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#9【腸脛靭帯炎】腸脛靭帯炎の詳しい評価と治療について。

前回は腸脛靭帯炎について病態、発生機序、評価を簡単にまとめました。

今回は実際に腸脛靭帯炎の方を治療する際に重要な、力学的な評価と治療方法について紹介していきます。
膝が痛いからといって闇雲に膝周りを揉んでも治るものではありません。腸脛靭帯炎になってしまった原因を見極めて治療できるようになりましょう。


1.Ober Test(オーベルテスト)で腸脛靭帯の伸張性をチェック

腸脛靭帯炎の方については、ひとまず腸脛靭帯の伸張性をチェックしましょう。腸脛靭帯の伸張性チェックにはOber Testが使えます。

from "Physio Study"

オーベルテスト
①患者を患側の脚を上にして寝させます。
②下側の股関節と膝関節をを90°屈曲させ固定します。
③検者は患側の脚の膝を90°屈曲させて、股関節0°の肢位で脚を持ちます。
④持ち上げた下肢をゆっくりと離すか、内転方向に動かします。
⑤その際、下肢が下降せず外転位にとどまったり、内転できなければ陽性です。

2.腸脛靭帯の緊張が強くなる力学的要因

腸脛靭帯は膝関節を外反・外旋方向に引張る作用があります。腸脛靭帯の緊張が強くなるということは、腸脛靭帯が膝関節をこの外反・外旋方向へ常に引っ張っているということで、それはつまり膝関節が内反・内旋方向に動きやすくなっているということです。

ですので、腸脛靭帯炎の治療をする際は膝関節内反・内旋を助長させるような要因を取り除くような治療が必要になります。
以下に、代表的な要因を3つ挙げます。

2-1.膝関節の伸展制限

膝が伸展しないと、下腿は内旋しやすくなります。膝が完全伸展することでスクリューホームムーブメントが働いて、下腿は外旋します。完全伸展が阻害されると、外旋できない下腿は内旋位でいることを余儀なくされるので、常に下腿が内旋状態になり膝の外旋モーメントが大きくなります。

外旋モーメントが大きいと腸脛靭帯が緊張しますので、腸脛靭帯の炎症に繋がりやすくなります。

2-2.股関節の内旋制限

股関節の内旋制限は、股関節外旋位による外側重心につながり、膝が外に開くことで下腿の内反が助長されます。一般的にガニ股と呼ばれる姿勢ですね。

太ももの外側に負荷がかかるので、ランニング時に足をつく度に、太ももの外側が突っ張ることになります。そうした負荷が繰り返し加わると腸脛靭帯の緊張が増し、腸脛靭帯の炎症に繋がります。

人の股関節の外旋筋は内旋筋の3倍存在すると言われていますので、外旋が自然と優位になりやすく、内旋制限が出る方はとても多いです。

2-3.足首の回内

先ほど2-1で膝の伸展制限があると下腿が内旋してしまうと言いましたが、下腿内旋を考える際にもう一点大事なポイントがあります。それが足首です。

足首の回内(距骨下関節の回内)によって下腿は内旋します。足首の回内自体は衝撃を吸収するのに必要な動きですが、必要以上に回内が強くなっている(いわゆる扁平足など)と下腿内旋が固定されてしまい、腸脛靭帯に常に負担がかかるということがあります。

3.腸脛靭帯の滑走性改善

腸脛靭帯炎の治療は、今挙げたような力学的な要因を除去することが最も重要だと個人的には考えていますが、腸脛靭帯自体への施術も一緒にしてあげた方がよろしいかと思います。

腸脛靭帯は大腿部外側の外側広筋や大腿二頭筋と接しており、しばしばこれらの筋との滑走性が低下しています。腸脛靭帯と大腿二頭筋の間の溝や、外側広筋との間の溝をイメージしながら緩めていきます。これらはかなり痛みを伴いますので、強さには注意するべきでしょう。
力学的な要因も考慮するのであれば、腸脛靭帯を後方から前方へスライドさせるようにして緩めます。大腿骨(股関節)を内旋方向に誘導するようなイメージですね。

さらに、痛みが出ている患部への施術も重要です。
炎症が起こっている腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の接触部には、クッション代わりの脂肪組織が介在しています。炎症が起こるとこの脂肪組織の柔軟性が低下してしまいます。腸脛靭帯を外側上顆から剥がすようなイメージで、腸脛靭帯をつまんで前後に動かしてマッサージするのも効果的です。
また腸脛靭帯をつまみながら膝の屈曲伸展運動の自動運動を入れてもらうことで、組織感の滑走性を促すことができます。
炎症による圧痛があるときなどは、強さや押さえる場所を注意しましょう。

以上が腸脛靭帯炎の方に対する力学的な評価と治療方法です。力学的な評価を現場で実施するのは案外難しく、私も苦手です。毎日、腸脛靭帯炎の方をみるのであれば知識も定着しやすいのでしょうがそんなことはなかなかありませんので。
少ないチャンスの中でも的確に評価できるように、評価の目的と意味をきちんと理解しておいて、実際に患者さんが来られたときにすぐイメージできるようにしておきたいですね。


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