小林広幸

1976年生まれ、某紙所属の現役経済記者です。noteでは「移動」をテーマに公共交通や…

小林広幸

1976年生まれ、某紙所属の現役経済記者です。noteでは「移動」をテーマに公共交通や観光などについて発信したいと思います。21年3月まで4年間、運輸業界担当として見聞きし、考えてきたことが、何かの参考になれたら幸いです。発言は個人の見解で、所属媒体を代表するものではありません。

最近の記事

#12 BRTによる代替可能性

鉄道閑散線区の代替交通の選択肢として、BRT(バス高速輸送システム)が挙げられるようになりました。東日本大震災の被災区間復旧で、JR東日本が気仙沼線と大船渡線の一部に導入して実効性が認められ、注目を集めました。線路敷に専用道を整備して定時性・高速性を確保。高校や病院、役所を経由した柔軟なルート設定で、運行頻度も従来比1.5-3倍に向上しました。ICカード乗車や運行情報表示も備えるほか、運行管理は鉄道システムの考え方を踏襲して「鉄道ライクな」(JR東日本幹部)乗り物となっていま

    • #11 次の当たり前を作ろう

      2021年初め、高輪ゲートウェイ駅前再開発エリアで出土した、明治初期の鉄道構造物「高輪築堤」の報道公開がありました。旧品川車両基地の西縁で、駅開業前まで山手線と京浜東北線が走っていた線路の、ほんの数メートル下。1872年に新橋-横浜間に鉄道が開業した当時の遺構が、ほぼ原形を残していました。海上に鉄道を通すために築かれた堤は壮大で、石積みの緩やかな傾斜は、そこがかつて海岸線だったことを想像させるのに十分。堤内に舟を通すため設けられた水路には石垣の橋台が残っており、堤幅によって異

      • #10 障害者割引の事業者負担

        都市鉄道の多くが来春、運賃を引き上げます。近畿日本鉄道など一部を除き、コロナ禍の収入減少に伴う改定ではありません。ホームドアやエレベーターなどの整備を加速するために「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用した加算運賃の導入にかかるものです。距離を問わず1回の乗車あたり10円程度。利用者に広く、薄く負担を求めることになります。多額の費用がかかるホームドアの設置ですが、利用増にはつながりません。それでも転落防止などホームの安全性向上に効果が高いため、各社は重点的に進めています。東急電

        • #9 西九州新幹線の期待と覚悟

          西九州新幹線・武雄温泉-長崎間が9月23日に開業します。長崎は中国やオランダの影響を随所に見つけられる異国情緒あふれた街。貿易、造船で栄え、かつて九州最大の都市でした。坂が多くコンパクトな市街は、風光明媚で食も多彩。平和教育が目的の修学旅行先としても人気です。2020年10月、観光特急「36ぷらす3」取材ついでに訪れた、久々の長崎では、再開発が進む駅周辺の変化に驚きました。旧駅舎の商業施設で出発直前まで土産物を選んでいたのですが、ホームがあまりに遠くて、長い通路を走ったことを

        #12 BRTによる代替可能性

          #8 放課後の動く教室

          平日夕方のローカル線が賑やかだと、何だか微笑ましくなります。学生が本を読んでいたり、勉強していたり、スマートフォンで映像や音楽を楽しんでいたりと、思い思いに過ごす車内。半個室風の固定式クロスシートで、仲間と雑談に花を咲かせている様子は、さながら「放課後の教室」のように見えます。同じ通学手段でも、列車とバスとでは、空間が違います。他愛のない話で盛り上がっているのでしょうか、耳に心地よいノイズは、その土地ならではのBGMです。彼ら、彼女らの世界を邪魔しないよう、旅人はそっと身を置

          #8 放課後の動く教室

          #7 計画運休のジレンマ

          数年前、ある週末の晩。台風が接近している中、赴任先の東京から自宅のある京都まで東海道新幹線で帰りました。相当の遅れを覚悟して乗りましたが、やはり名古屋手前でホーム入線待ちの車列が詰まって滞留。深夜にはなりましたが、3時間遅れで無事到着できました。下車後、改札前で駅員さんが利用客に頭を下げて、きっぷの払戻などに対応している姿を見ると、何だか申し訳ない気持ちに。足早にIC改札を抜け、タクシー乗り場へと向かいました。たとえ悪天候でも、安全が確保できる限り、輸送サービスを提供しようと

          #7 計画運休のジレンマ

          #6 僕らが旅に出る理由

          取材を兼ねて久しぶりに、北海道を訪れました。私の乗った飛行機は往復満席、移動に使った長距離特急の指定席は、いずれも空席がわずかでした。札幌駅が朝夕、混雑していた一方で、歓楽街「すすきの」の人出はコロナ前にまだ遠く、シティホテルでは人気の朝食ビュッフェがスムーズに入場できる状態。ですが、行く先々で伺うと、客足が伸びている手応えがあるとのこと。航空各社は7月から国内線をコロナ前水準に復便する予定ですし、新千歳空港では2年以上運休していた国際線も再開します。北海道へのメーンルートは

          #6 僕らが旅に出る理由

          #5 「赤字ローカル線」

          ローカル線の存廃問題で、対象線区を指して「赤字ローカル線」と呼び、メディアも見出しに使います。分かりやすくするためであって、間違いとは言えないのですが、私は少々、違和感を感じます。不採算線区は、幹線や新幹線にも存在します。鉄道はネットワークとして価値を生んでいるという側面があり、一部の都市鉄道を除いて、もともと各線区の独立採算を志向する仕組みにはなっていません。利用の少ない線区に焦点を置いた収支の公表が、結果として「赤字ローカル線」を強調することにつながったように思えます。た

          #5 「赤字ローカル線」

          #4 閑散線区の存廃問題

          ローカル線の存廃は本質的に地域の問題だと思います。国や鉄道会社に責任を押し付けず、将来どのような地域を作っていくのかを、住民が主体となって議論し、最適な交通を選んで再構築していくことが望ましいと考えます。自治体ごとの「地域公共交通計画」策定を通じて、より便利な移動手段の確保、改善を目指すことが理想です。大切なのは線路を残すことではなく、交通を守ること。輸送モードの転換は今や、かつてのような“善後策”ではなく、経済性・利便性ともに“最善策”にもなり得ます。利用者の減少は地域住民

          #4 閑散線区の存廃問題

          #3 需要回復の現在地

          まずは約2年のコロナ禍で移動需要が、実際にどの程度減少しているのか、あらためて把握するところから始めたいと思います。大手鉄道・航空会社はすべて決算が3月期で、前年度の業績は5月中旬までに出そろったところです。激烈な需要減に対して供給を減らすなど固定費削減策を積み上げ、旅客運送以外の事業で収益を補い、資産売却による特別利益の計上など構造改革に取り組んだ企業努力の結果が、各社の最終損益に表れています。今回は年間の輸送実績を示す「輸送人キロ(旅客キロ)」という指標に着目します。コロ

          #3 需要回復の現在地

          #2 民間企業が担う公共交通

          日本各地の公共交通事業者が未曾有の苦境に立っています。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う移動制限によって、利用が激減しているためです。移動は経済活動、交流、観光など日々のくらしを成り立たせるために、必要不可欠なものでした。事業者は需要動向と利用者からの期待を考慮して、あらかじめ決めてある時刻、経路、車両で移動サービスを提供し続けてきました。たとえ移動需要が一気に消失しても、社会インフラとして、すぐさまサービスを縮小することは難しく、移動制限下でも、空席の目立つ列車、バス、飛行

          #2 民間企業が担う公共交通

          #1 移動の明日を考える

          コロナ禍による社会環境の変化を受けて“移動する”ことの意味が問われているように思えます。移動制限下、情報通信技術を活用すれば、働くことができ、買い物ができ、人とつながれる場面のあることが広く認知されました。これまでと違い、効率や安全などの面から、積極的に“移動を回避する”という選択肢が現れました。ただ、個人の価値観にもよりますが、人と人とのコミュニケーションはバーチャルでなく、リアルであるに越したことはないものです。非日常の交流を求めて移動する“旅”というのも、人間の本質的な

          #1 移動の明日を考える