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TECHNOLOGY POPS的感覚で選出する「平成」ベスト?ソング200:Vol.2【180位〜161位】

 さて、いよいよ始まった平成ベスト?ソングシリーズ。10回シリーズのvol.1が公開され、何人かの方々に遊びに来ていただいているようで、何と言いますか、個人の趣味の垂れ流し的なレビューに、わざわざ時間を割いていただきありがとうございます。アルバム編でもそうでしたが、長文の記事にもかかわらずお付き合いいただき恐縮です。ベストと言いながら、そしてランキングのカウントダウン形式でありながら、順位性は余り感じられず、恐らく同じアーティストが複数回出てくることもあるかと思います。そして出てこないアーティストは恐らく出てこないという現象が多くなると思われます。回が進むごとに偏りが激しくなっているように感じられることになると思いますが、それにはちゃんと理由がありますのでご安心ください。また回が進むにつれてご説明させていただきます。

 ところで、このシリーズのTOP写真はアルバム編から引き続き、平成時代(1989.1〜2019.4)に発売されたシンセサイザーで個人的に気になったものを挙げています。好きな人は見たらわかるとは思いますが、一応ネタバラシを左上から右へ。

John Bowen Synth Design SOLARIS(2013)、Roland JD-XA(2015)、KAWAI K5000S(1996)、Roland JV-2080(1997)、
KORG microKORG(2002)、Roland JP-8000(1996)

 それぞれ時代を彩ったシンセでしょうか。加算合成音源のK5000SはKraftwerkも使用していましたしね(Florian Schneiderに合掌)。あ、SOLARISは浅倉大介しか使っていないかもしれませんねw 次回からはまた写真が変わります。

というわけで、今回は平成ベスト?ソング180位から161位までのカウントダウンです。それではお楽しみ下さい。



180位:「SANPEI DAYS」 三瓶

    (2002:平成14年)
    (シングル「SANPEI DAYS」収録)
     作詞:高須光聖 作曲:DJ TASAKA 編曲:DJ TASAKA・木島英明


      vocal:三瓶

      programming:DJ TASAKA
      programming:木島英明

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 石野卓球のクラブイベントLOOPAのレギュラーDJに抜擢されて以降、砂原良徳脱退後の電気グルーヴの2000年リリースの傑作「VOXXX」を共同制作として名を連ねたのがDJ TASAKAでした。あの箍が外れたようなマッドなアルバムに多大な貢献を果たしたDJ TASAKAはその骨太なビートとスクラッチを中心としたテクノトラックによって2000年代のテクノシーンをリードしていくことになります。そんな彼のノベルティ的な仕事として記憶されるのが、一発屋芸人・三瓶のデビューシングル「SANPEI DAYS」です。
 2001年に自己紹介ギャグ「三・瓶・です」が何故か大ブレイク、その姿をテレビで見ない日はないという典型的な一発屋の軌道に乗った彼は、これもブレイク芸人ならではの傾向である歌手デビューを果たすことになります。ギャグをもじったタイトルのこの楽曲のプロデュースに白羽の矢が立ったのがDJ TASAKAというわけですが、これは邪推かもしれませんがもともと石野卓球にオファーをするはずが、石野サイドで面倒臭くなってDJ TASAKAにバトンを渡したというところなのかもしれません(後年石野は同じような傾向でブレイクした個性派芸人・ハリウッドザコショウの「ゴキブリ男」を手掛けることになります)。こうして製作されたこの「SANPEI DAYS」ですが、完成されたトラックはDJ TASAKAとエンジニアの木島英明がぶっといビートのテクノサウンドに仕上げるとともに、DJならではのギャグサンプリングを散りばめながら、難しい歌処理をこなしながらエレクトロチューンとして楽しむことができるギリギリの線を突くことに成功しています。

【聴きどころその1】
 バシッと決まるスネアとともに淡々と刻んでいく16ビート。この楽曲の全てがこのビートにあると言ってよいでしょう。恐らくインストゥルメンタルが最も聴き手を楽しませると思われます。そうなると三瓶の存在価値がなくなってしまいますが、三瓶のなんとも言えない歌唱も含めてのこの楽曲ですので我慢しましょう。
【聴きどころその2】
 機械的かつ無機質に単語を散りばめる台詞回しの手法は、まるで2008年の4-D mode1「Rekonnekted」収録の「僕の工場君のコンビニ」を先取りしたかのようなクールな感覚。そしてサビではウザいほどの鼻に抜けた声で連呼する「三・瓶・です」・・・そのビジュアルイメージに似つかわしくない硬派なトラックとのコントラストで、この一過性のムーブメントをこの楽曲はしっかり支えてくれたのです。


179位:「光の螺旋律」 kukui

    (2005:平成17年)
    (シングル「光の螺旋律」収録)
     作詞:霜月はるか 作曲・編曲:myu

      vocal:霜月はるか
      all instruments:myu

光の螺旋律

 アンティーク人形ファンタジーアニメーション「ローゼンメイデン」の続編として2005年に放映された「ローゼンメイデン・トロイメント」は、比較的コメディ要素も含んでいた前作と比較して、シリアスバトル寄りの内容が話題となりました。この作風にマッチしたエンディング主題歌として高い評価を得たのがこの「光の螺旋律」です。このエンディングソングを担当したのはkukui。前作ではrefio+霜月はるかとして「透明シェルター」を歌いましたが、refioのmyuはゲストボーカル扱いであった霜月はるかと意気投合し、新グループkukuiを結成。結果的にこの楽曲がkukuiとしての初シングルとなります。
 作詞が霜月、作編曲がmyuという完全分業体制のkukuiですが、やはり楽曲面を統括するmyuのサウンドセンスに注目すべきでしょう。myuはファンタジー系音楽ユニットrefioを後にeufoniusのボーカルとして活躍するriyaと結成、同人音楽界を中心にその名が知られていました。しかしrefioがmyuのソロユニットに移行しつつあった際に抜擢されたのが2004年放映のアニメ「ローゼンメイデン」で、その高品質な仕事ぶりがあってその後のアニメソング界での活躍の足がかりを掴んでいくことになります。kukuiはこのアニメの主題歌やキャラクターソングを集めたアルバム「Leer Lied」をリリースするなど、「ローゼンメイデン」の世界観にはなくてはならないサウンドイメージを獲得しましたが、その最たるクオリティの楽曲がこの「光の螺旋律」。リスナーをグッと引き込んでいく素晴らしいイントロに導かれたどこまでも上品で貴族趣味で中世ヨーロッパ風味の音世界を堪能できるこの珠玉のバラードは、格段にクオリティが向上した00年代アニメソングの象徴的な存在の1つと言えるのではないでしょうか。

【聴きどころその1】
 風通しの良いバッド風サウンドはアニメ史上に残る名イントロであると思います。夜風の冷んやりした風がそよそよと撫でてくれるようなビロードのような肌触りを表現したこのイントロだけでも、myuのサウンドセンスが尋常でないことが理解できるでしょう。アニメの作風を理解し、それを音でイメージを増幅させるセンスと能力に非常に長けたクリエイター、myuの才能が揺るぎないものであることを証明した名曲たる所以がこのイントロにあると思います。
【聴きどころその2】
 特にBメロからサビにかけてのオーケストレーション。フルバージョンではリズムが加わってくる間奏からの盛り上がりで、さらに開放感に浸ることができます。エレクトロもオーケストレーションもなんでもソツなくこなすことのできるmyuのサウンドデザイン能力は、その後しばらくはアニメソング界になくてはならない存在になっていきます。


178位:「SKIN」 brAin driVe

    (1998:平成10年)
    (マキシシングル「X・T・C・D」収録)
     作詞・作曲:HAYATO brain 編曲:鈴木雅也

      vocal・guitar:水田隼渡

      synthesizer programming:鈴木雅也

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 余りある若さの衝動に任せた強烈なリズムに乗ったデジタルロックで荒削りな魅力を持ったルックス・ボイス共にイケメンな水田逸人とザラついたプログラミングとフィジカルを前面に押し出したエレドラパーカッションパフォーマンスが好評だった表野雅信のデュオバンド・BRAIN DRIVEは、3枚のアルバムと4枚のシングルを残して1994年に解散同然の活動休止を余儀なくされます。その後ヴォーカルの水田はソロアルバム「SHELTER」を、表野はCONSOLE MIXというソロユニットで同名アルバムをリリース、奇しくもどちらもアンビエントテクノ的なアプローチの作品を送り出したところで一旦消息不明となりましたが、1998年、水田のソロユニットbrAin driVeとして突如復活、まずは4曲入りシングル「X・T・C・D」をリリースすることになります。自らの名前を水田隼渡に改名してこの復活への意気込みを見せるこのシングルは、いわばソロとしてBRAIN DRIVEの看板を背負うための自己紹介的なもので、表野の強烈なリズムは失われたものの、徐々にハードロック路線にシフトしていった活動休止前とは異なり、よりわかりやすくキャッチーなメロディと、得意のデジロックサウンドを融合させた90年代後半の雰囲気も意識した作風をアピールしています。
 今回取り上げるのはこのシングルの4曲目である「SKIN」です。本作の中でも最もポップ色の強いこの楽曲は、唯一アレンジに本作のサウンドアドバイザーでありシンセプログラマーである鈴木雅也を迎えていることから、エレクトリックかつマシナリー色の強いロックチューンに仕上がっています。ギターサンプルを効果的に使用した疾走感のあるトラックには尋常ではないキレがあり、その後のbrAin driVeとしての方向性を高らかに宣言した典型的な名曲となりました。なお、その後はBRAIN DRIVEとしてミニアルバム「BRAIN DRIVE 4 LIFE」とフルアルバム「GOD ANGLE」、シングル2枚をリリースした後、自主レコードの世界に舞台を移しMACHシリーズという自主制作シングルを現在まで20枚以上リリースするという独自のデジロック布教活動に努めています。

【聴きどころその1】
 ブレドラならではのキレを生み出す切り刻まれたギターサンプル。機械的にカットされた音源でシーケンスを構築する様式美がニュースタイルの最大の魅力です。後半からは左右にパンしながらガリガリガリガリとマシナリーに疾走していきます。
【聴きどころその2】
 根はロッカーらしいお約束のキャッチーなサビのフレーズ。Aメロはシンセで、Bメロはギターでシーケンスによるエレクトリックな質感を演出する楽曲ですが、これもあのサビで一気に開放感に浸るまでの伏線。ミスターデジロックと言われてはいますが、デュオ時代から一貫して目指しているのは新しいタイプのロックンロールで、その根底はこの楽曲でも令和の時代を迎えた今も不変です。


177位:「惡詛毘惡詛罵世」 本田華子(CV:木野日菜)、野村香純(CV:小原好美) 

    (2018:平成30年)
    (シングル「インキャインパルス」c/w収録)
     作詞・作曲・編曲:タナカ零

      vocal・rap:木野日菜
      vocal・rap:小原好美

      all instruments:タナカ零

インキャインパルス

 2016年、アニメソング界に超強力なサウンドクリエイターが登場しました。花谷麻妃が歌ったアニメ「くまみこ」のオープニングテーマであったシングル「だって、ギュってして。」のカップリング、山口百恵の名曲「中学三年生」の編曲としてクレジットされたタナカ零という無名のクリエイターは、その不気味なコードワークと繊細なエレクトロでインパクトを残すと、同収録のオリジナルソング「梔子リアリー」では編曲だけでなく作詞作曲も担当、ここでも不思議なコード感覚とEDMを取り入れた攻撃的なエレクトロポップで異彩を放つ良い意味での気持ち悪さを演出、その名前は強く刻み込まれました。その後、彼の名前を見たのは同年のアニメ「ブブキ・ブランキ 星の巨人」のキャラクター種臣静流の、エレクトロニカプログレッシブジャズ風味にアレンジされた恐ろしいセンスのキャラクターソング「流路」でしたが、彼の詳細な経歴はともかく全く行方すら捕まらず、完全にシークレットカクレンジャーならぬシークレットアレンジャーという存在だったのです。
 そして遂にタナカ零の才能が広く知れ渡ることになったのが2018年の女子中学生ギャグアニメ「あそびあそばせ」の主題歌「スリピス」です。表紙詐欺と言われるぶっ飛んだ内容の作品のアニメ化ということで、主題歌でも詐欺めいた不自然な爽やかさが求められた「スリピス」をタナカ零は、作詞作曲編曲全てを担当、そのクリア過ぎて逆に人工甘味料的な毒を感じる完成度の高いサウンドメイクにやはり気持ち悪さを感じさせました。アニメ自体はその顔芸と声芸を中心としたギャグが明らかになり、エンディング主題歌「インキャインパルス」で激しいスリーピースメタルパンクが披露されるわけですが、今回取り上げるのはその「インキャインパルス」のカップリング、「惡詛毘惡詛罵世」です。この暴走族のチーム名みたいなタイトルの楽曲は、「インキャインパルス」をさらに鬱屈した怨念による地獄の叫びに進化させたようなプログレッシブデスボイスメタル調。主人公である本田華子(C.V.木野日菜)の類稀なパフォーマンスが目立ちますが、昔遊びも取り入れつつリア充への呪詛を叫び続ける激情をメタルの様式美として緻密に組み立て上げる、そのどんな要望にも斜め上に応えうるタナカ零の音楽性の高さは、その後「あそびあそばせ」の数多くのキャラクターソング、そして彼の代表曲となる安月名莉子の「be perfect, plz!」でも明らかになっていくのです。いやあ、本当に(良い意味で)気持ち悪いです。

【聴きどころその1】
 当然ながら木野日菜の呪詛の数々に耳を奪われざるを得ません。「別れろ!別れろ!」のフレーズはGary Numanの「This Wreckage」(のサビ)を彷彿とさせますが、とにかく陽キャを破壊する前に自分の声を破壊する勢いで絞り出すデス&断末魔ボイスの数々が何ともやり切れません。「同情するなら彼氏くれ!」の発音も絶妙です。
【聴きどころその2】
 プログレッシブメタルに仕上げるサウンドはともかく、このようなキテレツな楽曲をいともたやすく書ける音楽的世界観。ラップが入ったりセリフが入ったりデスボイスが酒ばりたりと構成もリズムも一筋縄ではいきませんが、何より歌詞が狂気の沙汰。作編曲だけでなく作詞もできるソングライター、タナカ零の聴き手を選ぶ気持ち悪い楽曲に今後も期待です。


176位:「Detect」 山本耕史

    (1998:平成10年)
    (ミニアルバム「Yesteryear」収録)
     作詞・作曲:山本耕史 編曲:堤秀樹

      vocal・chorus・guitars:山本耕史

      keyboards・programming:堤秀樹

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 今や日本を代表する人気俳優と言ってもよい存在となった山本耕史。1993年の人気ドラマ「ひとつ屋根の下」でその名を認知され、大河ドラマ「新選組!」の土方歳三役でブレイク、その後は舞台、主にミュージカルを中心にドラマ・映画に引っ張りだことなっている熟練イケメン俳優であるとともに、堀北真希を射止めたという抜け目のなさもあって、今のところ隙が見つからないパーソナリティの持ち主です。そんな山本ですから当然のように音楽もこなします。1997年にはシングル「IMAGINE」で作詞作曲までこなすシンガーソングライター歌手デビュー、2枚のシングルをリリース後、1998年には3枚の先行シングルを収録した集大成的なミニアルバム「YESTERYEAR」がリリースされることになります。
 この山本耕史の音楽活動を支えたのがサウンドプロデュースを担当、1stシングル「IMAGINE」と3rdシングル「REFLECTION」の編曲を担当した笹路正徳です。2ndシングル「Always Together」の編曲者が土方隆行ですから、いわゆるマライア勢がバックアップしていたことになります。しかしそれらの楽曲はGLAY風味な熱いボーカルのオーソドックスなロックやバラードなので、ここで語るようなアイテムではありません。それではなぜ山本耕史なのかというと、1曲目「Detect」の存在です。このアルバムのその他の楽曲はとにかく熱いギターロックと保守的なバラードがほとんどを占めているのですが、「Detect」と「REFRECTION」のremixだけはかなり様相が異なっています。一言でいえば、山本耕史 meets ドラムンベース。編曲は笹路正徳の弟子筋にあたる堤秀樹で、2000年代には初期のMIYAVIのサウンドプロデュースを務めた人物。当時のトレンドであったあの細か過ぎるリズムパターンをしつこいほど存分に使用したサウンドで、山本耕史にある種の新境地を提供しています。その結果、他の楽曲とは比較にならないほどのよい意味での「面白さ」を印象づけることに成功しています。その後の俳優としての活躍が目立っていくにしたがってシンガーとしては表立って活動はしていませんが、こうした若さに任せたチャレンジングな楽曲はこれからも残っていくものなのです。

【聴きどころその1】
 なんといってもドラムンベース。どこまでもついて回るしつこさ満点のドラムンベースです。パタパタパタパタパタパタパタパタドゥルルルルルルルルルルルルルルルっと鳴りまくりです。間奏ではドラムンベースのみになる、いわゆるドラムンベースソロみたいになる部分もあり、もはや山本耕史は添え物状態になっているのが実に面白いです。
【聴きどころその2】
 エフェクティブなギターのカットアップや胡弓のようなサウンドも取り入れたチャレンジ精神。おかげで一気にスピリチュアルな世界観へ引き摺り込まれていきます。このストレンジなギター処理から察するにこの楽曲だけはロックというよりはニューウェーブに接近したと言えるでしょう。


175位:「Moonlight Tokyo Bay」 角松敏生

    (1989:平成元年)
    (アルバム「REASONS FOR THOUSAND LOVERS」収録)
     作詞・作曲・編曲:角松敏生 ブラス編曲:Jerry Hey

      vocal・synthesizer・drum programming:角松敏生

      synthesizer・computer manipulator:久保幹一郎
      guitar:Ira Seagul
      guitar solo:Jay Graydon
      bass:青木智仁
      drums:Steve Gadd
      piano:Richard Tee
      trumpet:Jerry Hey
      trumpet:Gary Grant
      trombone:Bill Reichenbach
      sax:Kim Hutchcroft
      background vocals:Curtis King Jr.
      background vocals:Brenda White-King
      background vocals:Tawatha Agee
      

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 80年代中盤から後半にかけての角松敏生のサウンドクオリティの向上は、日本の音楽界に多大な貢献をもたらしたと言っても過言ではないと思います。特に1984年の「AFTER 5 CRASH」以降のアーバンポップ化してからの快進撃は、当時のトレンディなニューヨーク由来のエレクトロファンクの日本における換骨奪胎という側面はあったにしても、早くからのスクラッチやラップの導入にフュージョン出自のテクニカルな演奏陣の融合によるハイクオリティなダンスミュージックを日本に根付かせたという点でその存在感は大きく、現在では国内外のシティポップ愛好家からの尋常でない再評価を得るに至っています。1988年の名盤「BEFORE THE DAYLIGHT」でPhilippe SaisseやJeff Bova等の ニューヨークで活躍する一流ミュージシャンを従えた全編プログラミングなアルバムで度肝を抜いた角松が、平成時代に突入した1989年にリリースした彼にとって12枚目のアルバムが「REASONS FOR THOUSAND LOVERS」です。前作の経験を生かした角松自身がアレンジしたエレクトリックチューンも多数収録されたこのアルバムは、彼のエレクトリックファンク路線の集大成と呼べる作品ということで、彼が好んで模倣を試みていたTHE SYSTEMと「OKINAWA」で遂に共同制作に及んでいます。しかしどうしてもサウンド全体としては前作の続編という印象は否めず、角松は同年夏の日比谷野外音楽堂での「MORE DESIRE」ライブにより、70年代フュージョン&ロックへの回帰が始まっていきます。
 そこで今回取り上げるのはアルバム「REASONS FOR THOUSAND LOVERS」に収録された「Moonlight Tokyo Bay」です。プログラミング中心の本作にあって、前作と同様ニューヨークナイズされた本作の中でも日本に帰ってきたようなノスタルジックな雰囲気にさせられる安心感のあるミディアムチューンですが、それは本作で唯一ベースに青木智仁が演奏していることにも要因があると思われます。やはり彼のスラップは角松サウンドの代名詞でもありますし、彼のスラップによってボトムが引き締まる感覚もあります。Jerry Heyのブラスセクションも鮮やかですが、この安心感とノスタルジーによっていよいよ角松の80年代が終わるのだなあという寂しさも印象づけられるという点で、区切りの名曲と言えるのではないでしょうか。そして何よりもメロディが神がかっています。角松はやはりメロディメイカー。それを証明している楽曲でもあります。

【聴きどころその1】
 ギラギラしたシンセとブラスセクションの絡み合い。80年代を感じさせるノスタルジックなサウンドデザインをここに印象づけられます。これに青木智仁のアタック感の強いスラップが加われば、いつでもあの時代に帰還することが可能です。
【聴きどころその2】
 間奏のブラス&ギターの駆け上がりからのギターソロの美しさ。このソロフレーズは平成30年間の中でもベスト5に入るのではないでしょうか。それほど見事に計算され尽くしたフレージングであると思います。ちなみに角松は弾いてはおらず、グラミー賞受賞者であり、AirplayのメンバーであったJay Graydonの名演奏です。


174位:「FAKE」 GENTLEMAN TAKE POLAROID

    (2009:平成21年)
    (アルバム「Orfeu」収録)
     作詞:出口雅之 作曲・編曲:森岡賢

      vocal:出口雅之
      keyboards・programming:森岡賢

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 GRASS VALLEYとSOFT BALLET・・同じバレー(バレエ)繋がり、そしてどちらもエレクトリック志向の音楽性ということから比較されることも多かった両バンドでしたが、GRASS VALLEYの敏腕ドラマー上領亘が、脱退後すぐにSOFT BALLETのサポートドラマーとして合流した時には、驚きと納得の相反する気持ちになったものでした。それから両バンドも既に消滅していた2008年、両バンドのメンバーがまさかの邂逅を果たすことになります。SOFT BALLET再結成が終了しソロに転じていた森岡賢は、Suiside Sports CarDandy D.・ローマとしきと幾つかのプロジェクトを並行してライブ活動を行っていた元GRASS VALLEYのフロントマン・出口雅之とエレポップユニットを結成することになります。その名もGENTLEMAN TAKE POLAROID。既にお察しのとおり、UKニューウェーブバンドJAPANの名盤からそのまま拝借したこのユニット名のとおり、そして出口と森岡という音楽的キャラクターからも想像できるとおり、音楽性は当然エレポップ。独特の個性的な低音を生かした出口のボーカルと、ダンサブルなシーケンスでクラブ仕様にも耐えうる森岡のエレクトロサウンドは、もちろん相性が良くないはずはなく、USBで楽曲を配布したりと実験的な活動を試みながら、2009年に待望のアルバム「Orfeu」をリリースすることになります。
 今回はこの「Orfeu」から最もダンサブルとも言える楽曲「FAKE」を取り上げました。これぞ森岡サウンドとも言える高速に蠢くシンセベースや粒立ちのよいウワモノシーケンスに、いかがわしさと妖しさを表現した出口のボーカルが絡み合い、テンションが上がること請け合いのエレクトロチューンに仕上がっています。活動期間は短く、結局森岡の逝去によってこれからの活動は永遠に叶わなくなりましたが、音源を1枚でもリリースしたことで音楽史にしっかり足跡を残すことに成功したのです。

【聴きどころその1】
 本文にも述べているようにシンセベースやシーケンスサウンドの粒立ちの良さ。この尖った音色が動き回ることで聴き手の耳にも突き刺さります。音色ひとつをとっても聴き手の印象は違ってくるものです。
【聴きどころその2】
 シーケンスに負けないリズムトラックのメリハリの良さ。アタック感の強いスネアと残響をカットするかのような処理によって、細かく刻むような切れ味の鋭さが感じられるリズムになっています。ダンサブル性をフィーチャーするシーケンスの処理に森岡は長けていると思います。


173位:「CONEY ISLAND JELLYFISH」 永瀬正敏

    (1993:平成5年)
    (アルバム「CONEY ISLAND JELLYFISH」収録)
     作詞・作曲:M.'EARL' NAGASE 
     編曲:Lion Merry・M.'EARL' NAGASE

      vocal:永瀬正敏

      guitars:間宮工
      keyboards・computer programming:Lion Merry
      rap:Mr. Finance
      special guest vocals:CHARA
      special guest vocals:Dawn Jellyfish

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 堀越高校芸能コース出身であった永瀬正敏は、現在では主に国内外のメジャー・マイナーを問わず映画で活躍する大物俳優のポジションを築き上げています。そのようなストイックな印象の彼ですから俳優一本で人生を歩んでいると思いがちですが、彼にはシンガーとしての側面も持ち合わせていて、80年代前半の駆け出しの頃には「夏のマドンナ」「南風・ドリーミン」など5枚のシングルと1枚のアルバムを残すなど、歌うことに対しての抵抗はなかったようでした。その後80年代は若手ドラマ俳優としての下積みを経て、1990年のカンヌ国際映画祭にも出品されたフランス映画「ミステリー・ウーマン」、1991年の山田洋次監督映画「息子」の相次ぐ主演で大ブレイクを果たすわけですが、そんな多忙な絶頂期の中制作されたアルバムが1993年の「CONEY ISLAND JELLYFISH」です。
 さて、俳優が片手間に音楽活動をすることは多々ある中で、本作は永瀬の本気度が窺える非常に挑戦的な作品です。サウンド・スーパーバイザーを務めているのが、ヴァージンVS〜メトロファルス〜ヤプーズと渡り歩いてきた女装のキーボーディスト・Lion Merry(ライオン・メリィ)です。この人選からして只者ではないことが理解できると思いますが、Lion Merryの人脈による光永巌、横川理彦、バカボン鈴木、田村玄一といったメトロファルス勢、忌野清志郎やあがた森魚、小林克也、杏子(バービーボーイズ)、CHARA、山崎まさよし、The Vincents、THE THRILL、Mojo Clubなど数々の大物アーティスト、女性シンガー、玄人好みのバンドが参加する、お祭り状態のアルバムとなっています。今回取り上げるのがタイトル曲の「CONEY ISLAND JELLYFISH」ですが、そんなゲストプレイヤー陣を向こうに張って永瀬自身が作詞作曲、そして一部編曲にまでも関わり、アーティスト性を開花させた格好となっておりますが、その音楽性はまさにポストニューウェーブ。Lion Merryの八面六臂のキーボードプレイをバックにキレの良いカッティングあり、ラップあり、オーケストラヒットありのごった煮感覚は比留間整の豪快なミックスも相まって、全く本職に引けをとらないトレンディでもあるし実験的でもある、1993年という時代感覚も正確に捉えた名曲に仕上がっています。

【聴きどころその1】
 後半になるにしたがって存在感を否が応でも主張してくる執拗なオーケストラヒット。とにかくガンガン鳴ります。90年代らしい淡々と繰り出されるビートに乗って、Lion Merryが嬉々として鳴らしまくるオケヒットが楽し過ぎて仕方ありません。
【聴きどころその2】
 サウンドを下支えするカッティングと唸りまくるソロと大活躍する間宮工のギターワーク。特にカオスな後半になるとフリーダムに弾きまくりますが、やはりこのような怖いもの知らずな勢いに満ちたギラギラした楽曲で自由に弾かせてもらうのはギタリスト冥利に尽きるのではないかと思います。


172位:「CHAT SHOW」 小川美潮

    (1993:平成5年)
    (アルバム「檸檬の月」収録)
     作詞:小川美潮 作曲・編曲:Ma*To

      vox・background vocals:小川美潮

      electric guitar:板倉文
      bass・lo-curve fx:MECKEN
      drums:青山純
      clavinet:近藤達郎
      all instruments・edit:Ma*To

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 小川美潮EPIC3部作「4 to 3」「ウレシイノモト」「檸檬の月」の素晴らしさについては、既にこの別邸の別企画でも語られているところです。この3部作ラストアルバムの「檸檬の月」については下記をご参照いただければと思います。

 また、平成ベストアルバムランキングでも32位にランクされておりますので、そちらのレビューもご参考下さい。

 上記のレビューでもありますとおり、「檸檬の月」は名曲揃いの名盤であることに疑いはなく、「はじめて」「檸檬の月」「ふたつのドア」「Tall Noser」なども当然今回のランキングに入っても遜色がないことを理解した上で、本作から1曲をということになると、やはり「CHAT SHOW」を選ばざるを得ないでしょう。EPIC3部作ではトリッキーで独特な楽曲もある中で、癒しを感じさせるメロディ志向の楽曲が多かったわけですが、この「CHAT SHOW」は本来の小川美潮の遊び心と実験精神が全開となった異色中の異色の楽曲です。エレクトロニクス関係とタブラを叩く常に小川美潮バンドの重鎮であるMa*Toが作編曲しているこのギミックにギミックが重ねられたストレンジポップチューンは、上記のクロスレビューでMa*Toさん自身にものすごく詳細に解説していただいておりますとおり、演奏を切り刻んでサンプリングしたものを鍵盤に割り当てて人力演奏するというエレクトロニクスであってアナログ的な手法のもの。余りに凝りまくった手法やミックスが施されているため、当初のクロスレビューでは勘違いを頻発させてしまい、遂にMa*Toさん本人から突っ込まれる始末でしたので、今さらながらここで語ることなどできようはずもございません(笑:このツッコミがきっかけでMa*Toさんのfacebookで詳細な制作談話をお聞きすることができました) しかしながら現在ではDAWで何とでもできるような手法でも、当時のような人力ギミック奏法や強引なミックス手法で作り上げたトラックの方が、どこか人間味があると同時に格段に面白さが違ってくると感じてしまうのは、単なるノスタルジーだけではないと思います。

【聴きどころその1】
 BANANA(川島裕二)謹製の40種類以上のブラススタッブを鍵盤に1音ずつ割り当てて人力演奏するブラスパート。サンプリングならではの美味しい部分だけを切り取ったキレのあるフレーズが連発されており、なかなか現在のDAWでも再現はできても味は出てこないと思われます。
【聴きどころその2】
 最後の「晴れても曇りでも〜♪」の部分の独特のコード進行。ここの部分だけは板倉文のアイデアということですが、まさに彼でしか生み出せない不思議なコード感覚です。このパートで楽曲の印象も一変しますしカオスなサウンドも締めることができるというものです。キテレツでありポップというのが、この小川美潮と彼女を支えるKilling Time周辺のクリエイター達の魅力なのです。


171位:「ハングマン」 SKELETON JOE

    (1994:平成6年)
    (オムニバス「DRILL KING ANTHOLOGY」収録)
     作詞:髑髏錠次 作曲:ボーン骨岡 編曲:SKELETON JOE

      vocal・synthesizer・programming:SKELETON JOE

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 1993年12月にリリースされた電気グルーヴの4thアルバム「VITAMIN」は彼らが本格的にアシッドなTECHNOに取り組んだエポックメイキングな作品で、この作品のブレイクにより電気グルーヴはやんちゃで面白可笑しいラップグループから、サウンド面でも評価されるTECHNOグループへと駆け上がり、レジェンドへの道を歩み始めたわけですが、彼らの良いところは常にギャグ精神を忘れないところです。1994年に入ってシングル「N.O.」もヒットして絶好調であった彼らが次にリリースしたのがこの企画盤「DRILL KING ANTHOLOGY」でした。ドリルキングレコードという架空レーベル所属アーディストのコンピレーションアルバムという触れ込みですが、これは彼らが当時担当していたラジオ番組「電気グルーヴのオールナイトニッポン」でネタを集めて設定された架空のキャラクターの架空の楽曲を集めたもので、中身はすべて電気グルーヴの3人(のうちの誰か)です。先行でシングルリリースされていた演歌歌手・瀧勝や子門真人チックなルックスと歌唱の子門'zをはじめ、ペダル踏弥、鳥"留噛男、ギ・おならすいこみ隊といった人を食ったような、それでいて一度は聴いてみたいと思わせる個性的なキャラの数々に、アシッドテクノの王様・Hardfloorまで瀧勝「人生」のリミックスで参加する豪華さでサポートしています(しかしHardfloorはアニメ「ファンタジスタドール」のキャラクターソングまでリミックスしてしまうのでもはや微塵も不思議ではないのですが)。
 そんな毒々しい面々の中で今回取り上げたかったのがSKELTON JOE「ハングマン」です。上記のアーティスト写真を見ていただければわかりますとおり、中の人は紛れもなく砂原良徳です。見た目はロックでバイクな感じですが、サウンドは当時の砂原ですので当然アシッドテクノでTB-303をブイブイいわせています。なお、この楽曲が貴重なのは砂原自身が歌っていることです。彼がこれまでの歌唱を正式な音源として残しているのは、この楽曲と電気グルーヴの6thアルバム「オレンジ」収録の「ママケーキ」の冒頭と最後だけではないかと思われますが、この楽曲では独特のスタッカート唱法でいかにも素人っぽい歌で聴き手を和ませてくれること間違いありません。砂原良徳が歌うアシッドテクノ歌謡、これだけでも聴くに残す価値はあると思います。

【聴きどころその1】
 TB-303による幾重にも重ねられたアシッドなシーケンス。四つ打ちで延々とドラッギーに繰り返されるリズム&シーケンス。特に後半はフリーキーにフィルターを上げ下げしながらのインプロヴィゼーションを試みています。
【聴きどころその2】
 砂原のスタッカート唱法、の裏で歌をなぞる矩形波フレーズ。音程が不安定な足元がおぼつかない歌に合わせたとぼけたフレーズですが、全編電子音のバックトラックにおいては、絶妙な存在感を発揮しています。


170位:「Spring Summer, Fall」 能登麻美子&神田朱未(雅音&梨穂子)

    (2006:平成18年)
    (シングル「あしたの手」c/w収録)
     作詞:山野裕子・橋本由香利 作曲・編曲:橋本由香利

      vocals・rap:能登麻美子
      vocals・rap:神田朱未

      all instruments:橋本由香利

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 2006年放映のSFアクションアニメ「ウイッチブレイド」の前期エンディング主題歌「あしたの手」は、不穏なアトモスフィアから始まるサウンドデザインと、能登麻美子の独特の影のある声質が渋さ満点のミディアムチューンで、そのサウンドクオリティには目を見張るものがありました。この良曲を作詞作曲編曲を一手に手掛けたのは21世紀の山川恵津子と呼ばれるに相応しい女性サウンドクリエイター・橋本由香利です。90年代からシンセサイザープログラマーとしてスタジオワークで経験を積みながら、marigold leafやmaybelleといったネオアコースティック風味のガールズユニットで良質なPOPSを生み出していた彼女でしたが、2000年代に入るとアニメソングの仕事が頻繁に舞い込んでくることになります。そんな彼女の名が一躍知られるようになったのがこの「あしたの手」であったように思いますが、実はカップリングである「Spring Summer, Fall」は「あしたの手」をさらに上回るほどの可愛らしくも幸福感に包まれたポップチューンなのです。
 能登麻美子と神田朱未の声優2人が交互にポエトリーリーディングのようなウィスパーラップ?でAメロが進行すると、Bメロでは神田が歌い能登が合いの手ライム、Cメロで能登が歌い神田がコーラス、そしてサビでユニゾンというデュエットの特性を見事に生かし切った楽曲構成が素晴らしいです。シンセベースやピコピコシーケンス、シューゲイザーなギター処理等、ポスト渋谷系なサウンドは橋本由香利の得意とするところで、単なるアニメのキャラクターソングの枠を軽く飛び越えたクオリティを感じさせる名曲と認めざるを得ません。

【聴きどころその1】
 能登と神田の対照的な声質をラップ調ポエトリーリーディングやハーモニー、ユニゾン、コーラス、多彩な手法を使って料理する楽曲構成の妙味。インターネットラジオのテーマソングで済ますにはもったいないほどの完成度の高さは、この大団円を感じさせる情報量満載の楽曲の組み立て方にあります。
【聴きどころその2】
 大活躍の声優2人をバックで支えるサウンドデザイン。シンセベースにチープな電子音をアルペジオで絡ませる小洒落たプログラミングは橋本の得意技。そして歪みを微妙に効かせたギターのエフェクト処理は、完全にmarigold leaf時代からの音楽性の賜物です。


169位:「愛犬アンソニー」 リンダIII世

    (2013:平成25年)
    (シングル「愛犬アンソニー」収録)
     作詞:只野菜摘 作曲・編曲:TOMISIRO

      vocal:ムツミ
      vocal:ナオミ
      vocal:サクラ
      vocal:サユリ
      vocal:シオリ

      programming:掛川陽介
      programming:本澤尚之

愛犬アンソニー

 群馬県太田市ならびに大泉町は多くのブラジル人・日系ブラジル人が暮らしているブラジリアンタウンとして有名ですが、2010年代に入って地方のインディーズ系アイドルグループがもてはやされるようになると、そのような地域からもローカルアイドルが生まれることになります。2013年に結成されたリンダIII世は5人組の日経ブラジル人中学生ガールズユニットで、ヤマダ電機等でのライブ活動(この辺りが地方色豊か)のかたわら、早速1stシングル「未来世紀eZ zoo」でCDデビューを果たします。この摩訶不思議かつSF感覚溢れるタイトルと、ブラジルのクラブで大人気のダンスミュージックであるバイレ・ファンキを取り入れたエレクトロポップサウンドが話題を呼び、その後1年間は異様な存在感を放ちつつ快進撃、「愛犬アンソニー」「日灼けマシーン」と立て続けにインパクトのあるシングルをリリース、そして翌2014年には集大成となるアルバム「VIVA!リンダ3世」(いつのまにかIII世→3世に微妙にグループ名が変更されていた)がリリースされ、その勢いは本物になるかと思わせました。しかし、結局その後は音源制作が滞り、メンバーの脱退、学業優先による活動停滞が重なり、2016年に解散に至るという経緯を辿ることになります。
 というわけで、ここで取り上げるのは2ndシングル「愛犬アンソニー」です。リンダIII世の楽曲を一手に手掛けていたのは、クラブ系エレクトロニックミュージックユニットLanguageのメンバーでもある掛川陽介本澤尚之の音楽制作ユニット・TOMISIROです。鈴木さえ子関係や(その昔掛川が彼女のマネージャーだった縁)overrocketのサポート等、そしてアニメ等の劇伴制作でも知られるTOMISIROですから、エレクトロニクス面でのサウンドデザインのクオリティは当然お墨付きと言えるでしょう。一味違うシンセサウンドにしっかりサンバやバイレ・ファンキ要素が加わり、陽気なブラジリアンガールズが元気よくナンセンスな歌詞を歌い上げるというカオスなイメージは、この「愛犬アンソニー」によってさらに推し進められています。「未来世紀eZ zoo」で戸惑いを見せたリスナーに路線確立を高らかに宣言したのが、この名曲であると思われます。

【聴きどころその1】
 グイグイと滲む音を絞り出すシンセベース。ウォブルベースも使いながら独特の粘っこいベースラインでカオスワールドを助長しています。音の輪郭がはっきりしていてもなお歪んでいる存在感のあるシンセベースがこの楽曲の太い軸となっています。
【聴きどころその2】
 特にBメロの合間に入るギミカルなシンセ、にかかるエフェクト。非常にリズミックに挿入されるため、その部分で独特のハネが生まれます。こういうフレーズを少し入れるだけでも楽曲のカッコよさが大きく変化するものです。


168位:「空飛ぶ船」 まにきゅあ団

    (1999:平成11年)
    (オムニバス「ラジマニ4号」収録)
     作詞:江幡育子 作曲・編曲:細江慎治

      vocal:江幡育子
      synthesizer・programming:細江慎治
      voice:佐野信義

      voice:相原隆行

らじまに4号

 もうしつこいほどトルバドールレコードについて取り上げていますが、今回はまさにこのテクノポップがアンダーグラウンドに潜行していた時代における代表的なレーベルの本丸バンド・まにきゅあ団(通称ま団)の楽曲です。ま団はナムコサウンドチームの細江慎治佐宗綾子、後にNintendo-DSのシンセソフトKORG DS-10のプロデューサーとして名を馳せる佐野信義、後年THE IDOLM@STERのクリエイターとして名が知られるようになる佐々木宏人に、変幻自在の唯一無二な声優系ボーカリスト・江幡育子をボーカルに迎え1993年に結成されたテクノポップバンドです。トルバドールレコードのオムニバス「KAKI-IN」「まにきゅあ団のテーマ」が収録されたのを皮切りに、同年末にシングル「マニキュア団」、翌年には1stアルバム「ラジヲまにきゅあ1374kHz」と立て続けにリリースされます。この作品がその後のトーク&ゲスト楽曲のオムニバスシリーズ「ラジマニ」シリーズへと発展していきますが、まにきゅあ団はその後も順調に1995年に2ndアルバム「みんなのまにきゅあ」をリリースすると、まさかのメジャーレコード会社のポニーキャニオンからお呼びがかかります。恐らく並行して活動していた細江、佐野、佐々木に同じナムコチームの相原隆行を加えたサウンドやフレージングがYMO楽曲風な雰囲気のオリジナルソングユニット・O.M.Y.が話題を呼んだため、このユニットとの紐付きでのオファーであったと推測されますが、1997年にサイトロンレーベルからメジャー第1弾アルバム「まにのろぢ〜」がリリース。しかしながらやはり余りの個性派ぶりに刺激が強過ぎたのか、その後はインディーズに立ち返っていきます。そのタイミングで1999年にリリースされたのがラジマニシリーズの「ラジマニ4号」です。
 数あるまにきゅあ団の楽曲の中から取り上げるのは、この「ラジマニ4号」に初収録された「空飛ぶ船」です。ま団といえば江幡育子の強烈なメルトダウン系のチャイルドボイスの印象が強いのですが、この楽曲ではその印象は極力抑えて珍しく(?)真っ当に歌い上げています。作編曲はもちろんま団の楽曲の多くを手掛ける「めが団長」細江慎治です。彼の楽曲は美しいコードワークでテクノポップの何たるかを十分に噛み砕いて理解させるような説得力のあるシンセフレーズが満載で、このある意味上品でクオリティの高さが光るサウンドだからこそ、ま団が単なるイロモノでは終わらないサウンドセンスに長けたバンドとして記憶されているわけです。「空飛ぶ船」は(途中でコントっぽいセリフのやりとりが入りますが)直線的なベースラインも含めて完全にステレオタイプなテクノポップ。ま団としては異色の部類ですが、彼らの質の高さを十分に発揮した名曲と言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 テクノポップといえばこれ、というべきテッテケシンセベースライン。矩形波フレーズとの絡みや、間奏でのサイン派ピコピコシーケンスとの相性も抜群。この自動演奏の交わりだけでもテクノポップの真髄を感じさせます。
【聴きどころその2】
 魅惑のコードワークを帰結させるためのスウィープパッド。さすがは自身の音楽制作会社にスーパースウィープと名付けるだけあって、こだわりの広がりがある白玉パッドです。


167位:「Neon Bell」 overrocket

    (2001:平成13年)
    (アルバム「Mariner's Valley」収録)
     作詞:本田みちよ 作曲:鈴木光人・渡部高士 編曲:overrocket

      vocal:本田みちよ
      synthesizer・programming:鈴木光人
      synthesizer・programming:渡部高士

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 2000年にミニアルバム「blue drum」でデビューしたoverrocketでしたが、知名度としてはまだ一部のエレクトロポップ愛好家の耳にかすかに届く程度でした。しかし本田みちよのクールなボーカルと、electric satieの素晴らしい仕事ぶりで評価を高めた鈴木光人のポップセンス&サウンドメイク、そして当時電気グルーヴの片腕としても注目を浴びていたプログラマー兼サウンドエンジニア渡部高士による緻密なプログラミングワークが、クラブ界隈で注目を浴びていくまでにはそれほど時間はかかりませんでした。2001年にリリースされたシングル「WEATHER FORECAST」は「blue drum」とは打って変わってダンサブル路線へとマイナーチェンジ、持ち前のビートプログラミングを前面に押し出したトラックでいよいよ本領を発揮すると、同年待望のフルアルバム「Mariner's Valley」をリリースするに至ります。
 本作は、のっけからの「Valley Of Mariner」から完全に宇宙空間に飛ばされる感覚を味わえる圧倒的なシンセサイザー によるサウンド構築力は、当時のエレクトロポップ系ユニットとしては一歩抜きんでた存在であることを証明しており、「Equals To You」「Wasurenaide」「Still Life」「1301」「Opym」とダンスチューンにミディアムナンバーとその独特のクールな質感によるオシャレなエレクトリックサウンドを十二分に堪能することができる名盤ですが、その中でも最も名曲の誉高い楽曲が3曲目の「Neon Bell」です。鈴木と渡部の共作であるこの楽曲は、Roland TR-707系のPCMドラムマシンなリズムトラックがシンプルに響き渡る中で、音の隙間からシンセフレーズを入れたりシーケンスが入ってきたりするタイミングが絶妙に上手いです。ディレイとリバーブを巧みに使いながら、音数が少ないのでそのエフェクトの響き方がスッと心に馴染んでいく感覚の気持ち良さは半端ありません。この時期のoverrocketは、サウンド面では最もマジカルでファンタジックな時期であるように思います。この後、彼らはさらにポップセンスに磨きをかけ大名盤「POPMUSIC」へと歩みを進めていくのです。

【聴きどころその1】
 TR-707由来のリズム音色。特にバスドラ連打とチープなフィルインは、まさしくTR系独特のもの。飾り気を一切排除した音の隙間の中だからこそ映えてくるあのコクのあるバスドラは必聴です。
【聴きどころその2】
 後半に現れる天から降りてくるようなエフェクティブボーカル。日常を一切廃したミラーリングされたファンタジックワールドを体験することができます。シンセとエフェクトはこのような異次元の世界を表現するために最も力を発揮すると考えていますが、この楽曲はそうした音色とそれを料理する手法が抜群に上手いと思います。


166位:「妖精物語」 三浦理恵子

    (1991:平成3年)
    (シングル「水平線でつかまえて」c/w収録)
     作詞:石川あゆ子 作曲:山口美央子 編曲:船山基紀

      vocal:三浦理恵子

      keyboards:山田秀俊
      chorus:比山貴咏史
      chorus:木戸やすひろ
      chorus:広谷順子
      programming:船山基紀
      programming:助川宏

水平線でつかまえて

 90年代を代表するソロアイドルといえば安室奈美恵でも広末涼子でも鈴木あみでもなく、やはりポニーキャニオン在籍時の三浦理恵子であることに間違いはありません。特に1991年のソロデビューから1993年初頭までの垢抜け切らない頃までの彼女はルックス・声質共に非凡なキャラクターと、都志見隆や山口美央子らが丹精込めて作り上げたメロディによる素晴らしい楽曲に支えられ、神がかった愛くるしさで、アイドルファンの心を掴みました。彼女は1988年に5人組アイドルグループCoCoのメンバーとしてデビュー、その小さい体から発せられる魅惑のキャットボイスのインパクトは強く、飛び道具としてCoCoにとっては欠かせない武器となっていましたが、そんな彼女だからこそグループの中で真っ先にソロデビューが決定、1stシングル「涙のつぼみたち」、そして彼女の代表曲となる2ndシングル「水平線でつかまえて」が立て続けにリリースされます。1stシングルと同じく及川眠子・都志見隆・船山基紀のトリオによる、「クロ〜ルクロ〜ルして〜♪」のキャッチーなフレーズとあの印象的なイントロのギターリフは、90年代初頭のアイドルソングの最高峰の1つに数えられる名場面ですが、実は彼女はシングルのカップリングに名曲が多い珍しいタイプのアイドルなので、今回取り上げるのは「水平線でつかまえて」のカップリング曲である「妖精物語」にしたいと思います。
 90年代前半のアイドル、特に乙女塾系(CoCoやRibbon、Qlair等)に求められていたのは清廉性的、優等生的な可愛らしい雰囲気であったと思われますが、三浦理恵子はそういったイメージをさらにメランコリックに凝縮した存在でした。楽曲タイトルにも神様や天使などファンタジックな単語が並べられ、サウンドはまさにコケティッシュでエレガントな肌触り。「妖精物語」はそんな要素を兼ね備えた最たる楽曲で、山口美央子特有のキュートなメロディラインを大御所アレンジャー船山基紀が夢見心地に料理して、極上のアイドルソングに仕上げています。歌詞に本人の名前を入れてしまう恥ずかしさもなぜか許されてしまう、アイドルとしてのカリスマ性が当時の彼女には宿っていましたが、この楽曲はまさに彼女のアイドル性を体現した名曲と言えるでしょう。

【聴きどころその1】
 山口美央子の美しいメロディを見事に活かしたシンセワーク。ストリングスやパッドの音色の美しさが際立っています。特に間奏のソロで使用されるドリーミーな音色に加工されたエレピサウンドが絶品です。
【聴きどころその2】
 間奏の後に登場するサビで強調される強烈なスネアサウンド。これほどエレガントで上品なサウンドなのに、この部分だけはバシバシ叩きまくるビートが前面に出てきます。こういうメリハリもアレンジの幅を広げる匠の技なのでしょう。こういうちょっとした仕掛けは大好きです。


165位:「夢想伝心−Synchronous Touch」 eyelush

    (1997:平成9年)
    (シングル「1000th Venus」c/w収録)
     作詞:15 作曲・編曲:eyelush

      vocal・programming:秋葉伸実
      synthesizers・programming:大竹正和

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 90年代後半に登場したニュー・テクノティック.ポップユニット、eyelushについては、平成ベストアルバムランキングにおいて1stアルバム「BAVAROIS」が31位、2ndアルバム「e.s.s.e」が42位にランクインしておりまして、それぞれ解説しておりますので、そちらをご参照いただければと思います。

 eyelushが残しているアルバムはこれらと1999年にインディーズからリリースされた3rd「apple minds」の3枚のみですので、3枚のうち2枚がアルバム編で50位以内に入ってしまったことからも、いかに彼らが90年代後半というエレポップとしては微妙な時代にあって、テクノ心をくすぐるサウンドを提供していたかを理解していただけると思います。当時流行のヴィジュアル系スタイルの泣きの秋葉伸実のボーカルに、アナログシンセ・FMシンセ・エレドラ・ボコーダーなんでもござれのシンセマニア垂涎のサウンドメイクは、当時はキーボードスペシャルの読者くらいしか注目されなかったと思いますが(セミヴィンテージシンセ特集を担当していたりしていました)、その隠れたクオリティも含めて貴重な立ち位置のユニットであったという印象を持っています。
 ここで取り上げるのは彼らの2ndシングル「1000th Venus」のカップリング曲「夢想伝心−Synchronous Touch」です。ただでさえ無名なeyelushの、ただでさえ貴重な8cmシングルで、さらに彼らの楽曲の中で唯一アルバム未収録の楽曲ですから、ほとんどの方が知らない(もしくは覚えていない)とは思いますし、興味もないとは思いますが、そんな埋もれた楽曲でもさすがは90年代後半のCD全盛時代、タイアップがついていました。TBSインターネット放送局「INTERNEXT」テーマ曲というまさにインターネットがやっと普及し始めた時代ということで、彼らの近未来イメージ的な楽曲がマッチしたのでしょう。カップリングとしてはもったいなほどの瑞々しいスペイシーポップで、軽快なシンセベースが跳ねるシンセドラムとエレドラを織り交ぜたダンサブルなリズムに、幾分誇張された粘り気のあるボーカルが乗る安定のeyelushスタイル。何といってもキャッチーなメロディラインが魅力的です。この手のタイプはどうしてもエレクトリックサウンドの作り込みに偏りがちですが、彼らは基軸に分かりやすいポップなメロディというものがあって、その上でサウンドの冒険を試みていたところに、個人的には非常に好感が持てるのです。

【聴きどころその1】
 吸い込まれるようにタイムトンネルを抜けるようなシンセパッド。宇宙を感じさせるには刺激的な音よりもモジュレーション系でくぐもらせるようなサウンドが効果的です。アウトロの無限上昇音からの下降音の使用も大胆です。
【聴きどころその2】
 eyelushサウンドの象徴ともいえる大竹正和のシンセサイザーソロ。彼らの楽曲のほとんどに必ず挿入されるシンセのソロですが、この楽曲でも例外ではありません。独特の不安定なチューニングによるリード音色は、まさに彼らの代名詞と言えるでしょう。


164位:「ふたり」 WEFER CRUIS

    (1995:平成7年)
    (オムニバス「Winter Garden '95-'96」収録)
     作詞:菊池陽子 作曲・編曲:成田真樹

      vocals:菊池陽子
      all instrument:成田真樹

      guitar:小川敦

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 Pizzicato Fiveを脱退した高浪敬太郎(現:高浪慶太郎)は1994年にオムニバスアルバム「weekend for ladies」「SEASON'S GROOVIN'」のプロデュースを任され、この企画をきっかけとして鈴木智文、中山努や細海魚といったクリエイターを集めて音楽制作集団・out of tune generationを設立します。彼らは映画音楽をヴィンテージシンセの演奏でカバーするCINE TECHNOシリーズと共に、オムニバス「Winter Garden」シリーズを手がけることになります。1994年にリリースされた第1弾では中山努とANNA BANANAとのユニット・Tune Out Sisterや、戸川京子と高浪のユニット・Avec、荒木晋と小川敦のファンクユニット・Soupといった面々が楽曲を持ち寄ったオシャレポップな企画盤に仕上がっていましたが、このオムニバスが好評であったこともありその翌年には第2弾、「Winter Garden '95-'96」をリリースすることになるわけです。本作には、高浪や鈴木、中山の他にも既にメジャーデビューしていた寺本りえ子のTRANSISTER GLAMOURや、前作に引き続き参加のle 5-4-3-2-1のサリー久保田のユニット・Sally Soul Stew、新人の吉野佐和子や吉野善二郎といったアーティストが参加していましたが、そこに収録されていたのが、WEFER CRUISというユニットの楽曲「ふたり」です。
 WEFER CRUISは菊池陽子成田真樹のデュオユニットです。成田真樹といえば公式プロフィールでは1997年からシンセプログラマー&サウンドプロデューサーとして多数のレコーディング作品に参加、特にCHARAのマニピュレーター仕事が有名ですが、Hi-Posiの「性善説」やサリー久保田や小島麻由美と結成したPillow Taik 4といったユニットでも活躍したシンセサイザーマスターでもあります。ということで、この「Winter Garden '95-'96」は1995年リリースですから、このWEFER CRUISは公式仕事より以前のスペシャルユニットという意味合いが強いと思われます。いわゆる新人扱いといったところですが、そのサウンドクオリティはレーベルマスター達の楽曲と全く遜色はなく、いかにも冬を思わせるクールなパッド音色やまとわりつくようなシンセリフなどは既に非凡なセンスが垣間見えています。シンプルな音像からパートが追加されるタイミング、軸となるフレーズの主張の仕方など、サウンドの組み方としても実にプロフェッショナルな隠れた名曲です。

【聴きどころその1】
 Bメロから入ってくるコーラスからのコードワーク。それまでのシンプルな電子音からスッと世界観が変化する瞬間が秀逸です。そこからヒンヤリしたパッドがあって自然にサビへ突入する流れがこの楽曲の最大のポイントです。
【聴きどころその2】
 サビから大サビにかけてのこの楽曲のテーマといえるシンセリフ。シンセ奏者であることを主張するこのアルペジオと、リズミカルなハウス調のピアノサウンドとの絡み合いも絶妙です。


163位:「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」 Berry工房

    (2005:平成17年)
    (シングル「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」収録
     作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎

      vocal:清水佐紀
      vocal:嗣永桃子
      vocal:徳永千奈美
      vocal:須藤茉麻
      vocal:夏焼雅
      vocal:熊井友理奈
      vocal:菅谷梨沙子
      vocal:石村舞波

      chorus:つんく♂・竹内浩明・稲葉貴子
      keyboards・programming:平田祥一郎

なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?

 モーニング娘。の大ブレイクにより、にわかに芸能界随一のアイドル集団として急成長を遂げていたシャ乱Qのつんくプロデュースによるハロー!プロジェクト(以下ハロプロ)は、2002年に小学生に限定したハロー!プロジェクト・キッズ オーディションを開催し、15名の小学生が合格を果たします。晴れてアイドル活動を開始した彼女達は、矢口真里を中心とした期間限定ユニット・ZYXや、田中れいなをフィーチャーしたトリオユニット・あぁ!等に数名が参加、コンサート出演などで経験を積むと、いよいよ2004年に15名中8名が選抜され、新グループ・Berryz工房が結成されることになります。小学生に似つかわしくないR&B歌謡の1stシングル「あなたなしでは生きてゆけない」から数曲は思ったほど売り上げが上がらなかったものの、5thシングル「恋の呪縛」でオリコンランキングが急上昇すると、翌2005年の6thシングル「スッペシャル ジェネレ〜ション」で遂にオリコン週間7位にランキングされ、ブレイクを果たします。この馬飼野康二アレンジによるダンサブルな勝負曲が功を奏したわけですが、ここで取り上げるのはブレイク直後に前作を継続したくなる思いを隠しもせずリリースされた7thシングル「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」です。
 つんくらしい(良い意味で)ふざけたタイトルのこの楽曲はアニメ「パタリロ西遊記」のタイアップも獲得し期待度の高さを窺わせましたが、この楽曲をアレンジしたのは、00年代後半以降のハロプロ楽曲アレンジを大久保薫と共に支えることになる、平田祥一郎です。もともとコナミのゲームサウンドクリエイターであった彼は00年代に入りPOPフィールドへ進出、ZYX「白いTOKYO」や後藤真希「長電話」等のハロプロ楽曲にも抜擢され、持ち前の爽やか系エレポップで新風を呼び込むと、Berryz工房では沖縄テイストを取り入れた「ピリリと行こう」と前述の「恋の呪縛」に起用されていました。そしてこの「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」では、「恋の呪縛」に引き続きお得意のダンシングエレクトロポップサウンドが炸裂、「スッペシャル ジェネレ〜ション」の勢いをそのまま持続したテンションの高さでその人気を確立した・・とまではいきませんでしたが、彼女達らしい若さ溢れる好楽曲であることには間違いありません。結果的に彼女達の人気の定着は、熊井友理奈の身長が予想以上に伸び続けた時期に比例していくことになります。

【聴きどころその1】
 ボーカルとリンクするブレーキの効いたベースライン。このシンセベースがテクノ感を助長させる最大のポイントです。間奏後の転調前のグリュリュンッといったベースフィルインも美味。
【聴きどころその2】
 Aメロ2周目で入ってくるチープなシーケンスや間奏で天から降ってくるようなアルペジオ。テクノ感助長その2です。特に間奏のこのアルペジオからのコーラス→Cメロからの転調への流れは絶妙。プロフェッショナルなアレンジ力が堪能できます。


162位:「優しさは雨のように」 CooRie

    (2007:平成19年)
    (シングル「優しさは雨のように」収録)
     作詞・作曲:rino 編曲:大久保薫

      vocals:rino

      guitar:高山一也
      bass:入江太郎
      drums:宮田繁男
      piano:柴田俊文
      strings:大先生室屋ストリングス
      programming:大久保薫

優しさは雨のように

 18禁恋愛アドベンチャーゲーム「君が望む永遠」の同名エンディングテーマをMEGUMI名義で歌っていたrinoが、アニメ「HUNTER×HUNTER」のオープニング主題歌などを担当していたkenoのメンバーであった長田直之と結成したPOPSユニットがCooRieです。基本的にrinoが作詞、作編曲を長田が担当していた彼らの名前が知られるようになったのは、2000年代18禁恋愛アドベンチャーゲームの象徴的な存在であった「D.C. 〜ダ・カーポ〜」の、2003年放映のアニメエンディング主題歌「未来へのMelody」でした。しかし程なく長田が脱退し、CooRieはrinoのソロユニットに移行しますが、ここからrinoが作曲も手掛けるようになってアニメソング界のaikoともいうべき彼女の音楽性が本格化し始めます。2004年に入ると、アニメ「光と水のダフネ」エンディング主題歌「あなたと言う時間」、2005年にはアニメ「美鳥の日々」オープニング主題歌「センチメンタル」リリースと良曲を連発、「D.C.S.S. 〜ダ・カーポ セカンドシーズン〜」のエンディング主題歌も「暁に咲く詩」でしっかり射止め、その後も2007年までアニメ「びんちょうタン」オープニング主題歌「いろは」、アニメ「びんちょうタン」オープニング主題歌「京四郎と永遠の空」オープニング主題歌「クロス*ハート」と立て続けに名曲をリリースして絶頂期に差し掛かります。そしてもはやライフワークとなったD.C. シリーズの続編となるアニメ「D.C.II 〜ダ・カーポII〜」のエンディング主題歌も当然のように担当することになります。それが今回選出した「優しさは雨のように」です。
 既にその卓越したメロディセンスが業界に認知されるようになったCooRieが、当然D.C. シリーズで期待されるのは、悲しくも切ないストーリーを盛り上げる珠玉のバラードソング。そしてrinoのメロディを大袈裟なストリングスによるフレージングで装飾する00年代アニメソングを代表する名アレンジャーが大久保薫です。彼の流麗で美しいアレンジとrino楽曲の相性は、既に「あなたと言う時間」や「いろは」で実証済みでしたが、この楽曲でもストリングス・ピアノ・アコースティックギター等の生楽器と控えめな電子音とのバランスが素晴らしいです。なお、この楽曲はCooRieにとって現時点で最大のヒットソングになっています。

【聴きどころその1】
 全編で動き回る流れるようなストリングス。クレッシェンド・デクレッシェンドやミックスによるエフェクトを駆使した緩急のある音処理がなんとも悩ましいです。
【聴きどころその2】
 オーケストレーションを向こうに回したプログラミングの存在感。特にイントロ等で主張するTony Mansfieldもビックリのソナー音は、この楽曲が単なるバラードではなくファンタジックワールドとしての世界観を具現化したものであることを表現しているかのようです。


161位:「Fish in the mirror」 Fish in the mirror

    (2003:平成15年)
    (シングル「Fish in the mirror」収録)
     作詞:高橋聡 作曲:神原将 編曲:高橋聡

      vocal・programming:高橋聡
      keyboards・programming:神原将

      guitar:Takechan

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 ポストTMネットワークと目された仙台出身のエレクトロポップバンド・SΛKΛNΛは、1991年に名盤「Get into Water」で颯爽とデビューしたものの、ヒットにはつながらずその後は2ndフルアルバム「Collage」と2枚のミニアルバムを残してメジャーデビュー後わずか2年で解散の憂き目に遭ってしまいます。このSΛKΛNΛでメインボーカル&コンポーザーとして中心を担っていた高橋聡は、その後はインディーズに拠点を移しライブを中心に音楽活動を継続、90年代末からは自身のバンドIDEAを率いて持ち前のニューロマンティックなボーカルとデジタルサウンドを駆使して自身が信じる音楽道を突き進んでいましたが、2002年に岡村靖幸フォロワーとしてイベント等で活動していた、デビュー当初からのSΛKΛNΛの大ファンであった神原将と出会い、SΛKΛNΛがやり残した音楽性を再び世に問うためのデュオユニット・Fish in the mirrorを結成することになるわけです。
 彼らはライブ活動のかたわら音源制作を始め、当時のインディーズ向け配信音楽サイトであったNEXT MUSICへの投稿を始めます。そこにはIDEA時代の楽曲も配信されていましたが、そこで大胆にもユニット名そのものをタイトルにした自信作が配信されました。それが今回取り上げる「Fish in the mirror」です。サウンド面では2000年代にアップデートされたリズムとシンセサウンドですが、歌メロが始まった瞬間、独特の翳りとヌメりのあるボーカルにSΛKΛNΛ時代のノスタルジーに引き込まれていきます。作曲は神原ですがSΛKΛNΛ時代の楽曲がよく研究されていて当時の雰囲気を再現することに成功しています。神原自身は3部作となるはずだった後期SΛKΛNΛのミニアルバム「The Moon in Daylight」「Pearl in the Shell」の続編を作る意気込みでしたから、この「Fish in the mirror」を皮切りに次々と音源を発表、6曲入りのミニアルバム「Fish in the mirror」をほぼライブ会場限定でリリースしたところまでは良かったのですが、そこで本来の目的を達したためか、以降は活動を休止。現在ではNEXT MUSICもサイトを消失し彼らの音楽も神原個人のSoundCloudに数曲を残すのみとなっています。

【聴きどころその1】
 基軸となるのがニューロマ志向のため、特にAメロは歌もシンセもグニャッと歪んでいく感覚です。高橋のボーカルはそんな癖があるためそれが味となり、シンセもその歌唱法に追随する感じです。
【聴きどころその2】
 2000年代らしい四つ打ちリズムでどこかシンセ音色も多彩でトランシー。そこにIDEAでも弾いていたTakechanがギターを加えることで肉感が強くなって楽曲全体にパワーをもたらした感があります。


 ということで、180位から161位でした。先はまだまだ長いですが、今回はこの辺で。次回は141位までです。どうしても2週間は間隔が空いてしまう雰囲気ですが、今後も気長にお楽しみ下さい。




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