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絶望の風。

 私には能力がある。

おそらく普通じゃないと自覚したのは幼少の頃。
私の家が火事を起こして、気づいた時には自室に閉じ込められて四方が火に囲まれていた。

ああ、短い人生だった。

まだ5歳くらいだった私は、大好きだったクマのぬいぐるみを握り締めてそう絶望していた。
家の外からは私の名前を呼ぶ両親の悲痛な声が、囂々と巻き上がる炎の凄まじい音に混じって聞こえていた。
外は夜で、野次馬のざわめきとか消防車の遅々として近づいてくることのないサイレンのじれったい音とか。そういうのを覚えている。

不思議と怖くなかったのは、もう絶望しきっていたかもしれない。

私は気づくと、家の外にいた。
燃え尽きて、朽ちていく家を背にして庭の真ん中に立っていた。
ドンっと大きな音を立ててガスが爆発すると、野次馬たちからは悲鳴のような、歓声のようなものが上がった。

ああなるほど、ここにいる野次馬たちは心配して見に来ているのではなくて人の不幸を見物しに来ているのだ。

体がとても重たく感じられて、私はそのまま庭の片隅で気を失った。

気がつけば病院にいて、両親の涙顔が私をじっと見つめていた。


また、小学生になったばかりの時。
車に轢かれそうになったことがある。
横断歩道を渡っている時、猛スピードで突っ込んでくる乗用車に気付いて体が強張った。運転席に座っている男は、心臓発作を起こしたのか意識がないようだった。足がアクセルにかかったまま絶命してしまっていたのかもしれない。

私は向こう岸に渡りたいと強く願って、目を瞑った。
ドガん!!!という激しい衝突音にびっくりして目を開けると、横断歩道を渡りきったところに立っていた。

車は横断歩道をゆきすぎたところの電柱にぶつかって火を上げていた。

青い空と平和な景色の中で、その白い乗用車だけが禍々しく燃え盛っていてとても皮肉な世界に感じられたのを覚えている。日常と地獄には境目がない。そんなことを思った。

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