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同性カップル関係解消事件

こんにちは。

 今日は事実婚の状態にある同性カップルが関係を解消した際に、相手方に慰謝料を請求できるのかどうかが問題となった東京高判令和2年3月4日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 2人の女性は、アメリカのニューヨークで婚姻登録証明書を取得し、アメリカと日本で結婚式を行いました。2人は、子どもを持つことを希望していたので、別の男性から精子提供を受けて妊娠、出産することにしました。ところが、一方の女性がその男性と性的関係をもったことが発覚し、別居した後に男性と暮らすことになったことから、もう一方の女性が事実婚が破綻したとして、共同不法行為に基づいて約637万円の損害賠償を求めて提訴しました。宇都宮地方裁判所は、不貞行為をした元パートナーに対して、110万円の支払を命じましたが、双方が控訴しました。

2 東京高等裁判所の判決

 控訴人及び被控訴人は、平成21年3月から交際を開始し、平成22年2月から平成29年1月まで約7年間にわたり同居していたこと、その間の平成26年12月には同性婚が法律上認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得して結婚式を行った上、平成27年5月には日本国内で結婚式を挙げ、披露宴も開催し、その関係を周囲の親しい人に明らかにしていたこと、その後、2人で子を育てることを計画し、控訴人は、平成27年7月頃から、2人で育てる子を妊娠すべく、第三者からの精子提供を受けるなどし、被控訴人は、平成28年12月までには、控訴人と将来的には子をもうけて育てる場所としてマンションの購入を進めていたことが認められる。
 以上の事実に照らすと、控訴人及び被控訴人の上記関係は、他人同士が生活を共にする単なる同居ではなく、同性同士であるために法律上の婚姻の届出はできないものの、できる限り社会観念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり、平成28年12月当時、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということができる。したがって、控訴人及び被控訴人は、少なくとも民法上の不法行為に関して、互いに、婚姻に準ずる関係から生じる法律上保護される利益を有するものというべきである。
 この点、控訴人は、同性の夫婦関係又は内縁関係については、貞操義務が生じたり、法的保護に値したりする段階にはなく、同性婚の問題は立法によって解決すべき問題であり、また、どこまで同性カップルに法的保護を与えるか基準が不明確である上、さらに、控訴人と被控訴人との生活実態からして、同性同士のカップルにすぎず、両者が同性同士の夫婦関係又は内縁関係にあったとは認められないから、被控訴人には「他人の権利又は法律上保護される利益」は認められない旨主張する。しかしながら、そもそも同性同士のカップルにおいても、両者間の合意により、婚姻関係にある夫婦と同様の貞操義務等を負うこと自体は許容されるものと解される上、世界的にみれば、令和元年5月時点において、同性同士のカップルにつき、同性婚を認める国・地域が25を超えており、これに加えて登録パートナーシップ等の関係を公的に認証する制度を採用する国・地域は世界中の約20%に上っており、日本国内においても,このようなパートナーシップ制度を採用する地方自治体が現れてきているといった近時の社会情勢等を併せ考慮すれば、控訴人及び被控訴人の本件関係が同性同士のものであることのみをもって、被控訴人が前記のような法律上保護される利益を有することを否定することはできない。また、控訴人及び被控訴人は、前記のとおり、単に交際及び同居をしていたのではなく、米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得して結婚式を行った上、日本においても結婚式等を行い、周囲の親しい人にその関係を周知し、2人で子を育てることも計画して現にその準備を進めていたのであるから、控訴人が被控訴人に従属する関係にあったとはいえないし、控訴人の指摘するように控訴人及び被控訴人が生活費を互いに負担し合う関係にあった点のみをもって、平成28年12月当時、前記のような婚姻に準ずる関係にあったとの認定を左右するものではない。控訴人の上記主張は採用できない。
 控訴人及び被控訴人は、互いに、婚姻に準ずる関係から生じる法律上保護される利益を有していることからすれば、控訴人が被控訴人以外の者と性的関係を結んだことにより、本件関係の解消をやむなくされた場合、被控訴人は、被控訴人の有する不法行為に関して法律上保護される利益が侵害されたものとして、控訴人に対し、その損害の賠償を求めることができると解すべきである。
 そして、被控訴人と本件関係にあった控訴人は、流産後の術後検診に付き添わなかった被控訴人の態度等から、被控訴人から家族として扱われていないと悲しい気持ちとなり、被控訴人の態度を不誠実だと感じながらも、被控訴人に対して本件関係の解消を求めるなどの行動に及ぶことはなく、平成28年の年末時点でも、仮に子を授かれば、その子を被控訴人と共に育てる意向を有していたこと、平成28年11月には、控訴人と被控訴人は、将来的に子をもうけ、育てる場所として、マンションの内見に行っていること、平成28年の年末時点においても、被控訴人は、控訴人が1審相被告と人工授精を行うものと信頼して、控訴人が1審相被告の下に行くことを認めたこと、ところが、控訴人は、平成28年10月の流産後、平成28年12月28日から平成29年1月3日にかけて1審相被告宅に宿泊したときまでの間に、1審相被告との間で複数回にわたりペッティングに及んだこと、控訴人は、平成29年1月4日に被控訴人が控訴人と1審相被告の関係を知った後も、1審相被告に対して連絡を取らないことを約束して被控訴人との同居を継続したが、結局、被控訴人に対し、1審相被告が好きであると伝え、同月27日、被控訴人と別居を開始し、同年12月、被控訴人との間で、米国においてされた婚姻を解消することを合意し、相互に必要な協力をし、当該婚姻の解消手続をとるものとする旨の調停に代わる審判を受けたことが認められる。
 以上によれば、被控訴人は、控訴人が1審相被告と故意に性的関係を結んだことにより、本件関係の解消をやむなくされたものと認めることができる。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が1審相被告と性的関係を結んだことにより、婚姻に準ずる関係である本件関係の解消をやむなくされたことを理由にその損害の賠償を求めることができるというべきである。 
 損害額については、人工授精を行うものと信頼して控訴人が1審相被告の下に行くことを認めた被控訴人の信頼が裏切られたことによる衝撃は相当強いものと推察されること、他方で、控訴人と1審相被告との性的関係は複数回とはいえ控訴人の流産後の短期間であること、流産後の術後健診に付き添わなかった被控訴人の態度に起因して控訴人は被控訴人のことを不誠実だと感じて本件関係を継続していくことに消極的となっていたと推認されること、控訴人と被控訴人の本件関係は法律上認められた婚姻関係ではなく、婚姻に準ずる関係であることなどの本件に現れた一切の事情を総合すれば、被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料は100万円が相当である。
 そして、本件訴訟のために要した弁護士費用のうち、上記慰謝料の1割である10万円について不法行為との相当因果関係を認めるのが相当である。この点、被控訴人は、事実上の夫婦でありながら、異性と同性とで法律上の保護に値する利益に差異を設けることは性別による取扱いの差別である旨主張するが、性別によって差異を設けているのではなく、婚姻に準ずる程度とその保護の程度は、それぞれの関係の実態に基づいて判断することが相当であるから、被控訴人の上記主張は採用できない。
 そうすると、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求(減縮後の慰謝料及び弁護士費用相当の損害についての請求)は、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の限度で理由があり、更に慰謝料200万円を求める請求には理由がない。
 よって、被控訴人の請求は原判決が認容した限度で理由があり、その余は理由がないから、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却する。

3 最高裁判所も法的保護を認める

 今回のケースで裁判所は、事実婚の関係にある同性カップルについて、一方の不貞行為が原因でその関係が解消された場合には、不法行為に基づいて慰謝料の支払義務が発生するとしました。
 その後、最高裁判所でも、元パートナー側の上告を棄却する判決を下し、二審の判決が確定しています。
 今後も、同性カップルに対して婚姻に準じた法的保護がどこまで認められるかについて注目していきたいと思います。
 では、今日はこの辺で、また。


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