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最高の焼きそばの作り方

「このあいだのおにぎりの記事、面白かったです。それで自分は焼きそばが好きなので、アルティメット焼きそばのレシピもお願いします」

というリクエストがあったので、焼きそば研究です。焼きそば、みんな好きですよね。そもそも、焼きそばのおいしさって、なんなのでしょうか。焼きそばは味が多岐に渡り、はっきり言って好みの世界です。例えば自家製麺で有名な「みかさ」や

甘味処の焼きそばという方向性もありますよね。

例えば浪花屋さんの焼きそばは昔から好きな味で、極ふつうの蒸し麺とソースという組み合わせ。焼きそばには蒸し麺を使うのが普通ですが、大阪の焼きそばは硬めに茹で上げたゆで麺も多いように思います。(エビデンスのない印象論ですが)

ご当地焼きそばもあります。有名なのはB級グルメグランプリで二年連続優勝した実績を持つ静岡県の富士宮やきそば。太めの硬い麺に肉カス、仕上げに鰯の粉末が特徴です。それと対象的にやわらかい麺が特徴なのは秋田県の横手やきそば。横手やきそばは豚の挽肉が入っている甘めの味で、卵がのっています。

群馬県の太田市も焼きそばのお店が多い土地ですし、新潟にいけば焼きそばにトマトソースをかけたユニークな料理『イタリアン』があります。ソース文化が盛んな栃木の焼きそばには揚げたジャガイモが入っていますし、宮城県の石巻には茶色い麺を使った石巻焼きそばがありました。困ったことにみんなおいしいので究極の焼きそばを作るのは不可能と言わざるを得ません。

ただ、こうして見ると焼きそばの個性を決めるのは

具+麺+ソース

のバランスだとわかります。特に『みかさ』や『富士宮やきそば』『横手やきそば』などを考えてみても『麺』が占めているウェイトがかなり高い。ということは究極の焼きそばをつくるには自家製麺に挑戦するしかなくなり、これでは家庭で挑戦するのは不可能。そこで今回は

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スーパーで買える袋タイプの焼きそばをベースに考えていきます。写真は日本で一番売れているマルちゃんの焼きそばです。

1 ソースは〈粉末か、液体か〉という問題の検討

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まずは袋の裏に書いてあるレシピ通りにつくり、これを〈普通の焼きそば〉としてベンチマークにします。

普通の焼きそば 1人前
豚肉 25g
キャベツ 40g
袋麺   1パック(150g)
添付の粉末ソース 1袋

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サラダ油(分量外)小さじ1を敷いたフライパン(中火)で具材を炒めます。

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適当なところで麺を加えて……

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水60ccを加えます。結構、水の量が多い気もします。

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麺をほぐしながら炒めて、フライパンの底に水気がなくなったのを確認してから、、、

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粉末ソースを加えて、全体に混ざったら出来上がりです。

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試食。全体にあっさり目の味で、ややもそもそ感があります。

このもそもそ感の原因は粉末ソース。粉末ソースは水っぽくなるのを防ぐ、という利点があるのですが、逆に水分を取りすぎてしまうという弱点も。よく「焼きそばは水っぽくなりがちだから粉末ソースがいい」という意見がありますが、フライパンの底に水がなくなったのを確認してから粉末ソースを入れる方式だと水っぽさはそこまで問題になりません。

それよりも考慮すべきは水を加えることで、麺がやわらかくなってしまう問題。最近主流となりつつあるモチモチ感を求めるとなると避けたいところ。

横手やきそばのようにやわらか目の麺を求める場合には有効な手法ですが、その場合でも水ではなく温かい状態の「出汁」または「スープ」を加えるといいと思います。麺がやわらかくなる、ということはやはり水分を吸い込んでいるということですから、水よりも出汁やスープの方がいい、ということです。

さて、基本の焼きそばでベンチマークができたので、続いてソースを使った味付けに移ります。

2.焼きそばソースは普通の中濃ソースとは一体なにが違うのか

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近くのスーパーで買えるソースをとりあえず入手してきました。僕は東京に住んでいるのでやはりブルドッグのソースが定番。他に僕が普段、使っています浜松のトリイソース(鳥居食品は以前、取材したので興味があれば以下の記事も読んでください。『おいしいものには理由がある』(KADOKAWA)を全文公開[第五章 二つの調味料])が二種類です。

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まずはウスターソースの比較。こうして比較するとブルドッグはスパイシー、トリイのウスターは出汁の効いたマイルド味というのがよくわかります。焼きそばにはスパイシー感が欲しいので、トリイのウスターソースは除外でしょうか。

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続いて中濃ソース(と濃厚ソース)の比較。焼きそば専用ソースとして、オタフクの焼きそばソースを買ってきました。焼きそばソースは分類上、濃厚ソースなので濃度があり、ボディの強い味です。

一番、スパイシーなのはブルドッグの中濃で、屋台を彷彿とさせる香りが魅力的。このスパイス感は焼きそばに使いたいところです。トリイソースの中濃はマイルドで甘味の効いた味ですが〈焼きそば〉という感じではありません。

お、これは新顔と思わず購入してしまったブルドッグ「うま! ソース」。パッケージの用途には『焼きそば』とありましたが、ハンバーグにあいそうな出汁の効いた味で、色味が薄く、焼きそばには使えなさそう。

以上の検討から〈オタフク焼きそばソース〉〈ブルドッグ中濃ソース〉で焼きそばを作ってみることにしました。まずは〈オタフク焼きそばソース〉から。パッケージの裏のレシピを参考にします。

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驚いたのはソースの量。一人前に50gも使うんですね。焼きそばソースは1本、300gですから6回で使い切る計算。パッケージにも6回分とありました。

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オタフク推奨の作り方は麺をキャベツの上に置いて蒸し焼きにする、というもの。実際、キャベツがどれくらい蒸気によって加熱され、それが味にどのように影響するのかはまったくわかりませんが、とりあえず指示に従います。

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焼きそばソースの場合は水を入れずに直接ソースで炒めていきます。

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あっという間に加熱が完了。ソースをかけて20秒とのことでしたが実際はもう少し炒めてしまいました。

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出来上がり。さきほどの粉末ソースとは見た目も明らかに違います。

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味はかなりの濃い目。麺全体にソースが絡まっているので、モソモソ感がありません。鰹節などの旨味も強く感じ、キャベツにまでしっかりと味がついています。こってり感のある焼きそばで目玉焼きをのせると多分、ちょうどいいと思います。あるいは卵で巻いてオムそばにするといいでしょう。若干、僕にはソースが多すぎるように感じました。

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焼きそば専用ソースではない、ブルドッグの中濃でもつくってみます。こちらはキャベツの上に麺を置いたりせずに直接加熱してから、ソースを加えるパターン。

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水を入れなくてもソースの水分で麺はほぐれます。

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出来上がり。味は充分焼きそばになっています。一番の発見は麺の食感。麺を加熱したことで、お好みソースを使った焼きそばよりもモチモチ感がアップしました。ただ、中濃ソースは焼きそば専用ソースと比較すると酸味がやや強めの仕上がりで、香ばしさが弱いのが若干、気になります。しかし、ブルドッグ特有のスパイス感は好印象。キャベツにまで味がついていないので、後味が非常に甘く感じるのが一番のメリット。中濃ソースの方が酸味が強いので、キャベツとの相性はいいようです。

とりあえず結論としては粉末ソースよりも液体ソースが僕が考える焼きそばには向いているようです。液体ソースの方が口当たりがいいんですし、水を加えていないので麺にモチモチ感が出るんですね。しかし、なぜ、中濃ソースで焼きそばをつくると、香ばしさや味が物足りない印象があるのでしょうか。

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その答えは原材料表記にあります。焼きそば専用ソースと中濃ソースの大きな違いは醤油の有無。ソースは果物とスパイスを煮込み、それを粉砕したものに酢を加えた調味料。醤油が入っていません。鉄板で香ばしく炒めていく焼きそばの味の決め手は実はソースではなく、醤油だったのです

しかし、これで光明が見えてきました。ブルドッグの中濃ソースをベースに醤油(今回は使いませんが可能であればオイスターソースなどの旨味を含んだ調味料)を混ぜていけばスパイスの効いたさっぱり(&こってり)焼きそばがつくれるはず。そうすれば家に焼きそばソースがないときにも対応できます。

と、その前にもう一つ考えるべき問題が。

3.具材の検討

富士宮やきそばは肉カス、栃木の焼きそばは揚げポテトからもわかるように、ソースの酢(酸味)を油脂分で中和させるのが焼きそばのセオリー。豚肉、キャベツだけだとやや酸味が立った仕上がりになってしまいそうです。

家庭向けとして肉カスなどは難しいので、甘味処の焼きそばに習って今回はお好み焼き用として市販されている「天かす」を加えることにしました。

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これで脂分がプラスされ、天かすはさらに最後に野菜の水気を吸い取ってくれる水分調整の役割を果たしてくれます。もう一つ考えるべきはフライパンの大きさです。試作品はお店のものと比べると具材が少ない印象があります。調理器具の違いを考えればそれも仕方がない部分も。

お店の鉄板は大きいので具材と麺が重なることなく均等に加熱でき、分厚い鉄板を使うことで温度ドロップ(調理科学の用語でフライパンに食材を投入してから表面温度が下がる現象)が少なくなり、水分が速やかに蒸発し、沢山の具材を入れても水っぽくなりません。

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一方の家庭のフライパンで1人前をつくるのであればこんな感じ。

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二人前でフライパンはもう一杯という感じです。これで4人家族分をつくることはもはや無理難題としかいいようがありません。今回は具材を増やしたいので、解決策として

具材と麺をわけて加熱する

という方式を採用することにしました。最後に二点だけ検証しておくべきことがあります。

麺を湯通しするといいよ派の検証

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時々、麺に湯を通すと表面の植物油がとれて、味が染み込みやすくなる、という意見があります。湯通ししてから炒めたものと普通に水を加えたパターンで比較してみましたが、湯通しすると麺がやわらかくなるだけで、味の染み込みやすさについては関係ないよう。この方式は採用しません。

電子レンジにかけるとほぐしやすいよ方式

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電子レンジに20秒から30秒かけると麺がほぐれやすくなるという意見。これはメーカーも推奨している方法でたしかに効果はてきめん。こちらは即採用が決定しました。さて、ここまで4000文字近くを費やして来ましたがようやくレシピです。

最高の焼きそばの作り方

最高の焼きそば(2人前)
キャベツ 150g
もやし  100g
玉ネギ  1/4個 60g〜80g
ラード  大さじ1(またはごま油大さじ1)
醤油   大さじ1/2
ウスターソース 大さじ1
胡椒    適量
豚バラ肉    80g
袋麺     2袋
醤油    大さじ1/2
中濃ソース 大さじ2
砂糖    小さじ1
天かす   30g
鰹節    適量
青のり   好みで
紅生姜   好みで

まずは具材を炒める用のソースをつくります。

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関東の家庭で最も普及しているブルドッグの中濃ソース一本でつくろう、と思っていたですが、具材を炒めるソースとしてはやはりウスターソースが良かったので、ブルドッグのウスターソースを醤油をあわせて使っています。ウスターソースは濃度が低く、さっぱりした味が特徴。酸味が効いているとキャベツの甘味が引き立つ、という実験結果から採用しました。

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焼きそばソースをつくっておきます。醤油+中濃ソース+砂糖です。ここにオイスターソース、ほんだしなどの風味調味料を加えるとよりジャンクな味になると思いますがとりあえずは入れないで作ってみてください。

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フライパンを強火にかけてラードを溶かします。ラードがなければごま油でも結構です。野菜を一気に炒めていきます。

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フライパンに野菜を入れると表面温度が下がるので、回復するまでは触らないのがコツです。片面加熱のイメージでひっくり返したら調味料を投入します。

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調味料を入れると一気に加熱が進むので注意してください。

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全体をジャッジャッと和えたら加熱は完了。

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ボウルに開けます。フライパンを弱火にかけて豚バラ肉を炒めていきます。

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豚バラ肉には脂があるので、フッ素樹脂加工のフライパンであればそのまま炒めます。

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この時、好みですが分量外の塩、胡椒をほんの少し振っておくと味が締まります。

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豚肉にある程度火が通ったら、滲み出てきた脂で電子レンジで20秒ほど温めた麺を焼きます。火加減は弱火のままです。

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豚肉が焦げそうになるので、麺の上に避難させました。さらに焼いていきます。

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これくらいの焦げ目がつくくらいが目安です。ここで麺の水分量を減らし、後からソースを加えることでモチモチ感を出します。


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裏返して、ソースと天かすを加えます。箸で混ぜれば20秒ほどで麺に絡むはずです。

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分けておいた具材と合流。火を止めて混ぜます。

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器に盛り付けて、鰹節をかけます。これで味に厚みが出ました。

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麺には醤油主体で味をつけたあっさり味なので、最後に中濃ソースを少しかけました。この時にかけるソースはブルドッグではなく、甘味の効いたソースの方がより面白いと思います。(今回はトリイソース中濃を使用)あるいはオタフクのお好み焼きソースなどでもいいかもしれませんが、現実的には家にソースは一種類しかないでしょうからそれをかけましょう。

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現時点で僕が考える(3袋100円程度の蒸し麺を使った)最高の焼きそばはこんな感じです。具材を炒める用のソース、麺を炒める用のソース、最後にかけるソースとソースを三段階に重ねて使っています。ソースが全体に絡まっているのではなく、あっさりと炒めた麺にところどころソースがかかっているので食べ飽きないと思います。料理のおいしさには不均一さも重要な要素なんですね。

たかが焼きそば、されど焼きそば。最高の焼きそばへの道はまだまだ遠そうです。

おまけ

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市販の蒸し麺もめっちゃテストしたのですが、入手しやすさと食感のバランスではシマダヤの麺が優秀でした。参考までに。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!