建築と料理『親子丼について考える』

料理と建築。一見すると共通点などなさそうですが、料理の工程を〈材料を切り整え、調理し、組み立てる〉と定義すると、建築は〈材料を加工し(時に熱やアルカリで反応させながら)組み立てること〉といえ、似ている部分もあります。

雑誌『考える人』のなかで東京大学教授の隈研吾氏はこんな風に言っています。

五年前に、中華料理についてある話を聞きました。中華料理のコツは材料
を同じ大きさに切ることだ、と。(中略)これを聞いたときに、ぼくの建
築と同じだな、とどこか腑に落ちました。

このことを隈教授は2010 東西アスファルト事業協同組合講演会のなかで自身の建築を特徴付ける「ルーバー」という格子を例にさらに詳しく説明しています。(参考リンク

環境を構成する粒が揃っていて、同じ大きさであるということが、なぜ生 物にとって気持ちよいのか、ということについて、中華料理のことを考え るとよく分かります。中華料理には美味しさの大原則があります。それは、具材をすべて同じ大きさに切ることなのだそうです。(中略)実は日本の丼物の原則も同じです。日本の丼物は、日本料理の中で唯一具材の大きさを揃えます。カツ丼でも何でも、具材をどのくらいの大きさに切るかということが大切であり、それは、丼物はかき込んで食べるからなので す。粒の大きさにこだわっているから、丼物を食べる時は「止まらない」 という現象が起きるのですね(笑)。この時の脳波を測定すると、いわゆ るランナーズ・ハイの時と同じ波形なのだそうです。環境と身体とが融合したような状態なのでしょうね。

なるほど。この隈教授のドンブリ理論に従うと、親子丼の鶏はどのような大きさに切るのが適切なのでしょうか?  それではレシピです。

親子丼
 鶏肉(もも肉) 1枚 200g前後
 溶き卵 4個
(どんぶりだし)
 しょうゆ、みりん 各50cc
 砂糖 大さじ2
 水 100cc
 だし昆布5cm角 1枚

親子丼には玉ねぎや長ネギをいれてもいいのですが今回は鶏肉だけ。シンプルに仕上げます。

まずはどんぶりだしをつくっておきます。材料をすべてあわせて、中火弱にかけま す。昆布のグルタミン酸が抽出される温度が60度なので火は弱め。ゆっくりと抽出しましょう。
弱火にかけ煮立ったところで、昆布をとりだします。かつお節は使いません。かつお 節には鶏肉とおなじイノシン酸が含まれているため、味が混ざってしまい、鶏肉の風 味を純粋に味わうことができないからです。

鶏肉を切りましょう。通常ですと一口大の削ぎ切りにすると思いますが、前述のドン ブリ論によると食べものの粒子が揃っている状態=人間がもっとも心地良いと感じる 、とのことでした。そのため、鶏肉を通常より、かなり小さく切り、米の粒子に近づけます。

皮を取り除き、細切りにして、さらに角切りに切りそろえていきます。また、この段階で鶏肉の筋をとりのぞくことができるため、柔らかく食べることができます。

切った鶏肉は写真のような大きさ。写真は二人前を調理しています。これも中火で加 熱していきます。中心温度を60度から70度くらいを目指して加熱するので、強火 は禁物です。お店では鶏肉を煮込んだ段階で仕込みとしているところが多いようで す。その際はもっと大きな鍋でたくさんの鶏肉を加熱するため、お店の鶏肉がふっくらしているのは結果として中弱火で加 熱したのと同じ状態になるからと推測できます。

沸騰してきました。素早くアクをとり、弱火に落とします。1分ほど加熱します。表面は100℃でしっかりと加熱されていますが、中心温度はおそらく75℃くらい。ここまでが仕込みです。一度につくっておけばあとは1人前〜2人前ずつ取りだして、卵を入れていくだけです。

卵を入れる前に火加減を中火にして、沸かしておきます。液体の温度を上げておかないと卵を入れた時に固まってくれないので……。

ここで重要なポイントが二つ。

1、鶏卵は常温に戻しておく
2,  鶏卵は溶きすぎないようにする

卵を常温にしておくと火の通りが良くなり短時間の加熱にとどめることができます。溶きすぎないようにするのは白身と黄身が分離していたほうが加熱するときに都合がいいからです。

沸いている丼出汁に、溶いた卵を流し入れます。白身のほうが重いため、先に鍋に流れていくと思いますが、黄身の部分は少しだけ残しておきましょう。蓋をしめて、一呼吸を置いてから火を止めます。

三分間待って、蓋を開けます。そこに残りの黄身を流し、完成です。白身はある程度しっかり火を通したいですが、黄身は滑らかさを残したいので、別々に加熱した方が合理的です。

熱々のご飯の上に載せます。

鶏肉とご飯は大きさを近づけたとはいえ、食感は違います。親子丼はそのあいだを卵が仲介することで、よりおいしく味わえるという構造になっています。七味唐辛子などを添えてどうぞ。今回は小さな鍋を使いましたが、もちろんどんぶり用の鍋をつかうと器に移しやすいです。原理を知っていれば、味は鍋でも変わりません。

前述のドンブリ論が興味深いのは卵を『仲介者』と考えている点です。例えばカツ丼 は原理的にカツの大きさをご飯に揃えることは不可能です。しかし、ご飯と肉のあい だに卵と衣という粒子のグラデーション(あるいは食感のグラデーション)になるような要素を加えることによって、身体に受けいられやすい状態を構築しているわけで 、これは他の料理にも応用できる考え方ではないでしょうか。

建築の世界はモダニズム、ポストモダニズムを経て、世界のグローバル化とともにレ ム・コールハースに代表されるようなアイコン建築へ、という流れで進化してきまし た。その流れに従えば料理の世界はエルブジに代表されるようなポストモダニズムの 流れが終わり、今はデンマーク、コペンハーゲンのNomaに代表されるようなローカ リズムの時代なのか。それともアイコン的に料理人が消費されていくだけの時代に入っているのか……。料理と建築の関係性についてはまだまだ考察できるところがありそうです。

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