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虚しさのにおいがするといいドラマな気がする:獣になれない私たち

タラレバ娘のドラマは、みんなかわいいんだけど、なんだかしっくりこなかった。漫画だと「わあ、好き…この話」って思うのにドラマだとそう思えなくて、全然はまれなくて、なんでかなあと思っていた。

小倉ヒラクさんのブログにあった見解(抜粋すると、原作の「お前ら、現場で汗かけよ」というメッセージが「ツラいこともあるけど、がんばろっ☆」というヌルいエールにすり替わっている、って話)で一旦納得したのだけど、やっぱり私のもやもやにジャスト!ではなく、しかし日々の暮らしを送るうちに、そんなもやもやは書類の山の下にズブズブと埋もれていったのである。

けど「獣になれない私たち」を観て、やっとわかった。

「ああ、そっか虚しさのにおいが皆無のドラマにはいいと思えないんだわ、私」 

パワハラな社長、その怒号をするりと抜けていく同僚の尻拭い(終電まで)、長く付き合ってるけど結婚には至らない恋人、恋人の母親から頻繁に来る連絡、実の親に頼れないこと。

ガッキーが抱えている事情、一つ一つがそれなりに重くって、それだけを描いてもドラマとしては成立するんだけど。

一番厄介なのは、そういうのがごちゃまぜになって、なんなら自信のなさ、とか、自己肯定感の低さ、とか、新しいものまで巻き込んでコンクリート色の塊になって、しかしながらなぜか薄っぺらくて、心の床にペリ、と落ちて、それでいて変な存在感を放って乾いてしまうこと、及びそれに気づいてしまったときの気持ち、じゃないかと私は思っていて。

つまり、わ、虚しい、って気持ちのことですね。

ガッキーの役、晶ちゃんは、時々そういう気持ちになってるんじゃないか、と思うような瞬間があって。
虚しさは別に、暇なときとか一人のときとかだけに感じるんじゃないよね。誰かとご飯を食べてても、なんならパーティ会場みたいなところでも、ふと意識を奪われてしまうことがあるよね。

その、なんだろう、(疲れだけが原因じゃなくて)ぼんやりと虚しくなって浮世からログアウトしちゃうような雰囲気が、とてもいいなと思ったし美しいなと思ったのです。

タラレバ娘のドラマは、もっと不安なり悲しみの理由がはっきり決まっている感じがした。既婚の人が好きで辛いわ、とか、仕事を若手に奪われたわ、とか(骨を抜かれてる魚の感じ、とでも言おうか。たしかに魚だけどきれいすぎる。整いすぎてる)。漫画のモノローグでは、もっと、どうしようもない虚しさが砂漠みたいに広がっていることが感じられて私はそこが好きだったんだと思う。

現代社会を舞台にするファンタジー、つまり理想を突き進む物語というのも必要だと思うのですが、リアルなその時代の人たちの気持ちを描きたいと思ってるドラマなんだったら、ちゃんと虚しい気持ちを持っていることを感じさせてほしい、と思うのです。

※以下、その他よいなと思ったところや気になるところ、関連する事項などを、断片的に。


■事務所に寄らないか誘われたシーン。観た直後は、「そこはあってよ、ワンナイ・ラブ」なんて思ってた、気持ちはバブリーな私(平成生まれ(平成も過去のものになってゆくね))なのだけど、実際そうなったら、「それで解決すんなら苦労しねぇんだよ!」と結局キレてそうな気もするよ。

■パワハラ社長の「剣児」って名前がはまりすぎではないか。親もゴリゴリな人で、幼少期の剣児は全然褒められなくて、自己肯定感を持つための曲がった手段としてこんな人になっちゃったんじゃ、とか勝手に思った(よく知らないけど、トランプ大統領は親に否定されて育ったと聞いてそう思った)。こういう人ほど結婚してるのもリアルではないか。あと、(関西弁で)巨人好きですよ!っていいながらその外に話がまったく広がってなくてうけた。

■親と仲良し、が普通じゃない、ということをこういう話題になりそうなドラマで描いてくれてありがとうと思う。

■土下座ガッキーの頭を撫でてくる人はもちろん嫌だったのだけど、恋人役の田中圭氏がガッキー家の机の上の書類を勝手に読んだことに、私はもっともやっとしたよ。
(最近、悪い人じゃないけど微妙にむっとさせられる人、みたいなのに着目している。私がむっとしやすいからでもあるのだが。完全な極悪人なら関係も切りやすいし周囲の理解も得やすいけど、ある人にとって、とかある時は、とか限定的に良い人だと関係は切れず、周囲にも気持ちがわかってもらえない。現代日本の多くの人はそこに悩まされてる気がして、いつかそういう人を、自分の作品で描けたらいいなと思っている)

■コンサバガッキーが電車のシーン?で履いてた黄緑の靴がかわいかったなー。秋に黄緑って新しくっていいなー。男モテしなそうな靴だから、きっと彼氏と会う日には履かないんだろうなー。あとカバンもちょうどほしい色(超合わせやすそう)でかわいかったなー。

■逃げ恥のときも思ったんだけど、タイトルの出し方なんかダサくない?レトロな感じを狙っているのかな?ダサそうに見えてかっこいいレトロってもっとあると思うんだけど。獣、のフォントはかわいい。

■このレビューにも画像を借りていながらあれなんだけど(あ、トップの画像は公式サイトから引用させていただいております)、宣伝用の画像は何を伝えたいデザインなのかなーと思った。このドラマを見たいと思う人に届かなそうなデザインな気がした。代替案が思い浮かばないから批判する権利ホントはないけどな!

■あのお店のビールが飲みたいよ…。燻製チーズとかとともに。晶ちゃんがお酒強いところもなんかいいね。

■ぐうたら女に黒木華!のキャスティング!まあ、絶対それじゃ終わらない人物なんだろうとは思うけども。

■菊地凛子の声…いい…

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