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国立マンション事件

こんにちは。

 死ぬまでに行ってみたい場所No.1が、ボリビアのウユニ塩湖です。

 しかし、ボリビアはハードルが高すぎるので、日本のウユニ塩湖と呼ばれる香川県の父母ヶ浜に行ってみて、「俺の絶景オブザイヤ~~!」と叫んでみたい松下です。

 さて、今日は景観が問題となった国立マンション事件(最判平成18年3月30日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 JR国立駅から一橋大学方面に伸びている大学通りは、高さが約20mの木々が連なる並木道になっていて、景観の良さで有名な場所でした。大学通りの用途規制は、大部分が第一種低層住居地域(建物の高さが10mまでの地域)でしたが、例外的に第二種中高層住居専用地域(高さ制限なし)がありました。明和地所はこの土地を購入し、高さ約55mの18階建てマンションの建設を計画しました。国立市は、周辺の建築物や20mの高さで並ぶ銀杏並木と調和するように、建物の高さを制限するように行政指導しました。すると、明和地所は高さ約44mの14階建てマンションに変更した上で、役所に建築確認を得て工事に着工しました。

 これに対して、住民約310名が東京都と国立市に対して、用途地域の指定見直しなどを求めて裁判所に訴えました。その後、国立市の市議会で「地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例」が制定され、マンションを建てている土地について、高さが20mに制限されました。また裁判の原告だった市議会議員の上原公子氏が市長に当選していました。しかし、明和地所がこれに従わなかったため、地元住民が「景観が破壊された」として高層マンションの高さ20mを超える部分の撤去と慰謝料を求めて裁判所に訴えを提起しました。

2 住民側の主張

 国立の住民は、75年余りにわたって、大学通りを中心とした美しい景観と良好な住環境を維持してきた。もともと高さ20mを超える建物は建てられないという内在的制約が存在した。明和地所はこのような地域性、歴史性を熟知して、また高さ制限の条例が制定されることを十分認識していたあるいは予測して土地を購入していたはずだ。なので、明和地所には不利益がない一方で、我々の景観の利益を侵害している。

3 明和地所の主張

 国立市に建築確認を申請し、許可が下りている。マンション建設計画を妨害するために、国立市によって突如、地区計画や建築条例の制定によって、新たな厳しい建築制限が課されることになった。これは我々の財産権を侵害するものだ。住民の意思の存在から直ちに第三者の財産権に対して法的な内在的制約を課されるのはおかしい。都市計画による建築制限は、正規の手続きを経て告示されたもののみが法的な拘束力を有するはずだ。

4 最高裁判所の判決

 良好な景観に接する地域に居住し、日常的にその恩恵を受けている者がもっている利益は、法的保護に値する。もっとも、この景観利益の内容は、景観の性質、態様等により異なり得るものであるし、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて『景観権』という権利性を有するものと認めることはできない。

 ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。今回のマンション建設には法律違反がないので景観の利益を違法に侵害する行為ではない。よって、原告の請求を棄却する。

5 元市長が訴えられ4500万円の支払が確定

 この最高裁判所の判決の後、明和地所は国立市に対して、営業を妨害されたとして損害賠償を求め、裁判所は国立市に約3123万円の支払いを命じました。ただし、明和地所は受け取った賠償金全額を国立市に寄付しています。しかし、国立市は「裁判に負けたのは上原公子・元市長に責任がある」として裁判所に訴え、最高裁判所は上原公子氏に4500万円の支払いを命じました。

 今回のケースで問題となった「景観の利益」が具体的に何を指すかというところについても、まだ裁判で明らかにはなっていません。それゆえ、今後も景観に関する裁判に注目していきたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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