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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベスト?ソング200:Vol.4【140位〜121位】

 平成ベスト?ソングシリーズも中盤戦に差し掛かってまいりました。今回がvol.4となりますが、どうやらレビューを書く気はなく、その楽曲を生み出したアーティストのクロニクル的な事象ばかりを説明しているだけのような感じがしてまいりました。どうしても背景から攻めたがる悪い癖が出ているようです。しかしもはやその癖は手グセですので止められるはずもなく、批評性のあるレビューや音楽誌のような文面は、それ専門のライターやブロガー、ネット上に無数に存在する音楽評論家の方々にお任せするとして、ここでは他ではなかなか取り上げられないような楽曲を挙げていきながら、皆様と一緒に「ああ、こんな曲あったよね〜」とか、「そうそう、この曲のこのフレーズがいいのよね〜」とか、一部分でも共感していただける瞬間がありましたら、この企画は成功ではないかと思っています。

 さて、平成時代(1989.1〜2019.4)に発売されたシンセサイザーで彩るTOPの画像ですが、上の画像は今回で最後です。というわけで、ネタバラシを左上から右へ。

KORG Prophecy(1995)、Roland JD-800(1991)、
KORG TRINITY (1995)、KORG RADIAS(2006)、
YAMAHA SY77(1989)、QUASIMIDI Sirius(1997)

 KORG率高いですね。ProphecyはROMプラー全盛期にあえてモノフォニックシンセで勝負してきた姿勢とあの独特のリボンコントローラーがよかったですね。JD-800はルックスしかないでしょう。TRINITYはあの時代のオールインワンシンセの主流でした。そしてRADIASは2000年以降のシンセの中でも1、2を争う純度の高い電子音を出せると思っています。SY77はFM音源後継機ですね。AWM2音源。そしてSiriusは当時はまだ珍しかったマイク付きのテクノ仕様シンセです。懐かしいですね。

 というわけで、次回からはTOP画像が変更されるという内容とは全然関係のない話ですが、今回は平成ベスト?ソング140位から121位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。



140位:「青春のEVERGREEN (New Remix Version)」 田山真美子

   (1990:平成2年)
   (アルバム「瞳の法則」収録)
    作詞:麻生圭子 作曲:井上ヨシマサ 編曲:井上鑑

      vocal:田山真美子

      electric guitar:今剛
      bass:高水健司
      drums:山木秀夫
      keyboards:井上鑑
      strings:加藤JOEストリングス
      chorus:広谷順子
      chorus:比山貴咏史
      chorus:木戸やすひろ

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 平成の最初を飾った清楚系アイドル・田山真美子の全盛期は歌手デビューを果たした1989年だったのではないかと思います。1988年の増田未亜とのW主演ビデオ作品「地球防衛少女イコちゃん2」で人気を博した翌年、彼女はアニメ「名門!第三野球部」エンディング主題歌のタイアップ「青春のEVERGREEN」で堂々とデビューを果たします。そのお嬢様然とした佇まいによる味わい深さと、拙い歌唱もそれはそれで許される範囲内というイメージの勝利と言えるこの哀愁歌謡曲のレベルは高く、スタートとしては順調な部類であったと思われます。そして同年冬になるとクリスマス戦線に殴り込みをかけると、麗しいトレンディ歌謡の2ndシングル「あの頃、ラストクリスマス」をリリース、さらに同時期に同じCBSソニーからデビューした中山忍と河田純子との期間限定ユニット・楽天使(中山と田山の不安定歌唱コンビの奇跡のコラボ:河田は歌が上手い方だったので気の毒でした)を結成しシングル「天使のシンフォニー」をリリース、なんと同時期に2枚のクリスマスソングを自分で競わせるというよくわからない戦略で、89年の年末をにぎわせたのでした。
 そして翌1990年、3rdにしてアルバム先行シングル「春風のリグレット」をリリース後まもなくして、待望の1stアルバム「瞳の法則」がリリースされます。これまでのシングル曲に加えて、清楚まっしぐらの上品でセレブな楽曲を多数収録した本作は、現在でも隠れた名盤として語られる資格のあるクオリティを備えていますが、その中でもやはり一段と輝きを放っているのは、「青春のEVERGREEN」です。アルバムでは"New Remix Version"と称され、シングルバージョンよりもさらにゴージャスかつロマンティックなアレンジが施されています。田山のイメージぴったりの哀愁メロディは井上ヨシマサのペンによるもの。彼は80年代後半から90年代前半にかけてのアイドル冬の時代の楽曲も多数手掛けており、この経験が後のAKB楽曲の大ヒットに生かされています。そしてシングルにはない流麗なストリングスによる大袈裟なアレンジを施しているのが井上鑑ですが、彼に関してはもはや何も言うことはないでしょう。非常にサウンドメイクがプロフェッショナルで、どしっとした安定感が楽曲からも感じられます。故にこのW井上による楽曲は平成初頭アイドルソングの金字塔の1つとも言える名曲となりましたが、田山のアイドルとしての旬は長続きせず、数年後には女優業もままならずフェイドアウトしていくことになります。

【聴きどころその1】
 ギラギラしたピアノと弾けるギターのカッティング。控えめに跳ねるようなリズムに乗って、少々尖ったギターが目立つミックスになっています。この尖り方とリズムの融合で硬質な肌触りのサウンドに処理されている印象を受けます。

【聴きどころその2】 
 楽曲を盛り上げるストリングス&コーラス。哀愁メロディをさらに引き立たせる流れるような温かみのある旋律は、シングルバージョンではブラスセクションでリズミカルに演出していた部分をさらにメロウに差し替えたものです。この差し替えで見事に楽曲が生まれ変わりました。


139位:「MOONSHINE DANCE (THE ENTERPRISE MIX) 」 access

   (1993:平成5年)
   (アルバム「ACCESS II」収録)
    作詞:貴水博之 作曲・編曲:浅倉大介

      vocal:貴水博之
      keyboards・programming:浅倉大介

      guitars:葛城哲哉

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 貴水博之浅倉大介のエレクトロポップデュオaccessは、1992年のデビュー曲「Virgin Emotion」はまだ助走段階でして、本領発揮は1993年からとなります。この年のaccessの勢いは鬼気迫るものがありました。2ndシングル「JEWELRY ANGEL」はいまだブレイク前夜ではあったものの楽曲の完成度には目を見張るものがあり、そのポテンシャルを見せつけると、1ヶ月後の1stアルバム「FAST ACCESS」がオリコン第2位といきなりブレイク、ここからはライブとシングルリリースを交互にこなして急激にファンを増やしていきました。そして3rdシングル「NAKED DESIRE」がオリコン第3位とスター街道に乗った彼らが、さらなる勢いをつけるべくリリースした4thシングルが彼らの代名詞ともいえる「MOONSHINE DANCE」です。キャッチーなサビと強烈なアタック音が魅力のこの名曲は、軟派なヴィジュアルとは裏腹に、シンセサイザーマニア浅倉大介による骨太なエレクトロサウンドに彩られており、彼らの音楽性と人気のバランスが頂点に達しつつあることを印象付けた楽曲でした。そしてこの年秋にリリースされた2ndアルバム「ACCESS II」は彼らにレコード大賞アルバム賞をもたらしてくれることになるわけです。
 さて、「ACCESS II」はPhil Kaffelがロサンゼルスでミックスダウンしており、当然シングルカットされた「NAKED DESIRE」や「MOONSHINE DANCE」も"THE ENTERPRISE MIX"と称したアルバム用のミックスが施されています。しかしシングルバージョンと比較すると、流石にこのL.A.ミックスは音の深みが違うといいますか、細部まで煮詰められた音処理を堪能できます。したがってここで取り上げるのは「MOONSHINE DANCE」のアルバムバージョンです。ゴリッゴリのイントロにS.E.満載のギミック、そしてどでかいリズム音。1993年はまだ辛うじて80年代の香りが残っていた時期で、これが翌1994年になるとガラリと音の傾向が変わっていくのですが、accessのこの派手派手なサウンドはレイト80'sの過剰な音に結果として引導を渡す格好になったとも言えるかもしれません。それほどの強烈なインパクトがこの「ムーンシャイダンッ!ドーーーンッ!」には宿っているのです。

【聴きどころその1】
 誰がなんと言おうと「ムーンシャイダンッ!ドーーーンッ!」。この誰でも口ずさんでしまうこのフレーズ。改めて聴いてみるとこの「ドーーーンッ!」はそれほど強烈ではないのですが、誰もが「ムーンシャイダンッ!」とくれば「ドーーーンッ!」と応えてしまう魔力が存在しています。これが本物のキラーフレーズというものでしょう。このフレーズを考えついただけでも勝ったも同然というものです。

【聴きどころその2】 
 THE ENTERPRISE MIXではサビの「ムーンシャイダンッ!」のカウンターとなる「このミステリー」にウィスパーボイスが重ねられている部分が強調されています。これが功を奏しているかどうかは聴き手にもよると思いますが、奥行きを持たせるという意図は理解できます。また合間合間にノイズのS.E.を絡ませてくるところに浅倉のシンセマスターとしての意地も感じさせます。
 


138位:「獣拳戦隊ゲキレンジャー」 谷本貴義

    (2007:平成19年)
    (シングル「獣拳戦隊ゲキレンジャー」収録)
     作詞:及川眠子 作曲:岩崎貴文 編曲:京田誠一

      vocal:谷本貴義

      guitars:岩崎貴文
      keyboards・programming:京田誠一
      chorus:ヤングフレッシュ

獣拳戦隊ゲキレンジャー

 実はJR東日本や東京メトロの発車メロディを多数手掛けている異色のシンガーソングライター谷本貴義は、2002年シングル「One Vision」(元原田真二バンドの太田美知彦プロデュース)でデビュー、アニメ「金色のガッシュベル!!」オープニング主題歌「君にこの声が 届きますように」で脚光を浴びると、彼の歌唱力を最も生かすことができる特撮ソングの仕事が舞い込んでまいります。彼が歌うスーパー戦隊シリーズ第31作・獣拳戦隊ゲキレンジャーの同名タイトルの主題歌は、カンフーをモチーフとした戦隊モノということで、熱さ全開のいわゆる燃えソンで、谷本の音域の広い歌唱力が一体どこまで続くのか、ハラハラドキドキするのを楽しむことができる、00年代きっての名特撮ソングに仕上がっています。
 この「獣拳戦隊ゲキレンジャー」の作曲者は、当時特撮ソングらしくない特ソンといわれた戦隊モノらしくないオープニング主題歌「魔法戦隊マジレンジャー」を作曲するとともに爽やかな歌声まで披露した、岩崎貴文です。彼は2001年、パワーポップバンド・No?Yes!!のギタリストメジャーデビュー、バンド解散後は遠藤正明が歌う「爆竜戦隊アバレンジャー」の主題歌を作曲したことをきっかけにアニメ特撮を中心とした作家活動に転向します。彼のメロディメイカーとしての特徴は極力わかりやすい無理のないメロディラインです。この分野は子供がリスナーの中心でもあるので、とにかくわかりやすさが第一に求められると思われますが、そのあたりをしっかり意識してキャッチーなメロディを構築しています。さすが当時ノリにノッていたコンポーザーと言えるでしょう。そしてアレンジャーは古くは杉真理のバックバンドでキーボーディストを務め、さらにはセイントフォーの2ndシングル「太陽を抱きしめろ」の編曲を手掛けたことでも知られるベテラン編曲家・京田誠一なので振り切れた熱さの演出は折り紙付きです。アバレンジャー・マジレンジャーと岩崎とコンビを組んできたこともあり、このゲキレンジャーでも見事なコンビネーションをサウンドで表現しており、カンフーだから中華風というベタなアプローチではあるものの、その分アクションのキレを想起させるアレンジメントで谷本の歌唱を盛り上げることに徹しています。とにかく熱さとテンションでは戦隊モノでも1、2を争う名曲と言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 とにかくどこまで高く上がっていくのかとハラハラしてしまう谷本の歌の音程の高さ。サビの終わりでタイトルコールを高く歌い上げるのですが、後半はそこからさらに転調して人間の限界まで挑戦するかのような来るぞ来るぞの緊張感からのカタルシスはまさにスポーツを見るかのごとき感覚です。

【聴きどころその2】 
 そのような限界突破な歌メロを流れるように紡ぎ出す岩崎貴文の絶頂期のメロディセンス。特撮ソングのお約束事をしっかり取り入れつつ、あくまでキャッチー性を維持したフレージングには、当時の彼の勢いを感じさせます。


137位:「背徳の瞳~Eyes of Venus~」 V2

    (1992:平成4年)
    (シングル「背徳の瞳~Eyes of Venus~」収録)
     作詞・作曲・編曲:V2

      vocal・synthesizers・piano:小室哲哉
      drums・piano:YOSHIKI

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 1991年、8thアルバム「EXPO」をリリースしたものの以前の勢いが斜陽化していたTM NETWORK改めTMNと、3rdアルバム「Jealousy」が大ヒット、昇り竜のごとき急成長を遂げまさに絶頂期にあったX(後のX JAPAN)。この対照的な2つのバンドのメインコンポーザーであり顔ともいえる小室哲哉YOSHIKIの2人が音楽業界にぶち上げた最大級のロケットがV2プロジェクトでした。EPICソニー所属の小室とソニーレコード所属のYOSHIKIが(同じソニー系列ではあるが)レーベルの垣根を越えて結成したV2はシングル1枚リリースのみが前提の一過性のユニットとして、1991年末にたった1回のライブを行い、翌1992年にオリジナル楽曲「背徳の瞳~Eyes of Venus~」をリリースしオリコン第2位を記録するも、潔く活動はここで終了します。もっとも当時は多忙を極めるスーパー売れっ子の2人でしたので、それは当然のこととして受け止められたと思います。
 ではそもそもV2の音楽性はどのようなものであったかというと、唯一のシングル「背徳の瞳~Eyes of Venus~」は当時の2人の音楽的背景から察するにハードロック〜プログレッシブロック路線に傾倒することは想像に難くなく、実際に仕上がった楽曲も8分を超える長尺のプログレ仕様で、YOSHIKIのバーサーカー的な狂気のドラミングが繰り出される中、シンフォニックメタル要素も含んだ楽曲がおよそパワフルというイメージからは真逆ともいえる小室の独特のか細いボーカルで歌われるという、どのような振り幅で聴けばよいのか難しい選択を迫られる独特なロックチューンとなっています。カップリングの生ドラム&プログラミングの競演ミディアムチューン「Virginity」からも漂わせているクラシカルな部分は彼ら2人の素養にも関わっていると思いますが、イントロのピアノ連弾から、中盤の千手観音高速ドラム、アウトロの嘶きシンセソロに至るまで、とにかく見せ場には事欠きません。せっかくのスーパーユニットなのでここで魅せなくてなんとするという確固たる意志を隠そうとしないという、これでこそ多方面に配慮を怠らずレーベル間を超えた禁断のユニットにふさわしい結果を残したことも頷ける楽曲に仕上げることができたという点では、このV2プロジェクトはひとまず成功だったのではないかと思います。このプロジェクトの成功を契機に、小室は他者のプロデュースに傾倒していき、90年代のあの小室ブームを生み出していくことになるわけです。なお、その後小室哲哉とYOSHIKIは友好な関係を維持し、2002年には小室哲哉の当時のパーマネントバンドglobeにYOSHIKIが加入し、globe extremeとしてシングル「seize the light」をりりーするなど、コラボは単発的ではありますが継続していくことになります。

【聴きどころその1】
 やはりYOSHIKIのドラムに尽きるのではないでしょうか。X JAPANでも結局YOSHIKIドラムにしか耳が行かないことになってしまうわけですが、あの叩くというより殴るという表現が適切なドラミング。普通に良くバテずに叩き切るものだなあ、と当時は感心したものでした。雑なリズムキープに見せてしっかり帳尻を合わせてくるところが素晴らしいのです。

【聴きどころその2】 
 当時はプログレに傾倒していたと思われる小室哲哉が天高くノイズを撒き散らすMemory Moogによるアウトロのシンセサイザーソロ。実はライブ演奏よりもこのスタジオ録音バージョンの方が好みです。最後フレーズを投げ捨てて低音を効かせながら終わるところが特に面白いです。


136位:「CALL ME EVERYDAY」 花澤香菜

    (2013:平成25年)
    (シングル「Silent Snow」c/w収録)
     作詞:西寺郷太 作曲:北川勝利 編曲:桜井康史・北川勝利

      vocal:花澤香菜

      guitar:奥田健介
      programming:桜井康史
      chorus:北川勝利
      chorus:acane_madder

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 2010年代を代表する子役上がりのアイドル声優・花澤香菜は、2006年には弱冠高校3年生にしてアニメ「ゼーガペイン」のヒロイン・カミナギ・リョーコ役を射止め本格的に声優の道に進むようになります。2007年には「スケッチブック 〜full color's〜」、「ぽてまよ」とその独特のキュートな声質を生かして次々と主役を演じるとその後は順風満帆、「〈物語〉シリーズ」の千石撫子、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の黒猫といった当たり役にも恵まれ、一躍声優のトップアイドルに成長していきますが、こうなると次に待たれるのは歌手デビューということで、2012年に彼女をシンガーとして育て上げる一大プロジェクトが立ち上がります。そんな絶頂期を極めつつあった花澤のサウンドプロデューサーに選ばれたのは、ポスト渋谷系バンドとして良質な楽曲を提供し続けてきたROUND TABLEの名コンポーザー・北川勝利でした。既に渋谷系的なサウンドが下火になってからのデビューであったROUND TABLEが行き詰まった時期にビクターのディレクター福田正夫に目をかけられ、ボーカリストNinoを迎えROUND TABLE featuring Ninoとして数多くのアニメソングの名曲を手掛けそのメロディメイカーとしての才能を開花してきた北川は、彼の才能とセンスを遺憾なく注ぎ込んだ楽曲で花澤を渋谷系リバイバルのポップアイコンとして機能させ、そんな良質な楽曲とスタッフに恵まれた花澤の音楽活動は、その後も高い評価を得ながら息長く続いていくことになるわけです。
 2012年に北川作曲の「星空☆ディスティネーション」でデビュー、続く2ndシングルは中塚武作曲の「初恋ノオト」、3rdシングルは神前暁作曲の「happy endings」と、気鋭のコンポーザーを次々と起用すると、この年4枚目となるシングル「Silent Snow」をリリースすることになります。表題曲は再び北川を迎えたクリスマスソングですが、ここで取りあげたいのはカップリング曲の「CALL ME EVERYDAY」です。花澤のシングルのカップリング曲はアルバムには未収録が多いもののクオリティの高い楽曲も多いのが特徴で、この「CALL ME EVERYDAY」は作詞がNONA REEVESの西寺郷太、作曲が北川勝利、そして桜井康史と北川の共同アレンジという豪華なラインナップです。桜井康史は1998年にポスト渋谷系デュオユニットCorniche Camomileのメンバーとしてデビュー、「ONEPIECE RECORDING」「A NEW STEP」という2枚の良質なミニアルバムを残していますが、その音楽性からデビュー当初よりROUND TABLEとの共演も多く、北川のアニソン進出に伴い、北川楽曲のアレンジャーとして彼が生み出す名曲に多く関わっていくことになるアーティストです。「CALL ME EVERYDAY」でも軽快なプログラミングによりキュートで爽やかなサウンドを演出、渋谷系らしい幸福感に満ちた雰囲気を楽曲に染み込ませるセンスに非常に長けており、北川とのコンビネーションも抜群です。西寺のあざといほどのリズム感を擁した歌詞や北川の相変わらずのキャッチーなメロディライン、花澤の声優ならではの訴求力抜群のラップも聴き手を魅了しますが、全体を支えているのは桜井康史のカジュアルなサウンドセンスによる部分が大きいと思われます。こうしたカップリング曲でもその良質な楽曲を見せつけた花澤は、翌2013年の名盤1stアルバム「claire」でポスト渋谷系歌姫の名を欲しいままにしていくのです。

【聴きどころその1】
 あえてチープな電子音を多用してカジュアルでキュートな主人公を演出する桜井康史のアレンジメント。単音の電子音や音程の高い軽めのエレドラによるフィルイン、爽やかさを失わないS.E.など、とにかく余計なテクニックも見せず余韻も残さないアッサリ味のサウンドメイクです。

【聴きどころその2】 
 花澤香菜の楽曲は本人が声優であることをよく理解した上で、その声の魅力をしっかり引き出していることに好感が持てます。この楽曲でもガールズな日常を切り取る感覚が絶妙で、途中の可愛らしいラップの演出力は彼女ならではのポップセンスによって初めて成り立つものでしょう。


135位:「Crosswalk」 鈴木みのり

    (2018:平成30年)
    (シングル「Crosswalk/リワインド」収録)
     作詞:坂本真綾 作曲:北川勝利 編曲:北川勝利
     弦編曲:河野伸

      vocal・backing vocals:鈴木みのり

      guitar:石成正人
      bass:千ヶ崎学
      drums:佐野康夫
      acoustic piano:末永華子
      strings:金原千恵子ストリングス
      programming:北川勝利
      programming:acane_madder

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 花澤香菜のプロデュースのみならず北川勝利は2002年のROUND TABLE featuring Nino「Let Me Be With You」以来、アニメソング界において現在まで数々の名曲を生み出していきます。牧野由依の「シンフォニー」(ARIAシリーズ)、坂本真綾の「マジックナンバー」(こばと。)、中島愛の「メロディ」(たまゆら)、吉谷彩子の「恋のオーケストラ」「放課後の約束」(謎の彼女X)、リョウときりんの「笑顔になる」(幸腹グラフィティ)、やなぎなぎの「ユキトキ」「春擬き」(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。)、「over and over」(Just Because!)・・・もし彼がアニソンの世界に声をかけられていなかったとすれば、彼の類稀なポップセンスは一握りの渋谷系POPS愛好家達にしか記憶されなかったでしょうから、この作家活動としての方向性は大正解であったと言えると思います。
 そしてアニソンのみならずJ-POP史上に残るメロディメイカーの地位に昇り詰めた感のある北川の最新のアニソン名曲といえば、鈴木みのりが歌うこの「Crosswalk」ということになるでしょう。アニメ「あまんちゅ!〜あどばんす〜」のオープニング主題歌であるこのバラードソングは、佐藤順一監督作品特有の無垢で純粋なノスタルジーな日常をこれ以上になく表現しきった名曲です。鈴木みのりといえば、「マクロスΔ」の作中音楽ユニット・ワルキューレのメンバーとして抜擢された歌唱力抜群の声優、というよりかは紛れもなくシンガーで、ソロデビューは2016年のワルキューレとしての活動から2年経過した2018年のアニメ「ラーメン大好き小泉さん」のオープニング主題歌「FEELING AROUND」です。ビクターのアニソン専門レーベルflyingdogからポスト中島愛という立ち位置でデビューした彼女とって、この2ndシングル「Crosswalk」に出会えたことは幸運であったと言えるでしょう。坂本真綾による初々しくも青春を感じさせる等身大の歌詞世界と、この手のテンポの楽曲において最も本領を発揮すると言ってよい北川勝利謹製のメロディライン、そして楽曲の盛り上げに貢献している河野伸のオーケストレーションが完璧にハマった極上の完成度による名曲がここに爆誕しています。こういったシンガーにとって一生モノとも言える楽曲を生み出す能力が非常に高いのが北川勝利ですが、彼のポップセンスは枯れることが今のところありませんから、令和の時代に突入してもまだまだ彼の時代は続いていくことになるに違いないと思われます。

【聴きどころその1】
 Bメロからのストリングスの入り方。そこから連なるサビまでの流れ方。そして2周目では既にAメロから上乗せされているストリングスが既にワクワクを期待させる動き方をしていて、全体としてストリングスが大いに支配している典型的な楽曲です。しかし決してクラシカルかつ主役に躍り出ることはなくバンド演奏やプログラミングの盛り立て役となっているベストオブバッキングなポジションを保っています。

【聴きどころその2】 
 メロディラインとしては王道の北川メロディで、そのほっこりしたAメロBメロからの泣きのサビはもはや十八番。最大の見せ場である「またねと君が手を振るとき↓ぃ↑い〜♪」の語尾の揺らし方が実に絶妙です。カラオケで歌うときはこの部分をいかに自然に歌い切れるかがポイントとなるでしょう。


134位:「I believe...」 結城アイラ

    (2009:平成21年)
    (シングル「Weeping alone」c/w収録)
     作詞:ucio 作曲・編曲:拓殖敏道

      vocal・backing vocals:結城アイラ

      keyboards・programming:拓殖敏道
      backing vocals:ucio

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 2007年にアニメ「sola」のオープニング主題歌「colorless wind」(超名曲!)でソロデビューを果たした結城アイラは、梶浦由紀仕事で鍛えられた歌唱力と大久保薫の素敵なサウンドメイクに支えられ快適なスタートを切ると、アニメ「アイドルマスター XENOGLOSSIA」の後期オープニング主題歌「残酷よ希望となれ」、アニメ「true tears」のエンディング主題歌「セカイノナミダ」と、次々と話題作のテーマソングに抜擢され、順調な流れに乗りアニソンシンガーとしての実績を固めていきます。そして2009年、結城アイラは第2フェーズへと移行します。アニメ「ティアーズ・トゥ・ティアラ」前期エンディングテーマを射止めた彼女は「Blue sky,True sky」を歌いますが、この涼しげで風通しの良いエレクトロチューンを手掛けたのが柘植敏道です。2004年にあの「ひだまりスケッチ」エンディング主題歌「芽生えドライブ」で一躍有名になるmarbleの菊池達也と音楽制作ユニット・little littleを結成、MEGUMIの音楽活動や茶太が歌うアニメ「ぽてまよ」エンディング主題歌「うたたね」のアレンジを手掛け、繊細なシンセサウンドを武器に経験を積むと共に、2005年にはボーカリストucioとハウスやボッサを基調としたアーバンポップユニットVadooを結成、後にLil'に改名し3枚のアルバムをリリースしていきます。そしてLil'は大きくエレクトロに振り切ったユニットLILとして2010年、ミニアルバム「LIPS IN LUSH」で遂にメジャーデビューに漕ぎ着けるわけですが、その名刺代わりとして手掛けたのがこの「Blue sky,True sky」というわけです。
 結城アイラに話を戻しますが、彼女は「Blue sky,True sky」に引き続き「ティアーズ・トゥ・ティアラ」後期オープニング主題歌「Weeping alone」を歌うことになりますが、実はこのシングルのカップリングに名曲が潜んでいます。それが再び柘植敏道とタッグを組んだ「I believe...」です。軽快なハウス調のリズムに乗ったサウンドの厚みをスライスしたかのような良い意味での薄っぺらいサウンドが実にファンタジック。まさにVadoo〜Lil'時代のアーバンな作風と当時のLILの過剰なエレクトロの中間に位置するかのような絶妙なバランスによって仕上げられた極上のシンセパッドとシーケンスが堪能できる名曲です。この楽曲によってエレクトリックサウンドに傾倒し始めた結城は、次のシングル「Dominant space」(アニメ「戦う司書 The Book of Bantorra」後期エンディング主題歌)ではkukuiのmyuとコラボして独特のダークなファンタジックエレポップへシフトするも少々マニアックになりすぎたのか、「LAMENT〜やがて喜びを〜」(アニメ「伝説の勇者の伝説」オープニング主題歌)ではエレクトロポップの体をなしながらも自身の歌唱力を生かした楽曲派へと返り咲き、その後は自身のルーツでもあるジャズ歌謡へと取り組みながら、作詞家としても活動範囲を広げて現在も活躍、柘植敏道改めTSUGEと相棒のucioはLIL解散後も共に仕事をすることが多く、特に宮野真守の楽曲を多く手掛け第一線で活躍しています。

【聴きどころその1】
 この楽曲は2種類のシンセサイザーパートの魅力によって成り立っています。まずはコード進行を司るサスティンの長いシンセパッド。この鋭利な刃物によって研ぎ澄まされたかのようなシャープなパッド音色が楽曲全体を支配しています。

【聴きどころその2】 
 もう1つのシンセサイザー パートは、楽曲のスピード感を損なわないためのシーケンスプログラミング。特にスピードアップしていく間奏部分の高速シーケンスはある種のクドさを排除した繊細な音像を演出しており、電子音とジャストの店舗感覚が刻み込まれることへの気持ちよさを十二分にアピールしています。


133位:「愛のタワー・オブ・ラヴ」 Negicco

    (2013:平成25年)
    (シングル「愛のタワー・オブ・ラヴ」収録)
     作詞・作曲・編曲:西寺郷太

      vocals:Nao☆
      vocals:Megu
      vocals:Kaede

      keyboards・programming・background vocals:西寺郷太
      electric guitars・electric piano:奥田健介
      background vocals:connie

愛のタワー・オブ・ラヴ

 2003年に新潟県の名産ネギ「やわ肌ねぎ」PRのために結成されたご当地アイドルNegiccoが、まさかここまで全国的人気を誇るアイドルグループになるとは当時は夢にも思わなかったでしょう。サラリーマンと兼業するプロデューサーであったconnieによる良質な楽曲には定評があったものの、当初の4人組からNao☆MeguKaedeの3人組になってから徐々に成長を遂げていったNegiccoは、いつの間にかネット番組のアイドル企画等で注目を浴びる存在となり、メジャー進出への機運が高まってくると、2011年にタワーレコードが立ち上げたアイドル専門レーベルT-Palette Recordsから、シングル「恋のEXPRESS TRAIN」で苦節8年で遂にメジャーデビューを果たすことになります。しかしその勢いは周囲の期待以上にここでさらに加速し、2013年から2014年までNegiccoにとって忘れられない運命の2年間が始まります。
 まず最初にリリースされたのが、今回取り上げるメジャー第3弾シングル「愛のタワー・オブ・ラヴ」です。この楽曲では初めて外部のプロデューサーを起用、NONA REEVESのPOPSクリエイター西寺郷太が全面的に手掛けたこのエレクトロポップは、ただ良質なメロディと肌触りの良いプログラミングだけではない、クセのあるベースラインがミニマリズムよろしく動き回るチャレンジングなサウンドメイクが魅力です。もともと西寺の80's由来のメロディメイカーとしての抜きん出たセンスは、NONA REEVESの一連の名曲群でも既に評価されていますが、彼がアレンジまで手掛ける場合は自身がプログラミングをこなすエレクトロポップ調に仕上げることが多く、特に当時はシンセベースの打ち込みにこだわっていた様子もうかがえました。この楽曲と同じようなタイプに南波志帆のミニアルバム「君に届くかな、私」に収録された「それでも言えない YOU&I」がありますが、どちらもクラブ仕様の踊れるシンセベースによるシーケンスがフィーチャーされており(12インチバージョンではさらにドラッギーなシンセベースに)、これまでのNegiccoの作風にまさに新風を吹き込んだ形となったのでした。そしてここで一皮剥けると一気にサブカル化が加速、このような楽曲派なアイドルには通過儀礼と言っても良い小西康陽プロデュースの「アイドルばかり聴かないで」をリリースするとともに1stアルバム「Melody Pallete」が好評を博し、同年秋には完全にプロモーション的にも急激にクオリティが向上していく楽曲としても往年のPerfumeのブレイク時と酷似した雰囲気を身に纏った、再び西寺郷太プロデュースのシングル「ときめきのヘッドライナー」がリリースされ、完全にブレイクへの下地が出来上がります。そして飛躍の2014年、矢野博康プロデュースの弾けるスペシャルポップチューン「トリプル!WONDERLAND」、田島貴男が手掛けたローカル色溢れるサマーソング「サンシャイン日本海」、そしてconnie&田島貴男のウインターソング「光のシュプール」が遂にオリコン第5位にランクインし、ようやくNegiccoは全国的にブレイクを果たし、スターダムへの軌道に乗り始めたわけです。そして2015年初頭のサブカルチャー愛好者垂涎のShiggy Jr.、スカート、Orland、口ロロ、蓮沼執太ら豪華ゲストアーティストを作家陣に加えた2ndアルバム「Rice & Snow」で、彼女達のブレイクへの道のりはひとまず大団円を迎えることになり、以降の活躍は皆様ご存知の通り。Around 30となっても誰一人不幸にならないアイドルグループとしてソロ活動も私生活も充実したまま活動を続けています。

【聴きどころその1】
 とにかく動き回るシンセベース。これ以上に聴きどころなどあるはずがありません。これは聴く方もそうなのですが、打ち込む方がもっと楽しくなるタイプのフレージングです。このベースラインにさすがは80'sマニアなパワフルスネアによるリズムトラックがプラスされて、この独特のカッコ良さが生まれるというわけです。

【聴きどころその2】 
 上記のようなビートを効かせているため勘違いするかもしれませんが、楽曲自体はいたってゆったりした退いては寄せるような波のごときチルアウトな曲調です。しかし西寺がライブでも盛り上げられるように狙い過ぎとはいえお祭りみたいな囃子(合いの手)を入れてみたりするものですから、なんだかんだでダンスミュージックと言える仕上がりとなっています。


132位:「ふたりの宇宙」 薬師丸ひろ子

    (1991:平成3年)
    (アルバム「PRIMAVERA」収録)
     作詞:大江千里 作曲:坂本龍一 編曲:坂本龍一・成田忍

      vocal:薬師丸ひろ子

      guitars:成田忍
      bass:荻原基文(MECKEN)
      sax:矢口博康
      synthesizer operator:木本靖夫

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 デビュー以来40年以上もカリスマ的人気を誇る大女優・薬師丸ひろ子の音楽活動は、ご存知のとおり1981年の主演した同名映画の主題歌「セーラー服と機関銃」から始まります。80年代前半はあくまで女優としてのポジションを崩さず、主演映画の主題歌を歌うというスタンスで「探偵物語」「メイン・テーマ」「Woman "Wの悲劇"より」といった大ヒット曲を生み出します。85年からは映画主題歌を歌うスタンスは「紳士同盟」等で継続しながら、「あなたを・もっと・知りたくて」「ささやきのステップ」といったCMタイアップも増加し、以前の勢いほどではないにしても80年代はヒット曲を積み重ねていくことになります。また、1年に1枚のペースでリリースされるアルバムの評価も高く、「古今集」「夢十話」「花図鑑」「星紀行」という漢字三文字シリーズは当時のアイドルソングとは一線を画したゆったりとした落ち着きのある曲調を貫き(その楽曲スタイルは同タイプの女優兼アイドルであった斉藤由貴に引き継がれていきますが)、個性的な声質ながら上手さも兼ね備えた歌唱で、熱狂的な信者を獲得していったわけです。
 年間1枚という律儀なペースでアルバムをリリースしていく薬師丸ひろ子は、1991年に玉置浩二と結婚し活動休止するまで(1998年に離婚)、8枚のアルバムを残しています。その休止前ラストアルバムとなったのが、8thアルバム「PRIMAVERA」です。作曲者に上田知華、矢野顕子、KAN、楠瀬誠志郎、川上進一郎を起用し、アレンジャーとしては大村雅朗と清水信之という大御所が担当したこの作品は、じつはこれまで彼女のアルバムに参加してそうでしていなかった作編曲家が参加しています。それが言わずと知れた坂本龍一です。本作では2曲に参加していまして、それが「DISTINEY」と今回選びました「ふたりの宇宙」です。この「ふたりの宇宙」は、1988年のアルバム「Sincerely Yours」収録の吉田美奈子マッドアレンジ曲「ハイテク・ラヴァーボーイ」以来のニューウェーブ仕立てで、およそ薬師丸ひろ子らしくないエレクトロハウス歌謡にチャレンジした異色の楽曲です。しかも作詞が大江千里、(なお、大江は前作「HEART'S DELIVERY」収録の「瞳を知りたい」にて作詞作曲を担当)作曲が坂本龍一という異色のコラボもさることながら、注目すべきは坂本龍一と成田忍の共同アレンジという点です。URBAN DANCE解散後は遊佐未森や鈴木トオル等のプロデュースを手掛けてきた成田は、この楽曲で坂本と初コラボ。もともとURBAN DANCEでは細野晴臣や高橋幸宏の楽曲を歌うことも多く、YMOとの関係性も深い彼がここに来てYMO全員と共同作品を制作するという感慨深さもありますが(なお、成田は出自が4-DということもありP-MODELの元メンバー達とのコラボも多く、YMOとP-MODELをリンクさせるテクノポップ界の最重要人物の1人です)、この「ふたりの宇宙」での強力なハウスリズムは坂本龍一が当時自身のアルバム「ハート・ビート」でハウスに傾倒していたことを考えるとさもありなんというところですが、ハウスで宇宙なのにどこか裏ぶれた感覚を醸し出す空間処理的なギターワークは、成田忍による貢献度が高いと思われます。この大江千里〜坂本龍一〜成田忍という、他ではあり得ないコラボという事実だけでも、記憶に留める価値がある楽曲と言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 空間を意識したエフェクティブな成田ギターと乾いたサックスはどこを切り取っても矢口博康という非の打ちどころがないメンバーによるサウンドメイクは全く隙がありません。リズムが強調されたサウンドなのに、妙な郷愁感に誘われるのは彼ら2人のプレイぶりによるところが大きいです。

【聴きどころその2】 
 シンセオペレーターとして参加している木本靖夫の当時の時代感覚をしっかりとらえたバシッ!バシッ!と跳ねるリズムがキマりにキマりまくるハウス全開のリズムコントラクション。こんな攻撃的なリズムなのにどこかほんわかした温かみを感じるのは、当然のことながら薬師丸ひろ子の声質に起因しています。あの声は魔力を秘めています。


131位:「egoist」 school food punishment

    (2008:平成20年)
    (ミニアルバム「Riff-rain」収録)
     作詞:内村友美 作曲: school food punishment
     編曲: school food punishment・江口亮

      vocal・guitar:内村友美
      keyboards:蓮尾理之
      bass:山崎英明
      drums:比田井修

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 激しいギターを好まないボーカリスト兼ギタリストの内村友美が、ギタリストのようなキーボーディストとして蓮尾理之を誘い結成したのがschool food punishmentです。2007年春に元Scudelia Electroの石田ショーキチをプロデューサーに迎え、1stミニアルバム「school food is good food」をリリース。同年秋には成田忍プロデュースにより2ndミニアルバム「air feel, color swim」をリリースし、その後は全国的なライブツアーも敢行し着実にファンを増やしていきます。そしてメジャーデビューへの機運が高まる中、2008年末にリリースされた3rdミニアルバム「Riff-rain」でしっかり地盤を固めると、翌2009年の怒涛のメジャーデビューへの準備は万端となるわけです。この3rd「Riff-rain」からはサウンドプロデューサーに江口亮が起用されます。2000年に1stアルバム「Are you independent?」でデビューした名古屋出身のロックバンドStereo Fabrication of Youthのギタリスト兼コンポーザーであった江口は、バンド活動が停滞するとアレンジャーとしての才能が開花、いきものがかり関連楽曲のアレンジで名を知らしめると、このschool food punishmentのプロデュースを手掛けていくことになります。結果として彼のアレンジセンスはschool food punishmentとの相性が良く、その後メジャーへ進出してからの2枚のアルバム「amp-reflection」「Prog-Roid」から、シングル「How to go」リリース後の解散に至るまで、江口との共同作業が続くことになります(江口は内村友美と共にla la larksを結成し現在に至る)。
 さて、school food punishmentの音楽性といえば、言葉ではポストロック、オルタナティブロック、エレクトロニカ、プログレッシブロックと羅列することは可能ですが、要するにギターを重視しないシンセサイザー中心の変拍子系ロック、といったところでしょうか。クールな女性ボーカルにソロフレーズ多めのノイジーなシンセサイザー プレイが絡むサウンドが特徴で、その風変わりな性質の音でありながら歌モノとしてポップな質感を備えているという、演奏とメロディのアンバランス感が魅力のバンドです。そんな彼らの音楽的美意識が如実に感じられる楽曲がアルバム「Riff-rain」収録の「egoist」です。得意とするアップテンポな変拍子ロックと対照的なこのロマンティックなミディアムナンバーも彼らのストロングポイントの1つですが、この楽曲ではとにかく音の隙間を埋めまくる数種類の白玉シンセパッドの美しさと、旋律を引き摺るようなノイズを撒き散らすリードシンセのソロフレーズが異常に存在感を発揮する、エレクトロニカポップチューンに仕上がっています。季節感としては梅雨の時期に最も似合う湿った空気感が何とも言えない、メランコリックな名曲です。

【聴きどころその1】
 ザラついた粒の粗い雨が降りつけるような1周目の白玉パッドと、2周目の曇りガラスのように視界が不明瞭な輪郭が危うい白玉パッドのコントラスト。両者ともシンセサイザー の特性を活かした素晴らしいサウンドデザインが施されています。

【聴きどころその2】 
 メインフレーズと間奏からのソロプレイで存在感を発揮するラジオノイズのようなリードシンセ。この微妙な音相の歪みは非常に味わい深く、実はなかなか聴くことができないソロ音色であると思います。school food punishmentにおける蓮尾理之のシンセサイザー の音作りはギターの代わりということもありますが、独特の触感を生み出しており、この引っ掛かりのある音色がそのままバンドの個性となった感があります。


130位:「Threads」 METAFIVE

    (2016:平成28年)
    (アルバム「META」収録)
     作詞:LEO今井 作曲:高橋幸宏 編曲:METAFIVE

      vocals・drums・synthesizers・rhythm sequence:高橋幸宏
      guitars:小山田圭吾
      synthesizers・programming:砂原良徳
      synthesizers・noises・programming:TOWA TEI
      synthesizers・programming:ゴンドウトモヒコ
      guitars:LEO今井

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 2012年に制作された高橋幸宏トリビュートアルバム「RED DIAMOND 〜Tribute to Yukihiro Takahashi〜」に名曲「Drip Dry Eyes」のリメイクにO/S/Tという即席ユニットで参加した小山田圭吾砂原良徳TOWA TEI(テイ・トウワ)の3名は、それぞれがYMOと浅からぬ関係があり気心も知れていたことから、2013年リリースのTOWA TEIの7thアルバム「LUCKY」のリードトラック「RADIO」に高橋幸宏がボーカル参加したことをきっかけに急接近、2014年初頭の高橋幸宏によるテクノスタイルライブを、"高橋幸宏 with 小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI×ゴンドウトモヒコ×LEO今井"名義で開催、YMOはSKETCH SHOW、自身のソロ曲など往年の名曲にテクノアレンジを施した楽曲を次々と披露、ユニット名を高橋幸宏&METAFIVEと決定し、同年にはこのライブをアルバム「TECHNO RECITAL」としてリリースします。当初はこのライブのみの一過性ユニットのはずでしたが、手応えを感じたメンバーはその後も単発でライブをこなしつつ、劇場アニメ「攻殻機動隊 ARISE boarder : 4 Ghost Stands Alone」主題歌「Split Spirit」を配信限定でリリース、遂にオリジナル音源が発表されます。そして2015年、ユニット名をMETAFIVEと完全なるバンド形態とする意思のもと改名すると、「Don't Move」「Maisie’s Avenue」「Luv U Tokio」と次々と先行配信して期待感を煽りながら、翌2016年に待望の1stフルアルバムが完成に至るというわけです。
 さて、この1stアルバム「META」ですが、全12曲を6人のメンバーが(共作もありますが)2曲ずつプロデュースするという構成となっております。各メンバーの得意技とキャラクターを生かしたクオリティの高い楽曲が収録される中、このスーパーバンドをボーカリストとして、そして作詞家としてバランスを保つ存在となっているのがLEO今井で、本作における彼の貢献は非常に大きいと感じているのですが、やはりこのMETAFIVEというバンドは大御所・高橋幸宏のバンドであるからして、期待されるのは彼の音楽性であり彼ならではのサウンドであるはずです。そのような一部のリスナーの期待に応えた楽曲が、今回選出した本作のラストを飾る楽曲「Threads」です。2000年代以降、ひいては東芝EMIに移籍した平成以降の高橋幸宏は、日本語POPSへさらに傾倒したり、エレクトロニカにハマってみたり、SKETCHSHOWやHASYMO、The BeatniksやPULSE、pupa等の数々のユニットに関わったりと、その時代に合わせてそのポップ&サウンドセンスを磨いてきましたが、やはり80年代の先鋭的なサウンドを擁していた時代と比較すると、いまいち歯車が噛み合わない感もありました。しかし、このMETAFIVEでは久しぶりに水を得た魚のように、彼独特のファッショナブルなダンディズムに溢れた楽曲を楽しむことができます。その中でもこの「Threads」は高橋幸宏が最も世界に近づいていた時代、80年代初頭のUKエレポップ全盛期のロマンチシズムに溢れた曲調をノスタルジーと共に再現しており、この感覚を取り戻してくれただけでもMETAFIVEの結成の価値は十分にあったのではないかと思われます。

【聴きどころその1】
 このイントロのフレーズとそれに伴うボーカルフレーズ。基本的にはワンフレーズとそのバリエーションの繰り返しなのですが、あのアーリー80'sのワクワクした時代に一気に引き戻されます。この楽曲に至っては、このワンフレーズの訴求力が抜群で、全く問題ありません。

【聴きどころその2】 
 ゆったりしたラストナンバーのはずが、どうしても音をこれでもかと突っ込みたがるのはテクノバンドの性というものですから仕方ありません。無邪気に駆け巡る電子音はカッコイイの一言です。むしろそんな豪奢なプログラミングにも全く色褪せないメロディライン。やはりこのバンドは高橋幸宏のバンドであることを再認識させられます。


129位:「ノールームメイト」 SPANK HAPPY

    (1994:平成6年)
    (ミニアルバム「MY NAME IS」収録)
     作詞・作曲・編曲:SPANK HAPPY

      vocals:ハラミドリ
      sax:菊地成孔
      keyboards・synthesizer programming:河野伸

      percussions:ASA-CHANG
      strings:金子飛鳥ストリングス

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 個人的にSPANK HAPPYとは男女エレポップユニットのことではなくてこのトリオバンドのことを指します。現在では既にカリスマ音楽家に成長した菊地成孔がPOPSを実験するユニットの扱いですが、当時は菊地は作詞とサックスプレイに個性を発揮する役割で、その他の2名、ハラミドリの圧倒的なボーカルと楽曲全体をプロフェッショナルなアレンジメントで支えるキーボーディストの河野伸が中心となって支えていた、あくまで売れ線を狙っていたPOPSバンドでした。ハラミドリは、原みどり名義で1987年に財津和夫とのデュエットシングル「償いの日々」でデビューし、「MiDo」「KO・KO・RO・NOTE」「アマロ・ジャバロと言えた日」と3枚のソロアルバムをリリースしますが、90年代に入ってからはその才能を持て余し燻った状態となっていました。しかし当時京浜兄弟社関連や音楽学校の仲間達と結成した即興プログレジャズバンド・ティポグラフィカのメンバーであった菊地と、森高千里バンドで多忙を極めつつ原みどりのバックバンドも務めていた河野が、彼女のアルバム「アマロ・ジャバロと言えた日」で出会ったことをきっかけに水面下で3者が意気投合、1992年のSPANK HAPPY結成につながっていくことになります。
 1994年にメジャーデビューの機会を得た彼らは、まず挨拶代わりとしてマキシシングル「走り泣く乙女」をリリース、その1ヶ月後に本命のミニアルバム「MY NAME IS」がリリースされます。彼らの雑多性といいますかオルタナ性を突っ込んだ「走り泣く乙女」や、売れ線要素を意識した「ウィークエンド」「お早う」といったポップでメロディアスな楽曲が収録される中、3者のソングライティングおよびサウンドメイカーとしての才能が抜群に発揮されているのが、珠玉のミディアムバラード「ノールームメイト」です。訴求力のある感情溢れるハラのボーカルパフォーマンスと、ロマンティックな菊地のサックスプレイ、そして全体としての美しい楽曲構成や流麗なエレクトリックピアノ&ストリングスアレンジを施した河野のサウンドセンスが見事にマッチしたこの名曲は、その後シングル「僕は楽器」のようなインプロビゼーションやオルタナティブロック、ジャズからミュージカル等さまざまな音楽スタイルに挑戦するこの風変わりな「黒ドリカム」「裏ドリカム」と称されたPOPSバンドにあって、最大級の賛辞が洗えられるべき完成度を誇る楽曲であると思います。その後2ndアルバム「FREAK SMILE」、シングル「CHOCOLATE FOLK SONG」を経てまず河野が脱退し、菊地の病気療養を経てハラが脱退し、トリオバンドとしてのSPANK HAPPYは終了しますが、やはり河野の脱退によってPOPSとしての矜恃を保てなくなったことが大きく、その意味では第1期SPANK HAPPYにおける河野の存在感は際立っていたということになるでしょう。それはその後の河野伸というプレイヤー・作編曲家・劇伴作家としての大活躍を考えれば当然のことと思われます。

【聴きどころその1】
 河野伸のジャジーなエレクトリックピアノのプレイと1周目のサビから入ってくるストリングス。どちらも実に粋なフレーズを奏でています。1994年という時代の空気を表したおしゃれサウンドの極致といえる、この完成度の高いオーケストレーションに圧倒されます。

【聴きどころその2】 
 この素晴らしいストリングスに唯一対抗できるのが菊地のサックスプレイ。今でこそ文筆業やコンセプトワークにその才能を発揮している感のある菊地ですが、本業のサックスはアヴァンギャルドなインプロフレーズも得意とすると共に、こういったミディアムチューンにおけるムーディーなフレーズもお手のもの。やはり彼は何よりも優れたサックスプレイヤーであることを再認識させられます。


128位:「キミの瞳にジャーマンスープレックスホールド」 ちょび。

    (2013:平成25年)
    (シングル「キミの瞳にジャーマンスープレックスホールド」収録)
     作詞・作曲・編曲:綺羅院長

      vocal・voice:りか
      vocal・voice:みお

      programming:綺羅院長

キミの瞳にジャーマンスープレックスホールド

 地下アイドルというのは底知れない沼のようなものでして、そこに足を踏み入れると容易に抜け出ることのできない魔窟でもあるわけですが、そのようなアンダーワールドにおいてわざわざ地下アイドル専門作曲家と称して活動しているプロデューサーが存在しています。綺羅空心斎と名乗るその人物は、なんと元歯科医。歯医者のミュージシャンといえば古くはパール兄弟のサエキけんぞうを思い浮かべますが、こちらは実際に付け八重歯第一人者として審美歯科医デンタルビューティーサロンPureCureを経営、執事歯科というアヴァンギャルドなコンセプトによる風変わりな歯科医院の院長・増岡太郎として経営に勤しむかたわら、もともとヴィジュアル系バンドのメンバーであったことも生かして地下アイドルプロデューサー綺羅院長として、2012年に付け八重歯アイドルグループTYB48をプロデュースすることになります。ところがデビュー曲「かみついちゃってもいいにょろか?」当初はなお・みお・りかのトリオであったこのグループからほどなくなおが脱退、みお・りかのコンビとなったTYB48はしばらくライブ活動を続けますが(この頃までは普通に歌って踊る、いわゆる「アイドル」していました)、2013年にグループ名を"ちょび。"と改名し再スタートを図ってから少し様子がヘンになっていきます。
 その原因は綺羅院長が世界初のDUB STEPアイドルとして渾身の1曲を作り上げた「キミの瞳にジャーマンスープレックスホールド」にあります。このウォブルベースがしつこいほど鳴り響くダウナーなダブステップサウンドは確かにカッコいいし、アイドルソングとして十分すぎるほどアヴァンギャルドかつチャレンジングな試みであると思います。しかし決定的にアイドルソングとしては妖し過ぎます(最初のチャイムからもう妖しい・・)。このユルいパフォーマンス、ダルい歌唱、棒読みの合いの手、他の楽曲はそれなりに盛り上げながら歌って踊る2人が、この楽曲ではどうにも重い(笑) しかしそれは本人達の天然パワーなキャラクターというよりは、曲調の問題が大きいと思われます。タイトルでプロレスの技をひけらかしておいて、ここまでダウナーでシリアスなサウンドで攻めてくるとは、完全に意表を突かれた思いです。しかし、こうしたインパクトは否が応でも記憶に残ってしまうものですし、この楽曲も単なる地下アイドルの思い出の1曲だけにとどまらない、異様な存在感で爪痕を残した格好となっています。
 なお、結局ちょび。はみおが脱走して残ったりかがソロアイドル柚木りかとしてしばらく活動しますが芽が出ず就職、その後綺羅院長は綺羅空心斎として和楽器奏者として笙を吹くなど謎のバイタリティを押し出しながらも、貧乳メイドアイドルグループ・ふるーふらっと(2ndシングル「貧乳†抵抗」はロッテルダムテクノみたい)といったコアな地下アイドルグループをプロデュース、現在では売り出し中のロックバンド風芸人・放課後ハートビートの初シングル「Restart」の作編曲を手掛けるなど、その絞りきれない音楽性を軸とした器用さを武器にとにかく地道に活動しています。

【聴きどころその1】
 細かいビートに強烈なウォブルベースの唸り過ぎな処理。この大量に電気を消費するかの如きグニョグニョしたベースの這いずり回り方は、既にアイドルソングの粋を超えています。このベース回りだけでも妖しいのに白玉パッドによるコードがさらにシリアス過ぎて、およそアイドルとしての明るさを放棄したような気味悪さを演出しています。

【聴きどころその2】 
 また、さらに妖しさに拍車をかけているのが、ちょび。の2人の棒読み歌唱(もちろんセリフも棒読み)と合いの手です。少しリバーブがかけられた感情のカケラも見当たらないボーカルは、踏み入れてはならない部屋に入ったような後悔に似た感覚に襲われること必定です。この棒読みで「ジャーマン」という単語が連呼されるというこの苦行たるや・・・ある意味本来地下アイドルとはこういうものなのではないかと錯覚してしまうほどです。


127位:「PSI-missing」 川田まみ

    (2008:平成20年)
    (シングル「PSI-missing」収録)
     作詞:川田まみ 作曲:中沢伴行 編曲:中沢伴行・尾崎武士

      vocals:川田まみ

      programming:中沢伴行
      guitars:尾崎武士

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 長きにわたり札幌が誇るエレクトロ音楽集団I'veの主力ボーカリストとして活躍してきた川田まみは、多数のシングルと5枚のオリジナルアルバムを残して2016年に寿引退してしまうわけですが、その結婚のお相手はI'veのメインコンポーザーの1人であった中沢伴行。2005年のメジャーデビューシングル「radiance」(アニメ「スターシップ・オペレーターズ」オープニング主題歌)以来、川田の歌手人生の主要な楽曲には常に中沢の影があったと言えます。I'veの歌姫としてのデビューは2001年の高瀬一矢楽曲「風と君を抱いて」で、アニメソングのデビューは2002年アニメ「おねがい☆ティーチャー」エンディング主題歌「空の森で」でした。こちらは往年の名コンビ、折戸伸治&高瀬一矢楽曲でしたが、翌年の続編「おねがい☆ツインズ」のエンディング主題歌「明日への涙」において、初めて中沢伴行が作編曲を手掛けることになります。そんな彼女が脚光を浴びたのが2005年の大ヒットアニメ「灼眼のシャナ」オープニング主題歌「緋色の空」でした。中沢伴行が初めて本格的に彼女をプロデュースした疾走感ある哀愁デジロック風味の楽曲は作風にもしっかりとマッチしており、現在もなお川田の代表曲を挙げるとするならばこの楽曲が選ばれることが多いほどの完成度の高い楽曲です。「灼眼のシャナ」シリーズは、川田まみというシンガーをスターダムにのし上げた彼女にとっての最重要作品で、2007年の「灼眼のシャナII」のオープニング主題歌「JOINT」(こちらも中沢作編曲)はオリコン第9位と遂にベストテン以内にランクインさせる快挙を成し遂げ、同じI'veのエースシンガーKOTOKOと共に一躍アニソン女王の1人としての地位を確立することになります(「灼眼のシャナII」では前期エンディング主題歌「triangle」、挿入歌「sense」も川田が担当し、まさに川田づくしのアニメでした)。なお、「シャナ」シリーズとしては2012年の「灼眼のシャナIII-FINAL-」後期オープニング主題歌「Serment」も歌い、シリーズを見事完遂しました。
 さて、翌2008年からは川田に新しいプロジェクトから声がかかります。当時大人気であった超長編ライトノベル「とある魔術の禁書目録」シリーズのアニメ化プロジェクトです。このオープニング主題歌に抜擢されることになった川田は再び中沢伴行とタッグを組み、「PSI-missing」を提供することになります。シリアスで近未来なバトルアクションによく似合うダークエレクトロなサウンドを前面に押し出したこの楽曲は、細かいシーケンスとディストーションギターで空間を埋め尽くした音数の多いトラックにどこか悲壮感を感じさせますが、そのヒンヤリした緊張感は物語のその後を暗示させるある種の期待感を煽らせるもので、アニメーションの主題歌としての役割はしっかり果たせているものと思われます。何よりメロディラインに救いがないのが良いです。こうした曲調の展開ですとうっかりメジャーに転調したいところですが、ぐっと我慢してマイナー調で押し切る芯の強さを感じるのです。この延々と長い人気シリーズのスタートとしてはこれ以上になくうまくハマったのではないでしょうか。この楽曲でしっかり期待に応えた川田は、その後も同シリーズで「No buts!」「See visionS」といったオープニング主題歌を担当していくことになるわけで、「シャナ」と「とある」の各シリーズの歌姫としてアニソンシンガーファンの記憶に残っていくことになるのです。

【聴きどころその1】
 空間を埋めにかかるシーケンスとギターの共演。イントロのメインフレーズとなるジャストテンポのシーケンスによってよりサイバー感が増しますが、音を埋めるのはやはりディストーションで汚した尾崎武士のギターです。ザラついた色で音の隙間を塗りたくっていきます。

【聴きどころその2】 
 Aメロで存在感を増すレゾナンスの効いたシンセベース。全体的に尖った音色が多い中で、この粘り気のある太いシンセベースの低音は良いアクセントになっています。物語のスタートにふさわしい様々な思惑が蠢く感覚が上手く表現されていると思います。


126位:「CYBER ECSTASY」 3dl(3デシリットル)

    (1989:平成元年)
    (アルバム「PROGRAMUSICA」収録)
     作詞:水崎晃彦 作曲・編曲:吉澤徹

      vocals:勝田夕起子
      vocals:小田島浩子
      all instruments:吉澤徹

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 「日本のThe Art Of Noiseになりたい」・・・そんな思いを胸に1987年、新興レコード会社NECアベニューよりシングル「麗しの乙女」でデビューした男女混成トリオユニット・3dl(3デシリットル)は、骨太リズムとサンプリング満載のヒップホップ&ダンスミュージック歌謡といったサウンドで強烈なインパクトを与えました。サウンド全般を担当する吉澤徹と、オペラチックな歌唱力で勝負する勝田夕起子と、キュートなロリータボイスも得意とする小田島浩子の対照的な2枚看板ボーカリストのトライアングルで構成される3dlは、同年には1stアルバム「From Still to the Birth」同名タイトル曲のギラギラした音像は必聴)をリリース、クラブ仕様を意識したサンプリングダンスチューンが全開の楽曲を揃えたエレクトロコラージュな仕上がりのPOPSアルバムに仕上がっており、一般的な人気を獲得するにはマニアックが過ぎてしまいましたが、それなりに特異な目で見られることになりました。そして平成に突入した1989年に待望の2ndアルバム「PROGRAMUSICA」がリリースされることになります。前作の路線を踏襲しつつ、さらにキャッチーな方向性に傾倒した結果わかりやすさを増した楽曲が多く収録されている本作は、まさに彼らにとっても勝負作として意気込んでいたに違いない気合いの乗った仕上がりでしたが、それが売り上げにつながるかといえば別の話でして、1989年という過剰なサウンドに別れを告げたサウンド面における過渡期的な時代背景もあって、結果は残せず3dlとしての音源リリースはフルアルバム2枚とCDV(CDとLDのハイブリッド規格)でのデビュー曲「麗しの乙女」、そして「PROGRAMUSICA」からのシングルカット曲「アンドロメダからやって来た」のみとなり、ここで解散ということになります。
 さて、今回取り上げるのは、彼らの2ndアルバム「PROGRAMUSICA」のトップを飾るビートを聴いたダンサブルチューン「CYBER ECSTASY」です。跳ねるリズムにオーケストラサウンドのサンプリングを織り交ぜたお得意のごった煮エレクトロなサウンドを強烈に印象づける楽曲ですが、Aメロのブラコンボーカルな勝田とBメロのポップで癒しボイスの小田島がそれぞれの持ち味を生かしつつ、シンセブラスがけたたましく鳴りまくるサビへと雪崩れ込む構成で、そのメカニカルなサウンドメイクはまさにサイバー感覚に溢れたものです。雑多的で比較的ギトギトしていた1stよりも、ややサウンドとしても整理されスッキリした2ndを象徴するかのようなこの名曲は、3dlというユニットを記憶に留めておくためにも不可欠な存在であると言えるのではないでしょうか。なお、3dlのメインコンポーザーであった吉澤徹の才能を放っておくはずはなく、CM音楽作家として転向後アルファレコードから独立した名エンジニア寺田康彦と出会い、寺田の紹介によるSpiral Lifeのバッキングを機に石田ショーキチと出会い、吉澤瑛師と改名してSCUDELIA ELECTROを結成し見事に復活を果たすことになります。

【聴きどころその1】
 既に時代遅れとして処理されていた下世話なオーケストラサンプリング。カウンターフレーズとして使用されたり、AメロからBメロへのブリッジとして効果的に挿入されたり、3dlの代名詞のサンプリングとして、やたら動き回るシンセブラスと並んでこの楽曲でも大活躍です。

【聴きどころその2】 
 躍動感のあるAメロとサビに挟まれたBメロの秀逸なメロディライン。ゆったりと上下する意外性のある音符の動き方で、小田島のキュートな歌唱も手伝って、良い意味での休憩所と言いますか、ダンサブルなサビへの橋渡しとなっています。


125位:「レンガの男」 MOONRIDERS

    (1992:平成4年)
    (アルバム「A.O.R.」収録)
     作詞・作曲:鈴木博文 編曲:白井良明

      vocal:鈴木慶一
      guitar・all other instruments・chorus:白井良明
      chorus:鈴木博文

      computer programming:山岡広司

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 1986年リリースの傑作「DON'T TRUST OVER THIRTY」後に長い活動休止期間に入った現存する日本最古のロックバンドといわれるMOONRIDERS(ムーンライダーズ)は、そのままメンバーそれぞれのソロ活動が充実していく中でもはや活動を再開することはないのではという憶測も流れるようになりましたが、昭和が終わり平成の時代に突入した1991年、レコード会社を東芝EMIに移籍した彼らは5年ぶりに活動を再開、復活作「最後の晩餐 Christ, Who's gonna die first?」をリリースします。活動休止以降80年代後半において特に精力的に活躍してきた白井良明をサウンド構築の軸においた本作は、彼が早くから取り組んできたハウスミュージックのテイストを大胆に取り入れ、各メンバーが持ち寄った楽曲も作詞・作曲共に個性を生かしつつキャッチーであることを忘れないクオリティを備えたものばかりで、復活のリハビリ作とは思えない完成度を誇る会心作と言える作品でした。そのため、90年代に入ってからのパーマネントな活動が期待される中、もともと東芝EMIにてまずは2枚のアルバムをリリースするという契約であったことから、早速次作の制作にとりかかり、1992年にまず先行シングルとして「ダイナマイトとクールガイ」がリリース、そして前作から1年という短いスパンの中で13枚目のオリジナルアルバムである「A.O.R」がリリースされることになります。
 前作がハウスという新兵器を携え休止期間のアイデアを生き生きとして形を変えた快作でしたが、本作では前作に引き続き白井良明岡田徹をほぼ分業体制でサウンドメイカーの中心に据え、エレクトリック風味のタイトル通りのAORロックを志向・・・と思わせながらも、その実は大胆な攻撃的プログラミングを中心したチャレンジングな楽曲も収録されています。「ダイナマイトとクールガイ」や1曲目の「しあわせの洪水の前で」等のメロディ重視の渋めの楽曲と、「シリコン・ボーイ」「無職の男のホットドッグ」といった過激なアッパーチューンが混在した、よく言えばバラエティ豊かな、悪く言えば散漫な印象を与える作品とも言えますが、どちらにしても当時は自身のソロアルバム「カオスでいこう!」でも過激なサイバーロックサウンドを志向していた白井の色が強いこともあって、各曲に専用のプログラマー集団を配置したシーケンス多めの楽曲が中心となっています。そしてここで取り上げるのが後者の路線の最たる楽曲「レンガの男」です。彼らが彼らたる所以の世界観を構築しているのは常に鈴木慶一鈴木博文の兄弟が紡ぎ出す歌詞による楽曲ですが、この「レンガの男」は弟の鈴木博文の作詞作曲で、静かなポエトリーリーディングから始まったかと思えば、電力の多そうなシンセパッド&リフが入ってきて、続いてキレのあるギターカッティングに四つ打ちのハウスリズムが押し寄せてくる過激なダンサブルチューンで、彼らの40年を超える長いキャリアの中でも5本の指に数えるほどの過激なサウンドではないでしょうか。かつて「30代以上は信用するな」と叫んでいた彼らですが、40代を迎えるにあたってもまだまだその先鋭的な感覚は健在であることを証明した楽曲の1つではないかと思われます(岡田徹と武川雅寛かしぶち哲郎は参加していませんが)。

【聴きどころその1】
 切り貼り感覚でキレを出すカッティングギター。このギターとハウスの太細なリズム音色によるノリとのマッチングは絶品です。フィルインにテープの逆回転サウンドを持ってくるセンスも良く、また四つ打ちバスドラのズッズッという押し込むような音色も効果的です。

【聴きどころその2】 
 鈴木慶一の奇妙なフェイクによる自由奔放なボーカル。このハウス特有の麻薬的なリズムパターンに、このマッドなボーカルスタイルはハマっていると思います。人力ディレイのような効果や語尾のしゃくり上げなど意図してか知らずかはわかりませんが、何かに取り憑かれたような興味深いパフォーマンスを楽しませてくれます。


124位:「スパークリング・チャイナタウン」 井上ほの花

    (2016:平成28年)
    (ミニアルバム「ファースト・フライト」収録)
     作詞・作曲・編曲:無果汁団

      vocal:井上ほの花

      all instruments:ショック太郎
      background vocals:とんCHAN

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 2010年にアルバム「ヴァレリー」でデビューしたショック太郎とんCHANによる無国籍ポップユニット・blue marble。ゲストボーカルに80年代からCM音楽の女王と呼ばれ活躍してきたシンガー・大野方栄を迎えたこの作品では、「街を歩くソルジャー」に代表されるラテンミュージックやジャズをベースにした魅惑のコードワークと玄人好みのアレンジメントでルーキーとは思えない高品質な楽曲を連発しPOPS好きの間で話題を呼ぶと、2013年には武井麻里子を正式なボーカルに迎えた3人組として第2期blue marbleを開始、アルバム「フルカラー」はさらにプログレ風味に寄せたガールズポップとして独特のメロディラインと乙女な世界観をフィーチャーした作風で、リードトラック「未明☆戦争」などのキャッチーなポップチューン等が再びPOPSフリークのハートを掴みました。その後も「prince of modern」「HELLO!」といったシングルを単発でリリースしていきますが、日増しに高まっていくポップセンスとは裏腹に武井とコンポーザー組(ショック太郎&とんCHAN)の音楽的方向性の違いから、武井が脱退する形で2015年にblue marbleは解散に至ります。その後、コンポーザー組はその後も音楽制作ユニット・無果汁団として、ナムコの大ヒット音楽ゲーム「太鼓の達人」のオリジナル楽曲を手がけるなど、寡作ではありますが活動を継続していきますが、その「太鼓の達人」提供楽曲において、高い評価を得たのがHONOKAが歌う「恋幻想(Love Fantasy)」でした。宮原芽映が歌詞を書いたこの楽曲は、ゲーム専用の楽曲とするにはもったいないほどのクオリティを備えていましたが、この楽曲を歌うHONOKAが大物声優にして永遠の17歳と言われる井上喜久子の娘にして、駆け出しの新人声優であった井上ほの花でした。
 この「恋幻想(Love Fantasy)」がきっかけとなり、井上ほの花と無果汁団によるアルバム制作が進められることになり、2016年の年末には遂に待望のミニアルバム「ファースト・フライト」が完成します。この作品に収められた楽曲の音楽性は、一言で言えばミドル80'sの山川恵津子や清水信之あたりがアレンジしたアイドル歌謡。その時代を経験したリスナーなら誰でもノスタルジーに誘われ、80'sが再評価されているからこそその複雑なアレンジメントとメロディの美しさを再認識させられるプロフェッショナルな楽曲構成力は、無果汁団の豊富な音楽知識とポストテクノポップ時代としてのミドル80's愛による部分が大きいと思われます。そんな本作の象徴的な存在がこの「スパークリング・チャイナタウン」です。後にアナログレコードシングルとしてカットされるこの弾けるようなオリエンタルテクノ歌謡は、訴求力抜群のサビからいきなり始まるインパクトの強さと、ゴリッゴリのデジタルシンセが主張する懐かしい音像、80'sらしいカッチリしたリズムトラックが少女性たっぷりの井上ほの花の歌唱にバッチリハマりまくっています。そのような楽曲をまさに同時代のエレクトロサウンドをシンセプログラマーとして牽引していたと生き証人である森達彦のミキシング、そして古今東西ガールズPOPSへの造詣が深い佐藤清喜のマスタリングという、2人のポップマエストロがバックアップしているわけですから、質が高くないわけがありません。結局井上ほの花のプロジェクトとしてはフルアルバム制作までとはいかなかった無果汁団ですが、森&佐藤のバックアップ組やミドル80'sガールズPOPS路線はそのままに、新たなボーカリストを迎えた無果汁団としての1stアルバム(名盤の予感!)が2020年にリリースされる予定です。

【聴きどころその1】
 分離の良いドラムプログラミング。4拍目のスプラッシュ感のあるリバーブも素晴らしいですが、太鼓の達人で鍛えられたような多彩なフィルインが打ち込まれるタイミングは、80'sを実際に経験したクリエイターだからこそ感じ得るセンスと言えるでしょう。

【聴きどころその2】 
 細部にわたる各パートの作り込みが秀逸です。ねちっこいベースライン、ふわっとした輪郭のパッド、キラキラした中華風のフレーズ、軽快なギター&エレピ、マジカルなCパートでのアルペジオ・・・どこを切り取っても隙がまるでないといった印象です。


123位:「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」 BABY METAL

    (2012:平成24年)
    (シングル「ヘドバンギャー!」c/w収録)
     作詞:RYU-METAL・FUJI-METAL・中田カオス 作曲:TEAM-K
     編曲:ゆよゆっぺ

      vocal:SU-METAL
      vocal:YUIMETAL
      vocal:MOAMETAL

      guitar・programming・turntable:ゆよゆっぺ

ヘドバンギャー!!

 大手芸能事務所アミューズが2010年から展開していた学校生活&クラブ活動をテーマにしたアイドルグループ・さくら学院。グループアイドル全盛時代にソロシンガーとしてチャレンジしている武藤彩未や、女優としての活躍が著しい三吉彩花らが在籍していた学院第1期には、後に世界を席巻するメタルダンスアイドルユニット・BABYMETALのメインボーカルを務める中元すず香がいました。Perfumeと同じアクターズスクール広島出身の中元の歌手デビューは2008年にアミューズ資本の企画アイドルユニット・可憐Girl'sのシングル「Over The Future」で、当時は同じく在籍していた武藤彩未の影に隠れた存在ながら、その群を抜いた歌唱力が当時アミューズ社員であった小林啓の目に留まり、彼はさくら学院へ移った中元の「歌」を生かすためのユニットをクラブ活動としての派生ユニット「重音部」を立ち上げることに生かそうとしました。BABYMETALと名づけられた重音部としての活動は、その名の通りメタルロックサウンドとアイドル歌謡の融合をテーマにしたもので、中元をメインボーカルに据え、その周りをダンサーとして華を添える役割として、水野由結菊地最愛が加わりトリオで活動を開始、中元はSU-METAL、水野はYUIMETAL、菊地はMOAMETALとコンセプトが徹底され、2011年にDVDシングル「ド・キ・ド・キ☆モーニング」でデビューします。このタイトルから察せられる通り、アニメソングやアイドルソングを得意とする作編曲家・村カワ基成が手掛けたこの楽曲も当時はまだアイドルソングとしての企画的要素が強く、リスナーもネタ的には扱えどもまだ本気にする段階ではありませんでした。2012年に入ってリリースされたメタルバンド・キバオブアキバとのスプリットシングルに収録された「いいね!」も、メタルを軸にするもヒップホップパートを挿入したりとまだ試行錯誤の段階でしたが、初のCDとしての1stシングル「ヘドバンギャー!!」が彼女たちの運命を激変させることになります。
 COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKIをサウンドプロデュースに迎えたこの「ヘドバンギャー!!」はアイドル要素を「バンバンババン」のドリフパロディのみに抑え、ツーバスが鳴り響く本格派メタルロック歌謡に進化、この時点が遂にシャレが本気になった瞬間であると言えるでしょう。ここからBABYMETALの快進撃が始まり、そのライブパフォーマンス&キャラクターの可愛さと本格的メタルサウンド&演奏力とのギャップが海外のメタルファンに新鮮に映ったのか、1stアルバム「BABYMETAL」全世界リリースを機にそのムーブメントは瞬く間に全世界に広がっていくわけですが、ここで取り上げるのはカップリングの「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」です。まだ「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のようなアイドルソング+メタル添えのようなバランスのこの楽曲には、メタル&デスボイスにダブステップやEDM要素を打ち込んだ未完成や試行錯誤の中で生み出されるユーモアやチャレンジが楽しめるサウンドであり、このごった煮感覚がアイドルが他のジャンルの殻を借りて歌い踊るのを楽しむ醍醐味というものです。アレンジを担当したゆよゆっぺは、自身のオリジナルボーカロイド曲が動画サイトで評価を得たクリエイターで、そのようなジャンルレスに吸収できる若さを備えたアレンジャーだからこそ、このような超合金合体のような作風の楽曲が生まれたのではないかと思います。現在は余りに本格派になり過ぎて引くに引けない状況になりつつあるBABYMETALですが、個人的には楽しかった時代はいつでも全てを手に入れる直前の瞬間であることを感じさせるグループの1つなのです。

【聴きどころその1】
 ガンガン攻めてくるハードギターとツーバスというメタル風味に、EDMなウォブルベースなマシナリー要素も負けずに突っ込んでくる異物感が魅力です。あくまで本格派ではないポジションが光っていたからこその興味深い楽曲に仕上がっています。

【聴きどころその2】 
 「ウキウキミッナイ〜!」や「キンキラリ〜ン!」といったデスボイスに似つかわしくない単語を酒灼け声で汚く叫ばせるというアンバランス感。そこが面白く、そしてここまで異様に盛り上がることができる要素であると思われます。ここまではメタルファンもアイドルファンも同じ立ち位置で楽しむことができた時期ではないでしょうか。


122位:「eden」 OBI

    (1997:平成9年)
    (オムニバス「XCD1997 Psy-mul-taneous」収録)
     作詞・作曲・編曲:OBI

      vocal・synthesizers:OBI

      guitar:稲見淳

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 小西健司のプライベートレーベルIron Beat Manifesto(以降I.B.M.)に所属し、90年代前半の関西ニューウェーブシーンを底辺から支えたULTRAVOXスタイルの伝説的バンド・CONTROLLED VOLTAGE(以降C.V.)。元P-MODELの福間創が在籍していたバンドとして知られるこのバンドは、杉本敦(vocal)、稲見淳(guitar・synthesizer・programming)、福間創(synthesiezer)、MASA(drums)の4名をメンバーとし、1991年〜1995年頃までコンピレーションの参加やカセットテープでの音源リリース、そして大阪や兵庫を中心としたライブ活動を行っていました。さて、前述の福間は1992年頃に脱退し、その後はキーボードレスのトリオバンドで活動していましたが、1994年頃より福間の後任として新たなキーボード奏者が加入いたします。それがOBIこと緒毘絹一です。彼はC.V.のメンバーとして活動するかたわらソロとしても音源制作に励んでおり、特に1994年〜1996年頃にかけては、草の根BBSネットワーク・XD FirstClass Networkが発行していたオムニバスCD&CD-ROM「XD-submit」シリーズにおいて、C.V.の音源と共に、OBIのソロワークスも収録されていました。「XD-submit Vol.1」には「AZAHN」、「The Pride of Blame」の2曲、「XD-submit Vol.2」には「Blameless Vices」、「Find the True Thing with my Submissions to You」の2曲、「XD-submit Vol.3」には「All for You」の1曲、そして「XD-submit Vol.4」には「Flower Garden」、「Song of a Liar」の2曲と、それだけでも1枚のアルバムが制作できるほど精力的に楽曲を発表しています。彼の音楽性は直線的な四つ打ちハウスリズムによるトランシーかつロマンティックな全編英語詞の歌モノテクノで、重厚でダークなC.V.と比較して、軽めのリズムにミニマルなシーケンス、プログラミング映えするシンセサイザー の音色、そしてニューウェーブっぽいボーカルが特徴でした。また、I.B.M.のカセットテープシリーズ「Personal Dance」シリーズ(46分カセットテープにA面とB面に1曲ずつ収録)「Personal Dance002」のB面にも21分以上にも及ぶ大作インスト「Quiet-Sun」を提供しています(A面は百々政幸ことMOMOの「NOA#01」)。アンビエント色やミニマル色の強い同シリーズには小西健司や稲見淳、平沢進プロデュースでデビューしたTAKA(山口貴徳)、宇都宮泰らが参加していましたが、その中でもロマンティック&ポップ度はTAKAと共に群を抜いていました。
 そんなOBIはC.V.解散直前にはメインボーカルとしてバンドを支えましたが、解散後は本格的にソロ活動へ以降しますが、小西健司がP-MODEL加入以降I.B.M.としての活動が下火になるにつれて、OBI本人も楽曲リリースの場がなかなか得られず、稲見淳が設立したC.U.E. Recordsのコンピレーション等で名前を見かけるほどになっていきます(SNSが発達した現在であればネットでの楽曲発表の場も作られたと思いますが)。そんな彼の1997年のキャリアが今回取り上げる「eden」です。C.V.の活動記録として2001年にリリースされた「Lost and Forgotten」にも収録されたこの楽曲は、もともとは「XD-submit」シリーズの最後となった「XCD1997 Psy-mul-taneous」に収録されたもので、80年代初頭のニューロマンティクス風味の、誤解を恐れずにいうならば後期JAPANをかなり意識したミディアムチューンに仕上がっています。フレットレスベースのようなシンセベースのシミュレートや、ギターに稲見淳が参加していることからもほぼC.V.とも言える仕上がりですが、David Sylvian風に歌い上げるOBIもなかなか堂に入っています。何よりシンセの音色がどれをとっても緻密に作り上げられていて素晴らしいです。決して派手ではないものの、これもなかなかのRichard Barbieri風味で、ここまでのJAPANシミュレートぶりには逆に愛が感じられるというものです。

(2023.5追記:OBIさんを見つけました。なんと浜松に拠点を移しHopCulture Recordsを設立、2020年にはアイドルmomoを擁するガールズテクノポップユニットPeach Allergiesとして1stシングル「Toys! Toys! Toys!」、2021年には「プトレマイオスにおねがい」「パラダイスロスト」と2枚のシングルをリリース、そしてさらにモデルIRISとのエレポップユニットChocolat Balletも立ち上げ、1stシングル「花泥棒になった日」を2021年にリリース、この楽曲は「Blameless Vices」の焼き直しですね。シーケンスの尖り具合が健在です。2022年には2ndシングル「Hibari」をリリースしていました。なんだ、精力的に活動しているじゃないですか!2023年に入るとモデルShioriとR&B的な新ユニットeau de lunetteを始動、シングル「Next to You」をリリース。この調子でアルバムを・・・楽しみにしています。)

【聴きどころその1】
 限りなく後期JAPAN風味な部分は、間奏のサイン波風のシンセソロにも表れています。見せ場のソロにあのようなストイックでシンプルなサイン波を持ってくるとは、そのセンスに脱帽です。言うなればRichard Barbieriがプロデュースした見岳章のソロアルバム「Out Of Reach」収録の「Can't Touch, Even Watch」の間奏のサイン波を彷彿とさせるあの音です。

【聴きどころその2】 
 打ち込みではありますが丹念なリズム構築にも注目です。軽めながらも1つ1つの拍を丁寧にプログラミングする神経質な作業が目に浮かぶようです。特にコクのあるバスドラや「ドドッダドドド」のフィルインのタムの音が絶品です。


121位:「UDNACE (アドゥナス)」 A.C.E.+成田忍

    (2016:平成28年)
    (URBAN DANCEアルバム「U-DNA」収録)
     作詞:田島隆・安井麻人 作曲:安井麻人・成田忍 編曲:A.C.E.

      vocal・guitar:成田忍
      programming:田島隆
      programming:安井麻人

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 1985年に細野晴臣が設立したテイチクレコードのレーベル・Non Standardからアルバム「URBAN DANCE」でデビューしたポストテクノポップバンド・URBAN DANCE(以降UD)は、1987年までの短い活動期間の中でも、その鮮烈なエレクトロサウンドと強烈なビートトラックによるニューウェーブロックな楽曲が当時のテクノポップファンの心を掴み、半ば伝説的に語り継がれてきたバンドです。その中心人物であった関西出身の成田忍は、フュージョンバンド99.99のギタリストとしてキャリアをスタートした後、小西健司や横川理彦とのニューウェーブユニット・4-Dとしての活動を経て、NOVELAのボーカリスト・五十嵐久勝のソロアルバム「PUZZLE」の斬新なプロデュースを担当しながらソロユニット・SHINOBUをスタート、それがUDに発展することになります。そしてUD解散後はギタリストやサウンドプロデューサーとして遊佐未森やPierrot、Boris等を手掛けるかたわら、UD-ZEROなどのソロ活動や復活した4-D mode1、近年では横川とのデュオユニットBlan(としての活動を行うなど、長く精力的に第一線で活躍しているサウンドプロデューサーです。
 そんな成田忍がUD結成30周年を機に過去のアルバム「URBAN DANCE」「CERAMIC DANCER」「2 1/2(TWO HALF)」をリマスターコンパイルしたリマスターCD「UD CHRONICLE」が2015年にリリースされたことをきっかけとして、メンバーであった松本浩一と小山謙吾に声をかけ再結成の機運が高まると、2016年の復活ライブでのかつての楽曲の新アレンジに手応えを感じた彼らは、なんと30年ぶりの新作「U-DNA」をリリースすることになります。新作とはいっても本作は過去の楽曲のリアレンジバージョンを集めた「UD-SIDE」と、彼らに影響を受けたアーティストたちのリメイクやremix、コラボ楽曲を集めた「DNA SIDE」の2枚組となっており、完全なオリジナルアルバムというわけではありませんが、今回注目すべきなのは「DNA SIDE」です。砂原良徳、及川光博、サワサキヨシヒロ、浜崎容子、石井秀仁、NARASAKI、戸田宏武、松岡英明、Boris、Coherence(山口慎一+MOMO)、CARRE、永田一直、CHERRYBOY FUNCTION、川喜多美子といった、まさに彼らのDNAを引き継いだと思われるアーティストのそれぞれの解釈によるトリビュートは大変興味深かったのですが、その中で最もUDを感じることができたのが、1984年の結成以来一貫としてテクノポップにこだわり活動を継続している関西の"テクノドン"、田島隆安井麻人によるテクノポップ〜ニューウェーブバンド・A.C.E.が本家の成田忍とのコラボにより制作した楽曲「UDNACE (アドゥナス)」です。これはUDの過去の音源を換骨奪胎して作り上げたコラージュ的プログラミングにより作り上げられたオリジナル楽曲というところが実に良いのですが、何より成田忍が歌うこと自体がUDそのものであることをよく理解した上での起用であるとすれば、彼らのUD愛が筋金入りであることがわかるというものです。UDの「美味しい音」は成田の声とスネアドラムの音であることを理解できているリスナーにとっては、これ以上なく「わかっている」感覚を共有できる、素晴らしいコラボ楽曲であると思います。

【聴きどころその1】
 成田忍のボーカルが始まるだけで一気にUDの世界に引き摺り込まれます。それほどの存在感を彼の声が持ち合わせていたということを再認識させられます。Aメロ→サビという単純構造ですが、気怠いメロディのAメロでも、歌い上げる見せ場もあるサビでも、成田の独特のボーカルがあってこそなのです。

【聴きどころその2】 
 UDの最大の魅力はあのタイトなスネアドラム。代名詞とも言えるあのビートはいかなるリメイクやremixでも残しておきたいところです。この楽曲においてはあの特徴的なスネアをそのままに再現し、しかもダンダンダダダダッのフィルインがテクノ心をくすぐります。


 ということで、140位から121位でした。今回も難産・・・。
 次回でやっと折り返し地点となります。余りに生活に支障を来たしてハードなので一旦休憩をいれるかもしれませんが、次回はまた2週間後くらいのUPになるかと思います。どのような楽曲が出てくるのかお楽しみに!



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