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水で料理は変わるか〜野菜編〜

不定期に掲載している『水で料理は変わるか』シリーズ。

初回のテーマは『パスタ』でした。パスタは硬水で茹でるとマギーキッチンサイエンスにある記述どおりにデンプンが溶出しましたが、茹で上がりの食感はほぼ同じ。硬水を使っても、軟水を使っても仕上がりに差はなく、どちらでもいい、という結論でした。

続いて行ったのは『出汁』です。「硬水を使うとうま味が出ない」という前情報に反して、うま味の強さに関してはあまり差がなく、むしろ硬水に由来する独特の味が大きく影響することがわかりました。また、鰹節の香りを京都の水道水と東京の水道水で比べると、硬度の高い後者のほうがより出るようです。

鰹と昆布の出汁で「水自体の味が仕上がりに大きく影響する」ことがわかったので、チキンストックで比較しました。やはり硬水のほうが食材の香りが強く出ること、澄んだ仕上がりになることがわかりました。

番外編として豆腐も実験しました。豆腐を水に漬けると味に差が出るか……という狙いだったので、食感に差は出ず、豆腐の風味が水に溶けるだけでした。実験してみないとわからないことってありますね。

さて、チキンストックを抽出した時、透明度に大きく影響したのが「野菜」でした。今回は野菜を茹でて仕上がりを比較してみましょう。

いんげんを茹でる

さやと豆を食べる野菜であるいんげんを茹でてみました。前回までの実験でコントレックス50%+水道水50%でも硬水の特性が出ることがわかったので、

A コントレックス+水道水+1%の塩
B 水道水+1%の塩

で比較しました。 

100℃で3分加熱します。

コントレックスを使うと鍋肌に白い結晶が付着します。カルシウムやマグネシウムでしょうね。

水道水は茹で湯に色が溶け出しています。一方のコントレックスは透明なままです。

試食。コントレックスで茹でると青臭さを強く感じます。水道水で茹でたほうは塩味が馴染み、甘みを強く感じました。食感はそれほどの差はないようです。野菜の細胞壁には多糖類の一種であるペクチンが含まれます。ペクチンはカルシウムと結びつくとゲル化するので、細胞内に野菜のエキス分が残るのでしょう。カルシウム濃度が低い水道水で茹でると細胞壁がゆるみ、そこに塩水が入るので瑞々しく、甘く感じたのでは。

ほうれん草を茹でる

次は葉野菜の代表であるほうれん草です。

茹で上がりの色はほぼ同じですが、若干、硬水のほうが色が鮮やかです。マグネシウムがクロロフィルを安定化させたのかもしれません。試食するとやはり水道水のほうが瑞々しく、甘く感じます。一方、硬水で茹でるとほうれん草の持ち味を強く感じます。硬水で茹でたほうれん草はおひたしには向きませんが、バターソテーなどに使うと良い結果が出そうです。

にんじんを茹でる

次は根菜の代表であるにんじんです。塩を入れない水で10分ボイルしました。

チキンストックのときはにんじんの煮崩れが透明度に影響するか、と推測していましたが、10分程度のボイルでは色の差はあまりありません。味見してもそれほどの差はありません。

かんたんにBRIX糖度も計ってみましょう。

糖度はまったく同じです。ペクチンがカルシウムと結合し、野菜の細胞液の溶出が防げるのであれば水道水のほうが糖度が高くなるはずですが、10分程の加熱時間では糖度には差が出ないようです。ちなみにストックの場合は軟水を使ったほうが明らかに甘さが強く、硬水は鶏肉の味が強く出ていました。

茹で汁ではなく、にんじん自体を味見してみます。いんげんやほうれん草と違って、甘さはほぼ一緒。ただ、香りは硬水で茹でたほうが強く感じます。にんじんは細胞壁が強いので、10分程度の加熱だとペクチン↔カルシウムの影響はあまり強くないようです。

素材を生かす、という言葉がありますが、いんげんの場合は「甘さ」も「青臭さ」もどちらも持ち味です。問題はどちらを生かすか、ということ。厳密には野菜によって仕上がりは異なりますが、ざっくり軟水は味を引き出し、硬水は風味を残し=香りを強くする、という認識でよさそうです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!