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Web3.0会計 早めに押さえよう。「電子記録移転有価証券表示権利等」とは

はじめに

2019年頃からブロックチェーンの活用により、ICOという新たな資金調達手段が登場しました。ICOの起こりに対応する形で各種規定の整備が行われています。
 
会計に関しては、2022年8月にASBJ(企業会計基準委員会)より実務対応報告43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」が公表されました。

<問題提起>
しかし、「電子記録移転有価証券表示権利等」のイメージのしにくさや、当実務対応報告が複数の法令等を参照していること等から、読み解く気にもならないという方々も多いと思います。(連続する漢字に読む気が失せる)

<本稿について>
本稿では、複数の法令等も引用しながら電子記録移転有価証券表示権利等の定義を整理しています。
基本的には本稿を見れば、電子記録移転有価証券表示権利等の定義は読み取れる内容となっています。 

結論だけで知りたい方は、「4.まとめ」に背景やイメージ図をまとめていますのでご参照ください。


<略語等>
・「みなし有価証券」:金融商品取引法第2条第2項に規定されるものを指す
 
・「当実務対応報告」:「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」
 
・「ICO」:Initial Coin Offering(企業がトークンと称される電子的な記録や記号を発行することで、投資家から資金調達を行う行為の総称)


1.公表済の会計基準等

本稿は現在公表されている会計基準等に基づいています。会計基準の開発状況についてはこちら(Web3.0 期末決算に向けて 会計基準等の動向|treasur05364270|note)の記事をご参照ください。


2.「電子記録移転有価証券表示権利等」とは

以下では、「電子記録移転有価証券表示権利等」の定義を読み解いていきます。


<「電子記録移転有価証券表示権利等」とは権利のこと>

当実務対応報告では、金商業等府令に規定される権利であることが明記されています。
権利の内容については、金商業等府令を介して金融商品取引法を参照しています。

「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう。
当実務対応報告 第3条
電子記録移転有価証券表示権利等 法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利をいう。
金商業等府令 第1条 第4項 第17号


<具体的な内容:金融商品取引法第2条第2項に規定されている>

金融商品取引法においては以下のように規定され、最終的には金融商品取引法第2条第2項の規定を参照しています。

第二条第二項の規定により有価証券とみなされる権利(当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情を勘案し、公益又は投資者保護のため特に必要なものとして内閣府令で定めるものに限る。)
金融商品取引法 第二十九条の二第一項第八号より一部抜粋


以下、金融商品取引法第2条 第1項と第2項です。
(参照用です。長いので読み飛ばしても問題ありません)

第二条 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
一 国債証券
二 地方債証券
三 特別の法律により法人の発行する債券(次号及び第十一号に掲げるものを除く。)
四 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)に規定する特定社債券
五 社債券(相互会社の社債券を含む。以下同じ。)
六 特別の法律により設立された法人の発行する出資証券(次号、第八号及び第十一号に掲げるものを除く。)
七 協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号。以下「優先出資法」という。)に規定する優先出資証券
八 資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
九 株券又は新株予約権証券
十 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券
十一 投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資証券、新投資口予約権証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
十二 貸付信託の受益証券
十三 資産の流動化に関する法律に規定する特定目的信託の受益証券
十四 信託法(平成十八年法律第百八号)に規定する受益証券発行信託の受益証券
十五 法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、内閣府令で定めるもの
十六 抵当証券法(昭和六年法律第十五号)に規定する抵当証券
十七 外国又は外国の者の発行する証券又は証書で第一号から第九号まで又は第十二号から前号までに掲げる証券又は証書の性質を有するもの(次号に掲げるものを除く。)
十八 外国の者の発行する証券又は証書で銀行業を営む者その他の金銭の貸付けを業として行う者の貸付債権を信託する信託の受益権又はこれに類する権利を表示するもののうち、内閣府令で定めるもの
十九 金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第二十一項第三号に掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場(第八項第三号ロに規定する外国金融商品市場をいう。以下この号において同じ。)において行う取引であって第二十一項第三号に掲げる取引と類似の取引(金融商品(第二十四項第三号の三に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係るものを除く。)に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う第二十二項第三号若しくは第四号に掲げる取引に係る権利(以下「オプション」という。)を表示する証券又は証書
二十 前各号に掲げる証券又は証書の預託を受けた者が当該証券又は証書の発行された国以外の国において発行する証券又は証書で、当該預託を受けた証券又は証書に係る権利を表示するもの
二十一 前各号に掲げるもののほか、流通性その他の事情を勘案し、公益又は投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定める証券又は証書
金融商品取引法第2条 第1項
2 前項第一号から第十五号までに掲げる有価証券、同項第十七号に掲げる有価証券(同項第十六号に掲げる有価証券の性質を有するものを除く。)及び同項第十八号に掲げる有価証券に表示されるべき権利並びに同項第十六号に掲げる有価証券、同項第十七号に掲げる有価証券(同項第十六号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び同項第十九号から第二十一号までに掲げる有価証券であって内閣府令で定めるものに表示されるべき権利(以下この項及び次項において「有価証券表示権利」と総称する。)は、有価証券表示権利について当該権利を表示する当該有価証券が発行されていない場合においても、当該権利を当該有価証券とみなし、電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下この項において同じ。)のうち、流通性その他の事情を勘案し、社債券その他の前項各号に掲げる有価証券とみなすことが必要と認められるものとして政令で定めるもの(第七号及び次項において「特定電子記録債権」という。)は、当該電子記録債権を当該有価証券とみなし、次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であっても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。
一 信託の受益権(前項第十号に規定する投資信託の受益証券に表示されるべきもの及び同項第十二号から第十四号までに掲げる有価証券に表示されるべきものを除く。)
二 外国の者に対する権利で前号に掲げる権利の性質を有するもの(前項第十号に規定する外国投資信託の受益証券に表示されるべきもの並びに同項第十七号及び第十八号に掲げる有価証券に表示されるべきものに該当するものを除く。)
三 合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権
四 外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの
五 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)
ハ 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第一項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和二十三年法律第二百号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第十二号、第九十三条第一項第六号の二若しくは第百条の二第一項第一号に規定する事業を行う同法第二条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の二第七項に規定する共済事業を行う同法第三条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第三項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第九項に規定する特例事業者と締結したものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)
ニ イからハまでに掲げるもののほか、当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利
六 外国の法令に基づく権利であって、前号に掲げる権利に類するもの
七 特定電子記録債権及び前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利
金融商品取引法第2条 第2項

3.実務におけるポイント


<従来との違い:ブロックチェーン技術等を用いてなされるか否か>

上述の引用文をご覧いただくと、電子記録移転有価証券表示権利等は、みなし有価証券のうち当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情等を勘案し内閣府令で定めるものに限るとされています。

そして、金商業等府令では、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものとされています。

従って、電子記録移転有価証券表示権利等と従来のみなし有価証券との違いは、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いてなされるか否かのみであると考えられます。(金商業等府令第 6 条の 3)。


<会計処理>

電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券の発行及び保有の会計処理と同様に取り扱うことなります。詳細については割愛します。


<適用時期>

2023年4月1日以降開始する事業年度の期首から
(早期適用可)


4.まとめ

<背景や経緯>

有価証券は流通する蓋然性に着目して第一項有価証券と第二項有価証券に大別されています。
流通する蓋然性が高い第一項有価証券については、その影響を踏まえて厳しい開示規制の対象としています。
 
昨今、第二項有価証券に分類されていたものから、ブロックチェーンを活用することで事実上流通し得るものが登場したため、このようなものを「電子記録移転権利」と定義して第一項有価証券として取り扱い、厳しい開示規制を課すこととなりました。

当実務対応報告に基づき筆者が作成



<サポートしています>
上述のように、整備が進んでいる領域ではありますが、実務では判断が介入する部分も多く存在します。

「形式上ブロックチェーンを利用しているだけで流通する蓋然性が低いトークン」や「流通する蓋然性の評価方法」等、一項有価証券か二項有価証券かの判断ひとつとっても、判断が介入するポイントが存在します。
 
会計処理や監査対応でお困りの方がいましたら、私どもでサポート致しますのでお気軽にお問い合わせください。
 
以上

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