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【旅行記3-1】"幻の鉄道"を求めて〜院試直後遠征(前編)

1. 旅に出るいきさつ

8月中頃,世間はお盆休み.8月としては珍しい長雨でお盆休みの予定が崩壊する者がTwitterのTLを賑わせていた頃,私は大学の研究室にひきこもっていた.単にひきこもりニートをしていたわけではない.直前に迫った大学院入試に向けて勉強していたのである.

今年の夏は何もかもが異例だった.昨年から続く新型コロナの影響も,異例の長雨もそうだが,試験勉強のために旅行に行けなくなったことが精神的にしんどかった.「院試さえなければ……」と何度考えたことだろう.私は毎年お盆は何らかの形で旅行をしており,3年前は高知の実家から九州経由で関西まで18きっぷで乗り継ぐ旅を敢行,2年前は茨城と千葉の鉄道を巡った後に,部活の同期とともに城崎温泉を訪問,そして昨年はコロナの影響もあってしばらく実家に帰ってゆっくりしていたが,高知の観光列車「志国土佐時代の夜明けのものがたり」に乗ったり,今年3月に引退した2000系を撮ったりと,充実したお盆休みを送っていた.

今年はどうだったろう.過去問を解いては解き直し,解いては解き直し……3年半前の受験生の頃よりも真面目に勉強していたように感じる.起きては朝早くから大学に登校し,勉強し,食堂が空いてなければ目の前のセブンでコンビニ飯を買ってむさぼるだけの毎日.そんなストレスフルな生活に耐えられるわけもなく,映画を観たり,一人でカラオケに行ってみたり,京都鉄道博物館に行ってみたり,時々ガス抜きをしながらも何とか院試勉強を頑張っていた.

お盆休みを終え,過去問もある程度解き終えた状態になると,まるで勉強が手に付かない.朝7時,いつもの時間に研究室まで登山した私はパソコンでおもむろに調べものをする.調べていたものは「とことこトレイン」であった.

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国鉄・岩日北線(未成線),時空浪漫,http://ryoa.sakura.ne.jp/photo/gannichi/index.htmlより引用

山口県の岩国から島根県の日原までを結ぶ鉄道路線として計画された岩日線.このうち岩国から錦町までの区間は国鉄岩日線として開業した.特定地方交通線に指定された後,現在では第三セクターの錦川鉄道に転換され,錦川清流線として第二の人生を歩んでいる.錦町から先の区間も「岩日北線」として工事が進められており,1980年には島根県の六日市まで路盤が整備された.しかしここで建設が凍結され,結局開業されることなく放置されてしまったのである.こうして,岩日北線は"幻の鉄道"となってしまったのである.

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写真左:とことこトレインに使用される遊覧車.かつて愛知万博で活躍した電気自動車である.

錦町から六日市までの区間の一部は公園や遊歩道として再利用されており,このうち,錦町から周防深川までの区間は岩日北線記念公園として整備され,錦川鉄道によって「とことこトレイン」が運行されている.およそ6kmを40分かけてゆっくり走り抜ける「とことこトレイン」だが,以前錦川鉄道を訪問した際は残念ながら営業していなかった.普段は土日祝に営業されるようだが,夏休み,春休みの際は平日にも営業されている.そこで,そのリベンジを果たすために,再び錦川鉄道に乗車して,とことこトレインに乗車したのちに,島根県側に抜ける旅を企画した.

これが院試4日前の出来事である.

2. 旅立ち

8月24日,院試2日目.前日の筆記試験の疲れが残るなか,面接に臨んだ.面接を終えるとすぐに帰宅し,いよいよ久しぶりの旅に出る.

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まずは新快速で姫路へ向かい,姫路からは姫新線に乗車.車両は両運転台タイプのキハ122系.およそ2年半ぶりに姫新線への乗車となった.

姫路を発車した時は満員だった.そもそもキハ122系は2+1列のシート配置で座席定員が少なく,立ち客も多かった.余部で多くの降車があり,余部からは座ることができた.2000年代の気動車ということもあり,パワフルな走行音と加速に魅了されながら,揖保川沿いの風景を眺めていると,終点の播磨新宮に到着した.

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播磨新宮からは佐用行きに乗り換える.佐用行きはまだ到着していなかったが,ホームでは家路を急ぐ通勤・通学客が列をなして列車を待っている.

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やってきたのはキハ122系1両編成.久しぶりに単行ディーゼルを見た気がする.

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キハ122系同士が横に並ぶ.姫新線は山間を走行していく.播磨新宮より先は利用者もまばらだ.

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佐用に着く頃には暗くなり始めていた.佐用から新見行きに乗り換える.佐用から出る姫新線の列車はほとんど津山止まりだが,この列車は新見まで走破する珍しい運用である.佐用での乗り換え時間はわずか1分ほどなので急いで乗り換えた.車両はキハ120形岡山色.乗客は誰もいなかった.

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中国山地の新鮮な空気を運ぶキハ120形.誰もいなかったので,あらかじめコンビニで買い込んでいた晩ごはんを食べることにした

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院試1ヶ月前から続けていた禁酒もここまで.久しぶりに缶チューハイを飲みながら,軽快なジョイント音に耳を澄ませていた.林野からはようやく乗客が入ってきて,津山では10人ほどの乗客がいた.

津山からはさらに西に進んでいく.夜なので周囲の景色は楽しめなかったが,久しぶりの旅でテンションが上がっていた.新見に着く頃には再び乗客は誰もいなくなっていた.左から伯備線を走る黄色の115系と並走し,終点の新見駅に到着.

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新見駅ではキハ120形が並んだ.左は芸備線の東城行き終電,そして右が佐用から乗ってきた列車である.

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乗ってきた列車は折り返し中国勝山行きとなる.

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夜に新見駅に訪問するのは初めてだった.新見のホテルで一泊.ホテルには貸切風呂があり,たまたま誰もいなかったので,一人きりで広いお風呂を楽しみ,日付が変わる頃にようやく就寝した.

3. 芸備線走破へ

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翌朝.朝靄がかかる新見の街並み.始発列車が朝5時と早いため,寝坊しないか心配になり,結局朝3時に起きてしまった.近くのコンビニで朝飯を確保し,部屋でゆっくり食べてから,新見駅へ向かう.

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朝5時すぎ.新見駅にはお目当てのキハ120形が入線していた.朝1本だけ存在する芸備線の「快速 備後落合行き」である.停車駅は矢神,東城と,東城から先の各駅である.この日は大雨の影響で東城から備後落合までの区間で運転を見合わせており,この列車は東城までの運転となる.東城から先は代行輸送が実施されているようだ.

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ホームに上がると,カップルと思われる人がいた.朝の5時からローカル線でカップルを見かけるのはかなり珍しい.もう1人同業者と思われる人が列車に乗ってきた.彼は列車に乗るやいなや,運転手に18きっぷのハンコを求めていた.新見駅は朝は無人なので,降車駅でハンコを押してもらう必要があるのだが,彼は無人駅で降車するのだろう.

快速備後落合行きは,新見駅を出ると伯備線を軽快に駆けていく.備中神代駅からは左に逸れ,芸備線内のまだ線形の良い区間を最高時速85kmで颯爽と駆ける.途中駅の矢神では,東城始発の新見行きと行き違う.

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東城の街並みが見えると列車は大きく右にカーブし,東城駅へ入線する.ホーム上では代行バスの運転手と思われる人が列車の到着を待っていた.

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東城に到着.他の乗客3人とともに代行バスに乗り換える.

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代行バスと思いきや,代行タクシーだった.タクシーの運転手も合わせると乗員は5人といっぱいだった.廃止が懸念される東城から先の区間に乗車できないのは確かに残念だったが,タクシーで駅を巡るのもなんだか楽しみに感じていた.

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まず最初に止まったのは備後八幡駅.国道から少し逸れた場所にあるこの駅.駅では1人がタクシーを待っていたが,既に満員のため,運転手が追加でタクシーを配車していた.

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次の内名駅までは細い山道を抜けていく.車1台分の幅しかなく,途中で軽トラと離合する場面も見られた.タクシーの運転手は華麗なハンドルさばきで狭い道をスムーズに運転している.内名駅は幅の細い橋を渡って,坂を登った先にある.バックで坂道を登り,内名駅に到着する.

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内名駅からまたさらに山道を抜けていく.ようやく視界が開けてくると,小奴可駅に到着.東城ー備後落合間では一番街中にある小奴可駅.タクシーの営業所を併設しており,このタクシーも小奴可駅から配車されている.

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次の道後山駅までは国道を進んでいく.国道から少し逸れると道後山駅に到着.ここでタクシーの運転手から下車の許可をもらったので少しだけ下車する.

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列車が走っていたとしても本数は上下3本ずつしかない.

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道後山駅から芸備線は北に大きく回るが,国道は峠を直線的に通っているため,列車に比べると圧倒的に早い.すぐに備後落合駅に到着.列車を使うよりも,タクシーで各駅に止まった方が早い芸備線.存在意義が問われるのも無理はない.ここで黄緑のタクシーとはお別れ.

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人里離れた山中にひっそりと佇むターミナル駅.芸備線と木次線が3方向から「落ち合う」駅.ちなみにJR西日本の支社境界もここに存在し,この駅から新見方は岡山支社,三次方は広島支社,木次線は米子支社の管轄である.これから乗り換えるのはキハ120形広島色.新見から一緒に旅する他の3人も引き続きこの列車に乗り換える.

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備後落合駅を後にする.左から木次線,芸備線(三次方),芸備線(新見方)のホームが並ぶ.

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眼下に見えるのは木次線の線路.木次線は備後落合からさらに標高を上げて,JR西日本で最も標高の高い三井野原駅へ向かう.

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一方の芸備線は坂を下っていく.

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25km制限も多く,あまり速度は出せない.

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西城川と並走する芸備線.

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川は過日の大雨で増水しているように思える.

次の比婆山駅では学生が1人乗車.その次の備後西城駅ではさらに学生が乗ってきた.平子駅,高駅でも学生の乗車があり,高駅で新見から一緒だった同業者の男が下車する.

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備後庄原駅は備後落合以西の区間では最も大きい駅で,この駅で折り返す列車も設定されている.ここで備後落合行きと行き違い.

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塩町駅に到着.ここで福塩線の列車と行き違う.

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やってきたのは府中行き.秋のダイヤ改正で吉舎行きに短縮される予定だ.

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広島色同士が並ぶ.新見から一緒だったカップルはここで府中行きに乗り換えた.

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次の神杉駅で前照灯がLEDに換装されたキハ120形美祢色と行き違い.幕が故障しているようだ.

次の八次駅は県立三次高校の最寄り駅で,学生はここで降りて行った.次の終点・三次駅で快速みよしライナーに乗り継ぐ

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キハ47系の運用が多い芸備線三次以西の区間だが,この快速はキハ120形で運転される.この日2本目のキハ120形による快速列車である.

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終点広島に到着した時には満員だった.芸備線の下深川から先の区間は広島の郊外に位置し,広島駅へ向かう乗客が多く乗車してくる.車体の大きいキハ47ならまだしも,車体の小さいキハ120だとかなり混んでいる印象を感じる.

こうして姫新線,芸備線を走破した後は,いよいよ岩日線の始発駅,岩国へと向かう.

4. とことこトレイン・リベンジ

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岩国行きは30分ほど余裕があるので,少しだけ広電を撮影してみる.既にラッシュアワーは終わっていたので,旧型車の運用はなかった.

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連接車が3本並ぶのも,広電ならではの光景だ.広島駅に乗り入れる系統は,1系統(広島港ー本通ー広島駅),2系統(宮島口ー西広島ー広島駅),5系統(広島港ー比治山下ー広島駅),6系統(江波ー十日市町ー広島駅)の4系統あり,基本的に1,2系統は連接車が,5,6系統は単車が運用される.ラッシュ時のみ,5,6系統にも連接車が運用される.

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こちらの電車は広電バスと同じ塗装をしている.たまたま横に広電バスが並んだので撮影してみる.

広島駅から岩国行きに乗車し,宮島口までは広電と並走しながら,宮島口からは瀬戸内海を眺めながら西に進む.車両は227系0番台Red Wing.この旅では姫路以来の電車に乗車する.広島で多くの降車があったため,車内は比較的空いていた.

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岩国に到着し,ここで山陽本線から分かれて岩日線の旅へ.

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岩国駅の駅本屋側は2本の切り欠きホームがあり,手前側の1番のりばに岩徳線,奥側の0番のりばに錦川鉄道線が入線する.岩徳線はキハ47系で運転され,これから乗車する錦川鉄道線は新潟トランシス製の軽快ディーゼルカーで運転される.

岩国駅を発車したときは,10人近くの乗車があったが,JR岩徳線区間の西岩国,川西駅で全員降りてしまい,川西駅から先は1人ぼっちになった.

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川西駅は錦川清流線の起点,そしてかつての岩日線の起点である.

次の清流新岩国駅は新幹線乗り換え駅.ここで学生1人の乗車があった.

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錦川鉄道線には,錦川の清流を眺めるだけの駅が存在する.一昨年開業したばかりの「清流みはらし駅」である.この駅は出入り口が存在せず,ポツンとホームが建っているだけである.この駅には錦川鉄道のツアーで降り立つことができる.

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終点の錦町までおよそ1時間ほどで到着.ここからとことこトレインに乗り換える.

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鉄道として開業を果たしたのは錦町まで.ここから先は,路盤整備が終わっていたにもかかわらず,開業することのなかった"幻の鉄道"である.

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駅からとことこトレインの乗り場まで少し歩く.車止めの奥にとことこトレインが見える.

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とことこトレインの錦町駅に到着.

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とことこトレインは錦町駅を出るとすぐにトンネルに差し掛かる.全長1.8kmの広瀬トンネルを抜けていく.車内灯が消灯されると一気に周囲が何も見えなくなる.

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しばらく走行すると,トンネルの壁に光る絵が出現した.これは6色の蛍光石にブラックライトを照射させて光らせているもので,地元の小学生,幼稚園児,大学生により製作されたものだという.

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後ろを振り返ると,光の絵が連なっている.

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ここの区間では天井まで装飾が施されている.

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壁面に連なる光の絵の数々.撮影するのは少し難しいのだが,なんとかシャッターに収めた.SS 1/30くらいでなんとか撮影できる.

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再び天井まで装飾が施される区間を走行.大学生が製作した区間だろうか.天井も光るのでわりと明るく感じる.

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とことこトレインはここで一旦停止する.降車して撮影できるとのことなのでここで一旦降車して,未成線のトンネルを歩く.

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前方に360度広がる光のアート.写真で見るとその迫力が伝わらないが,現地で見ると圧巻の作品でる.

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上を見上げると,太陽を模した絵が見られる.

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停車時間はおよそ5分ほど.本当にあっという間のひとときだった.ぜひまた今度訪れてみたい.

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再び動き出したとことこトレイン.

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後ろを振り返れば光のアートが遠ざかっていく.

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しばらくするとトンネルを出る.

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トンネルを出ると眼下に見える国道をオーバーパスする.直線基調のトンネルや橋が,建設公団線の面影を感じさせる.

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左に見えてきた構造物は,出市駅のホームになるはずだったものである.現在でもそのままの姿で見ることができる.ホームの下の構造を間近に楽しめるのも,このとことこトレインならではだろう.

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出市の街並み.山口や島根では,赤い屋根瓦の石州瓦が随所に見られる.

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再びトンネルに突入する.全長1.2kmの第1山根トンネル.このトンネル内には光のアートはないので車内灯は点灯したまま走行する.

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後ろを振り返ると,少し霧がかかっている.

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先ほどとは違って暗いトンネルの中を「とことこ」と駆けていく.意外と揺れるので「ゴトゴト」の方が表現としてはあってるのかもしれない.(「ゴトゴト」なら普通のトレインと同じ擬音になるのだが)

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トンネルの中はコウモリのすみかとなっていて,写真では見えにくいがコウモリが何匹か飛んでいた.

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トンネルを出ると桜の並木道が続く.春には桜のトンネルが見られるのだとか.

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もし予定通りディーゼルカーが走っていたとしたら,このような並木道は運行の邪魔になるだろう.鉄道としてではなく,公園として整備されたここならではの風景だ.

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短いトンネルを抜けていく.

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ここで川を渡っていく.

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さらにトンネルを抜けていく.

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トンネルを抜けるとすぐに終点の雙津峡温泉駅に到着.

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ここでとことこトレインの旅は終わり.しかし,この先も岩日北線の遺構は続く……

後編へつづく

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