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最高の家スタイル麻婆豆腐の作り方

日本で最も有名な四川料理といえば麻婆豆腐。中国料理のなかでは『成都市を訪れたら食べよう』というような地方の名物料理の位置づけで、発祥は100年以上の歴史を持つ陳麻婆豆腐店とされています。

陳麻婆豆腐の作り方はこちらの動画で詳しく紹介されています。豆腐を醤油と塩の入れた湯で下茹でし、たっぷりの油で仕上げていくのが特徴。油に移った豆板醤の味(辣)と最後に振りかける四川山椒の風味(麻)が麻婆豆腐の命です。

一方、麻婆豆腐を日本で有名にしたのは四川飯店グループの創業者、陳建民氏。健民さんはNHK『きょうの料理』などにも出演し、中国料理の普及に貢献しました。この2つの麻婆豆腐。まったく別の料理なのですが、今日はそのあたりも踏まえながら、家庭でできる麻婆豆腐の新しい作り方を考えました。

まずは作り方から。

麻婆豆腐 2人前

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牛挽き肉 100g
サラダ油 大さじ1
A豆板醤 小さじ1
A八丁味噌 小さじ1
Aサラダ油 小さじ1 混ぜておく
にんにく 1片 8g
生姜   ひとかけら 
豆鼓醤  小さじ1
一味唐辛子 好みで
水    200cc(またはパックの鶏ガラスープ)
醤油    大さじ1
砂糖    小さじ1
うま味調味料 少々
絹ごし豆腐 1丁
水溶き片栗粉 大さじ1(小さじ1の片栗粉を大さじ1の水で伸ばしたもの)
辣油 小さじ1
長ネギのみじんぎり 大さじ1〜2
四川山椒   好みで

1.フライパンを中火にかけ、1分予熱してからサラダ油大さじ1で牛挽き肉を炒める。

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2.挽き肉の一部に焦げ目がついたら、火力を弱火に落とし、Aと豆鼓醤、にんにくとしょうがのみじん切り、一味唐辛子を加えてさらに炒める。好みで一味唐辛子の量を増やす。

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3.水200cc、醤油大さじ1、砂糖小さじ1、うま味調味料少々で伸ばし、角切りにした豆腐を加え、火を強める。沸いてきたら弱火に落として3〜4分間煮る。

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4.火を止めて、豆腐を片側に寄せたところに水溶き片栗粉を流し入れ混ぜる。(火が強すぎて煮汁が煮詰まってしまっていたら写真くらいの量を目安に湯を足してから水溶き片栗粉を加える)

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5.フライパンを再び強火にかけて鍋を揺すりながら焼くように加熱し、ラー油小さじ1と長ネギのみじんぎりを入れて仕上げる。器に盛り付けて四川山椒を好きなだけ振る。

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豆板醤の問題

麻婆豆腐をつくるうえでまず立ちふさがるのが調味料の問題です。なかでも豆板醤は仕上がりに影響します。

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豆板醤はそら豆味噌と塩漬け唐辛子を発酵させた四川料理には欠かせない調味料です。日本で入手しやすい豆板醤は写真右側のように赤色が強いですが、本場の豆板醤(なかでもピーシェンという町でつくられる郫県豆板醤が有名)は熟成期間が長く濃い色をしています。

この郫県豆板醤。今ではネットなどで簡単に購入できますが、スーパーでの入手はなかなか困難。なんとか市販の豆板醤をこちらの味に近づけたいところです。郫県豆板醤には熟成に由来する独特の旨味と風味があり、この香りに最も近い日本の調味料は豆味噌(八丁味噌)でした。

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八丁味噌と豆板醤、サラダ油を混ぜておきます。八丁味噌はあかだし味噌でも構いません。

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これで香りはかなり近づきます。陳建民式の麻婆豆腐には本来の作り方には入れない甜面醤(甜面醤は北京の甘味噌なので、本来の四川料理には使わない)が入っているのが特徴。当時は甜面醤も手に入らず赤味噌に砂糖やゴマペーストなどを混ぜ、甜面醤を自作していたそうですが、このアイディアはそこからヒントをもらいました。

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もう一つの味の決め手となる豆鼓は、スーパーでも売られてるようになった豆鼓醤を使います。ちなみに豆鼓も陳建民流のレシピには使われておらず、甜面醤で代用していたと考えられます。

豚肉か、牛肉か問題

次の課題は使用する肉です。陳建民式の麻婆豆腐は安価な豚肉を使いますが、本場の麻婆豆腐は牛肉を使います。僕ら日本人は塩というと海塩を思い浮かべますが、海がない四川省では山からとれる岩塩や、地下水から組み上げた海水を用いて塩をつくっています。(塩湖などの地下水を利用した塩のことを井塩といいます)かつてはこの地下水を組み上げるのに使われていた牛。年をとって働けなくなった役牛を食べていたので、四川料理には牛肉を使ったものがたくさんあるのです。

さて、豚肉と牛肉。どちらを使うか、というのは比較してみないとわかりません。

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豚ひき肉と牛挽き肉100gずつでまったく同じように作って味を比較します。

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結果は豚ひき肉でつくるとあっさりめに仕上がり、牛挽き肉のほうが風味が濃厚でした。牛挽き肉は高価ですが、麻婆豆腐の場合使う量はしれています。これだけ味の差が出るので牛挽き肉を使わない理由はありません。というわけで使用する肉は牛挽き肉に決定。

豆腐は湯通しするか問題

麻婆豆腐に使う豆腐は湯通ししてから使うのが一般的です。湯通し派は豆腐の水分が抜けるので煮汁の味が悪くなることを防げる、あらかじめ温めた豆腐を使うことで煮汁が煮詰まらない、といいます。

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本当に湯に通すと水分を抜くことができるのか。実験してみないことにはわかりません。豆腐204gを用意しました。

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熱湯で5分間茹でます。麻婆豆腐に使う豆腐よりも大きめにカットされていますが、その分、時間を長くとりました。加熱した豆腐は触ると弾力が出ているのがわかります。

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20gの水分が抜けていました。実に10%の水分が抜けたことがわかります。水分が抜けることはたしかのようです。では、煮汁の味が悪くなるというのはどうでしょうか。豆腐を茹でた水を味見したところ、豆腐の風味がするだけでネガティブな要素はありません。

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試しに湯通しの工程を省略して、麻婆豆腐を試作してみましたが、煮汁の味はまったく悪くなっていません。気になる煮汁の煮詰まり問題ですが、豆腐から水分が出るので煮詰まることはないようです。そもそも水分が抜ける、と温かい豆腐を使えば煮詰まらない、というメリットは若干矛盾しているのです。

陳麻婆豆腐のレシピを調べると「豆腐一丁を角切りにして1分間湯につけて石膏の渋みを抜く」とあります。中国の北方でつくられる豆腐は日本と同様に塩化マグネシウム(にがり)で固めたものですが、内陸部の四川省や南の広東では澄まし粉=石膏(正確には硫化カルシウム)でつくるのが一般的。その癖を抜くために下茹での手間が必要だったのでしょう。

日本でも硫化カルシウムでつくられた豆腐は売られていますが、一般的なのは塩化マグネシウム(にがり)の豆腐。つまり、日本で売られている豆腐を使うのであれば『下茹で手間は省略できる』というのが本稿の結論です。

その他も色々と……

このレシピでは辛さを一味唐辛子を使って調整しています。豆板醤には塩分があるので、増やすと塩気が強くなりすぎるからです。1960年代の陳麻婆豆腐店のレシピでは豆板醤は使用されておらず、粉唐辛子と豆鼓だけで味付けされていました。それを考えると唐辛子で辛味を調整するのはそれほどおかしなことではないはず。

スープを使ったほうがより美味しくできると思いますが、水でもさっぱりと仕上がります。陳麻婆豆腐では牛の尾などを使用した濃厚なスープを使うようです。ゼラチン質の多いスープを加えると乳化してしまい、シャープな味が出ません。しかし、水溶き片栗粉を加えることで、水分がデンプンと結びつき、乳化状態が壊れます。だから、麻婆豆腐の味の決めてとなる赤い油が表面に浮くのです。ここでは最後にラー油を加えることでその点を再現しています。

麻婆豆腐は「油を食べる料理」とも言われます。良心が許すのであれば豆板醤を炒める時の油の量を増やすとさらにおいしくすることもできるでしょう。しかし、日本の家庭ではこれくらいの量が適当な気もします。麻婆豆腐の好みは人それぞれ。自分なりの味を追求するのも面白いと思います。

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撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!