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訴状アップロード事件

こんにちは。

 驚いたことに60代のSNS利用率が60.6%となっているようです。

 まさに1億総発信時代となっていますが、思わぬ発言で他人の権利を侵害してしまうこともあります。とくに相手から裁判を起こされたということをインターネット上で公表した場合に問題が生じることがあります。この点を考える上で、今日は「訴状アップロード事件」(東京地判令和3年7月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 トイアンナさんは、別件の訴訟で受け取った訴状について、そのデータファイルのリンクをブログに貼り付けるなどして公表しました。するとネット上では、「訴状理由が酷すぎてわろた」など訴状に対して多数の批判が寄せられるようになりました。そのため、訴状を送付した福永弁護士は、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)の侵害を理由に、30万円の損害賠償を求めました。

2 福永弁護士の主張

 トイアンナ氏は、我々の承諾を得ずに、訴状をアップしているので、著作権及び著作者人格権を侵害している。著作権法40条1項は、自由利用を認める対象を「裁判手続における公開の陳述」と規定しているのであるから、未だ陳述されていない訴状を自由に利用できないことは条文の文言上明らかである。また、私的な紛争について、自らのブログで一方的に公表されているので、公共性や公共目的は担保されておらず、著作権法41条の時事の事件の報道のための利用にあたらない。
 トイアンナ氏が、自らのブログやツイッターで訴状を公衆送信して公表したことで、私は多数の第三者から好奇の目を向けられ、好き勝手に名指しで批評、批判され、精神的苦痛を被った。

3 トイアンナさんの主張

 憲法82条には裁判の公開の原則が定められ、また民事訴訟法91条1項には、原則として何人も裁判記録を閲覧することができるとされています。民事訴訟に関する情報を非公表とするのは難しいのではないでしょうか。もし、当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあるのであれば、その部分の閲覧制限を申し立てれば足りると思います。
 また時事の事件を報道する場合、著作物は報道の目的上正当な範囲内で複製し、利用することができるはずです。訴状の送達を受けて間もない時期に公表もしているので時事の事件にもあたります。訴状は、訴訟という公開の法廷で陳述するために作成され、公表されることが大前提となっていたのですから、訴状の公表に黙示的に同意していたと言うべきでしょう。また、弁護士としての職務に基づいて作成された訴状が単に批評されたという程度であれば、それは一般的に受忍するべき範囲のもので、損害が生じる余地はないと思います。

4 東京地方裁判所の判決

 別件訴状を複製して作成したデータをアップロードし、ブログ記事に同データへのリンクを張ったトイアンナ氏の行為は、別件訴状について、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信をするものであり、未公表の別件訴状を公衆に提示するものであるから、別件訴状に係る福永氏の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害を構成する。
  トイアンナ氏は、裁判の公開の原則(憲法82条)や訴訟記録の閲覧等制限手続(民訴法92条)があることを理由として、訴状を非公表とすることに対する福永氏の期待を保護する必要性は低いと主張するが、裁判の公開の原則や閲覧等制限手続が存在することは、トイアンナ氏の行為が著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害を構成するとの結論を左右しない。
 福永氏は、別件訴状の公表により、別件訴状の陳述以前の段階から、別件訴状を閲覧した者から「訴状理由が酷すぎてわろた」などの批判等を受けるなどして、精神的苦痛を受けたものと認められる。よって、トイアンナ氏は別件訴状の公表権侵害に対する慰謝料として2万円を支払え。

5 訴状の公開も著作権侵害となる

 今回のケースでは、裁判手続における公開の陳述については、自由に利用できますが、公開の法廷で陳述されていない訴状については、自由利用が認められないとされました。youtube動画やブログなどで、「訴えられました」といった内容で、法廷で陳述されていない訴状を掲載すれば、著作権侵害となり得ますので、十分に注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。

 

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