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絶対音感事件

 こんにちは。

 小さいころから音楽的なセンスがゼロだったのですが、youtubeで絶対音感テストをすると、見事に全問不正解となり、自分の思い込みではなかったと自信を持った松下です。

 さて、今日は絶対音感事件(東京高判平成14年4月11日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 アメリカの音楽家レナード・バーンスタインは、青少年の教育をするために解説を加えた音楽コンサート「Young People’s Concerts : What Does Music Mean?」という演劇台本を書きました。

 日本では、橋本邦彦さんがバーンスタインの英語版台本を日本語に翻訳して、指揮者の佐渡裕さんがバーンスタイン役となって上演するための台本を作りました。その台本(二次的著作物)「ヤング・ピープルズ・コンサート・・・音楽って何?」について、橋本さんは著作権と著作者人格権を取得していました。

 その後、株式会社小学館から最相葉月『絶対音感』という書籍が出版され、やがてベストセラーになります。

 ところが、この書籍の中で、橋本さんの翻訳台本の一部が本人の承諾なしに引用されており、また参考文献に「レナード・バーンスタイン『音楽って何?』 Young People’s Concert第一巻台本・NHK、CBS(1960)」という記載があっただけで、翻訳者の氏名の表記がありませんでした。そこで、橋本さんが、小学館と最相さんを相手に、950万円の損害賠償を求めたのです。

2 橋本さん側の主張

 私の著書から3ページ分を無断で掲載しているので、複製権を侵害している。

【著作権法21条】
 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

また、私の作品であることを明示する氏名表示権を侵害している。

【著作権法19条1項】
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

3 最相さん、小学館側の主張

 著作権法32条1項に基づく引用だから、許諾を得ていなくても問題がないはずだ。

【著作権法32条1項】
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 また、翻訳者名の表記をしなかった点についても、翻訳者を調査する義務はないので、やむを得ない事情があったと思います。

4 東京高等裁判所の判決

東京高等裁判所の裁判長:「出所を明示したというためには、少なくとも出典の記載が必要だが、被引用著作物が翻訳の著作物である場合は、著作者名(翻訳者名)を合わせて表示することが必要な場合が多い。翻訳者の許諾を得ずに翻訳部分を複製して掲載することが、公正な慣行に合致しているということもできないし、また、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるということもできない。よって複製権の侵害と氏名表示権の侵害があるため、最相さんと小学館は、橋本さんに100万円を支払え。」

【著作権法48条】
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第32条、第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)、第33条の2第1項、第33条の3第1項、第37条第1項、第42条又は第47条第1項の規定により著作物を複製する場合

5 引用の際の注意点

 著作権法32条1項によると引用が適法になるためには、①公正な慣行に合致すること、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること、が必要とされています。今回の事件では、出所の明示がなされていたかが公正な慣行に合致しているかどうかの判断材料となりました。

 引用の際には、細心の注意が必要ですね。

では、今日はこの辺で、また。



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