見出し画像

絵本考察日記#03/鳥の眼になって世界をみることへのあこがれ

こんにちは。7月ももう中旬(はやい!!)、いかがお過ごしでしょうか。
連日の大雨による、遠い地の被害がとても心配です。かくいうわたしの住む地域でも、今朝は大雨警報が発令されました。普段から徒歩移動のため、ちょっとバス停まで歩くのも難しそう。それに喉の様子がなんだかヘンで、今日は予定をキャンセルし、ひとつは明日にずらしてもらいました。皆さまも、どうかご無事で。

それで今日は、福音館書店のアカウントで先日行われたインスタライブを拝見し、
絵本『なつやすみ』について書かせていただくことにしました。
作者は麻生知子さん。油絵の画家さんだそうで、「ワタリドリ計画」というユニットを組んで旅と制作と展覧会をしながら全国を飛び廻っていらっしゃるそう。かっこいいー。お話されている様子は、黒髪のおかっぱがつやつやと光り、すごく純朴で正直なかた、という印象ですが、こういう大胆さも持ち合わせているのね!意外なびっくり。子育てもされながら、他にも絵のことに関する精力的な活動をされていて、同じ女性としても尊敬します。
夏によみたい絵本をお探しのかた、鳥のように心をふわりと軽くして、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

1、Bird eyeへのあこがれ


この『なつやすみ』という絵本、わたしの大好物の「眺めてたのしむ」タイプの絵本です。表紙のティッシュが、明らかにネピア、現実の生活感溢れるところも良いですねぇ。
たまらないのは、その構図が鳥瞰図であること。
鳥瞰図でじっくり眺めたい絵本の代表といえば、『ふくのゆのけいちゃん(秋山とも子・福音館書店)』
街を行き交う人々のようす、聞こえてくるおばちゃんたちのおしゃべりだけでなく、銭湯やけいちゃんの家のなか、これらをじっくり眺めることを、いわば許された絵本、なのです。
だって、男湯も女湯も脱衣所も人んちの台所もこんなにじっくり眺めてたのしめるなんて、鳥の眼をもたせてもらったわたしたち読者の特権でしょう!!
心ゆくまで絵本のなかを探検し、体験できるということは、なんと楽しいことか。

※ちなみに鳥瞰図とは、鳥瞰図(ちょうかんず、鳥目絵(とりめえ)・俯瞰(ふかん)図・パノラマ図とも言います、英語 bird’s eye view)とは、空を飛ぶ鳥の視点から地上を見おろしたように描いた図のことで、建物や山などの立体感や遠近感がよく描かれ、街の広がりや地形などを把握するのに適しています。(インターネットより引用)とのこと。ふむ。

ところで盛岡櫻山にある「パアク」の真向かいに、この街の大きな鳥瞰図が貼ってあります。わたしはこの喫茶店もこの鳥瞰図も大のお気に入りで、何度そこへ行っても、かならず写真を撮ってしまうのでした。
この絵本がたのしい大前提にはやはり、この鳥の眼になって上空から眺めおろす、ということがあると言えます。
だって、わたしたち人間はふつう、このように上からいっぺんにあちらこちらを覗くことができないのです。飛行機に乗って異様にテンションがあがるのもぜったいてこのせいなのです(わたしだけ?)。
今回の絵本では、それが天ぷら(これがすんごく美味しそう!)やそうめんなど夏のごちそうが所狭しとのった食卓、おもちゃでごたごた家のなか、お祭りの屋台のようすが、上から一挙に見下ろせることの興奮・快感・爽快感
ひとつひとつじっくり眺めても永遠に飽きません。たこ焼き屋さんの具材、水ヨーヨーの質感、お面のキャラクター(ドラ◯もんやアンパン◯ンなどのお面、著作権オッケーなんだ、とかも考えてしまう)。

絵はおもに油絵で描かれているそうで、原画は一枚一枚50センチくらいの四方キャンパスに描かれていました。油絵ぽくない絵というか、印刷で色味や質感が多少なりとも変わっているのでしょうが、あまり類を見ない感じの作風です。
原画、いつか見てみたい!!

2、日本のお祭りって

作者の麻生さん、この絵本のなかに、小さかった頃の息子さんをおぶってお祭りに連れていったご自身の姿を描いたそう。インスタライブの中で、お囃子は似ているのに、太鼓の音がちがう。と、嫁ぎ先のお祭りでホームシックにおそわれたとお話されていました。
音楽、というかとくにお囃子の太鼓や笛の音って、遠い日の記憶を呼び覚ましたり連れ戻したりする力が、ものすごく強いと思うんです。
だから麻生さんの体験、すごくわかるなぁ。

入道雲に蚊取り線香にスイカにお祭りに、と、ザ・日本の夏!を描いた絵本ってたくさんありますよね。
ひとつ挙げるのならば、先日『夏がきた』という徳島の子どもたちのある夏休みの一日を描いた良い絵本に出逢ったのですが、共通しているのは「なくしたくない日本の夏の風景」というところでしょうか。
でも。わたしは思うのです。
きっと日本のお祭りは、なくならない。
日本人のアミニズム、その地域のたとえば山を守り神としてお祭りをする、とか、例大祭には神輿に神様が乗ってそれを担ぐ、とか、そういうのはもうずっとずっとずっと昔から連綿と続いていたわけで。
そういう目にみえない精神、感謝こそ、コロナとか経済状況とかには屈しないものなのだと思うのです。イレギュラーとして、何年かおやすみすることはあっても、わたしたち日本人が「お祭り」というものに対するこころ、をなくすことはないんじゃないかな、と。
なくしたくないし、いつの時代の子どもたちにも、そのスピリットを感じてほしい、という気概のようなものを、この作品からは感じます。
さすが現地をちゃんと訪れて取材をして、丁寧にじっくり絵に向き合う作者ができる技なのだ、という気がしました。

いろいろ書いてしまいましたが、とかくこの絵本をよむのに、気合いや意気込みはいりません。なんとなくフワーとひらいて、鳥になった気分で、フワーとこの家族やお祭りに来ているひとたちや屋台のおじちゃんたちを眺める。留まりたい場面にはいつまでだって居ていいし、焼きそばのあまじょっぱい匂いにつられて次の頁に飛んでもいい。
上下逆さま、どちらから見てもたのしいこの鳥瞰図の絵本は、絵本を囲むシアワセが味わえる一冊、といっていいんじゃないかしら。


☆きょうのおまけ
福音館書店のインスタグラム(fukuinkan_pr)では麻生知子さんのインタビューアーカイブ動画(期間限定)が見られます。制作秘話や作者のことを覗き見することが好きなお仲間のあなたはぜひ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?