見出し画像

Träumerei1

僕の話をしたいと思う。

僕は高校生になったら、やりたいことがいくつかあった。
その一つに「柔道部に入る。」というものがあった。

特に経験があるわけでもなかったのだけど、
ただ漠然とオリンピックなんかを見ていて
人をバッタバッタと投げ飛ばす様子がかっこいいなと思ったし
まあ、出来るものなら自分もそうなりたいと思ったし
オリンピックが無理でもなんかクラスだけの世界とは別の角度の友人が
出来るんじゃないかな、なんていう風にも思ったからだ。

入学したばかりの頃に配られた部活案内には一応柔道部があった。

部員の数が多いわけでも、県内で強豪、というわけでもなく
ただ一生懸命やってるって感じの部活。
主な成績の欄には女子に一人インターハイにでた先輩がいるってくらい。
まあ自分がどれだけやれるかは分からないし、もしかしたら途中で挫折する可能性もある。でもやれるだけやってみたい。
小学生の頃からヒョロガリだった僕に咲いた一輪の夢だった。

学内オリエンテーリングも終わり、授業が始まると同時期に
各部活入部希望を募る会が催された。体育館の舞台上にて運動部の様々な新入部員勧誘に際する出し物というか、部活紹介が行われた。
サッカー部であればリフティングを見せてくれたり、野球部であれば素振り。剣道部は一列に並んで面の素振りを見せてくれた。剣道もかっこいいなあと心が揺らいだのは秘密だ。凛とした濃紺の道衣に引き締まった表情、男女ともにとてもかっこよく見えた。
そして本命柔道部は、なぜか女子部員だけが2名でてきて大判のマットを舞台に敷いて背負い投げ、払い腰、など有名な技をいくつか披露した。人が人を豪快に投げ飛ばす。それはもう映画の世界のことのように華麗で、自分がこんなことを出来るようになるのかという不安をもたらしてくれるほどだった。どよめく体育館に集まった新一年生たち。
僕も来年には後輩に向けてこういうパフォーマンスをするんだろうな。
不安は期待と交じり合って複雑な光になっていた。

そして最後まで男子部員は登場しなかった。

僕はその日の帰りには入部希望の紙にデカデカと

「柔道部」

と書いて提出した。

それから一週間もしないうちに新入生の入部日が訪れた。
待ち遠しくて待ち遠しくて、前日はほぼ寝られなかった。
あの部活紹介での体育館のどよめきから言っても
柔道部には入部希望者が殺到しているはずだ、という僕の予測は
大いに外れた。

ここから先は

5,381字

¥ 500

読んでいただきましてありがとうございます。サポート、ご支援頂きました分はありがたく次のネタ作りに役立たせていただきたいと思います。 皆様のご支援にて成り立っています。誠にありがとうございました。