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おニャン子クラブ事件

こんにちは。

 1980年代のアイドルグループのおニャン子クラブは、自己紹介の時におニャン子クラブ会員番号○○番」と名乗っていただけでなく、会員番号の唄までありましたね。

 さて今日は、アイドルのカレンダーの販売をめぐってアイドルたちが原告となった「おニャン子クラブ事件」(東京高判平成3年9月26日判例タイムズ772号246頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 株式会社現代キャラクは、おニャン子クラブに所属するアイドルたちに無断で、その名前や顔写真が入ったカレンダーを販売していました。
 そのため、新田恵利さんや国生さゆりさん、渡辺満里奈さん、渡辺美奈代さんが、そのカレンダーの販売の差止めと、損害賠償を求めて提訴しました。

2 新田恵利さんらの主張

 私たちには、みだりに他人に顔写真や名前を利用されないという人格的利益があるはずです。この利益が侵害された場合には、民法709条によって、カレンダーの販売を差止めたり、損害賠償を求めることができるはずです。

3 現代キャラクの主張

 アイドルが自分の顔写真を無断で使われたとしても、不快感はないはずとちゃうか。あるとすればその不快感は使用料をもらえなかったという経済的利益を奪われたことにあるのであ
って、顔をさらされたという人格的利益の侵害に関するものではない。君たちは、カレンダーの売上の1%をフジテレビから受け取っていたが、その他の売上は所属プロダクションの懐に入っていたのだから、むしろ所属プロダクションに対してパブリシティ権の奪取の差止を求めるべきではないのか。

4 東京高等裁判所の判決

 新田恵利さんらはいわゆる芸能人であり、その芸能人としての評価は、自己の出演、所属プロダクションやマスメディアを通じての宣伝活動等により、広く全国にその氏名・肖像が知られ、大衆の人気を博することによって高められるのであり、新田恵利さんらも、このように自己の氏名・肖像が知られることにより評価が高められることを望んでいるものと推認して差支えない。そして、かように氏名・肖像を利用して自己の存在を広く大衆に訴えることを望むいわゆる芸能人にとって、私事性を中核とする人格的利益の享受の面においては、一般私人とは異なる制約を受けざるを得ない。すなわち、これを芸能人の氏名・肖像の使用行為についてみると、当該芸能人の社会的評価の低下をもたらすような使用行為はともかくとして、社会的に許容される方法、態様等による使用行為については、当該芸能人の周知性を高めるものではあっても、その人格的利益を毀損するものとは解し難いところである。
 反面、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲
得した芸能人の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがあることは、公知のところである。そして、芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。したがって、その権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができるものと解するのが相当である。
 よって、原判決を取消し、現代キャラクはカレンダーの販売をしてはならず、新田恵利さんらに対して約40万円を支払え。

5 人格的利益と経済的利益

 今回のケースで裁判所は、アイドルの肖像と氏名を用いたカレンダーの無断販売をする会社に対して、アイドルの人格的利益の侵害を認めず、顧客吸引力という経済的利益の侵害を理由に損害賠償と差止を認めました。
 芸能人は、一般人と異なって写真掲載による精神的苦痛が認められにくいという側面がありますが、パブリシティ権という経済的利益の侵害を理由に差止が認められるという点にも注目しておく必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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