狭山の的場園で茶の製造工程を見学してきました

料理の仕事もしていますが、生産現場の取材も継続的にしています。先日、狭山茶の的場園にお邪魔してきたので、簡単なルポです。(デリシャスタイムというメディアにも同内容を掲載していただいているので、よろしければそちらのサイトものぞいてみてください。また取材記事をまとめた本(『おいしいものには理由がある』角川書店)という本もよろしくお願いいたします。)

 狭山丘陵一帯は茶の産地。なかでも生産量が多い入間市にある『的場園』を訪ねた。狭山茶は名前こそ知られているが、生産量は少ない。他の産地と違い、畑の規模も小さく、家と家のあいだに茶畑がある、という印象。茶畑というと山間の斜面にそって広がっているイメージがあるが、狭山では住宅と同じ平地にあるのが面白い。

 6月下旬、まずは畑で二番茶の摘み取りを見学させてもらう。

これが……

こう刈られて……

 こうなる。葉の先端の柔らかい部分だけを刈りとるわけだ。機械で一気に刈り取られていく様は圧巻。こんな風に改めてチャノキを見ると、茶がツバキ科というのがよくわかる。葉の形などはツバキと同じで、新芽ではない葉はかなり硬い。

 他の産地では4月から一番茶のシーズンを迎え、それから二番茶、三番茶、秋番茶と収穫が続くが、狭山では5月から一番茶、そして6月には二番茶を収穫し、それで終わりである。生産量が少ないのは、二回しか収穫できないからだ。(補記、商用の茶生産の北限は新潟と茨城)一般的な産地との違いは他にもあって、茶の生産は通常、加工や流通などが分業化されているが、狭山茶の生産地では生産から製造、販売まで一貫しておこなっている。「自園、自製、自販」というそうだが、そのため各店ごとに味や風味に特徴がある、という。

 工場で的場園の後継者、的場龍太郎さんからお話を伺った。

「この茶葉は朝、6時に摘んだものです。植物は朝が一番、水分量が多い。葉っぱに水分が多いときに摘むというのがうちのやり方です。摘むのに時間がかかるので、他のお茶屋さんはそこまで気にできないのですが、うちはでかい機械で短時間に摘むので、こういうことが可能なんです」

 朝の光に茶葉の色が透けている。畑で摘みとられた茶葉はコンテナですぐに工場に運ばれる。茶の収穫というとよく袋に詰める景色が紹介されるが、袋に詰め、日光に当たると、茶が蒸れてしまい品質が落ちるという。
 最初の工程は「蒸す」工程。セオリーはあるが、茶葉の状態によって蒸し時間は都度、微妙に異なるという。

「うちはちょっと変わっているので、他とは並べてある機械も違うんですが、原理自体は一緒です。日本茶には800年くらい歴史があるんですが、蒸して煎茶をつくる技法は1730年頃宇治の永谷宗円がはじめたもの。蒸すことで茶の酵素を失活させ、色を保つのが目的です。また、蒸す秒数で「苦さ」「渋さ」を調整するのですが、うちは飲みやすくて味が出る「深蒸し」という手法でお茶を製造しています」

 あたりには茶特有の穏やかな香りが漂っている。的場さんが蒸し上がったばかりの茶葉を手にとり、見せてくれる。

「蒸した時にこの香りがでないとダメなんです。少し甘い、熱が通ったタンパク質の香りがしませんか? これが深蒸し茶の特徴で、浅蒸しの場合はもっとフレッシュな青い香りがします。水分量は手触りで判断します。品種などでも変わるので水分量を量る機械などもあるんですが、うちでは感覚でやっています」

 蒸した茶葉は冷却され、特殊な機械で乾燥させていく。乾燥の工程に使われる「的芽機」は的場さんの義父が発明したオリジナル。工場には今年、導入したという茶葉を高温の水蒸気で加熱する機械も並んでいたが、狭山茶特有の硬い茎、葉をいかにおいしくするか、という研究を長年続けた結果らしい。

──設備投資をしても回収できないのでは?

「荒茶(製品としての茶の原料となる茶葉)屋さんなんかは導入できないでしょうね。うちは小売りができるので導入できるんですが……ただ、機械の導入は父の趣味のような部分はありますけどね(笑)荒茶価格は年々、厳しくなっています。お茶の世界って、輸出など華やかで注目されている面もあるんですが、状況としては明るいだけじゃないので、自分たちも危機感を持っています」

 人口減少で消費量が減り、担い手の問題で生産量も減っていくなかでどのように採算をとっていくのか、というのは茶業界だけではなく、食に関わる産業全体の共通課題だ。

「お茶は蒸しと揉み込みに入るまでの予備乾燥の段階で、味の9割が決まってしまいます。うちは渋くなくて、色が濃いお茶をつくるために、こういう特殊な機械や技術を導入していますが、欠点は熱を加えていくので、どうしても香りが弱くなること。最近、流行はじめているシングルオリジンの香気の強いお茶というよりも、飲んでおいしいお茶──熱湯で入れても渋くない、誰が煎れてもおいしい──というようなお茶を目指しています」

ある程度、乾燥させた茶葉。この後、揉み込んで形をつくる工程を経て、ようやく製品になっていく。その前に選別やふるいわけ、ブレンドなどをする「仕上げ」という作業があるが、それも当然、手作業。こうした部分の手間は外からはなかなかわからない。

 仕上げの際に乾燥した茶葉を加熱する「火入れ」という工程がある。狭山には「狭山火入れ」という独特の技術があり、それが特徴の1つになっているという。ただ、その火入れ方法自体は手もみの時代のものらしく、現在の「狭山火入れ」に明確な定義はなく、強めの火入れというだけで、それぞれの生産者が工夫しているらしい。

「うちは5種類火入れの機械をもっているので、種類に応じて使い分けています。そういう細かい部分は変わってるんですが、お茶の製造原理自体は800年間、一緒なんです。でも、消費者のニーズは当然、変わっているので、すっきりした香りのいいお茶が欲しいという声があれば、当然、それに答えていく必要があると思う。製法ありきではなく、消費者ありきで考えていく必要がありますね」

──今後、お茶を飲む文化が残っていくためにはなにが必要でしょうか?

「輸出などもやっていきたいけれど、食べるお茶などもはじめていますし、ワークショップやお茶煎れ講座みたいなセミナーは力を入れていきたい部分です。炭酸で水出ししたりすると玉露のような甘い味になるんですが、そういうことは驚いてもらえる。生産者が話すことで的場園のファンを増やすというより、お茶のファンを増やしていきたいです」

 茶の生産量が増えたのは明治時代。政府が生糸と並ぶ外貨獲得の手段として重要産品と位置づけたからだ。その歴史を振り返れば輸出を増やすことも自然な流れかもしれない。

 茶を食べるといえば「お茶のジェノベーゼソース」は、初回製造した分が売り切れるなど好評だ。茶の購入方法については色々な小売店に出しているが、今のところ直接買いに行くか、電話で問い合わせとのこと。

 水出しした煎茶をご馳走になったが、これが暑い日には絶品だった。水で抽出することで苦み成分がなどが少なくなるので、甘い狭山茶の特徴がよく出ている。この水出し茶に使ったのは安価な二番茶といことだが、低温で抽出することで苦みが出ず、ほんのりとした甘みが口に広がる。

 安価なお茶が美味しいのは大事なことだ。食の業界を取材しているといつも「適正な価格」という話題になる。生産量には限りがあるので収益を上げていくには新しい価値を創出し、付加価値をつけていくしかない。

しかし、値段が高ければいいというわけではない。先人たちが値段を下げる努力を重ねたのは、安く売りたいからではなく、誰もがお茶を親しめるようにするためだ。そうした努力の積み重ねによって、誰もがお茶を楽しめるようになった。だから今でも文化として残っているのである。
 以前、別の取材で静岡に茶問屋「やまはち」の茶師、前田文男さんからお話を伺ったことがある。日本屈指の茶作りの匠である前田さんが最も神経を注ぐのは比較的安価な100g600円くらいのお茶だという。高付加価値の商品も大事だが、一部の人しか経験できないのであれば、茶の文化は消えてしまうからだ。

 煎茶の問題点は簡単に言うと「よくわからない」ということだ。安価なお茶と高価なお茶の味がどのように違うのか。生産者の収入のほとんどを占めるのが一番茶(新茶)で、それは確かにおいしい。しかし、二番茶には二番茶の良さがあるはずだ。しかし、どこか一番茶よりもランク落ちしたものという印象があるのが残念な気もする。

 つい、最近までお茶は無料で飲むものだったし、茶葉は贈答品で値段で選ぶことはあれど、味で選ぶものではなかった。コーヒーなら仕事中に飲むけれど、茶葉からお茶を煎れる機会は時代とともに減っていった。
 最近、一部で煎茶が見直されつつあるのは、人々がお茶を煎れる間に流れる時間の良さを再認識したのだろう。生活に句読点を打つように、ゆっくりとお茶を飲む。たしかに忙しい時代だからこそ、そんな時間が大事なのかもしれない。

的場園データ
住所埼玉県入間市南峯68
電話番号04-2936-0615

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