廊下でタッパーを開けると、
沢山のたこさんたちがいた。

「ねえねえ、ちょっと、
　うちのクラスまで来て」。

今日はホワイトデーで、
呼び出されてみたら
これが出てきたわけで、
つまりこれは、お返しらしい。

歩は、
ふわふわの猫っ毛で、
線が細くって、
いつも背中が丸まっている男の子だ。

どうして
文通みたいなメール交換を
始めたんだっけなあ？

どちらも
お笑い番組が好きだと、
わかったからだっけ？

とにかく私たちは、
毎日メールを送り合っていた。

エロいシーンのある
少女漫画を貸したら、
「ハレンチ！」
とメールが来た。

「雨の日は嫌い」
と一言送ったら、
「雨は、絢のこと好きだって」
と、一言返ってきた。

付き合ってるの？って
聞かれることも
時々あるんだけど、
そういうんじゃないのだ。

私にも相手にも、
他に好きな人がいるのだ。

だから私は
雑に焼いたクッキーを渡すのだし、
向こうは私に、
タッパーなんか、よこすのだ。

ちょっとかわいそうだけど
たこさんを一匹、口に入れる。
にゅっ、と噛むと
肉汁が広がって、
歩が小さく笑う。

――

（ここからあとがき）
3本目！書きたかったの書ききれた～。いえーい
文脈メシ妄想選手権の趣旨からは激しく逸脱している気がするが…
久々にエッセイがいろいろ書けたから…よしとするか…。
素敵な企画をありがとうございました！

あ、ちなみに、引き続き実話です。

くるりもジャズもエリックサウスも、
この人が教えてくれなかったら
興味を持つことはありませんでした。

大学生になってふとメールを送ったら、
「今モーリタニアにいる」と返してくれて、
それからずっと、
私もアフリカに行ってみたい、と
思っているのです。