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質問の練習

素晴らしい形の手、
寝ぼけててもぎゅっとしてくれるところ、
バリカンで刈ってから3日目の後頭部の、
びろうどみたいな触り心地。

恋人の好きなところを挙げれば、
きりがない。

しかし、
彼の一番ナイスなところは、
彼自身がペア―ズの自己紹介に
書いていた、こういうところ。

「常により良く変わっていきたいと思うので
 至らぬ所があればすぐ改善したいです」

ペアーズに書いてたのと違って、
彼は実は喫煙者だったけど
(いつまでも責めてごめんなさい、
 だけど禁煙、よろしくな!)、
この所信表明は本物で、
私はいつも、いたく感動している。

例えばこないだの、
「質問の練習」のこと。

恋人はおしゃべりが大好きで、
こちらが
100字くらいの回答を期待して
質問を投げると、
2000字は返してくる人。

バレンタインに渡すものの
参考にしたくて
「甘いもの、何が好き?」
って聞いたら、
48個も教えてくれた。

こういうところ、
いつもかわいくて面白いのだけど、
私に質問を返してもらえないことが、
結構寂しかった。

ふいに、
求められているのは
「ピッチングマシン」で、
「キャッチボールの相手」じゃないのかも、
って思っちゃって。

でも、
「私にも質問してほしい」って
お願いするのは
なんだかあまりにもちっぽけで情けなく、
これくらいの不満は我慢しよう、って
しばらくそのまま何も言えなかった。

とはいえ、
「これくらい」も
溜まれば重たくなるもので、
最後の一滴がぽとりと落ちたある日、
気持ちがあふれてしまった。

「私は訊いてるのに、
 私には訊いてくれない。
 私には興味ないんだ、 
 自分が話せたらいいんだ」

低い声で言い捨てた私は
それから黙って洗面所に行き、
しゃこしゃこと乱暴に歯を磨くことで
怒りを表明し続けた。
ああ、まただ。
私って、いつもこう。

こういうとき、
気まずい沈黙を破ってくれるのは、
きまって恋人だ。
私が居室に戻ると、
話の続きをしてもいい?と
聞いてくれるから、
顔はむすっとしつつ、内心ほっとする。

「楽しく話を聞いてくれてると思って
 嬉しくなっちゃって、
 僕ばっかり話して、ごめんね」

「いや、もちろん
 楽しく聞いてるんだけど、
 聞くばっかりだと、つらいよ。
 会話の運営を
 こっちに全部
 投げられてる感じがして…」

そう話しながらも、
私の脳には衝撃が走った。

そ、そうか…、
この人にとって、
「相手が喜んでるっぽい話は
 たっぷり長くすること」が、
「相手のためにしてること」なんだ…!

--

彼と知り合った当初、
「この人って、
 男に生まれた私なんじゃないかしら」
と思うことが多かった。

定食屋と九龍城が好きで、
TBSラジオを聴くし
一人カラオケに行くし、
コーヒーはブラックだし。

だから時々、
考えてること、知ってること、
正しいと思ってることまで、
全部おんなじなんじゃないか?って、
勘違いしちゃうことがある。

でも、違う。

こんなにそっくりでも、
私たちは違うのだ。

だから私は、
彼に海外旅行の愉しみを
伝えることができるんだし、
彼は私に、
紙面デザインのアドバイスを
することができる。

--

「甘いものは…何が好きですか?」
「えっと…何色が…好きですか?」

その後の恋人、
英語の教科書みたいな質問を
急に繰り出し始めるから、
おかしくて、優しくて、
ついつい笑ってしまった。

お互いが持ってるものを
少しずつ分け合って
過ごす毎日は、
常に新しくて、とても楽しい。

私は彼とは違うから
「すぐに」を付けて
言い切ることはできないけど、
思い込みやわだかまりを
言葉で溶かしていきながら、
少しずつ、
もっと良く変わっていけたら、
と思う。

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