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玄米の炊き方

先日、ご飯の炊き方の記事をnoteにアップしました。

とはいえ、これは精白米での話。「玄米はどんなふうに考えたらいいですか?」という質問が時々、来るので、ちょっとまとめてみます。

はじめに注意点を3つ。一つは玄米にはセルロースやヘミセルロース、リグニンなどの成分が含まれているため、炊きあがりがパラっとした、あるいはプチッとした食感になります。(プチ感は胚芽に由来します)

この食感がおいしいのですが、人間は牛や山羊といった草食動物とは違い、セルロースなどの成分を消化できません。(消化酵素を持っていない)これが玄米が消化に悪い理由。胃や腸が弱い人、高齢者や子供などは注意が必要です。一方、消化に悪いのはマイナス面ではなく、食物繊維が豊富という証拠でもあるので、一長一短という感じです。

2つ目は玄米は時々異物(石や米以外の植物など)が混入しているリスクがあります。米は習慣上、精米過程で異物を取り除くからです。信頼できるお米屋さんから買う、あるいはパック詰めされて販売されている玄米などは問題ないでしょう。

3つ目。糠及び胚芽には脂肪分が含まれています。そのため精白米よりも劣化しやすいので、保存はジッパー付きの袋に入れて冷蔵庫で。

ご飯の炊き方は昔と今では大きくは変わりません。前回の記事でも触れましたが、変わったのは嗜好の部分。昔は「やわらかいお米」が一番とされてきましたが、最近求められるのはパキッと硬いお米です。そういう意味では選択肢の一つとして玄米が出てきます。

玄米と白米は「別の食材」と捉えましょう。糠層で覆われている玄米は言ってみれば表面がロウでコーティングされた状態。そのため、水をあまり吸いません。ここがまず玄米を炊く最初のハードルになります。

写真はコシヒカリの玄米です

白米のおいしい炊き方はお米屋さんが発信してますが、玄米は情報が少ない印象。それもそのはず。玄米はお米の品種による味の差があまりなく、なんとも難しい商品なのです。生産者的には「白米で食べて欲しい」という声も聞きますが、それでもミルキークイーンのような低アミロース米は幾分、もっちり感が出るようです。

カミアカリや金のいぶきのような玄米食専用の品種もあります。これらは巨大胚芽米と呼ばれ、米の胚芽部分が大きいのが特徴。お米は胚芽から水を吸うので、水分の吸収が速いので、浸水時間を大幅に短縮できます。胚芽の部分がサクサクした食感なので、噛んでいて楽しい印象です。

あるいは「1分づき」という手もあります。つまり糠層を10%ほど除去するのです。白米と比べると栄養は残っているうえに、吸水もよくなります。あるいは三分や五分という手もあります。ただ、この方法は近所にお米屋さんがないと入手がなかなか難しいのがデメリット。

今回はスーパーで入手できる普通の玄米を炊いていきます。玄米を炊くのに一番いい方法は「圧力鍋」を使うことです。というのもこの玄米、加熱が不十分だとボソボソとした食感になり、おいしくないのです。『玄米の圧力炊飯器による炊飯特性』という学会発表によるとおいしい玄米のためには1.6気圧以上が必要とのことですが、市販されている圧力鍋なら問題なく、加熱できる範囲です。

玄米をおいしく炊くには『デンプンの糊化』を十分に進めることがポイントです。白米の場合は十分な吸水を行い、適切に加熱すれば問題ありませんが、玄米はそもそも吸水しづらい性質があります。ここをクリアするために白米よりも長い吸水時間をとり、圧力鍋を使って高温高圧で加熱することで、ふっくらとした仕上がりに持っていきます。

白米は洗うことでおいしくなりますが、玄米の場合は適当で大丈夫です。というか糠層を食べるのが玄米の意味なので、極端な話洗わなくてもいいくらいかもしれまえせん。ただ、汚れている場合があるので、野菜と同様にさっと洗いましょう。この作業はどちらかというと糠層の表面に傷をつけて、吸水を早める、という意味合いが強いです。

たっぷりの水に浸します

浸水させます。白米の場合は60分〜120分という説明をしましたが、玄米の場合はもっと時間がかかります。

玄米の炊飯については『玄米飯の物性と微細構造』(桒田寛子ほか 日本調理科学会誌 Vol. 44)という論文で比較検討が行われており、白米と同様に水分を含ませるには20℃で17時間の浸水時間が必要という結果が出ています。しかし、20℃の水温を維持するのは雑菌の繁殖などの心配も出てきます。(冬場なら問題ないかもしれませんが)

そこで冷蔵庫に入れた状態で24時間以上浸水させるのが現実的な方法になるでしょう。この時間を短くする方法はないのでしょうか? もちろんあるのですが、やや特殊なので、この記事の最後に説明します。

ザルで水を切り、炊飯用の新しい水を注ぎます。

水量は米の重量の1.7倍〜1.9倍です。今回は米が2合=300g。300×1.7=510gを注ぎました。

白いお米よりずっと水分が多いですが、その分、長く加熱するので大丈夫。もっと水の量を控えることもできますが、デンプンが十分に糊化しないため、冷めてからの味が著しく落ちます。お弁当に入れたい、という場合は530ml程度まで水を増やす手もあるでしょう。(その場合は加熱時間も若干伸びます)

ここで玄米の場合はよく「塩を入れて炊く」というテクニックをよく見かけます。塩は吸水を妨げる(あるサイトには早めるという記述もありましたが)ので、入れる必要がないでしょう。なぜ、塩を入れるのが一般的になったのか。白米と比べると玄米にはカリウムに由来する特有の苦味があり、それを塩味で緩和する目的があるのでは、と推測できますが、これだけおかずの塩分が多い時代に主食に塩を入れるのは避けたいところ。

蓋をして強火にかけ、蒸気が出てきたら火を弱めます。そのまま20分間加熱。その後、火を止めて、10分蒸らします。

出来上がった状態がこちら。

付着性(粘つき)もまずまず。

こうして炊きあがった玄米はあれだけ水を入れたのにも関わらず、白米と比べるとやや硬めです。玄米を食べる人はこの食感と風味が好きなのですが、一般的な官能評価では白米と比べるとやや悪い結果になります。玄米は果皮、種皮、亜粉層が残っているため吸水が悪く, 炊飯後の水分量が低くために、硬く→冷めるとさらに食味が低くなります。

ただ、玄米には白米と違った香りがあります。炊いた白米の香りは青臭さ、キノコ臭さ、きゅうりの匂い、脂っぽい臭気成分(炭素数6,8,9,10のアルデヒド類)にわずかなポップコーン臭、花の香り、トウモロコシ臭、干草の匂い、動物臭が混じったものですが、玄米の場合はそこに少量のバニリンとメープルシュガー臭のソトロンが含まれます。ちょっとナッツぽい香りですね。このあたりから玄米と相性のいい食材(例えばみそ)などが想像できるでしょう。

玄米を土鍋で炊く

圧力鍋なんて家にないがな、という人もいると思うので、土鍋でも炊いてみましょう。土鍋じゃなくてステンレスでも別にいいのですが、大まかな概要は同じです。白米よりも2〜3倍ほど加熱時間がかかる点を踏まえておけばいいだけ。

やはり24時間浸水させた玄米を土鍋に入れます。

水を注ぎます。水分量は530mlにしてみました。1.8倍弱という感じ。この土鍋の蓋に開いている蒸気孔が大きいのでちょっと水の量を増やしています。鍋の種類(というか蓋の形状)によって水分量が変わってくるので、微妙に調整してください。

中火で炊きはじめます。白米の場合は強火で一気に沸点に持っていくことでデンプンの溶出を抑え、しゃきっとした食感にしましたが、玄米の場合はゆっくりと加熱してやわらかさを出します。ちなみに炊飯器についている玄米モードも火力を下げてじっくりと炊くアプローチです。

途中で一度蓋を開けて、ぐつぐつ沸騰したことを確認したら……

蓋をしめてごく弱火に落とします。

このまま30分間加熱します。時々、この穴に箸を突っ込んだり、土鍋の蓋の上にレンガをのせて重しにしたり……という人がいますが、あれってなんか意味あるんですかね? 菜箸を差し込んだら蓋を持ち上げてさらに蒸気が逃げると思うのですが……。菜箸で蓋をすると圧力がかかる、という意見もありますが、圧力鍋でない限り、高圧状態にはできません。というか、なったら大変危険です。(土鍋が爆発するでしょう)

余談でした。火を止めて、10分蒸らします。

炊きあがりました。

土鍋は圧力鍋と比べるとやや硬めの仕上がりになりますが、ふっくらとしておいしそうです。

お茶碗によそってみました。

玄米と白米は別の食材なので、違った良さがあります。個人的にはこの風味と食感が好みです。米糠には独特の風味があるってことですね。ちなみに玄米は加熱時間が長いので炊き込みご飯には向きません。混ぜご飯のほうが向いています。

番外編 浸水時間を短くする

『加工玄米の炊飯に及ぼす加熱前浸漬操作の影響』(山崎妙子ほか 調理科学Vol16)と『玄米飯の物性と微細構造』(桒田寛子ほか 日本調理科学会誌 Vol. 44)に面白い記述がありました。それは

60℃で2時間浸水させることで精白米と同じ浸水率になった

というもの。うちには温度調整ができるIH調理器『Repro』があるので、早速試してみましょう。洗ったお米2合に対して550mlの水を注ぎ、60℃で2時間加熱します。その後に通常通り、土鍋炊飯方式で炊きました。

炊きあがり。かなりふっくら炊けています。ちなみに60℃1時間浸水でもかなりいい状態に炊きあがりました。もっと突き詰めて考えるのであれば低い水温で炊飯をはじめたほうがいいので(加熱までの時間が稼げる)60℃で1時間吸水→水を捨てて新しい水510mlを注ぐ→炊飯というのがいいかもしれません。炊飯、なかなか奥が深い世界です。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!