見出し画像

 こんにちは。

 今日は、写真の無断掲載とトリミングが著作権侵害になるのかどうかが問題となった東京地判平成11年3月26日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 水口博也(みなくちひろや)氏は、撮影した写真を「Dolphin Blue ドルフィン・ブル ー」というタイトルのついたCD-ROMに収録して、販売していました。ところが、毎日コミュニケー ションズがその発行する月刊情報誌「CD-ROM Fan」の平成7年10月号に、 水口氏の「Dolphin Blue」から34枚の写真を複製して掲載し、その際に写真の上下や左右をトリミングしたり、著作者の氏名を表示せずに発売していました。そのため、水口氏は著作権の侵害を理由に、1364万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 東京地方裁判所の判決

 本件写真は水口氏が自然の中に生息している野性のイルカを被写体として撮影した写真であること、水口氏は、本件写真を撮影するに当たり、自らの撮影意図に応じて構図を決め、シャッターチャンスを捉えて撮影を行ったこと、以上の事実が認められ、これらの事実に証拠によって認 められる本件写真の映像とを併せて考えると、本件写真は、水口氏の思想又は感情を創作的 に表現したものとして著作物性を有するものと認められ、本件写真は著作物とはいえない旨の毎日コミュニケーションズらの主張は、採用することができない。  
 したがって、水口氏は、本件写真について著作権及び著作者人格権を有する。
 平成7年8月上旬ころ、毎日コミュニケーションズの「CD-ROM Fan」編集部で本件記事が企画され、編集部員の水上がシンフォレスト社で「Dolphin Blue」を担当していた品田に電話をかけ、「CD-ROM Fan」の10月号でイルカのCD-ROMを紹介したいので『Dolphin Blue』を送付してほしい旨依頼をした。ただし、その時点では、右企画の準備の早い段階であったので、右編集部においても、具体的にどのような紙面構成にするのか、 「Dolphin Blue」から何点の写真を使用するのか、どの位の大きさで使用するのかといった具体的な使用態様は決まっておらず、水上は、品田に対する右依頼に際し、 このような具体的なことは何も説明しなかった。 品田は、右依頼に応じて「Dolphin Blue」を右編集部に送付した。 以上のほかには、右編集部と品田との間に「Dolphin Blue」に収録された 写真の使用についての話合い等は一切なかった。
 本件雑誌の173頁の左下欄に、「Dolphin Blue」のジャケットの写真等が掲載されていることが認められるが、右ジャケットの写真には「水口博也」という同ジャケットに印刷された文字が見えるものと認められる。また、本件記事には他のCD-ROMのジャケットの写真も掲載されていることが認められるが、その中には、ジャケットには撮影者の氏名が印刷されていないため、写真の著作者が誰であるか分からないものがあることが認められる。  
 右認定の事実によると、本件雑誌の173頁のジャケット上の「水口博也」の氏名は、 ジャケットの写真の一部として出ているものであり、著作者の氏名を表示するものとして記載されているものではないと認められるから、右ジャケット上の「水口博也」の氏名が見えるからといって、毎日コミュニケーションズらが本件写真を本件雑誌に掲載して公衆に提供するに際して、水口氏の氏名を表示したとは認められない。  
 そして、以上述べたところに弁論の全趣旨を総合すると、毎日コミュニケーションズらは、本件写真を本件雑誌に掲載して公衆に提供するに際して、水口氏の氏名を表示しなかったものと認められるか ら、毎日コミュニケーションズらが本件写真を掲載した本件雑誌を販売したことは、水口氏が本件写真について有する氏名表示権を侵害する。
 毎日コミュニケーションズらが、本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、当事者間に争いがない。
 著作権法20条1項にいう著作物についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、著作者の意に反して著作物の表現を変更することを意味するものと解されるから、 毎日コミュニケーションズらが本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、その切除箇所が極めてわずかであるなど著作者の人格的利益を害することがないと認められる場合を 除き、原則として同一性保持権の侵害に当たるものと解される。  
 そして、右争いのない事実と証拠によると、別紙写真切除目録記載の各写真は、上下又は左右の一部が切除されたことにより各写真の本来の構図が明らかに変更されており、これによって著作者の制作意図に沿わないものとなっていることが認められるから、右切除は著作者の人格的利益を害することがないとは認められない。
 したがって、毎日コミュニケーションズらが、本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、水口氏が本件写真について有する同一性保持権を侵害する。
 証拠によると、写真は、概ね文字が重ねられていることが認められ、これは右写真の表現を改変するものと認められるから、毎日コミュニケーションズらが右写真に文字を重ねて掲載したことは、水口氏が右写真について有する同一性保持権を侵害する。
 水口氏は、CD-ROMから紙媒体に転用したことが同一性保持権の侵害になる旨主張する。  
 しかし、証拠により、本件写真をディスプレイ上に映した映像と本件雑誌に掲載された写真を対比すると、媒体が異なることから両者は全く同一であるとはいえないものの、本件雑誌の写真は本件写真をかなり忠実に再現しており、本件雑誌の写真 がディスプレイ上の映像よりも特に質的に劣るとも認められないから、本件写真をCD-ROMから紙媒体に転用したことが、同一性保持権の侵害になるということはできない。
 以上認定判断したところによると、毎日コミュニケーションズらが本件写真を複製して本件雑誌に掲載し、これを発売したことは、水口氏の有する複製権並びに氏名表示権及び同一性保持権を侵害すると認められるところ、毎日コミュニケーションズは、出版社として、自らの発行する雑誌「CD-ROM Fan」の記事に写真を掲載するに当たっては、一般的に、その著作者の著作権及び著作者人格権を侵害することがないよう注意すべき義務があり、毎日コミュニケーションズの佐々山も右雑誌の発行人として右と同様の注意義務を負っていたものと認められる。しかるに、前記認定のとおり、 毎日コミュニケーションズらが本件写真を本件雑誌に掲載するに当たっては、「CD-ROM Fan」の編集部員である水上が「Dolphin Blue」の販売元であるシンフォレスト社の品田に「Dolphin Blue」の送付を依頼したのみで、それ以上に著作者の著作権及び著作者人格権を侵害するかどうかについて考慮することなく、本件写真を複製して、本件雑誌に掲載し、これを発売したのであるから、毎日コミュニケーションズらには右注意義務を怠った過失があるというべきである。  
 国内において写真の貸出し業務を行っている写真ライブラリー業者が写真を一般雑誌に掲載するために貸し出した場合の使用料は、見開きで使用する場合については、5万円、1頁の2分の1以上であるが1頁に満たない場合については、3万円ないし3万5000円、1頁の2分の1に満たない場合については、2万5000円ないし3万円といった例のあることが認められる。 また本件写真は、水口氏において、本来雑誌への掲載を許可する予定のなかったものであることが認められる。そして、本件写真の使用態様を総合すると、本件記事における本件写真の使用料は、見開きで使用されたものについては10万円、1頁の2分の1のものについては各5万円、1頁の8分の1のものについては各3万円が相当であると認められる。したがって、複製権侵害による損害額は、113万円である。
 水口氏が本訴の提起及び遂行のために弁護士を選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理の経緯その他諸般の事情を考慮すると、 水口氏に生じた弁護士費用のうち、10万円は毎日コミュニケーションズらの複製権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として毎日コミュニケーションズらに負担させるべきものと認めるのが相当である。
 氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害額は、毎日コミュニケーションズらの侵害行為の態様及び諸般の事情を勘案すると、50万円と認めるのが相当である。 また、水口氏に生じた弁護士費用のうち、5万円は毎日コミュニケーションズらの著作者人格権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として毎日コミュニケーションズらに負担させるべきものと認めるのが相当である。
 よって、毎日コミュニケーションズは、水口氏に対して178万円を支払え。

3 トリミングと著作権

 今回のケースで裁判所は、自然の中におけるイルカの生態を撮影した写真に著作物性があり、それらの写真を無断で雑誌に掲載したり、氏名を表示せずに掲載したり、トリミングして掲載した場合には、著作権侵害にあたるとしました。
 同一性保持権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないため、著作財産権を譲り受けた写真でも勝手にトリミングなどをすれば、同一性保持権の侵害になるおそれがありますので、注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?