自家製リコッタの科学(リッチバージョン)

リコッタチーズはイタリアのフレッシュチーズの一種。チーズという名前ですが、作り方が違います。リコッタとは再び加熱された(パンナコッタの〈コッタ〉です)という意味で、ホエー(乳清)を煮詰めてつくります。レンネットではなく、熱と酸によって乳タンパク質を結合させるわけですね。

自家製する場合は乳清ではなく、牛乳を使います。この段階で本物とは違うのですが、味的には近い物ができます。家庭でリコッタチーズを自家製する場合の変数は二つ、〈酸〉と〈脂肪分〉です。

レモン汁か酢か、問題

まず酸について。ミルクは最初からわずかに酸性ですが、そこにさらに酸を加えてpHを5.5にするとタンパク質の電荷が中和されるので、タンパク質同士の反発がなくなり、集まります。これはヨーグルトの状態です。

pHを4.7付近よりさらに酸性にすると個々のタンパク質同士が寄り集まって、固まりになります。これがチーズの元になるカードの状態です。

最初に述べた通り、このチーズは酸で凝固させるので、その種類によって仕上がりが微妙に異なります。一般的なのは〈レモン汁〉を使う方法。レモン汁に含まれるクエン酸によって凝固させます。しかし、レモン汁は作る度に必要な量が異なり、出来上がりに最大25%の誤差が出ます。その理由はレモンの個体差。含まれるpHの違いによるものです。

酢は酸度がJAS規格によって定められているために、常に安定してリコッタチーズをつくることができます。(醸造酢の酸度は4.0%以上、穀物酢や米酢は4.2&以上、ワインビネガーは4.5%以上)酢酸を使ってさせるのは確実な方法と言えます。フードサイト「 Serious Eats」のライターでシェフのJ. Kenji López-Altはアルコールビネガーを使うのがベストと言い切っています。

ヨーグルトを使って凝固させることもできます。乳酸で固めるとはっきりとした酸味が残る仕上がりで、悪くありませんが牛乳に対して最低40%ほどのヨーグルトが必要ですし、味も特徴的なので利用の範囲は限られます。ただ、チーズっぽさは一番出る気もするのでこれがおいしい、という意見も。

まとめると安定してつくるなら酢、レモンの風味が好きならレモン汁を使いましょう。レモンのpHが安定しない弱点は濃縮還元タイプのレモン汁(例えばポッカレモン)を使うことで解決します。(ポッカレモンはpH2.3に調整されています)また、古い牛乳は酸性に傾き、必要な酸の量が減るので、なるべく新しい牛乳を使ったほうが仕上がりは安定するでしょう。

アルコールビネガーが家にないという人も多いので、今回はポッカレモンでつくります。ちなみに、もっと安定して、しかも安価につくるならクエン酸を使うのがおすすめ。下記の分量で3gが目安です。

脂肪分は足したほうがいい

次に脂肪分について。リコッタチーズの滑らかさには脂肪分が関係しているので、乳脂肪分が高いミルクか、生クリームを足すとリッチになります。

とはいえチーズに詳しい方には「リコッタチーズは本来ホエーからつくられる低脂肪なもの。生クリームを入れたらマスカルポーネやクリームチーズと呼ぶべきではないか」というもっともな指摘をされる人もいます。その通りですが、今回は生クリームを足してリッチにしてみましょう。

さて、ようやくレシピです……長くてすみません。

自家製リコッタ(リッチバージョン)
A牛乳          1L
A生クリーム      200cc
A塩           5g
Aグラニュー糖      10g
レモン汁又は蒸留酢  大さじ4
ヨーグルト      大さじ2

砂糖をいれるのは酸味を誤魔化すためなので必ずしも必要、というわけではありません。

Aの材料をすべて鍋に入れて、中火にかけます。鍋肌にくっつくのを防ぐためにかき混ぜながら加熱し、74℃前後になったら火を止めます。

写真は予熱でやや温度が上がってしまいました。なぜ、74℃なのか? というと牛乳は74℃から焦げ臭が出てくるからです。リコッタチーズの命はミルキーな風味。理想は低温殺菌牛乳を使い、やはり温度は75℃未満でつくるのが理想。

酸と牛乳を混ぜて80℃を超すと目に見えて凝固がはじまり、90℃で水分と完全に分離するので、つい90℃まで上げたくなりますが、74℃でも大丈夫。10分ほど放置すると、ミルクは凝固します。

リードキッチンペーパーかサラシの布巾で漉します。

カードと水分をわけます。

下に落ちたのがホエーです。

そこにヨーグルトを大さじ2混ぜます。自家製リコッタの場合、本物とは違い乳清の風味がありません。そこでちょっとずるですがヨーグルトを混ぜて、乳清の味をプラスしています。

今回は室温で30分間、水切りしました。水切りする時間の長さによってリコッタチーズの硬さが異なってきます。1時間ほど水切りすると詰め物なんかにもいいですね。

30分でこんな状態。

容器に移して、冷蔵庫へ。

自家製リコッタの出来上がりです。温かい状態でオリーブオイルと塩、コショウをかけて食べても美味です。

出来たてのほの温かいリコッタチーズとイチジクを添え、蜂蜜をかけました。この組み合わせは鉄板ですね。もっと簡単につくるなら牛乳と酢(またはレモン汁)だけでつくってもこのチーズはできるので、場合によっては使い分けましょう。保存は冷蔵庫で3〜4日。フレッシュチーズなので保存期間が長くなるとミルクっぽい風味が弱くなりますが、ヨーグルトを入れておくとチーズっぽい風味に変わっていきます。

ところで切った水気ですが、これは牛乳から固形分を抜いた液体です。ホットケーキを作るときに牛乳の代わりに使うとふっくらとした仕上がりになります。酸性の液体を加えるとホットケーキミックスの膨張剤がよく働くからです。またはジャガイモのポタージュをつくる時に使ってもいいかもしれません。もったいないので捨てないようにしましょう。

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コメント9件

1の作り方(このレシピもそうですが)だとレモン感が出てしまってそこが好みがわかれるところです。とはいえ酸性乳清の風味もあんまり……なので、甘性乳清が入手できればそれでつくるのがベストなんでしょう。

乳製品の知識のURLです。http://www.j-milk.jp/tool/kiso/berohe0000004ak6.html
でも、カッテージチーズの製造方法はこちらのリンクの方がわかりやすいかも。ヨーグルトにならない理由は菌が違うからです。http://www.zao-cheese.or.jp/manual/nat_mak/mak_cot/mak_cot_mak02.html
ちなみにこちらの論文では『牛乳および酸味料で調製した乳凝集物を用いた教育プログラムの開発』http://m-alliance.j-milk.jp/ronbun/gyunyushokuiku/huh1j4000000apkw-att/shoku_study2016-04.pdf 自家製カッテージチーズの必要phなどを明らかにしています。市販のカッテージチーズ自家製のほうが脂肪分が多く含まれているので美味しい、とのこと。というわけでおいしさの要素として脂肪分は無視できないようです。
リンクありがとうございます!!本来のカッテージチーズ、こんなに時間をかけて発酵させているとは知りませんでした。正体が分かりスッキリしました。
今度はこちらのレシピ(クエン酸バージョン)で作ってみたいと思います!
こちらの記事&コメントや、教えていただいたリンクから、知識を深めることができました!https://note.mu/ataata/n/nd1b6282a7ccf

ありがとうございましたm(__)m
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