボーグメカニンジャ」 ザ・リーサルウェポンズ

    (2019:平成31年)
    (アルバム「Back To The 80's」収録)
     作詞・作曲・編曲:アイキッド

      vocal:サイボーグジョー
      all instruments:アイキッド

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 2016年に古本屋「ブックマート都立家政店」の店長から広報のためのテーマソング「都立家政のブックマート」とMV制作を依頼されたアイキッドが、MVに出演していた近所のアメリカ人・サイボーグジョーと結成したのが、平成最後にして80年代リスペクト溢れるコンセプチュアルな楽曲を次々と生み出し一躍人気者として扱われているザ・リーサルウェポンズです。もともとアイキッドは2003年にアルバム「arise」をリリースしたロックバンド・caminoのキーボーディストAIとして音楽界に登場した相木清久で、camino脱退後はサウンドプロデューサーとしてアイドル(ももいろクローバー最初期、2009年の1stシングル「ももいろパンチ」収録のc/w「MILKY WAY」の作詞作曲編曲、「ラフスタイル」の編曲)や企画モノ(Blondy bon Biancaの2007年のミニアルバム「エポック・スター☆」へのコンポーザーマスコット・ニジマスとして参加)、その他舞台音楽制作等その多彩な音楽体験とそれらを昇華してセンスよくサウンドに実現させる能力を備えた敏腕サウンドクリエイターとして、細々と活動してきました。しかし彼の才能が開花したのはこのザ・リーサルウェポンズとしての活動からです。作詞作曲編曲全てを手掛け、全ての楽曲のプロモーションビデオを制作するマルチタスクぶりに加えて、動画配信で口コミで人気を広げていく今時のプロモーション戦略が見事にハマり、2019年4月1日(エイプリルフール)に配信リリースされた1stアルバム「Back To The 80's」はiTunesロック部門1位を奪首するなど、ネットの世界から一躍スターダムにのし上がる、まさにアメリカンドリームな成功を収めたのです。
 その「Back To The 80's」にはこれまで動画配信されてきた名曲の数々が収録されているわけですが、名曲「昇竜拳が出ない」は権利関係のもつれで本作では未収録(後に4曲入りシングルとして晴れてリリース)となったものの、オープニングを飾る「80年代アクションスター」等といったノベルティソングでは、ストレート&ナンセンスな歌詞、センス抜群のパロディ色の濃いFM音源シンセ系ギラギラサウンド、しつこいかけ声&合いの手、ジョーのカタコト日本語とネイティブな発音の英語等が持ち味である、80's日常あるあるな楽曲を楽しむことができます。しかし、彼らの本領はアルバム最後の2曲にあるのではないかと思います。80's産業ロック臭満載の「ゴキブリナイトメア」、そして今回選曲の「サイボーグメカニンジャ」です。正直に申し上げてこの楽曲のイントロだけで飯が食えます。この高速シンセベースがのたうち回る感覚、どこかで聴いたような・・・そう、SOFT BALLETです。「No Pleasure」「NEEDLE」とかあのあたりのサイバービートにスカッとするパッドがコードを奏でる雰囲気たっぷりのサウンドメイク、そしてボーカルはマシンボイス、歌詞は中学生英語・・・明らかにサウンド先行のハイテンション・ハイスピードなエレクトリックボディビートチューンは、本気になればどんなサウンドにも対応できますよ、という対応力の高さを見せつけているかのようです。これからも人気を獲得していくとすればアイデア勝負な面が否めませんが、いつでも実力派に転向できる素養があるセンスを備えていることは大きな武器と言えます。激動となるであろう令和以降の時代になんとかして踏ん張っていってもらいたいです。

【聴きどころその1】
 ゴリゴリシーケンスによるシンセベースライン。休符を巧みに生かすことで自動演奏ならではのジャストなノリを生み出しています。こういったマシナリーなノリも80'sサウンドのキモともいうべき大切な要素です。またくぐもり感のあるシンセベースの音色も実にセンスが良いと思います。地下を蠢く様子がこの音色だからこそ表現できていると思われます。
【聴きどころその2】
 このような苛烈なシーケンスベースに引っ張られるサウンドなのに、楽曲自体は強力なベタ感覚に襲われるのは、スプラッシュ感のあるシンセパッドの単純なコード感と、サビのタイトルコールによる部分が大きいでしょう。ベタということは非常にわかりやすく覚えやすいということ。彼らの楽曲にはとにかく「覚えやすい」ということがメリットとして働いています。


142位:「New Day Comes」 ![EXCLAMATION]

    (2000:平成12年)
    (アルバム「"ASTRODYNAMICS"」収録)
     作詞:デーモン小暮 作曲・編曲:吉澤瑛師

      vocals:!(デーモン小暮閣下)
      programming・keyboards:吉澤瑛師

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 メンバー全員が悪魔というコンセプトに白塗りメイク、歌唱や演奏のみならずトークやパフォーマンスに優れた総合的な演出として、最も日本で成功したヘヴィメタルバンドと言ってもよい聖飢魔IIは、1999年に地球征服完了を宣言してパーマネントな活動を休止(いわゆる解散)、メンバーはそれぞれの音楽活動に移っていきます(その後は不定期に再集結を繰り返すことになります)。この聖飢魔IIの象徴ともいえる存在であるデーモン閣下(当時はデーモン小暮閣下)は、解散後にすぐさまソロプロジェクト・![EXCLAMATION]を立ち上げます。せっかく覆面プロジェクトを始めるわけですから音楽性も当然ヘヴィメタル・ハードロック以外になるということで、閣下が相棒に選んだのは、Scudelia Electroのメンバーとして活動していた吉澤瑛師でした。吉澤瑛師といえば旧名:吉澤徹、あの日本のThe Art Of Noiseといわれた3dl(3デシリットル)のサウンドクリエイターとしてデビューした人物です。彼は3dl解散後、アルファレコードを退社して自身の音楽クリエイター集団Think Sync Integralを立ち上げた名レコーディングエンジニア・寺田康彦によって見出され、Spiral Lifeとして活動していた石田小吉(現:石田ショーキチ)と1995年にScudelia Electroを結成、再び第一線に帰ってきました。今回の![EXCLAMATION]プロジェクトは、Think Sync Integralとのコラボレーションが前提としていたようなので、サウンドプロデュースは吉澤と寺田に任されました。ということはこの! [EXCLAMATION]のサウンドは完璧にエレクトロ寄りということになります。
 ミレニアムが明けた2000年、! [EXCLAMATION]はアルバムに先駆けたシングル「AGE OF ZERO」をリリース、頭にメタリックなヘルメットをかぶって近未来感を演出、サウンド面もシーケンスを多用したエレクトロポップを標榜すると、1ヶ月後には1stアルバム「"ASTRODYNAMICS"」がリリースされます。全曲を吉澤瑛師がアレンジャーおよびキーボード&プログラミングとして参加していることからも、! [EXCLAMATION]はもはやデーモン閣下と吉澤のデュオユニットと解釈した方が良いかもしれませんが、実はデーモンのパワフルなボーカルスタイルと吉澤の音圧が強いリズムとエレクトロサウンドとの相性がマッチしており、このプロジェクトは(売り上げはともかく)音楽的なチャレンジとしては成功だったのではないかと思われます。そんな本作で最もデーモンのポテンシャルが発揮されているキャッチーな楽曲が「New Day Comes」です。天高く昇り詰めるようなボーカル、美しいコード進行によるキャッチーなサビのメロディは実に開放的というほかありません。

【聴きどころその1】
 このサビがあるからこそのAメロBメロがある、というほどの強烈な輝きをサビのメロディから感じます。ジンジンするシンセベースに空間を等間隔で流れていく(ぴこぴこ)アルペジオシーケンスは美しいの一言です。
【聴きどころその2】
 アウトロのリズムとアルペジオの余韻がこれまた美しい。リズムにディレイがかけられポリリズムっぽく変化する部分、そしてリズムが終わってアルペジオだけになり終息に向かう部分が、なんともフューチャリスティックで心地良いのです。


141位:「PTA~光のネットワーク〜」 ユニコーン

    (1990:平成2年)
    (ミニアルバム「おどる亀ヤプシ」収録)
     作詞:奥田民生・阿部義晴 作曲: 奥田民生・阿部義晴・小西康陽
     編曲: 小西康陽

      vocals:奥田民生・阿部義晴
      guitar:手嶋いさむ
      chopper bass:堀内一史(EBI)

      computer programming:坂元俊介
      orchestra hit:小西康陽

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 80年代初頭から清水靖晃や土方隆行、山木秀夫らとプログレッシブな音楽制作集団マライア・プロジェクトとして設立まもない芸能事務所ビーイングに所属、亜蘭知子や秋本奈緒美、村田有美らの実験的なニューウェーブ歌謡作品をプロデュースしていたキーボーディスト笹路正徳は、マライア解散後は土方隆行とロックバンドNASCAを結成するかたわら、プロデュース業に邁進することになります。1987年にはPrincess Princessのプロデュースを岡田徹から引き継ぎ、「世界でいちばん熱い夏」を手掛けて彼女達のブレイクの下地を作ると、同時期にもう1つの新人バンドのプロデュースを任されることになります。それが、当時は男性4人女性1人の混成バンドであったユニコーンでした。彼らの1stアルバム「BOOM」は笹路のビーイング時代の盟友であるFENCE OF DEFENSEの西村麻聡を共同プロデューサーに迎えて典型的なバンドサウンドに打ち込み要素をふんだんに取り入れた80'sらしい、しかしながら個性がなかなか見つけづらい作風となりましたが、1988年の2ndアルバム「PANIC ATTACK」の制作前には紅一点のキーボーディスト向井美音里が脱退します。しかしそこからの方向転換が彼らの運命を大きく変えることになります。笹路正徳の弟子筋であり笹路アレンジ作品にてアシスタント的にシンセプログラマーとして経験を積まされていた阿部義晴が、1st「BOOM」にもプログラマーで参加していた縁からユニコーンにサポートキーボーディストとして参画、一気に男臭くなった彼らは、翌年1989年の3rdアルバム「服部」で、もともとの彼らのキャラクターと笹路のマライア時代からの実験精神が爆発してサウンドやコンセプトも全て引っくるめて完全に音楽性が突き抜けてしまい、「大迷惑」という名曲も飛び出し、一躍スターダムにのし上がっていきます。こうなるとバンドの勢いというものは止められません。笹路正徳の手を離れ自立した1990年の4thアルバム「ケダモノの嵐」ではオリコン第1位、日本レコード大賞アルバム大賞を受賞するなど、レコード会社も文句がつけられない箔もつけるともう怖いものはなく、後は自由にやっていくだけとなります。
 「ケダモノの嵐」の1ヶ月後にリリースされたミニアルバム「おどる亀ヤプシ」は、大ヒットしたバンドが好き放題できる権利を得てチャレンジングな作品を発表するという典型的なパターンの作品です。アレンジャーを極力外部に任せるというコンセプトなので、楽曲ごとに大きくテイストが変化してもはやノージャンルといった様相を呈しています。長谷川智樹、矢野誠、仙波清彦といったアレンジャー選択のセンスの良さも手伝って、そこはまさに好き放題かつマニアックな仕上がりの作品なのですが、やはりキラーソングというものをしっかり用意しています。それがこの「PTA~光のネットワーク〜」。PTAというアルファベット3文字、ネットワークのフレーズ、もはや有名なので言及しなくても良いかもしれませんが、TM NETWORK(当時はTMNにリニューアル)のパロディです。アレンジャーにPizzicato Vの小西康陽を起用した完全打ち込み仕様の完全エレクトロポップスタイル、Aメロ〜Cメロまで奥田民生が宇都宮隆の歌真似、キャッチーなのに手のひらを太陽に的な長閑な歌詞のサビ、そして遊んでいるとしか言いようがない小西のオーケストラヒット・・・これはブレイク以後のユニコーン全体の楽曲にも言えることですが、とにかく音楽を楽しく制作している様子が窺えます。しかしそれもこれも売れたことでレコード会社を納得して勝ち取った対価とも言えるでしょう。その対価を元手にさらに成長するかマンネリ化するかは、アーティスト次第ということで、ユニコーンはしっかり成長して(一度は解散しましたが)現在でもマイペースで活動を継続しています。

【聴きどころその1】
 奥田民生の宇都宮隆モノマネの再現率。にもましてシーケンストラックのシミュレート具合もTM NETWORKの楽曲をしっかり研究した成果を生かしています。打ち込みドラムの微妙な揺れも、モコモコしたシンセベース等緻密な音作りも楽しめます。
【聴きどころその2】
 後半の大団円のサビへ向かうまでのテンションの高さ。EBIのチョッパーとオケヒットの応酬、けたたましく連打されるハンドクラップからの大盛り上がりのサビはまさしく構成力の勝利です。そしてラストの漏れ出す(歪めたりキーを下げたりの)即興オケヒットが何よりも素晴らしいです。


 ということで、160位から141位でした。長い!こんなはずではなかったw
 次回は121位までですが、これでも半分に全く到達していないというから唖然としています。次も頑張っても2週間は空いてしまいそうで、単純に見積もっても最終回が9月中旬になりそうですので、思わぬ大河シリーズになりそうです。今後も気長にお楽しみ下さい。




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