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#5 「赤字ローカル線」

ローカル線の存廃問題で、対象線区を指して「赤字ローカル線」と呼び、メディアも見出しに使います。分かりやすくするためであって、間違いとは言えないのですが、私は少々、違和感を感じます。不採算線区は、幹線や新幹線にも存在します。鉄道はネットワークとして価値を生んでいるという側面があり、一部の都市鉄道を除いて、もともと各線区の独立採算を志向する仕組みにはなっていません。利用の少ない線区に焦点を置いた収支の公表が、結果として「赤字ローカル線」を強調することにつながったように思えます。ただ、この営業損益は、あくまで参考値にすぎません。正確な収入はもちろん、費用の算定もはっきりとした基準があるわけではないのです。

JR九州やJR西日本は、沿線自治体との存廃に関する議論の材料として提供するため、線区別収支の公表方法に頭を悩ませました。どこまでの営業費用を盛り込んで計算するのか。各社の開示した数値が誠実なものであるに違いありませんが、妥当性があるのかは、いささか疑問です。地元負担の可能性を探る段階では、線路・施設の維持にかかる固定費など、より具体的な中身を見ていく必要があるでしょう。運営形態の転換でシンプル・スリムを追及すれば、コストダウンの可能性があるのも事実。ですが、数字を提示して、現状の厳しさを地元に知ってもらう、という狙いは当たりました。「利用者が何人か」よりも「どれだけ赤字か」の方が“響く”ようですね。

一方で、線区別収支を公表することは非常に重い決断です。JR東日本は、何年も葛藤を続けてきた問題でもあります。コロナ禍前から、深沢祐二社長は「(ローカル線を都市部や新幹線の利益で維持する)内部補助の仕組みは崩れつつある」との認識を示し、線区別収支の公表について勉強していると話していました。最近は会見の場で、年内にも公表する、と発言しているようです。すぐに公表できないのは、算定方法がないためですが、公表しない理由では、数字を出すことが、果たして議論を良い方向に進めることにつながるのか、地元感情に配慮してきたことが大きいでしょう。環境の急変に直面し、余裕がなくなった今、ローカル線の荒療治が始まるのでしょうか。

そもそもローカル線の存廃問題は「採算の取れなくなった路線から撤退する」という話ではなく、鉄道としての特性を生かせない利用状況にあり「輸送モードとして鉄道が果たすべき役割を終えた」という話です。趣旨からすると、輸送密度(1kmあたりの1日平均旅客輸送人員)で判断するものと考えます。国鉄末期に国鉄再建法で輸送密度4000人未満の路線が特定地方交通線に指定され、廃止対象となりました。しかし代替道路の未整備やピーク時の利用者数など、除外規定によって廃止を免れた路線が多く残っています。今言われている赤字ローカル線は、当時すでに赤字でした。40年近く経ち、地域にとって鉄道の位置づけも、ずいぶん変化しているはずです。


(検証)先送りした宿題

2019年4月、平成最後の日に合わせて書いた記事です。令和に先送りした「宿題」の一つとして、ローカル線の今後について少し取り上げました。地域をどのようにして維持していくのか、今まさに真剣に取り組むべき課題です。その中でも「公共交通」を、地域にどう組み込んでいくかは重要なテーマとなるでしょう。経済性だけで図ることはできません。

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